連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第119回
深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞することも可能です。
そんな気になるB級映画のお宝掘り出し物を、Cinemarcheのシネマダイバーがご紹介する「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第119回は、M・ナイト・シャマラン製作のタイムリープスリラー映画『キャドー湖の失踪』です。
“ビッグフット”伝説誕生の地として知られるキャドー湖を舞台にしたタイムリープスリラー。
8歳の少女がキャドー湖で謎の失踪を遂げます。少女を探すエリーと、母の死の真相を探すパリスは導かれるように湖の奥へと入っていきます。2人が辿り着いた先にあるこの地の秘密とその真相とは……。
M.ナイト・シャマランが製作を務め、『きっと地上には満天の星』(2022)のセリーヌ・ヘルド、ローガン・ジョージが監督を務めました。
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映画『キャドー湖の失踪』の作品情報
【日本公開】
2024年(アメリカ映画)
【原題】
Caddo Lake
【監督】
セリーヌ・ヘルド、ローガン・ジョージ
【製作】
M・ナイト・シャマラン、アシュウィン・ラジャン、カラ・ダーレット、ジョシュ・ゴッドフリー
【脚本】
セリーヌ・ヘルド、ローガン・ジョージ
【キャスト】
ディラン・オブライエン、エリザ・スカンレン、ダイアナ・ホッパー、キャロライン・ファルク、サム・ヘニングス、エリック・ラング、ローレン・アンブローズ
【作品概要】
『きっと地上には満天の星』(2022)のセリーヌ・ヘルド、ローガン・ジョージが監督を務め、『シックス・センス』(1999)『ヴィジット』(2015)『オールド』(2021)のM.ナイト・シャマランが製作を務めました。
妹を探す姉のエリー役には、『ベイビーティース』(2021)のエリザ・スカンレン、母の死の真相を探るパリス役には、『アメリカン・アサシン』(2018)のディラン・オブライエンが務めました。
映画『キャドー湖の失踪』のあらすじとネタバレ
母親を事故で失ったパリスは、引きこもりがちで父ともどこか距離があります。そんな息子を心配して父は、村の飲み会に顔を出すように言いますが、パリスは断ります。
パリスは、母の死には何かあるとその真相を探ろうとしていました。父が記録した母の発作の症状が干ばつと関係していることや、医者に診断された病名と症状が違うなど医者に報告しますが、医者は相手にしません。
そんなパリスのもとに恋人のシーが訪ねてきます。パリスは母の死で塞ぎ込み、人を遠ざけていました。数年経ち、仕事も始めたというパリスに、シーは「悲しむのは当然のこと。だから、私を遠ざけないで」と言い、村に残りパリスのそばにいることを選びます。
パリスは仕事でキャドー湖を回っていると、見覚えのあるネックレスが引っかかっているのを見つけます。それは母がつけていたネックレスでした。
湿地帯の奥に何かあるのではと探りに行く中で、パリスにも母のような発作が起き始めていました。そのことを話してもシーは「発作は遺伝かも」とパリスの言うことを信じようとしません。
一方、パリスと同様キャドー湖の周辺に住むエリーは、母・セレステと合えば喧嘩になり、義理の父親・ダニエルともうまく馴染めずにいました。
エリーを慕う義理の妹・アンナには優しくしますが、エリーは家に帰らず友人の家に泊まる日々を送っていました。
ある日、友人の家で目を覚ますと母から着信がたくさん来ています。電話をかけるとアンナがそっちに来ていないか、ボートもアンナの姿もないと言われます。エリーは困惑しながらも「私は何も知らない。ボートもきちんと返した」と答えます。
家に帰るとセレステと保安官らがいました。保安官は、「アンナを探す前に奥さんの過去の問題を先に解決しておきたい。セレステ、君は児童保護施設に厄介になっただろう。昔のことだが」と言います。
母は取り乱し、ダニエルも「昔のことだろ」と怒り、「娘だけでなくボートも2艘消えている」と言います。「あなたを追いかけたのよ」とエリーを責めるセレステにエリーは「行方不明になった父さんと今回のは違う」と言います。
