映画『エターナルラブが蔓延した日』は2023年12月18日(月)よりシネマノヴェチェントにて劇場公開!
「エターナルラブ」という名のウイルスが蔓延した世界で、人々の交流や芸術の在り方をユーモアに描いた『エターナルラブが蔓延した日』。
『極私的生誕40周年記念映画』『くっつき村』の長谷川千紗監督がコロナ禍の期間中に構想し自ら主演も務めた本作は、2023年12月18日(月)よりシネマノヴェチェントにて劇場公開されます。
このたびの劇場公開を記念し、長谷川千紗監督にインタビューを敢行。
他者と自分の違いから始まった映画の構想、作品に込めた映画や芸術への想い、“居酒屋の時間”が生み出す幸せな感動について、心の内となる貴重なお話をお伺いしました。
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“他者と自分の相違”から映画を構想した
──映画『エターナルラブが蔓延した日』の制作に至った経緯をお聞かせください。
長谷川千紗監督(以下、長谷川):コロナ禍の頃、本作の撮影を担当していただいた堀惠磨人さんの経営する会社で編集作業をさせていただいたのですが、堀惠さんは理系タイプで、私とは全く違う考え方をする方だったのです。
例えば、信号待ちの時など自分とは見ているものや考えていることが全く異なっており、その衝撃が忘れられなくて「他人と自分はまったく違う生き物なのか」と改めて感じました。
掘惠さんが理系的に思考する一方で、私は直感的で感覚派な人間なので「それぞれの能力を足して半分にしたら、自分にもこの理系の能力が使えるようになるのだろうか?」と想像して、人間と人間がくっつき、お互いの考えていること、感じていることを共有してしまう病「エターナルラブ」が蔓延した映画の設定と世界観の物語を着想していきました。
──本作では、コロナ禍の世界を彷彿させるような描写が多くあります。それは企画の初期段階からの予定としてありましたか。
長谷川:初期段階では「ウイルス」というキーワードはありませんでした。しかし、コロナ禍当時の状況やその期間中に経験したことの衝撃があまりにも強く、自然に『エターナルラブが蔓延した日』の中に要素として盛り込まれたのも事実です。
例えば、コロナ禍の最中に映画館の前を通った時、看板が「真っ白」だったんです。つまり映画館は封鎖され、公開中止・延期ということもあり、映画ポスターも貼れない状態のようでした。その時に「映画ってもう、なくなってしまうのだろうか」と、ふと考えてしまいました。
「エッセンシャルワーク」という言葉が世間で取り上げられるようになり、様々な職業が「生きていくために必要な仕事」と「必要のない仕事」に分類され、その時は国民全体が「エンタメや芸術の価値とは?」という疑問を、考えざるを得ないまでに追い込まれた状況だと感じていました。
演劇や映画という俳優たちが生み出す芸術は世の中に不要なものなのだろうか……私自身が18歳から信じ続けてきた映画は、人が生きていくために必要のない仕事なのか……そんな風に考えてしまうこともありました。それでも私は“映画の可能性”を信じたかったのです。その想いは本作を制作していく過程で自然に盛り込まれていったように感じています。
皆の遊び心で紡ぐ“自他力の想像力”
──映画を制作するにあたり、監督と主演俳優を兼任することにやはりご苦労はありましたでしょうか。
長谷川:撮影現場では俳優でありながら、監督の頭も半分持っていなければならず、その難しさは確かにありました。本当に感情を吐き出さなければできない泣く場面では、助監督の宮本亮さんにお任せして俳優に向き合うことのみに専念させてもらいました。
そういった苦労は多少ありつつも、キャスティングさせていただいた俳優さんたちは以前にも共演経験があったり、もともと知人の方たちばかりです。皆さん素晴らしい俳優仲間であり、助けて頂いた現場でした。
実は私、ジョージ・ミラー監督と主演はトム・ハーディが務めた『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015)がとても好きなんです。今回はあの遊び心というか、遊べる余白を俳優部たちにも残したいという想いがありました。そうして各自が持ってくる衣装や演技のアイデアがまた、すごく魅力を放っていました。
例えば、映画冒頭で竹本泰志さん演じるジョーに、女性たちがくっつく場面では、皆さんに追っかけの人のファンのイメージで、それぞれ衣装を持ってきていただきました。そこから生まれた統一感のないエキセントリックな感じは自分の想定していたよりも、はるかに面白いアイデアとして映画に収まりました。また、特殊造形もプロの方にお任せしたところ、想像していた物よりも服のトゲトゲが付いており、このような私の想定を超えた面白さは、映画制作の現場で沢山ありました(笑)。
こちらからあれこれと指定をせずとも、皆が自由に前のめりになって様々なアイデアを出してくれたからこそ、“私という限られた想像”の枠を超えた作品となり、他者との異なりを容認することの面白さを含めて、映画のダイナミックさ、俳優業のエキセントリックさといったエンタメの醍醐味を感じさせていただきました。
「待つ」ではなく、俳優が“動かす時代”へ
──長谷川さんは柔軟さをお持ちなのですね。そもそも、俳優、また映画監督として活動するに至った経緯もお聞かせください。
長谷川:俳優になりたいと思ったきっかけは、小学校5年生の時、『ホームアローン2』(1992)を観て感動したことです。あの作品を観た時から「俳優になろう」と決めていました(笑)。その頃は高知県に住んでおり、早稲田大学への進学と共に18歳の時に上京。そこから女優として活動を始めました。
