映画『レッドシューズ』は2023年2月24日(金)より新宿ピカデリー他にて全国公開中!
世間という逆境の中で、愛する娘を取り戻すために闘うシングルマザーのボクサーの姿を描いた映画『レッドシューズ』。
『カノン』(2016)の雑賀俊朗が監督を務め、市原隼人、松下由樹、佐々木希、観月ありさ、森崎ウィンなど豪華キャスト陣が集結しました。
このたびの劇場公開を記念し、『レッドシューズ』にて主人公・真名美を演じ、本作が映画初主演作となった朝比奈彩さんにインタビュー。
本作でのトレーニングにおける“格闘技経験者”ゆえの苦労、“燃え尽きた”と感じるほどに全力で向き合った映画『レッドシューズ』に対する想い、芝居の世界で戦い続けることができるその理由など、貴重なお話を伺うことができました。
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ボクサーとして“スタートライン”に立つ
──ボクサーである主人公・真名美を演じるために行われたトレーニングでは、どのような点に苦労されたのでしょうか。
朝比奈彩(以下、朝比奈):私は元々キックボクシングの経験があったので、そのキックボクシングとしてのファイトスタイルをボクシングへと変えていくことが一番大変でした。
当初は格闘技の経験がある以上、そこまで苦戦することなく変えていけると思っていましたが、それは甘い考えでした。実際にトレーニングを始めてみると全くの別物で「ここまで違うのか」と肌で感じました。
例えばキックボクシングでは、後方に重心を据えて足をすぐ上げられる体勢で動くんですが、ボクシングの場合は前方に重心に据えて動きます。その体勢で動けるよう体を馴染ませることにまず時間がかかりました。むしろ格闘技が未経験で、体にクセがなかった方が馴染みやすかったのかもしれないです。
また本作でのトレーニングを一年弱重ねた頃に、ボクシング指導をしてくださった方に「このままのコンディションなら、プロテストにも受かるよ」と言ってもらえたんです。
トレーニングを続けてきた中でのその言葉は、とてもうれしかった反面「ボクサーを演じる人間として、自分は“スタートライン”に立ったばかりなんだ」と痛感しました。そのためトレーニングをやめることが怖くて、撮影期間中にもずっと続けていました。
燃え尽きるほどの全力をぶつける
──“スタートライン”に立てるほどまでにトレーニングに打ち込まれた本作の撮影を終えられた時、どのような想いを抱かれましたか。
朝比奈:最初に本作の主演のお話をいただいた当初は、「ボクシングの経験も子育ての経験もない、経験していないことだらけの私に、なぜ声をかけてくださったんだろう」と疑問を抱いてしまったんです。
「本当に私で大丈夫だろうか」と不安さえも感じていましたが、雑賀監督たちとお会いした時に「YouTubeチャンネルでのキックボクシングの動画を見て、戦っている時の眼がとても素敵だった」とキャストティングの経緯をお聞きできたのが、本作に出演するきっかけになりました。
朝比奈:また『レッドシューズ』を撮り終えた時、“やり切った”という感覚といいますか、“燃え尽きた”という感覚があったんです。「これが、役者として最後の作品になってもいい」と思えるまでに撮影を駆け抜け、クランクアップの時には“燃え尽きた”とさえ感じられるほどに全力をぶつけました。
ただ、それでも撮影からしばらくすると「やっぱり、このお芝居の世界の中にずっといたいな」という感覚も湧き上がってきて、また他の役を演りたくなるんです。
夢にまで見た「映画主演」を経験させてもらえた作品としての思い入れはもちろん、その二つの感覚を改めて実感できたのが『レッドシューズ』という作品だと思っています。そして今後も、またその感覚を味わいたい……「“演じる”というお仕事を続けていきたい」という想いを強めることができた作品ですね。
自分の仕事が、誰かのパワーになる
──女優としての命を懸けるほどの全力で作品と向き合い、燃え尽きるほどの格闘を経ても、再び芝居の世界に身を投じたくなる。その“闘志”の拠りどころを、最後に伺ってもよろしいでしょうか。