そんなエリーにセレステは、「父さんは行方不明になったんじゃなくて、他の女を選んだの。赤ん坊だったあなたは泣いてた。あなたの存在は伝えた。でも戻ってこない。捨てられたの。これが黙っていた理由よ」と父の真実を話します。
エリーは言葉を失い家を飛び出します。危険だからと湖へ捜索に行こうとしない保安官らに呆れたエリーは1人、ボートに乗ってアンナを探しに行きます。
湿地の奥に入っていくとどこからかアンナの声が聞こえてきます。その声を辿っていくとボートと近くにアンナの姿がありました。
しかし、アンナは1ヶ月前のエリーとセレステの喧嘩の話をし、抜けたはずの歯も生えたままです。戸惑うエリーはそのままアンナを見失ってしまいます。
慌てて家に帰ったエリーでしたが、そこは1ヶ月前セレステと喧嘩してエリーが皿を投げつけた直後の様子でした。何事もなかったかのように帰ってきたエリーを、ダニエルとセレステは追い出します。
「アンナを湖に行かせないで」とエリーはダニエルに言いますが、「今はエリーの話をしている」と相手にしてくれません。そのままもう一度湿地に戻り元の時代に戻ろうとするエリー。
今度は、アンナが失踪したその日に戻ってしまい、エリーは数日前のエリーがやってくる前にボートで逃げ出し、湿地帯に戻っていきます。
映画『キャドー湖の失踪』の感想と評価
M・ナイト・シャマランが製作に携わり、『きっと地上には満天の星』(2022)のセリーヌ・ヘルド、ローガン・ジョージが監督を務めた『キャドー湖の失踪』。
キャドー湖は、テキサス州とルイジアナ州の州境に実際にある湖です。何百年ものの間、アメリカの先住民が暮らしていましたが、19世紀に先住民を追い出して、周辺が開拓されました。また、キャドー湖はUMA、ビッグフットの目撃情報が相次ぎ、ビッグフット発祥の地として知られています。
美しい湿地帯の自然は、神秘的であると共に、どこか恐ろしい、未知なるものが潜んでいてもおかしくないと感じさせる雰囲気が漂っています。
そんなキャドー湖を舞台にしたタイムリープスリラーが『キャドー湖の失踪』です。
失踪した義妹を探すエリーと、母の死の真相を探るパリス。この2人は湿地帯のある場所で時間を行き来します。そして明かされる2人の関係性。
まず、関係性を整理していきましょう。エリーを軸にして考えると、エリーの父はパリスで、母はセレステということになります。そしてこの時間軸が2022年です。
そしてエリーの祖母であり、パリスの母であるのが、アンナですが、エリーにとってアンナは義理の妹でもあります。ここがややこしいところかもしれません。
アンナが亡くなったのが1999年で、パリスがいる時間軸は母の死後から数年経った2003年です。そんなパリスがタイムリープしたのが、ダムを建設中の1952年ということになります。
最後にエリーがアンナの父であるダニエルに「私たちは家族だった」と言ったのは、アンナが自分の祖母であり、巡り巡ると、ダニエルが自分の曽祖父でもあるということなのです。
アンナは8歳の時に失踪し、1952年にタイムリープします。そこで怪我を負いますが、他でもないパリスに助けられて命拾いします。
しかし、元の2022年に戻ることはなく、1952年の時間軸で生活し、そこで成長していきます。その姿は、エリーがPCで検索した写真などによって明かされています。
ベンジャミンと出会い結婚したアンナ。その2人の間にできた子供がパリスというわけです。パリスは、母の発作と湖の干ばつが関係しているのではないかと考えていましたが、その干ばつのタイミングはタイムリープが起きる時間とも関係していたのでしょう。
同じように湿地帯のある場所を通ってタイムリープしたパリス、エリーにも発作の症状は起きていました。もしかするとその発作は元の時間軸に戻そうとする時空の歪みによるものだったのかもしれません。
そして2003年の時間軸では、パリスが母の死の真相を探る中で湿地帯の奥でタイムリープしていきます。タイムリープしていることに気づくきっかけの一つは、ネックレスです。パリスは湿地帯で母がしていたネックレスを見つけますが、それはエリーが落としたもので、この時点で2003年にネックレスが2つあることになります。
そのネックレスはパリスの恋人であるセレステに引き継がれています。タイムリープして2003年に辿り着いたエリーは、駐車場にある車の中にネックレスがあることに気づき奪います。エリーはその時、自分が何年にいるのかわかっていませんでした。
