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『フェイシズ』あらすじ結末感想と評価考察。ジョン・カサヴェテスxジーナ・ローランズが関係が破綻した“夫婦の36時間”を濃密に魅せる

  • Writer :
  • 谷川裕美子

壊れゆく夫婦関係をリアルに映し出す傑作

グロリア』(1980)で知られる巨匠カサヴェテスの監督第2作。関係の破綻した中年夫婦の36時間を斬新な手法で描き出した傑作です。

アカデミー賞3部門にノミネートされたほか、主演のジョン・マーレイがヴェネチア国際映画祭で最優秀主演男優賞を受賞しました。

分かり合えない男と女の悲しみを深く見つめる一作です。結婚14年となる夫婦が関係の破綻を迎えるまでの、最後の36時間を濃密に映し出します。

映画『フェイシズ』の作品情報


(C)1968 JOHN CASSAVETES

【公開】
1993年(アメリカ映画)

【監督・脚本】
ジョン・カサヴェテス

【編集】
アル・ルーバン、モーリス・マッケンドリー

【出演】
ジョン・マーレイ、ジーナ・ローランズ、シーモア・カッセル、リン・カーリン

【作品概要】
グロリア』(1980)で知られるカサヴェテス監督が、自宅を抵当に入れて撮影した監督第2作。

関係の破綻したアメリカ人夫婦の36時間を描く、男女の愛の葛藤を描いたカサヴェテス一連の作品の原点とも言える作品です。

アカデミー賞3部門(脚本賞、助演男優賞、助演女優賞)にノミネートという成果を挙げ、ハリウッドにその存在を認知させた革命的傑作となりました。

主演のジョン・マーレイはヴェネチア国際映画祭で最優秀主演男優賞を受賞しています。カサヴェテスの妻ジーナ・ローランズが、娼婦のジャニーンを好演。

映画『フェイシズ』のあらすじとネタバレ


(C)1968 JOHN CASSAVETES

会社社長のリチャードとマリアは離婚の危機にありました。

ある日帰宅したリチャードは、家にタバコがないことにイライラしていました。食事をとりながら妻と話すうちに、決定的な諍いを起こしてしまいます。

リチャードは妻に離婚を申し出て、返事をしない妻に向かい明日着るものを取りにくるとだけ言って、なじみの高級娼婦のジャニーンに電話をして会う約束をします。そんな夫をマリアは冷ややかに見ていました。

客のジムの相手をしていたジャニーンのもとに、リチャードが訪れました。やがてジムは帰り、リチャードとジャニーンはふたりきりになります。

なぜ自分に電話してきたのかと聞くジャニーンにリチャードはキスしました。ふたりはリラックスして楽しいときを過ごした後、一夜を共にします。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには映画『フェイシズ』ネタバレ・結末の記載がございます。映画『フェイシズ』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)1968 JOHN CASSAVETES

一方、妻のマリアはディスコで陽気な青年チェットと出会います。マリアはそのまま、彼と友人たちを自宅に招きました。

歌って踊って盛り上げ役だったチェットが突然我に返って静かになってしまったため、場はしらけて次々に友人たちは帰って行きます。

残されたチェットとマリアは、熱い一夜を過ごしました。

翌朝、マリアは睡眠薬を大量に飲み、自殺を図ります。チェットは驚きながらも、必死で薬を吐かせて彼女を助け、愛を告白しました。

そこにリチャードが帰宅し、チェットは慌てて逃げ出します。その姿をリチャードは窓から見ていました。

ボロボロになっていた妻を、リチャードは厳しく責め立てます。結婚生活中に何度も自分を拒んだ妻が、子どものような男と関係を持っていたことに彼は憤っていました。マリアはそんな夫を平手打ちします。

ふたりは階段の上段と下段に離れて座り、タバコを吸い始めます。タバコに咳き込み、睡眠薬で胃がおかしいという妻の言葉を聞いて、リチャードは彼女の顔を見ました。

マリアをまたいで二階に上がるリチャード。その後を追ってマリアが二階の部屋に上がると、すぐにまたリチャードが下りてきて階段の途中に座り込みます。

やがてマリアが下りてきて、夫をよけて階下の部屋へと去って行きました。リチャードは二階の部屋へと上がって行きました。

後には静かな階段だけが残されました。

映画『フェイシズ』の感想と評価


(C)1968 JOHN CASSAVETES

緩衝地帯でしか成立しない夫婦関係

タイトル通り、何度も登場人物の「顔」のクローズアップが映し出されるのが印象的な一作です。カサヴェテス独特の映像の魔力にとりつかれることでしょう

描かれるのは、夫婦関係の破綻したリチャードとマリアの夫婦の物語です。36時間という短い間の出来事を濃密に描きだしました。ドキュメンタリータッチの映像がさらにリアリティを高め、ヒリヒリした夫婦関係が見事に浮彫りとなっています

