映画『輝け星くず』は2024年6月15日(土)新宿K’s cinemaほかで全国順次公開!
失敗に容赦なく、再スタートを切ることが困難な今の世の中で、社会を脱落した者たちが再び自分の道にチャレンジする姿を描いたヒューマン・コメディ『輝け星くず』。
どこかアンバランスなカップルを、若手実力派として知られる『夢の中』の山﨑果倫と『ミッシング』の森優作が絶妙に演じています。
このたび扇町シネマ、元町映画館の先行上映を経ての新宿K’s cinemaでの東京公開を記念し、本作のエグゼクティブプロデューサーを務めた金延宏明さんにインタビューを行いました。
映画『輝け星くず』の企画経緯をはじめ、「ヒーリングムービー」としての本作の魅力、プロデューサーとしての視点と「もう一つ」の視点を持つからこその映画の制作現場との向き合い方など、貴重なお話を伺えました。
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「ヒーリングムービー」という映画の力
──『輝け星くず』の企画はどのような経緯で始まったのでしょうか。
金延宏明(以下、金延):3年前、携わっていたとある映画の企画から様々な事情で離れることになり、当時の自分は映画の仕事にストレスを感じてしまう日々を送っていました。そんな時に本作のプロデューサーである前田君から、西尾孔志という監督が作った『函館珈琲』を一度ご覧になられませんかというお誘いを受けたんです。
私は映画制作においては、人間という存在を苛む不条理な世界をいかに描くかに重きを置いているんですが、『函館珈琲』を観た時「こういう映画もいいな」と思えた。映画というものは観るタイミングがとても大切で、劇場で観たか否かなどの状況によって映画の見方は変わりますが、当時の私は『函館珈琲』でとても癒されたんです。
金延:その後、前田君に勧められて西尾監督と会ったんですが、たまたま後輩の小谷くんから本作の原作にあたる脚本を預かっていた彼は「ぜひ検討してほしい」と映画化を打診してくれた。それが『輝け星くず』の企画の始まりでした。
『輝け星くず』はコメディではあるけれども、単なるコメディではありません。映画のベースにあるのはやはり「生きづらさ」の問題です。そして本作の「ヒーリングムービー」ともいうべき側面は、私が西尾監督の『函館珈琲』からも感じた映画の力の一つだと感じています。
それぞれに過去を持ちながらも生きづらい時代を生きている方々が、この映画を観てクスって笑ってくれること。また切なさの先にある、その人にとって切実な希望を本作から感じとってもらえることが、何よりもうれしい。それが、私の正直な思いですね。
撮る人間も、撮る場所もなくては成り立たない
──本作は兵庫県・明石市でロケ撮影が行われ、その美しい風景の映像も映画の重要な魅力となっています。
金延:明石は本当に良い街で、個人的には40年近く縁が続いている街です。
本作は明石で生きる方々の応援がなければ完成しなかった映画ですから、その恩返しの一部として、作中で明石の美しい風景を映し出すことにも非常にこだわりました。
実は本作の空撮映像は、私の明石での古い仲間で、ドローン撮影を趣味にしている方が提供してくれた物を使用しています。趣味とは言いつつも実力はプロ並みで、『輝け星くず』は明石の方々の支えが本当に映画の至るところに込められているんです。
映画制作は撮る人間も撮る場所もなければ成り立ちませんが、中でも本作はそのことをしみじみと感じました。
映画と出会い続ける人生で
──金延さんは、映画という存在といつ出会われたのでしょうか。
金延:14歳の頃に映画と出会ったので、かれこれ半世紀近くを映画とともに生きてきました。そして映画から学んだことや感じたことは、自分の人生を大きく動かしてくれました。
今までの人生は、随分と映画に支えられてきました。「自分の知らない世界と出会う」という感性を、感動とともに教えてくれたんです。
人間は一様に愚かで、いかに装飾された進歩の歴史も紐解けば悲しい記憶で満ちているが、そこには人間の儚さと美しさも垣間見える。それは映画によって初めて気づけたことであり、「人間とは何か」「世界とは何か」を自分自身の心で考えるきっかけを作ってくれました。
人生もすでに後半となりましたが、今でも映画を観る中で多くのことを感じ、考えます。いまだに映画と、出会い続けているんです。
「内」と「外」で現場を見つめる