しかし、「なぜ妹のネックレスを?」と聞くエリーに、「彼の居場所を知っているの?」と持ち主の女性は泣きながら叫びます。どういうことかわからずにいたエリーは、赤ん坊を抱えた女性は自分の母であり、その赤ちゃんこそが自分だと後に気づきます。
ここでかつてのセレステの話とエリーの体験が重なっていくのです。
セレステはエリーに、「父は行方不明になったのではなく、私たちを捨てた。これが真実」と言います。そして「子供の存在を伝えたけれど、他の女を選んだ」と。
この他の女は、駐車場で出会ったエリーだったのです。勘違いしたままセレステは今まで捨てられたと苦しんできたのです。
それなのに行方不明だったはずのパリスが2022年に現れ、ダムの決壊によって亡くなってしまいます。
母を助けるためにタイムリープをしていたパリスですが、結果的に1999年の母の死を止めることはできませんでした。
しかし、気付かぬうちに1952年の時点で後に母となる少女のアンナを助けていたのです。さらに皮肉なことに、パリスは亡くなる運命にあったとも言えます。
タイムリープによって運命を変えようとしていたパリスですが、その行動が時間軸の中で必然となっていた、それはある意味映画としての必然とも言えますが……。
やや強引さはあるものの、後半怒涛の展開で真相が繋がっていく感覚たタイムリープスリラー好きにはたまらないものでしょう。
母(アンナ)の死の真相を追い求めるパリスと、行方不明になった少女(アンナ)を探すエリー。2人が追い求めていたのは同じ人物であったという衝撃があります。
時間を超えたタイムリープがつなぐのは家族の絆と再生でもあるのではないでしょうか。
まとめ
M.ナイト・シャマランが製作を務め、『きっと地上には満天の星』(2022)のセリーヌ・ヘルド、ローガン・ジョージが監督を務めた映画『キャドー湖の失踪』。
美しく、どこか恐ろしいキャドー湖と湿地帯が印象的な本作ですが、同じように湿地帯を舞台にした映画『ザリガニの鳴くところ』(2022)が近年ではヒットしました。
湿地帯で変死体が見つかるという事件が起き、犯人だと疑われた少女の真実に迫っていくサスペンス映画になっていました。本作においても、冒頭は死と失踪から始まります。
アンナの死から始まるパリスパートと、アンナの失踪から始まるエリーパート。時代がわからないように演出しているので、同時進行で進んでいると思わせミスリードを誘い、2人が時間を行き来することで2人の時間軸が異なることに観客は気づきます。
サスペンス要素もありますが、タイムリープを通し描かれているのは家族の物語と言えます。
パリスは母の死によって引きこもりがちで父ともギクシャクしています。一方エリーも、母とはすれ違いばかりで顔を合わせれば言い争いになります。
パリスもエリーも家族とうまくいっておらず、そのわだかまりの原因になっているのは、真実を知らされていないという思いでもあるでしょう。パリスは、母の死の真相を知りたがっていますが、父は過ぎたことと取り合おうとしません。
エリーも本当に父について、なぜ行方不明なのか、生きているのか、きちんと知りたいと思っていました。パリスはタイムリープし、結果的に亡くなったのは2022年の現代ということになるので、死亡証明書は存在していなかったのではないでしょうか。
本当に行方不明のままだったのです。いつまでも待っている訳にいかない、新たな家族とやり直すためにセレステは踏ん切りをつけることにしたのでしょう。しかし、パリスの行方を知りたかった、待っていたのはセレステも同じだったのではないでしょうか。
1人残されエリーを育てることになった不安や、捨てられたのかもしれないという思いがセレステを不安にさせ、エリーに対しても辛くあたってしまったのです。
でも何より孤独だったのは、アンナでしょう。8歳で行方不明になったアンナは自分の身に何が起こっているのか理解できないまま過ごしていたはずです。それでも持ち前の明るさで適応していったのでしょう。
時系列が入り組んだ複雑なタイムリープスリラーですが、真相がわかると、序盤かた伏線がはられていたことに気づくでしょう。斜めに分断されたワニもその一つと言えます。タイムリープが起きる時空の狭間にたまたまいたことで、体が分断されてしまったのでしょう。
全てがわかった上でもう一度見直したくなる、そんな映画になっています。
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