Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

サスペンス映画

【ネタバレ】パラフィリア・サークル|あらすじ感想と評価解説。夢と現実の境目を見失う予測不可能なサイコサスペンス

  • Writer :
  • 谷川裕美子

4人の男たちが狂気の世界を彷徨う

玉城裕規ら2.5次元舞台、ミュージカルで活躍する俳優陣がメインキャストを務めたサスペンス。

崖っぷちに追い詰められた小説家を中心に描く、4人の男たちの狂気の物語です。光伸春の脚本を旭正嗣監督が映画化しました。

玉城が作家・玉川を演じるほか、川上将⼤、瀬⼾啓太、縣豪紀が顔をそろえます。共演は園田あいか、大浦龍宇一、三浦浩一。

どこまでが現実で、どこからが非現実なのかわからなくなっていき、主人公とともに迷宮に迷い込んでしまう一作です。

見るほどに謎が深まる本作の魅力をご紹介します。

映画『パラフィリア・サークル』の作品情報


(C)2023映画パラフィリア・サークル

【公開】
2023年(日本映画)

【原案】
大勝ミサ

【監督】
旭正嗣

【脚本】
光伸春

【キャスト】
玉城裕規、川上将大、瀬戸啓太、縣豪紀、園田あいか、鈴木聖奈、川村海乃、吹越ともみ、和泉宗兵、中山峻、脇崎智史、大浦龍宇一、三浦浩一

【作品概要】
監督を旭正嗣、脚本を光伸春が務めたサイコサスペンス。4人の男たちを描くオムニバス風の作品です。

2.5次元舞台で活躍する若手俳優が集結。デビュー作以来さっぱり売れていない崖っぷち作家を玉城裕規が演じるほか、川上将大、瀬戸啓太、縣豪紀らが出演します。

共演は園田あいか、大浦龍宇一、三浦浩一ほか。

映画『パラフィリア・サークル』のあらすじとネタバレ


(C)2023映画パラフィリア・サークル

小説家の玉川健斗は、デビュー作が話題となったものの、その後は不振が続き崖っぷち状態にありました。

文芸誌編集長の三河から「小説にリアリティがない」とダメ出しされた玉川は、妻から勧められてサスペンス小説を書くことになります。

執筆のため、彼はネットで知り合ったサイコパス狩りを自称する風変わりな男に出会いました。

エリート弁護士の栗野宗一は、非の打ち所がない人物だと周囲から思われていました。しかし、彼には良家の令嬢である婚約者とは別に男性の恋人・森瀬京がおり、苛烈な拷問を仕かけていました。

マゾヒストの大学生・森瀬京は恋人とのプレイに満足できず、さらなる刺激を求めて欲望の世界をさまよっています。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには映画『パラフィリア・サークル』ネタバレ・結末の記載がございます。映画『パラフィリア・サークル』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2023映画パラフィリア・サークル

栗野は森瀬と街を歩いているところを撮られてしまいます。その写真とともに、相手の連絡先が書かれたメモが送られてきました。

相手から一千万円を要求され、仕方なく栗野は受け入れます。森瀬は冷たく栗野を切り捨てました。実はすべて森瀬が企んだことでした。

その後、行きつけのバーに立ち寄った森瀬は、マスターから栗野が自殺したことを聞かされショックを受けます。

森瀬を慕う後輩・ひとみのやさしさに森瀬は心を開き、自分の状況と内面について彼女に話します。大学をやめるのでもう会うこともないだろうと言って、彼は立ち去りました。

サラリーマンの佐川貴史は心の奥底にサディスティックな裏の顔を持っていました。そんな彼のもとに、森瀬から自殺願望をほのめかすメールが届きます。ふたりは遠く離れた佐川の祖父宅で凶行に及びました。