しかし、当時はまだ今ほど映画オーディションの情報は、なかなか手に入れることが困難な時代でした。長いこと舞台のお仕事などを続けていたのですが、29歳の時に水田伸生監督の『なくもんか』(2009)に出演させていただくことになりました。それからインディーズ映画やピンク映画、Vシネマなど様々なお仕事をやらせていただく中で痛感していたのは、俳優は「待つ」ことも仕事だということ。
ただ、この「待つ」だけしかできない状況は、私の性に合っていない環境だったのだと思います(笑)。それから映像を作る上での技術の発展も進み、誰もが自ら動くことで映像制作できる時代になってきました。そんな変化に立たされた私は、「ずっと待ち続けるだけでいいのだろうか」と考えるようになり、意を決して2021年に『くっつき村』(ゆうばり国際ファンタスティック映画祭優秀芸術賞)にて、初めて映画監督を務めさせていただきました。
もちろん、俳優のみしか知らなかったので、映画監督ができるなどとは思いもよらず、かなりの挑戦でした(笑)。それを機に私の中で行動力が生まれ、最新作『エターナルラブが蔓延した日』の制作に至りました。
あの頃、「待つ」ことしかできなかった時とは異なり、今では事務所を持ち、そこには仲間がいてくれます。俳優として、映画監督として、そして人間としても今が一番面白くなってきたところです。
映画の原動力は“あの居酒屋の時間にある”
──映画監督、役者として体当たりで挑み続ける長谷川監督の創作意欲はどこから来るのですか。
長谷川:コロナ禍の時とは異なり、スタッフと居酒屋に集まり顔を突き合わせて企画会議をしていました。深夜から朝まで助監督の宮本さん、撮影の堀惠さんとシナリオ会議を続けました。
その時に会話に出てきた馬鹿馬鹿しいアイデアをげらげらと笑いながら脚本にまとめあげていきました。『エターナルラブが蔓延した日』には、あの居酒屋に流れていた仲間とのテンションが、そのまま映像に反映されています。
40代の大人たちが有りもしない空想をどこまでも真剣に話せた時間が、私にとって心から愛おしいひと時でした。それは、この時間のために私は生まれてきたのではないかと思えたほどです。あの時に流れていた温かな雰囲気に満ちた時間のような物語を生み出していきたい。
そこにしか救われない人もいるのではないかと、最近では考えるようになりました。大人たちが知恵とお金と労力を最大限に使って映画というフィールドで遊ぶこと。私にとって、映画を創作する原動力は、“あの居酒屋の時間にある”のだと信じています。
インタビュー・撮影/松野貴則
長谷川千紗監督プロフィール
高知県出身、早稲田大学第一文学部卒。18歳より舞台を中心に女優としての活動を始め、30歳で映像作品での活躍の幅を広げる。
2018年渋谷ミクロ映画祭最優秀俳優賞、2019年第31回ピンク大賞新人女優賞、2020年シン・シネマアワード主演女優賞など数多くの賞に輝き、女優として映画界での活躍が期待されている。
2021年、自身初監督作品『くっつき村』がゆうばり国際ファンタスティック映画祭インターナショナルショートフィルム部門優秀芸術賞、滋賀国際映画祭奨励賞を受賞するなど、映画監督としてもその才能を発揮し、精力的に活動を続けている。
映画『エターナルラブが蔓延した日』の作品情報
【公開】
2023年(日本映画)
【監督・脚本】
長谷川千紗
【キャスト】
長谷川千紗、後藤龍馬、夏目大一朗、水野ふえ、竹本泰志、小林麻祐子、田中要次、きみと歩実、赤羽一真、木村夏子、しじみ、泉水美和子、真砂豪、つる、中村みずき、薬師寺文、櫻井彩子、坂井里会、間瀬翔太、森りさ、長岐翼、村田啓治、森恵美、小野孝弘、小仁所伴紀、旭桃果、春園幸宏、山村ひびき、いとうたかし、郡司博史、幸村聡、手塚啓行、佐野加奈、秋澤昌宏、新田夏希、森田直樹、堀惠磨人、杉本末男、まーしー深山、塩田時敏、諏訪太朗
【作品概要】
人と人がくっつき、お互いの感情を共有しながら死に至るウイルス「エターナルラブ」に感染した天才科学者と天才歌手の二人をユーモアに描いた作品『エターナルラブが蔓延した日』。
監督を務めるのは、『くっつき村』でゆうばり国際ファンタスティック映画祭インターナショナルショートフィルム部門優秀芸術賞を受賞し、自身も女優として数々の賞に輝いている長谷川千紗。
主人公ケイコを長谷川千紗自身が演じるほか、天才科学者役をインディーズ映画で目覚ましい活躍を見せる後藤龍馬が演じ、田中要次、諏訪太朗など名バイプレイヤーが脇を固める。
映画『エターナルラブが蔓延した日』のあらすじ
20××年の日本。人と人が触れ合うと皮膚がくっつき、死に至るというウィルス「エル」こと「エターナルラブ」が蔓延した未来。日本の人口は半分に減少し、情勢は混乱を極めていました。
天才科学者である歯牙は女性たちを人体実験して治療薬の開発を進めます。一方、天才歌手ケイコは、人々がトゲトゲの服を着て身を守る中、露出の高いを服を着続けていました。
それがきっかけで、15年付き合ってきた社長ともバーで喧嘩になり見捨てられてしまいます。さらに運の悪いことに、違法営業していたバーに警察が踏み込んでくる始末。客の身柄を拘束していく警察に反抗し、芸術やエンタメが禁止されているにもかかわらず、歌を歌い始めるケイコ。
ケイコは捕まりそうなところをある男に助けられました。その男がケイコに天才科学者・歯牙の元へ行き、治療薬の開発を止めさせるように指示するのでした。
ケイコは歯牙を説得するうちに、肌と肌が触れ合ってしまい……。