結婚14年の夫婦である会社社長のリチャードと妻のマリアは決定的な諍いを起こし、リチャードは高級娼婦のジャニーンのもとへ行ってしまいます。

ジャニーンは若いながらも芯が強く、プライドの高い凛とした女性でした。リチャードはすぐに彼女に魅せられ、ジャニーンもまた彼の成熟した魅力に惹かれていきます。

一方の妻マリアは、ディスコで若い青年チェットと出会い、ほかの同年代の女性と一緒に彼を家に招きます。妙齢の女性たちは若いチェットを挟んで奇妙な空気となっていきました。若さの残酷さ、そして若さにたまらなく惹かれてしまう悲しみが一気に押し寄せるシーンです。

それぞれの女性たちすべてが夫との関係に苦い思いや、切実な寂しさを持っています。彼女たちはそれを抱えながら、若いチェットとの降って湧いたような時間を受け止めていました。

若く美しいチェットにしがみついてしまう中年女性は、自分から失われていく若さそのものにしがみついているようにも見えます。

たるみ始めた肉体を持つリチャードもまた、同じ思いでジャニーンに向き合っていたことでしょう。

もう若くはない自分。去っていった夫。周囲の様子を見ていたマリアもまた、同じ悲しみを共有していました。チェットと過ごした一夜が、マリアの悲しみが堰をきってあふれ出す引き金になったことは間違いありません

耐え切れなくなったマリアは、翌朝睡眠薬を大量に飲んで自殺をはかります。チェットの必死の処置でどうにか一命をとりとめた彼女の前に、一時的に戻ったリチャードが姿を現しました。

罵り合っていた夫婦はいつしか階段の上段と下段に離れて座り、一緒にタバコを吸い始めます。階段はふたりの緩衝地帯でした。まったく同じ姿勢で座りこむ夫婦の姿からは長く積み重ねてきた年月が透けて見え、深い悲しみを感じさせます

ふたりは別れを告げ合うかのように、階段を行ったり来たりすることを繰り返します。別れがたい思いはあるものの、緩衝地帯でしか成立しない関係が続けられるはずもありません

やがてふたりは別々の方向に歩き出し、最後は誰もいなくなった階段だけが映し出されます

通過点でしかないはずの階段を、何度も名残惜しそうに行き来する姿に、壊れていく夫婦の悲しみが凝縮されています。

ジーナ・ローランズの凛とした美しさ


(C)1968 JOHN CASSAVETES

本作でひときわ大きな輝きを放っているのは、高級娼婦ジャニーン役のジーナ・ローランズです。彼女はジョン・カサヴェテスの妻で、結婚したのは互いにデビューする前のことでした。

ローランズはカサヴェテスのミューズとして花開き、『グロリア』(1980)『こわれゆく女』(1975)など数々の名作を共作しています。

本作では、夫婦関係の破綻した主人公・リチャードを愛する重要な役を演じています。一筋縄ではいかないミステリアスな魅力を持ち、大人びた雰囲気を纏うジーニーが、若い男ではなく年上の男性に惹かれるのはごく自然に見えます

高級娼婦として高いプライドを持つジーニーは、下品な言葉で誘ってくる男たちをビシッと叱りつけ、決して許そうとしません。

一方で、自分と同じ愛称を持つ少女を歌ったフォスターの『金髪のジェニー』や黒人霊歌の『ドライボーンズ』を口ずさむ姿からは、若い女性ならではの無邪気さが感じられます。親しみある歌を一緒に歌うことで、リチャードとジーニーの心は自然に結ばれていきます。

寂しさを抱えているのはリチャードだけではありませんでした。ジーニーの瞳の奥には深い悲しみがたたえられ、彼への確かな恋心を感じさせます。

火のような激しさ、隠しきれない寂寥感、深い愛情を見せる温かさなど、さまざまな表情を見せるジャニーンに魅了されるに違いありません

まとめ


(C)1968 JOHN CASSAVETES

夫婦関係が壊れゆくさまを濃密に映し出し、カサヴェテスの才能を世に見せつけた傑作『フェイシズ』。カサヴェテス監督自身の愛妻、ジーナ・ローランズと生み出した初の作品であり、監督にとって彼女が永遠のミューズとなることを決定づけた一作です。

ジョン・マーレイはヴェネチア国際映画祭で最優秀主演男優賞を受賞する素晴らしい演技を見せていますが、やはり、本作の成功はローランズの類まれな存在感にあったと言えるでしょう。

どんな夫婦であっても、いつ本作のリチャードとマリアのような状況に陥る危険をはらんでいます。その怖さを誰よりもカサヴェテス夫婦はよくわかっていたからこそ、この傑作を生み出すことができたと思わずにはいられません。





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