そして翌朝。森瀬は死んでおり、佐川は冷静に片付けます。

欲望に歯止めをかけられなくなった佐川は、またも自殺願望を持つ女性を手にかけました。

しかし、女性を車に乗せて走り去る姿を見た佐川の恋人は、佐川の車にGPSをつけて後を追います。

現場で遺体を見てしまった彼女を、佐川は首を強く絞めて殺してしまいます。

逃亡した佐川は作家の玉川に会いに行き、すべてを告白しました。

帰宅した玉川は、すぐに仕事に取りかかりましたが、部屋の中に佐川の死体を見つけて驚いて家を飛び出します。

玉川は精神科を訪れました。そこにはひとみが通院しており、主治医は栗野、研修医は森瀬でした。玉川は自分を作家だと思い込んだ患者でした。

玉川は自宅で小説を書き上げます。キッチンにいくと、眠れずにいた妻がひとりで酒を飲んでいました。妻は玉川に違和感があると突き放します。

玉川は作品を編集者に見せます。しかし、実は彼は精神病棟におり、編集者だと思っていたのは医者でした。自宅のテーブルに座っていたのも妻ではなく人形でした。

目を開いた佐川の死体に向かって、玉川は自分がどっちにいるのかわからないと言います。「どうせ何度でも繰り返すのだからどっちでもいい」と佐川は言い、さらに「居心地のいい方を選べばいい」と助言しました。

「俺はお前で、お前は俺で、かもしれないし、違うかもしれない。」という佐川に、玉川は「それもどうでもいいことか」と答えます。

そこに、看護師が玉川の名を呼ぶ声が聞こえてきました。玉川は病院の世界へと笑顔で戻りました。

映画『パラフィリア・サークル』の感想と評価


(C)2023映画パラフィリア・サークル

予測不能の迷宮サスペンス

登場する誰もが歪な心を持つ不穏な空気感に満ちたサイコサスペンスです。

主人公の玉川はデビュー作だけがヒットした、売れない作家です。編集者や妻にけしかけられ、サスペンス作品に挑戦することとなった玉川は、ネットで知り合ったサイコな男に話を聞きに行きます。

男の素性が明かされないまま、新たに登場するのは栗野と森瀬の男性カップルです。森瀬は重度のマゾヒストで、栗野はその欲求に答えるべく森瀬をいたぶります。

しかし、森瀬は栗野が役不足であることを見抜き、罠にはめて金を奪って放り出しました。失意に陥った栗野は自殺してしまいます。

栗野の死にショックを受けた森瀬は、死ぬほどの苦痛を味わいながら死んでしまいたいと佐川に懇願します。佐川こそが、玉川に会いに行った謎の男でした。

佐川は田舎にある亡き祖父宅で凶行に及び、森瀬を殺してしまいます。その後も殺人欲求を抑えられなくなった佐川は、とうとう恋人までも殺し指名手配の身となりました。

恐ろしい一連の話を佐川から聞き、自宅に戻ってすぐに仕事に取りかかる玉川ここからがこの作品の真骨頂です。

玉川はなんと自室で佐川の死体を発見します。驚愕して部屋を飛び出した彼が行き着いたのは精神病院でした。

そこにいる医者やスタッフは、栗野や森瀬、玉川の妻など知った顔ばかり。玉川は精神病患者だったのかと思わされますが、次のシーンではまた玉川は自室に戻って妻と普通に会話を始めるのです。

本当の世界はいったいどちらなのかと煙に巻かれそうになったところで、部屋の死体の目が開くのを見て、「幻想」こそがこたえだったことにはっきり気づかされます

しかしそれでいて、玉川と佐川が交わす会話には、真実を射貫く言葉がちりばめられています

自分がどっちにいるのかわからないと混乱する玉川に、佐川は「どうせ何度でも繰り返すのだからどっちでもいい」と答えます。「居心地のいい方を選べばいい」という言葉は名言です。

