現実とイマジネーションが同居したファンタジーアドベンチャー
『メアリと魔女の花』(2017)のスタジオポノックが贈るアニメーション映画『屋根裏のラジャー』。
A・F・ハロルド著『ぼくが消えないうちに(原題:The Imaginary)』を原作に、少女アマンダと、彼女の想像が生んだイマジナリーフレンドのラジャーが繰り広げるファンタジーアドベンチャー
世界150以上の国と地域で上映されヒットとなった『メアリと魔女の花』(2017)以来、5年ぶりとなるスタジオポノック長編第2作『屋根裏のラジャー』を、ネタバレ有りで内容の考察と解説を致します。
映画『屋根裏のラジャー』の作品情報
【日本公開】
2023年(日本映画)
【監督】
百瀬義行
【企画・脚本・プロデューサー】
西村義明
【原作】
A.F.ハロルド著『ぼくが消えないうちに』(こだまともこ訳、ポプラ社刊)
【作画監督】
小西賢一
【撮影監督】
福士亨
【音楽】
玉井健二、agehasprings
【声のキャスト】
寺田心、鈴木梨央、安藤サクラ、仲里依紗、杉咲花、山田孝之、高畑淳子、寺尾聰、イッセー尾形
【作品概要】
世界150以上の国と地域で上映されヒットとなった『メアリと魔女の花』(2017)以来、5年ぶりとなる2023年12月公開のスタジオポノック長編第2作。
世界の文学賞を席巻したA・F・ハロルド著『ぼくが消えないうちに(原題:The Imaginary)』を原作に、少女と彼女の想像が生んだイマジナリーフレンドを主人公に、現実と想像が交錯する世界で起こる冒険を描きます。
監督は、『おもひでぽろぽろ』(1991)、『平成狸合戦ぽんぽこ』(1994)、『もののけ姫』(1997)、『千と千尋の神隠し』(2001)などのスタジオジブリ作品で中核を担い、ポノック制作の短編アンソロジー『ちいさな英雄』(2018)の一篇『サムライエッグ』も手がけた百瀬義行。
声の出演は、寺田心、鈴木梨央、安藤サクラ、仲里依紗、杉咲花、山田孝之、高畑淳子、寺尾聰、イッセー尾形など。
映画『屋根裏のラジャー』のあらすじとネタバレ
小学校に通うアマンダ・シャッフルアップは、母エリザベス(リジー)と2人暮らし。亡き夫が自宅で営んでいた書店を畳むことにしたリジーは、新たな職場の面接に臨むことに。
アマンダには、ラジャーという少年の友だちがいました。実は彼は、アマンダが生んだイマジナリ(想像の友だち)。2人は「消えないこと、アマンダを守ること、絶対に泣かないこと」という誓いを立てており、今日も屋根裏で段ボール箱をソリに見立てて雪山を滑走していました。ラジャーの姿が見えないリジーには、アマンダがひとり遊びしているとしか思っていません。
そんな中、アロハシャツにバミューダパンツ姿の男性が、黒いワンピース姿の長髪の少女を連れて書店を訪問。ミスター・パンティングと名乗るその男は、現在の社会事情と子どもについてのアンケート調査をリジーに求めますが、アマンダとラジャーの匂いを嗅ぎつけたバンディングは依頼を止め、その場を離れます。リジーには黒髪の少女が見えていませんでした。
母(アマンダの祖母)のダウンビート夫人と電話で会話していたリジーは、アマンダがラジャーという想像上の友だちとばかり遊んでいると語ると、「あなたも小さい頃にレイゾウコという名の想像上の犬がいて、嫌いなヘビを追い払ってくれていた」と言われます。しかし彼女はおぼろげにしか覚えていません。
その後仕事の面接に行ったリジーの代わりに、ベビーシッターのゴールディとかくれんぼをして遊んでいたアマンダ。すると突如停電が発生し、暗闇の中で黒髪の少女が現われラジャーに襲いかかります。
その光景を見たアマンダが恐怖で叫び少女は姿を消し、帰宅したリジーにそのことを伝えるも信じてもらえません。不貞腐れたアマンダはラジャーとも気まずくなってしまいます。
翌日、リジーと車で買い物に出かけたアマンダとラジャー。ショッピングセンターでリジーが1人で駐車券を取りに向かった間、2人はバンディングと少女に遭遇。ラジャーを吸い取ろうとするバンディングから逃れてリジーの元に走ったアマンダでしたが、車に轢かれてしまいます。
救急車で運ばれたアマンダを見失い、ひとり町を彷徨うラジャーは、徐々に自分の姿が薄くなっていくのに気づきます。そんなラジャーの前に、ジンザンと名乗るネコが現われます。赤い右目と青い左目を持つ彼もまたイマジナリでした。
ジンザンは、意識が戻らないアマンダがラジャーのことを忘れてしまうと、完全にその存在がなくなってしまうとして、安全な場所へと導きます。たどり着いたのは図書館で、そこではたくさんのイマジナリが存在していましたが、図書館を利用する人間たちには見えていません。
オーバーオールを着た少女エミリによると、この場所は存在が消えかかっているイマジナリと、新しいイマジナリを求める人間の子を結ぶ紹介所で、掲示板に張り出された子どもの写真を手に取ると、一時的に彼らの想像の世界に行くことができ、気に入られると新しいイマジナリになれると説明。
ここに至るまでの経緯を話すラジャーがバンディングの名を出すと、その場にいた全イマジナリが恐怖におののきます。バンディングは何百年も前から生きており、自分のイマジナリ=黒髪の少女をずっと忘れないように、他のイマジナリを吸収し続けていたのでした。
