SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2023国際コンペティション部門 串田壮史監督作品『マイマザーズアイズ』
2004年に埼玉県川口市で誕生した「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」は、映画産業の変革の中で新たに生み出されたビジネスチャンスを掴んでいく若い才能の発掘と育成を目指した映画祭です。
第20回目を迎えた2023年度はコロナ禍収束傾向の状況もあってか例年通りの賑わいを取り戻し、オンライン配信も並行して行われる中、7月26日(水)に無事その幕を閉じました。
今回ご紹介するのは、国際コンペティション部門にノミネートされた串田壮史監督による作品『マイマザーズアイズ』です。
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映画『マイマザーズアイズ』の作品情報
【公開】
2023年(日本映画)
【英題】
My Mother’s Eyes
【監督】
串田壮史
【出演】
小野あかね、設楽もね、泉拓磨、内田周作、間瀬英正、鯉沼トキ、星耕介
【作品概要】
ある母子の絵に描いたような幸せな生活が突然脆くも崩れ落ち、凄惨な悲劇に見舞われながらも、ひとつの視覚の共有により新たな意思世界を歩み始めていく様を描きます。
2020年のSkipシティ国際映画祭で『写真の女』(2020)が唯一の日本作品として国際コンペティションにノミネートされ、SKIPシティアワードを受賞した串田壮史監督が本作を手がけました。
キャストには、主人公の母・仁美をモデルとして活躍する小野あかねが担当。その娘・エリを、ドラマ『花子とアン』『同窓生~人は、三度、恋をする~』などに出演した設楽もねが演じます。
他にも『写真の女』撮影に参加した鯉沼トキや大滝樹、撮影、照明、美術、編集、音響などのスタッフ陣が再結集を果たしました。
串田壮史監督のプロフィール
1982年、大阪生まれ、ピラミッドフィルム所属。
SKIPシティアワードを受賞した長編デビュー作『写真の女』(2020)は、世界中の映画祭で40冠を達成し、7カ国でのリリースが決定している。
映画『マイマザーズアイズ』のあらすじ
チェロの演奏家の母・仁美と、同じくチェロ演奏家を志す娘・エリ。
仲睦まじい母子家庭生活を送る2人でしたが、ある朝エリは、自身のリサイタルに仁美とデュオで参加したいと申し出ます。
しばらくステージから離れていた仁美ですが、考えた末に彼女はステージに上がることを決めます。
ステージは無事終了しますが、その帰りに仁美はトンネルの中で事故を起こしてしまい、仁美は視力を失い、エリは首より下全身が不随の状態となってしまいます。
もともと視力の低下と失明を危惧していた仁美は、視力を失う前に見たとあるサイエンスライターの「視力を取り戻せるカメラ内蔵コンタクトレンズ開発成功」という記事を思い出し、記事の執筆者とコンタクトをとってレンズの開発者と接触することに成功します。
そして視力を取り戻した仁美は、体を動かすことができなくなったエリへの思いより、彼女にVRゴーグルを装着させ自身の視界を共有します。
こうしてエリのアバター的存在として行動する仁美の、奇妙な生活が幕を開けるのでした……。
映画『マイマザーズアイズ』の感想と評価
一見、仲睦まじい仲に見える母子。本作は2人の関係の裏にある闇の真実、そしてその障壁を超え相手への新たなつながりを芽生えさせていく様を、ミステリアスな雰囲気でまとめ挙げています。
そしてこの作品で強い印象を放っているのが、現代の「人同士の相互理解」ということです。
母子の関係は明確には描かれていませんが、恐らくはシングルマザーと娘という関係でしょう。チェロを通じて非常に強いきずなを持ち、口喧嘩すら見せない仲の良さ……しかしこの絵に描いたような「仲の良さ」がクセモノで、娘は母の真実を理解していません。
娘が願ったリサイタルでのデュオ演奏が終わった帰り道に、娘は母に「愛されていないのが分かった」と告げます。そしてそのショックで母は事故を起こし、自身の視力と娘の体の自由が奪われてしまいます。
母はもともと視力に懸念があり、たとえ事故が起こらなくてもいずれ視力を失う可能性がありました。
このことより実際のところ母は、自分のこと以外に対して何も関心がなかったのではないか、と感じられるわけであり、その意味ではお互いに対する不理解が事故のタイミングで露呈したこととなります。
起きてしまった事故のあとは、お互いの関係に新たな潮流を引き起こすべく、一つのことを実行に移します。
それは、娘と視野を共有すること。しかしなぜ母は自身の視野を共有してまで娘との新たな関係を結ぼうとしたのでしょうか?
少なくとも娘への理解を示すための行動が無意識的にも存在していたことからは、母もまた娘の胸の内を知らなかったことを気にしていたことが分かります。
母の視野を共有することで、二人の関係は最終的にどうなるのか? 本作のエンディングは非常に抽象的な結びとなっており、見る側の想像を大いに掻き立てられるものとなっています。
その意味でも本作からは訴求性、人同士の理解を改めて考えさせるようなメッセージを感じ取ることができるでしょう。
まとめ
仮想現実、アバターなどといった現代の最先端技術を彷彿するアイテムが登場するストーリーからは、近未来SF的なテイストが感じられる本作。
たとえば近年では若い層の人たちの「スマホ依存」が大きな問題となっており、常にスマホに注意を向けている若者の気持ちが、年配者には分からないという嘆きも多く耳にします。
本作では逆にそのスマホなどの最先端IT技術によって人が分かり合える、という道筋が描かれており、非常にユニークに見えるところでもあります。
一方で秘密を暴こうとするライターの末路など、非常にミステリアスかつショッキングな映像も織り交ぜながら、ポスタービジュアルで描かれるような「美しさ」へのこだわりも見られ、非常に完成度の高い作品だと評価できるでしょう。
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