「俺はお前で、お前は俺で、かもしれないし、違うかもしれない。」と言われた玉川は、「それもどうでもいいことか」と現状を受け入れます。

観ている私たちも、「玉川が正常なのか狂気にいるのか、それはどちらでも同じなのだ」と一緒に思わず納得してしまうのです。

ラストの玉川の笑顔は、すべてを受け入れ苦悩から解放されたことを表していると思えてなりません

生きにくさを抱えるサイコな登場人物たち

本作に登場するのは、心に闇を持ち、生きづらさを抱えている者ばかりです。

精神障害を負う自称作家の玉川、エリート弁護士でありながら自分では何も決断できないエセサディストの気弱な栗野、根っからのマゾヒストでより強い刺激を追い求めずにはいられない森瀬、サディスティックなことにしか快感を見出せない佐川。

難しい役柄を、玉城裕規、川上将大、瀬戸啓太、縣豪紀ら2.5次元舞台で活躍する人気若手俳優らが熱演しています。

誰もが、本当は「普通」に生きることを求めていたに違いありません。森瀬にいたっては、自分に好意を持ってくれる後輩女性のひとみに、懺悔のような行動をとります。この作品のオアシス的な存在のひとみを、園田あいかが爽やかに演じます

殺人願望を強く抱く佐川もまた、自分の身の破滅を招く大きな罪であることをよく理解しており、それでも尚、止められない欲望に苦しんでいました。

しかし、若者たちの闇はあまりにも深く、栗野は耐えきれずに自殺し、彼の後を追うように森瀬も自己破壊の道を突き進み、佐川は欲望に勝てずに破滅していきます。

それぞれ愛し愛される女性がいた彼らには、幸せに生きられる道もあったのではないかと切なくなる作品です。

まとめ

摩訶不思議な迷宮に迷い込んだかのように感じさせるサイコサスペンス『パラフィリア・サークル』

次々に破滅していく、肥大した異常な欲望から逃れられない青年たち。しかし、そのすべてが現実なのか非現実なのかわからなくなっていきます。

彼らの抱えた闇と愛に戦慄を覚えずにはいられません。ラストの玉川の笑顔だけが救いを感じさせてくれます。




関連記事

サスペンス映画

映画『アングスト/不安』内容考察。超カルトムービーとしてミヒャエル・ハネケやギャスパー・ノエに影響を与える

異常すぎて長らく“封印”されていた実録スリラー、ついに解禁。 世界各国で上映禁止された常軌を逸した実話がいま、放たれます。映画『アングスト/不安』は、ジェラルド・カーグル監督が、1980年にオーストリ …

サスペンス映画

羊たちの沈黙|ネタバレあらすじと考察感想。意味解説は“怖い”猟奇殺人犯という記号とサスペンス作法

映画史に残るサイコスリラーの『羊たちの沈黙』。 連続殺人事件を任されたFBI訓練生クラリスが、9人の患者を惨殺して食べた獄中の天才精神科医レクター博士へ協力を仰ぎ、女性を狙う猟奇殺人犯バッファロービル …

サスペンス映画

【ネタバレ】別れる決心|結末あらすじ感想と考察評価。韓国映画の特徴をパクチャヌク監督が踏まえて描く“官能ロマンス”

刑事と被疑者…疑いながらも惹かれ合うスリリングな駆け引きで描く愛 『オールド・ボーイ』(2003)、『お嬢さん』(2017)のパク・チャヌク監督が手がける極上の官能ロマンス。 転落死事件の真相を追う刑 …

サスペンス映画

【ネタバレ】恐怖のメロディ|あらすじ結末感想と評価考察。巨匠イーストウッド監督デビュー作にはドン・シーゲルも友情出演!

女性ストーカーに襲われる人気DJの恐怖 ハリウッドを代表するスター、クリント・イーストウッドが初監督を務めた1971年製作の『恐怖のメロディ』。 イーストウッド演じるラジオの人気ディスクジョッキー(D …

サスペンス映画

【ネタバレ】高速道路家族|あらすじ結末感想と評価考察。韓国映画で描いた‟貧困家族の生きる道”はハイウェイでの転々暮らし

高速道路で暮らす貧困家族が引き起こす事件ととある一家との交流 貧困家族と中古家具屋を営む一家の交流を通して、韓国社会が抱える問題、共に生きるということを描くサスペンスドラマ『高速道路家族』。 高速道路 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学