連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』第38回
日本公開を控える新作から、カルト的に評価された知る人ぞ知る旧作といったアクション映画を時おり網羅してピックアップする連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』。
第38回は、2013年の日本公開作『ジャンゴ 繋がれざる者』。
ジェイミー・フォックス、レオナルド・ディカプリオ、クリストフ・ヴァルツ、サミュエル・L・ジャクソンなど錚々たるキャストが出演によるクエンティン・タランティーノ監督の西部劇を、ネタバレありでレビューします。
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映画『ジャンゴ 繋がれざる者』の作品情報
【日本公開】
2013年(アメリカ映画)
【原題】
Django Unchained
【監督・脚本】
クエンティン・タランティーノ
【製作】
レジナルド・ハドリン、ステイシー・シェール、ピラー・サヴォン
【製作総指揮】
ハーヴェイ・ワインスタイン、ボブ・ワインスタイン、シャノン・マッキントッシュ、マイケル・シャンバーグ、ジェームズ・W・スコッチドポール
【撮影】
ロバート・リチャードソン
【美術】
J・マイケル・リーバ
【キャスト】
ジェイミー・フォックス、レオナルド・ディカプリオ、クリストフ・ヴァルツ、ケリー・ワシントン、サミュエル・L・ジャクソン、ドン・ジョンソン、ジョナ・ヒル、デニス・クリストファー、ジェームズ・レマー、フランコ・ネロ、ブルース・ダーン、ゾーイ・ベル、クエンティン・タランティーノ
【作品概要】
『パルプ・フィクション』(1994)のクエンティン・タランティーノが、8作目として2012年に監督した西部劇。
キャストにジェイミー・フォックス、クリストフ・ヴァルツ、レオナルド・ディカプリオ、サミュエル・L・ジャクソンといった面々を揃え、南北戦争直前のアメリカ・テキサスを舞台に、ガンマンとなった黒人奴隷による白人たちへの復讐譚が描かれます。
公開時にはタランティーノ作品の中で最高収益を上げる大ヒットを記録し、アカデミー賞では5部門ノミネートされ、脚本賞(タランティーノ)と助演男優賞(ヴァルツ)を受賞しました。
映画『ジャンゴ 繋がれざる者』のあらすじ
1859年のアメリカ南部・テキサス。真夜中、数人の黒人奴隷を連れて移動していた2人の白人の前に、歯科医の馬車に乗った男キング・シュルツが姿を見せます。
奴隷たちに、テキサスにいるというブリトル3兄弟について尋ねたシュルツ。すると、奴隷の1人ジャンゴ・フリーマンが、3人の顔を知っていると答えます。
ジャンゴを購入したいと白人たちに言うも断られ、銃を向けられたシュルツ。しかしあっという間に1人を射殺し、もう1人の足を撃ち抜き、奴隷たちを解放します。
ジャンゴと共にエルパソに到着したシュルツは、自分は賞金稼ぎをしており、賞金首となっているブリトル兄弟を探していると明かします。さらに、兄弟を仕留める手助けをしてくれれば身柄を自由にする上に、賞金の一部を分けると約束。ジャンゴはその話に乗ります。
ブリトル兄弟の行方を求めて、エルパソの大地主スペンサー・”ビッグ・ダディ”・ベネット邸を訪ねた2人。そこでジャンゴは偶然、ビッグ・ダディに雇われていた兄弟のうちの2人を発見。
奴隷をいたぶっていた2人をジャンゴが射殺し、馬に乗って逃げようとしたもう1人をシュルツが仕留めます。激高するビッグ・ダディでしたが、お尋ね者の兄弟を殺すことは法認可のため、2人を責められません。
その夜、ビッグ・ダディは手下を連れ、クー・クラックス・クラン(KKK)の白装束を纏ってシュルツの馬車を襲います。しかし、無人の馬車に仕掛けていたダイナマイトで彼らは爆死。逃走するビッグ・ダディを、木の上からジャンゴがライフル一撃で仕留めます。
自由の身となったジャンゴの銃の腕前を見込んだシュルツは、正式な相棒に誘います。ジャンゴは、奴隷市場で離ればなれとなった妻のブルームヒルダを探したいと考えていました。
ブルームヒルダという名に感銘を受け、ジャンゴにニーベルンゲンの歌に基づくジークフリートの英雄神話を語るシュルツ。そして、越冬まで賞金稼ぎとして動き、春になったらブルームヒルダを救いに行くという約束を交わすのでした。
行動を共にするシュルツから銃の扱いを学び、みるみるうちにその腕を磨いていくジャンゴ。そして、初めて仕留めた賞金首の手配書をお守りとして持っておくようにシュルツに告げられます。
やがて、ブルームヒルダがミシシッピ州のキャンディ農園にいることを突き止めた2人。シュルツは奴隷の買い付け人、ジャンゴは腕の立つ北部の自由黒人をそれぞれ装い、農園主カルヴィンに近づきます。
カルヴィンは、趣味で奴隷同士を死ぬまで闘わせるマンディンゴ・ファイティングをさせており、黒人でありながら差別主義者の執事スティーブンを仕えさせ、ブルームヒルダを姉ララの下でメイドとして働かせていました。
マンディンゴ・ファイティングから逃げようとして木の上に追い詰められた黒人奴隷ダルタニャンを、500ドルで買って救おうとするシュルツを制止するジャンゴ。ブルームヒルダ救出計画を遂行するにはやむを得ない判断でした。結果、ダルタニャンは猟犬に噛み殺されます。
カルヴィンの邸宅で、ジャンゴと久々の再会を果たしたブルームヒルダは涙します。しかし、彼らの様子をスティーブンが怪しみます。