朝比奈:私が“演じる”というお仕事に興味を持ったのは、映画『Paradise Kiss』(2011)で主演の北川景子さんの姿を見て「こんなに素敵な女優さんがこの世界にはいるんだ」と感じた時でした。その経験が、今現在のお仕事につながっていると思っています。
“演じる”というお仕事は、それだけ人を動かすパワーがある、特別なものと思うんです。それを実体験として感じられたのが『ランウェイ24』(2019)でした。
そのドラマではパイロットの役を演じたんですが、「自分も飛行機関連の仕事をやっていて、とても励まされました」など、作品を観た方々から色々なコメントをいただいた時に「自分の仕事が、誰かのパワーになっているんだ」と実感できました。
「“誰かを演じる”ということの意味は、こういうことなんだ」という一つの答えのようなものを感じられたことで、女優のお仕事を続けたいとはっきり思えるようになったんです。
今回の『レッドシューズ』でも、映画を観てくださった方から色々なコメントをいただく中で、燃え尽きるほどに映画と向き合った自分の価値をやっと見出せたといいますか、「この人たちに観てもらうために、今回のお仕事をしたんだ」と改めて感じることができました。
その気持ちを大切にして、これからもお芝居の世界で戦えたらと思います。
インタビュー/河合のび
撮影/田中舘裕介
朝比奈彩プロフィール
1993年10月6日生まれ、兵庫県出身。
2017年に『東京アリス』(Amazonプライム)で女優デビュー。続いて『チア☆ダン』(2018/TBS)、『大阪環状線 Part3 ひと駅ごとのスマイル』(2018/KTV)、『やれたかも委員会』(2018/TBS)、『ランウェイ24』(2019/EX)、『今際の国のアリス』(2020/Netflix)などに出演。
映画では『ぐらんぶる』(2020/英勉監督)、『そして、バトンは渡された』(2021/前田哲監督)に出演。またモデルとしても活躍し「Oggi」の専属モデルを務める。
映画『レッドシューズ』の作品情報
【公開】
2023年(日本映画)
【監督】
雑賀俊朗
【脚本】
保木本真也、上杉京子
【キャスト】
朝比奈彩、市原隼人、佐々木希、森崎ウィン、観月ありさ、松下由樹
【作品概要】
『カノン』(2016)で中国のアカデミー賞と呼ばれた金鶏百花映画祭の国際映画部門で最優秀賞作品賞・監督賞・女優賞という3冠を獲得した雑賀俊朗が監督を務めた、崖っぷちのシングルマザーのボクサー・真名美と幼い娘の絆を描くヒューマンドラマ。
本作が映画初主演となった朝比奈彩が、体を鍛え上げてボクサー役に挑戦。また『カノン』(2016)でも雑賀監督と組んだ佐々木希、「おいしい給食」シリーズや『喝 風太郎!!』(2019)の市原隼人、松下由樹ら豪華キャストが出演した。
映画『レッドシューズ』のあらすじ
娘と二人で、慎ましくも静かに暮らす真名美(朝比奈彩)は、ある日家庭裁判所に呼びされた。
女子ボクシングに打ち込む真名美たちの経済状況が悪く貧窮状態にあり、娘を義母が育てるべきだという行政の判断に押され気味だ。
そんな中、正義感の強い真名美は職場で理不尽な目に遭っている同僚を庇ったことで失業してしまい窮地に陥る。
だが、周知の支えにより新たに老人介護施設での仕事を得るが、そこである事故を起こしてしまい、娘と一緒に居られない状況に……。
娘を取り戻すためには、ボクシングの試合に勝ってファイトマネーを得て、生活を立て直すしかない。最強のチャンピオンへの挑戦が今始まる──。
ライター:河合のびプロフィール
1995年生まれ、静岡県出身の詩人。
2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、映画情報サイト「Cinemarche」編集部へ加入。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける(@youzo_kawai)。