新世界の“怪物”が動き出す!!!
『ONE PIECE』劇場版アニメシリーズ第13作!
『ONE PIECE FILM Z』(2012)に続き、原作者・尾田栄一郎が総合プロデューサーを務めた、漫画『ONE PIECE』の劇場版アニメ作品のシリーズ第13作『ONE PIECE FILM GOLD』。
世界最大のエンターテインメントシティにして、世界政府すら手出しできない独立国家「グラン・テゾーロ」を舞台に、ルフィたち麦わらの一味と“絶対聖域”の支配者ギルド・テゾーロとの戦いを描き出します。
映画オリジナルキャラクターの怪盗カリーナを演じた満島ひかりをはじめ、濱田岳、菜々緒、北大路欣也など、豪華なゲスト声優陣が作品を彩っている本作。
本記事では、映画のネタバレ有りあらすじとともに、テゾーロが“黄金の理想郷”を築いた根源的な理由、彼と対照的に描かれるルフィが貫く“自由”の在り方、そして“あの怪盗もの映画”へのオマージュも解説してきます。
CONTENTS
映画『ONE PIECE FILM GOLD』の作品情報
【公開】
2016年(日本映画)
【原作・総合プロデューサー】
尾田栄一郎
【監督】
宮元宏彰
【脚本】
黒岩勉
【キャラクターデザイン・総作画監督】
佐藤雅将
【美術監督】
小倉一男
【音楽】
林ゆうき
【声のキャスト】
田中真弓、中井和哉、岡村明美、山口勝平、平田広明、大谷育江、山口由里子、矢尾一樹、チョー、山路和弘、満島ひかり、濱田岳、菜々緒、北大路欣也、ケンドーコバヤシ、古田新太、コロッケ、ナダル、佐藤ありさ、西野七瀬、三吉彩花、成田凌、武田玲奈、坂本千夏、渡辺菜生子、高木渉、檜山修之、櫻井孝宏、竹中直人、三村マサカズ
【作品概要】
国内外で高い人気を誇る漫画『ONE PIECE』の劇場版アニメ作品のシリーズ第13作であり、前作『ONE PIECE FILM Z』(2012)に続き原作者・尾田栄一郎が総合プロデューサーを務めた。
レギュラーキャスト陣に加え、本作にて麦わらの一味が訪れた世界最大のエンターテインメントシティにして、世界政府すら手出しできない独立国家「グラン・テゾーロ」の支配者ギルド・テゾーロ役を演じたのは山路和弘。さらに満島ひかり、濱田岳、菜々緒、北大路欣也など、豪華なゲスト声優陣が作品を彩っています。
監督は、本作が劇場版アニメ初監督作となった宮元宏彰。『ONE PIECE』ではテレビシリーズにて演出を務めたほか、2005年の『ONE PIECE オマツリ男爵と秘密の島』にも助監督として参加しています。
映画『ONE PIECE FILM GOLD』のあらすじとネタバレ
大規模なカジノを運営し、海賊、海軍、果てには天竜人までも訪れる世界最大のエンターテインメントシティ「グラン・テゾーロ」。
巨大な船の上に築かれた、世界政府にも公認されている独立国家と新世界の航海中に遭遇したルフィたち麦わら海賊団は、そのままグラン・テゾーロに立ち寄ることにします。
船着き場に向かう中、金粉の雪の歓迎に驚かされる一味。カジノに負けたロングロング海賊団と偶然出くわし襲撃を受けるも、難なく返り討ちにした彼らの元に、街の支配者ギルド・テゾーロに仕えている者だというバカラが声をかけてきます。
名のある人間の案内役を仰せつかっているという彼女に導かれる形で、一味は随所に黄金が施された街中を進んでいきます。街には監視用の映像電伝虫が数多く設置されており、盗みや破壊行為に至った者は即座に通報され、地下の牢獄へ落とされるとバカラに聞かされます。
花を売る子どもたちに冷淡な態度をとるバカラに違和感を覚えながらも、一味はカジノフロアへ。バカラはカジノを楽しんでほしいと高額のチップを渡します。