──金延さんが「プロデュース」という形で映画制作の仕事を続けられる理由は何でしょうか。
金延:私は学生時代に役者を志していたんですが、遠い昔に仲間たちと学生映画を一生懸命作っていた、どこか夢のような記憶が現在にまで続いているんでしょうね。
今も映画の仕事をする際には、「プロデューサー」としての視点と「役者」としての視点で判断しようとします。実は本作にも出演しているんですが、プロデューサーが撮影現場の「外」からスタッフ・キャスト陣を見るのに対し、役者はやはり「内」から見られるんです。
内と外の視点をそれぞれ持つことで、撮影現場におけるチームをより遠近の両面で見られるのは、映画制作の方針を考える上でとても有効なんです。その内と外の視点という発想も、役者としての自分が今も生きているからこそ、保ち続けていることができているんです。
僕はインディーズと呼ばれる映画の魅力を、いかに皆さんへ伝えられるかを常に考えて仕事をしています。プロデューサーは映画の制作費の回収も重要な役割の一つで、だからこそ興行も大事なんですが、映画を作る目的はそれだけじゃない。
いかにチームで良い映画を完成させ、多くの方に感動してもらえるか。それに頭を悩ませ苦しみながらも、老体に鞭打って前を向き続けていますね。
インタビュー/河合のび
金延宏明プロフィール
映画制作プロダクション「ノブ・ピクチャーズ」代表、「ドラゴンマウンテン」共同代表。
主な作品に、製作を務めた『生きているものはいないのか』(2012/石井岳龍監督)、プロデューサーを務めた『ケアニン~あなたでよかった~』(2017/鈴木浩介監督)、エグゼクティブプロデューサーを務めた『シャニダールの花』(2013/石井岳龍監督)『水面のあかり』(2017/渡辺シン監督)『孤独な楽園』(2022/片嶋一貴監督)『Threads of blue』(2023/宗野賢一監督)などがある。
また共同エグゼクティブプロデューサーを務めた、エリック・クー監督『SPIRIT WORLD』はじめ、その他、2025年公開予定の最新作を製作中。
映画『輝け星くず』の作品情報
【日本公開】
2024年(日本映画)
【監督】
西尾孔志
【製作総指揮】
金延宏明
【プロデューサー】
前田和紀
【原作】
小谷忠典
【脚本】
いとう菜のは、西尾孔志
【キャスト】
山﨑果倫、森優作、岩谷健司、片岡礼子、春田純一、滝裕二郎、中山求一郎、湯浅崇、松尾百華、三原悠里、芳野桃花、木下菜穂子、池畑暢平、保志まゆき、小泉研心、国海伸彦、佐保歩実、金延宏明、小川夏果、宮崎柚樹、円籐さや、奥村静耶、川瀬乃絵
【作品概要】
失敗に容赦なく、再スタートを切ることが困難な今の世の中で、社会を脱落した者たちが再び自分の道にチャレンジする姿を描いたヒューマン・コメディ。
製作総指揮は、『シャニダールの花』の金延宏明。また監督を『函館珈琲』などキュートな人情喜劇を得意とする西尾孔志が務め、『函館珈琲』の脚本家・いとう菜のはとともに脚本も担当しました。
どこかアンバランスなカップルを若手実力派として知られる『夢の中』の山﨑果倫と『ミッシング』の森優作が絶妙に演じ、謎が多いが憎めない父を岩谷健司が怪演。さらに片岡礼子、中山求一郎、春田純一などが脇を固め、日本映画の才能が集結しました。
映画『輝け星くず』のあらすじ
ある日突然、かや乃が逮捕される。恋人の光太郎は状況が飲み込めない。呆然とした日々を過ごしていると、かや乃の父・慎介から呼び出される。
「かや乃が勾留されてる海の向こうまで一緒に連れて行ってくれないか?」と慎介の頼みを引き 受けた光太郎。だが慎介は、自称パニック障害の持ち主で電車はおろか、高速道路でさえ移動が できない。
初対面の恋人の父とギクシャクした心の距離を感じながらも、愛する人が囚われている地・四国へ向けて、海を渡る旅を決行する光太郎。だが旅の途中──慎介がこの世にいないことになっている人物であると発覚する。
社会を脱落した者たちが再び自分の道にチャレンジする姿を描いたヒューマン・コメディ。
編集長:河合のびプロフィール
1995年生まれ、静岡県出身の詩人。
2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、映画情報サイト「Cinemarche」編集部へ加入。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける(@youzo_kawai)。