どうしてもアマンダに会いたいラジャーは、エミリ、カバの小雪ちゃん、骨っこガリガリといった仲間たちと共に、アマンダのクラスメートのジョンが想像する世界に行きます。友だちの記憶をたどって、アマンダの居場所を突き止めることにしたのです。
4人はジョンが想像する宇宙の世界に入り、骨っこガリガリが新たなイマジナリに選ばれますが、図書館に戻る入り口を見失ってしまいます。入り口を探している道中でアマンダの家を見つけたラジャー。
家ではアマンダが事故に遭ったことを悲しむリジーが、アマンダの傘を持って泣いていました。傘の中には「パパを忘れないこと、ママを守ること、絶対に泣かないこと」というメッセージが。そこでラジャーは、自分がパパを亡くして悲しむアマンダが友だちとして生まれたのだと知るのでした。
そこにバンティングが現われ、自身が作った想像の世界にラジャーを取り込みます。図書館の入り口を見つけて逃げようとするラジャー、エミリ、ジンザンでしたが、バンティングが指で作った拳銃でエミリが撃たれ、消えてしまうのでした。
図書館に逃げるも、ジンザンも小雪ちゃんもエミリの存在を忘れてしまい途方に暮れるラジャー。そこへ老犬のイマジナリが現われます。最後の仕事で声がかかるのを待ち続けていると語る彼こそ、リジーの幼い頃のイマジナリだったレイゾウコでした。
再びアマンダの元に戻るべく、掲示板の子どもの写真からアマンダの友だちジュリアを選んだラジャーは、ジンザンや小雪ちゃんと一緒に彼女の想像の世界へ。オーロラ姫というジュリアが望むイマジナリに取り込まれ、一時はアマンダの記憶を失いかけるも、なんとかラジャーは走行する救急車を追って病院にたどり着きました。
『屋根裏のラジャー』の感想と評価
兄弟姉妹や友だちの少ない子が、想像上で話し相手を作るとされるイマジナリーフレンド。とりわけ幼少時から早くに部屋が与えられ、1人で過ごす時間が多い西洋ではフレンド形成率が高いと言われており、本作の原作である児童文学『ぼくが消えないうちに』がイギリス発なのも、そうした土壌によるところが大きいでしょう。
日本だとイマジナリーフレンドという概念に馴染みがないかもしれませんが、実はスタジオジブリ作品の『となりのトトロ』(1988)のトトロやネコバスにはイマジナリーフレンドとしての側面がありますし、もっと言えばぬいぐるみやおもちゃを友だちに見立てて遊ぶのもイマジナリーフレンドの一種。幼少時から共に過ごしていたテディベアぬいぐるみに魂が宿り、そのままおじさん化していくコメディ『テッド』(2012)も、イマジナリーフレンド映画に含めていいでしょう。
そんな遊び相手として欠かせない存在だったイマジナリーフレンドも、成長するにつれ不要となり、いつかは消える運命にある――本作は、そんなイマジナリのラジャーが主人公のファンタジーアドベンチャーです。
少女のアマンダがラジャーを生んだ理由は終盤で明らかとなりますが、それは悲しさを含みつつも、一方でアマンダが成長するきっかけとなります。ただ、本作がもう一つ重きを置いているのが、「大人になったらイマジナリは不要なのか?」というテーマです。
本作に登場する、アマンダの母リジーとミスター・バンディングという2人の大人。幼少時に一緒だったイマジナリ犬のレイゾウコをいつしか忘れてしまっていた前者と、連れ添っているイマジナリの黒髪の少女をいつまでも忘れたくない後者は、ある意味合わせ鏡の存在。
その両者が対峙するクライマックスで、イマジネーションを取り戻したリジーがアマンダとの絆を深めますが、一方のバンディングは少女を吸い込んで消えてしまいます。
原作ではレイゾウコに突き飛ばされた少女が誤ってバンディングに吸い込まれるという展開だったのを、映画では自分を存続させる目的でイマジナリを吸い取ってきたバンディングを止めるために、少女が自ら身を捧げたと解釈できる描写に変えたことで、リジーとの対比をより強めています(バンディングの顛末も原作と映画では異なる)。
人間は成長する生き物ゆえに、イマジナリの助けはいつしか必要としなくなる。それでも必要とあれば、いつでも助けに現れる。想像することの豊かさ、楽しさが詰まった一作と言えましょう。
まとめ
ポノックの前作『メアリと魔女の花』は、ジブリ作品へのアンサーフィルムとなっていましたが、本作は鑑賞対象は外見こそ子ども向けながら、その実は大人の鑑賞にも耐えうることを念頭に置いているディズニーピクサー作品を彷彿とさせます。
特に「トイ・ストーリー」シリーズ(1995~2019)は内容的にも本作と近しく、とりわけ“おもちゃ離れしていく子ども”がテーマの『トイ・ストーリー3』(2010)は、おもちゃをイマジナリに置き換えることができます。また、登場人物が皆西洋人なのに、使用文字に日本語があるという多国籍感(このあたりは、原作本に添えられた挿絵に準じたと思われる)もディズニーアニメらしさを感じます。
小さいお子さんは、もしかしたら観ていて分かりづらいと感じるかもしれませんが、リジーのようにイマジナリと育った経験を持つ親世代の方は、一緒に観ながら解説してあげるといいでしょう。