次々とギャンブルに勝利してゆく一味を、バカラはVIPカジノへと案内。同じくテゾーロの部下であり、物体を自在にすり抜けられる「ヌケヌケの実」の能力者・タナカさんのチェックを受けたのち、エレベーターの壁を「すり抜けた」先にあるVIPカジノへとたどり着きます。
バカラから3億ベリーものチップをさらに渡されたものの、怪力巨漢のダイスがディーラーを務める丁半博打でもその強運を見せるルフィ。するとそこに、件の街の支配者ギルド・テゾーロが姿を現します。
テゾーロはルフィに、自分と丁半博打でもう一度勝負をしないかと持ちかけます。
「勝てば賭け金の10倍を返す」「負けたとしても、金を腐るほど持っている自分は何もしない」という勝負にルフィは乗りますが、勝負の瞬間にバカラの手に触れられると、それまでの強運が嘘かのようにあっけなく負けてしまいます。
実はグラン・テゾーロの幹部であったバカラは、触れた者の運気を吸い取れる「ラキラキの実」の能力者でもありました。能力によるイカサマをされことに困惑し怒る一味に対し、さらにテゾーロはバカラが貸したチップの金額……3億2千万ベリーを今返済するように迫ります。
「ここでは騙された人間が敗者」と語るテゾーロたちに耐えかねた一味は、ゾロを筆頭に彼らと戦おうとしますが、自身の異変に気づいたゾロは一味の面々を制止。なんとゾロの肉体は気づいた時には、そのほぼ半分が黄金と化してしまっていました。
一度触れた金を自在に操れる「ゴルゴルの実」の覚醒した能力者であったテゾーロ。さらに彼は、街に入る人々に自身の力を込めた金粉の雪を浴びかけることで、街に入った全ての人間の肉体を支配下に置けるように施していました。
懸賞金がちょうど「3億2千万ベリー」(映画の公開時点)なゾロの首での借金返済を提案するテゾーロは、明日の夜12時までに返済額分の金を用意することを一味に命じ、もしできなければゾロを完全に金へ変える公開処刑ショーを敢行すると言い放ちます。
条件の達成は到底不可能と訴えるナミ。しかし、自身にナイフの刃を向けてきたテゾーロの部下にして街の歌姫カリーナを見て何かを察した彼女は、テゾーロが持ちかけてきた曰く「究極のギャンブル」に乗ることを宣言しました。
テゾーロの元を去った一味に、なぜか秘密裏に接触してきたカリーナ。彼女の正体は、かつて盗賊として活動していたナミと少なからず因縁のある怪盗でした。
彼女が歌姫としてテゾーロの元に潜伏してまで狙うものは、「全世界の資産の20パーセント」にさえ匹敵すると言われる「テゾーロ・マネー」。小国すらも買える5000億ベリーという莫大な資産の一部は、天竜人への“天上金”にも利用され、それゆえにテゾーロは世界政府や海軍、ひいては海賊を含む裏社会を牛耳っていました。
テゾーロ・マネーを盗み出すことは、泥棒にとって最高の栄誉。すでに、街の中心地に立つタワー最頂部の黄金製のドーム内に存在する、テゾーロ・マネーが保管されている金庫の鍵のスペアを入手していたカリーナは、一味に協力を求めます。
金粉の雪のせいでテゾーロの支配下にある現時点では、強引な手段には出られない一味たち。「騙して勝つ」というこの街のルールに則ってゾロを救出すべく、カリーナが持ちかけてきた“賭け”に乗ることにします。
映画『ONE PIECE FILM GOLD』の感想と評価
唯一残された掟を実現した“黄金の理想郷”
本作のボスキャラにあたるギルド・テゾーロが巨大な船の上に築き上げた街「グラン・テゾーロ」。文字通りテゾーロが「黄金」によって支配するその街は、「全てが金に支配される」という残酷が、街の外に広がる現実以上に絶対的なものとして君臨しています。