ブルームヒルダを購入したいというシュルツの希望を呑んだカルヴィンは、皆で夕食を囲みます。ところが、スティーブンからジャンゴたちの企みを知らされ激怒。
2人は捕らえられるも、シュルツが最初に提示した額の数倍にもなる1万2000ドルでブルームヒルダを買い取りたいと言い、商談は成立。
カルヴィンがブルームヒルダを売却する契約書にサインする間、ダルタニャンの死に様を思い出していたシュルツは、カルヴィンから握手を求められた際、衝動的に袖の下に隠していたデリンジャーで彼を射殺。
シュルツはカルヴィンの手下に撃たれ、ジャンゴは銃を奪って他の手下たちを血の海に沈めていくも、ブルームヒルダを人質に取られ、降伏するのでした。
タランティーノ印のバイオレンス西部劇
映画オタクのクエンティン・タランティーノ監督が、「最も好きなジャンル」と公言する西部劇やマカロニ・ウエスタンを自ら撮ったのが、本作『ジャンゴ 繋がれざる者』です。
黒人奴隷がガンマンになるというアイデアは2000年代初頭からあったというタランティーノですが、『イングロリアス・バスターズ』(2009)の宣伝で来日して滞在したホテルで、買い込んだ大量の西部劇映画のサントラを聴きながらストーリーを固めたといいます。
オープニングで『続・荒野の用心棒』(1966)のエンリオ・モリコーネの曲を採用すれば、同作に主演したフランコ・ネロもカメオ出演。他にも「メジャー会社が大金をかけて作ったゲテモノ映画」と絶賛する『マンディンゴ』(1975)や、『殺しが静かにやって来る』(1969)での雪原シーンを引用したりと、過去監督作同様、自身が好きだった映画へのオマージュがふんだんに詰まっています。
1960年から70年代に作られたマカロニ・ウエスタンと、やはり70年代前半に台頭したブラックスプロイテーション映画をかけ合わせ、「どの国にも語りたくない、恥ずべき汚点」を露わにしたタランティーノのセンスに脱帽です。
『マンディンゴ』(1975)
差別主義者に報復する英雄ども
『イングロリアス・バスターズ』でユダヤ人部隊にナチスを全滅させたタランティーノは、本作で黒人奴隷に報復させる機会を与えましたが、その際に白人至上主義者を意図的に愚かに描いています。
黒人を「無知な物」として扱う貧乏白人たちの下劣ぶり。それは白装束を纏ってジャンゴたちを襲う間抜けなKKK集団や、ジャンゴの口車に踊らされる鉱業社の従業員たちに見て取れますが、裕福層の白人も、その実は浅薄であるというのを知らしめます。
その代表が、レオナルド・ディカプリオ扮する農園主カルヴィン・キャンディです。
フランス語も喋れないのに周囲に自身を「ムッシュ」と呼ばせ、「最も劣る人種」と蔑む黒人に『三銃士』の主人公ダルタニャンという名前を付け、ワインを嗜むことでフランスらしさを楽しむ。さらには姉のララに、ベートーヴェンの『エリーゼのために』をお上品にハープで演奏させるという、上辺だけのヨーロッパかぶれぶりを露呈します。
そんなカルヴィンに我慢ならなくなったキング・シュルツは、ドイツ人として、『三銃士』の作者アレクサンドル・デュマが黒人の血を引いていることを告げ、射殺します。
ここで重要なのは、必ずしも「白人=差別主義者、黒人=被差別者」とはならないことをタランティーノが主張している点。奴隷制を毛嫌う白人シュルツと、強烈な差別思想を持つ黒人スティーブンの対比でも、それは明らかでしょう。
そのシュルツからジークフリートの英雄神話を聞かされ、自らジークフリートとなって悪の龍=白人からブリュンヒルデ=ブルームヒルダを救おうとするジャンゴ。
ジークフリートがノートゥングの剣で倒した龍の血を浴びて強靭な肉体を手に入れたように、コルト・ネイビーで撃ち殺した白人の血を浴びたジャンゴは、奴隷から真の人間となるのです。
映画で被害者にリベンジさせる
『レザボアドッグス』(1991)、『パルプ・フィクション』といった初期タランティーノ作品に顕著だった「本筋とは全く関係ない長尺の対話」シーンは、『イングロリアス・バスターズ』あたりから影を潜めてきた感があります。というか対話シーン自体はあるものの、「本筋に関係する意味ある」内容に変わってきていると言い換えた方が適切かもしれません。
それは、『イングロリアス・バスターズ』や本作『ジャンゴ 繋がれざる者』が被害者たちの復讐譚を描く内容だからというのも、大いに関係しているでしょう。
「歴史上の被害者たちに復讐させてあげたい。せめて映画の中だけでも」
(「映画秘宝」2013年3月号)
タランティーノによる被害者たちの復讐譚は、後年の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)でも描かれます。
次回の『すべての映画はアクションから始まる』もお楽しみに。
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松平光冬プロフィール
テレビ番組の放送作家・企画リサーチャーとしてドキュメンタリー番組やバラエティを中心に担当。主に『ガイアの夜明け』『ルビコンの決断』『クイズ雑学王』などに携わる。
ウェブニュースのライターとしても活動し、『fumufumu news(フムニュー)』等で執筆。Cinemarcheでは新作レビューの他、連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』『すべてはアクションから始まる』を担当。(@PUJ920219)