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『けものがいる』あらすじ感想と評価考察。原作「密林の獣」を基に100年以上の時を超えて転生を繰り返す男女の運命とは⁉︎

  • Writer :
  • 松平光冬

100年以上の時を超えて転生を繰り返す男女の数奇な運命

カンヌ国際映画祭で史上初の俳優としてパルムドール受賞したレア・セドゥ主演の映画『けものがいる』が、2025年4月25日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショーされます。

100年以上の時を超えて、転生を繰り返す男女の数奇な運命を描いたドラマの見どころをご紹介します。

映画『けものがいる』の作品情報


(C)Carole Bethuel

【日本公開】
2025年(フランス・カナダ合作映画)

【原題】
La bete(英題:The Beast)

【製作・監督・脚本・音楽】
ベルトラン・ボネロ

【原作】
ヘンリー・ジェームズ著『密林の獣』

【共同製作】
ジュスタン・トーラン、ナンシー・グラン、グザヴィエ・ドラン

【撮影】
ジョゼ・デエー

【編集】
アニータ・ロス

【キャスト】
レア・セドゥ、ジョージ・マッケイ、ガスラジー・マランダ、ダーシャ・ネクラソワ、エリナ・レーベンソン、ジュリア・フォール、グザヴィエ・ドラン(声の出演)

【作品概要】
『SAINT LAURENT サンローラン』(2014)のベルトラン・ボネロ監督が、イギリスの小説家ヘンリー・ジェームズの『密林の獣』を大胆に翻案。2人の男女を軸に、2044年、1910年、2014年と異なるコンセプトの世界観で描きます。

主要キャストは『アデル、ブルーは熱い色』(2013)でカンヌ国際映画祭初の俳優としてパルムドールを受賞したレア・セドゥ、『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』(2021)のジョージ・マッケイ。

『マイ・マザー』(2019)の監督グザヴィエ・ドランが、共同プロデュースおよび声の出演を務めます。

第80回ベネチア国際映画祭コンペティション部門に出品され、日本では横浜フランス映画祭2024にて『けもの』のタイトルで初上映されました。

映画『けものがいる』のあらすじ


(C)Carole Bethuel

2044年、AI中心の社会において人間の感情は不要とされ、重要な仕事を得るには感情を消去しなければなりませんでした。

孤独な女性ガブリエルは感情の消去に疑問を抱きながらも、仕事に就くため消去を決意。

彼女は、前世のトラウマを形成した1910年と2014年へさかのぼり、それぞれの時代でルイという青年に出会いますが……。

映画『けものがいる』の感想と評価


(C)Carole Bethuel

ヘンリー・ジェームズの名著を大胆に解釈

本作『けものがいる』は、19世紀から20世紀の英米文学を代表する小説家ヘンリー・ジェームズが、1903年に発表した中編『密林の獣』が原作です。

ジャングルで孤独に暮らす老人ジョン・マーチャーが、唯一の女性の友人メイ・バートラムを相手に、自分のその後の人生に表れるであろう“獣”への強迫観念を語っていく…という原作は、一読しただけですべてを理解するのが困難とも云われています。

そのため、同原作をパトリック・シハ監督が映画化した『ジャングルのけもの』(2022)では、起こるであろう謎の“出来事”を待つべく、夜のクラブに出入りする男女(ジョンとメイ)の25年もの関係を描くという設定となっていました。

そして本作もまた、『メゾン ある娼館の記憶』(2011)、『SAINT LAURENT サンローラン』といった独創性の高い作品を手がけてきたベルトラン・ボネロ監督の大胆な翻案がなされています。

(C)Carole Bethuel

まず原作と大きく異なるのは、主人公の性を逆転させたこと。原作で男性のジョンが経験することとなる“人生における何か重大で恐ろしい出来事”を、ボネロ監督は「女性を主人公にした作品を作りたかった」として、女性のガブリエルに変更しました。

そしてもうひとつ大きく異なるのは、物語を2044年、1910年、2014年という3つの異なる時代で描いている点です。

主軸となるのはAIに社会を管理・支配された2044年のガブリエル。有意義な職に就きたいと考えていた彼女は、人間の感情を消し去るためにDNAを浄化する手術を受けます。

その意識は1910年(パリ洪水)、及び2014年(地震)という天災が起きた前世にいたガブリエルに飛び、それぞれの時代で毎回、運命付けられた男性ルイ(原作では女性のメイに相当)と邂逅を果たしていきます。

ディストピアSFの様相を呈した2044年、コスチューム・プレイで構成された1910年、そして実際にアメリカで起きた銃乱射事件を下地とするスリラーに発展する2014年と、時代を行き来する壮大な物語が繰り広げられます。

3つの時代をまたぐレア・セドゥ&ジョージ・マッケイの競演


(C)Carole Bethuel

奇妙にして数奇な運命をたどるガブリエルとルイを演じるにあたり、精鋭のキャストが揃いました。

ガブリエル役のレア・セドゥは、ボネロ監督とは『戦争について』(2007)、『SAINT LAURENT サンローラン』に次いで3度目のコラボレーション。本作の企画が立案した時点でキャスティングされており、魅惑的かつ華やかな美しさを持つ主人公を演じています。

一方のルイ役は当初、『SAINT LAURENT サンローラン』に出演したギャスパー・ウリエルがキャスティングされていましたが、2022年1月に不慮の事故で逝去。そのため監督はフランス人のウリエルとの比較を避けるため、代役にアメリカまたはイギリスの俳優を選考したのち、イギリス人のジョージ・マッケイを抜擢。

撮影にあたりフランス語を習得し、3つの時代それぞれに違った特徴を持つ男という複雑な役どころをこなしたマッケイは、近作の『FEMME フェム』(2025)でも表向きはゲイフォビアを装うゲイの男を演じるなど、こだわりのある出演作選びをする俳優です。

セドゥが前準備をあまりせずに撮影現場入りしてから役に身を委ねるのに対し、マッケイは前準備してきたかのように役柄について監督に何度も質問するなど、両者の演技に対する姿勢も対照的だったというエピソードも残されています。

(C)Carole Bethuel

まとめ

(C)FILM : 2022 – LES FILMS DU BELIER – MY NEW PICTURE – 9459-5154 QUEBEC INC. – ARTE FRANCE CINEMA – AMI PARIS – JAMAL ZEINAL-ZADE

『密林の獣』は、長らく私の心を揺すぶり続けた小説だった。とはいえ、私が映画化に際してこの小説から採り上げたものは、隠された獣性ということと、愛することの恐怖という点だけだ。

ジャンルとしてはSFスリラーに括られるも、自身はメロドラマとして制作したというボネロ監督。

喩えようのない“獣”への強迫観念に苦しむガブリエルと、彼女の人生を大きく左右することとなるルイ。

予想だにしないスリルとロマンに満ちあふれ、人間の実存を問うというテーマにも触れた本作は、最後の最後にはある仕掛けが施されています。

映画史においても類を見ないであろうそれは、ほぼ間違いなく観る者に強い記憶を植え付けることでしょう。

映画『けものがいる』は、2025年4月25日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー

松平光冬プロフィール

テレビ番組の放送作家・企画リサーチャーとしてドキュメンタリー番組やバラエティを中心に担当。『ガイアの夜明け』『ルビコンの決断』『クイズ雑学王』などに携わる。

ウェブニュースのライターとしても活動し、『fumufumu news(フムニュー)』等で執筆。Cinemarcheでは新作レビューの他、連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』『すべてはアクションから始まる』を担当。(@PUJ920219

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