かつて、金とそれが伴う権力によって翻弄され苦しめられ続けてきたテゾーロ。自らの心すらも奪われてきた彼の人生に唯一残されたのは、「ゴルゴルの実」という悪魔との契約でも、手にした能力によって築き上げた莫大な黄金と財産でもなく、あくまでも「全てが金に支配される」という唯一の掟でした。
その掟が自分自身と同じく「唯一の掟」として他者にも降りかかり、自分自身と同じく他者の心身を支配する……彼が「グラン・テゾーロ」という街を築いた何よりもの理由は、自身の信じる思想が確固たるものとして存在する世界の実現であり、そうした“理想”が反映された街は、テゾーロにとってまさしく「黄金の理想郷(エル・ドラド)」といえるでしょう。
「エル・ドラド」とは、15世紀中期〜17世紀中期のヨーロッパ大航海時代においてスペインを中心に広がっていた理想郷伝説であり、人々を新大陸進出へと駆り立てた要因の一つとしても知られています。
そして「エル・ドラド」は、スペイン語で「金箔をかぶせた」または「黄金の人」を意味します。その語の意味は、魔力的な輝きを放って人々を誘惑しながらも、その金を少し剥がせば醜く残酷な掟がはびこる街の正体、そして映画終盤では文字通り「黄金の人」と化してルフィと対決したテゾーロそのものであり、街がテゾーロにとっての「黄金の理想郷」であることを裏付けているといえます。
“諦めない自由”が黄金郷を打ち砕く
映画の途中ではテゾーロによって両手を黄金で束縛されながらも、「諦めねぇ」というたった一言でテゾーロが街を通じて掲げた“現実に基づいた理想”を拒むルフィは、「捕らえられた仲間ゾロを助ける」という個人的な願いのために戦い続けます。
そうしたルフィの姿は、「愛する人とともに生きる」という個人的な願いを無残に打ち砕かれた過去を抱えるテゾーロとは対照的です。
そして、残酷な現実を諦めとともに受け入れ、自身に唯一残された掟を守るために“黄金の理想郷”を築き上げたテゾーロに対し、本作におけるルフィは「諦めない」という人間が前向きに生きるために必要な“最小の自由”を貫き続けているといえます。
自由で在ることを求める人間性に根差した、「諦めない」という小さな言葉。
ルフィという一人の人間が口にしたその言葉は、街の掟に敗れ自らを「負け犬」と評していたマックス、地下の牢獄の囚人たち、そして自由を求める全ての人々の心へと広がり、最後にはテゾーロの“黄金の理想郷”を打ち砕くまでに至ったのです。
まとめ/あの“怪盗もの映画”へのオマージュも?
映画オリジナルキャラクターの怪盗カリーナの登場、そして「敵ボスの莫大な財産を盗み出す」というストーリー展開に相まって“怪盗もの映画”という要素も持つ『ONE PIECE FILM GOLD』。
本作を実際に観た時、多くの方が“怪盗もの映画”の名作である『ルパン三世 カリオストロの城』(1979)を思い出したのではないでしょうか。
「カジノ」と「城」が組み合わさったような作品の舞台、敵ボスの陣営に潜入中の「怪盗の女性」、財宝が眠る「時計台」としての機能を持つ塔への潜入、「警護」の任務に訪れた者をぞんざいに扱う敵ボス、映画中盤に敵ボスに見つかり「地下の牢獄」へと落とされる主人公、映画終盤での「大量の水」が放出されることで真実が明らかになる展開、そして「囚われの身の人間」を助けるべく盗みを行うという義賊的な犯行動機……。
“怪盗もの映画”の名作への設定・ストーリー上でのオマージュが随所に見られる本作を、『ルパン三世 カリオストロの城』とともに楽しむというのも、映画の楽しみ方の一つかもしれません。