ドラマ『サイコだけど大丈夫』のソ・イェジ主演、初長編作となったソ・ユミン監督で送る韓国サスペンス
事故により記憶喪失になってしまったスジンは、夫ジフンの献身的なサポートにより少しづつ日常生活を取り戻しはじめます。
しかし、ある日幻覚が見えるようになり、実際に起こるかもしれない未来を見ているのではないかと思うジフンでしたが、周囲は信じません。
自分が見ているのは本当に現実なのか、それとも妄想なのか…次第に混乱したジフンは献身的な夫でさえ疑うように……。
ドラマ「サイコだけど大丈夫」で一躍有名となったソ・イェジが主人公スジンが演じ、夫・ジフン役には『背徳の王宮』(2016)、『ニューイヤー・ブルース』(2021)などの実力派キム・ガンウが演じました。
監督を務めたのは、ホ・ジノ監督のもとで『八月のクリスマス』(1999)、『四月の雪』(2005)などの助監督や脚本を手がけた女性監督のソ・ユミン。
映画『君だけが知らない』の作品情報
【日本公開】
2022年(韓国映画)
【英題】
Recalled(原題:내일의 기억)
【監督・脚本】
ソ・ユミン
【キャスト】
ソ・イェジ、キム・ガンウ、パク・サンウク、ソンヒョク
【作品概要】
事故で記憶喪失となったスジンが、幻覚で未来を見るようになり事件に巻き込まれていくサスペンス。
監督を務めたソ・ユミンは、ホ・ジノ監督のもとで『四月の雪』(2005)、『ハピネス』(2007)、『ラスト・プリンセス 大韓帝国最後の皇女』(2016)などの脚本を手がけるほか、チョン・ギフン監督の『恋するインターン ~現場からは以上です!~』(2015)の脚本も手がけています。
本作で長編映画監督デビューしたソ・ユミンは、次回作として、D.O.(ド・ギョンス)主演にむかえた台湾映画『言えない秘密』(2008)のリメイク作の監督に抜擢されています。
映画『君だけが知らない』あらすじとネタバレ
事故に遭い、記憶を失ってしなったスジン(ソ・イェジ)。
そんなスジンを夫のジフン(キム・ガンウ)は献身的にサポートします。体調が回復したスジンは、退院し自宅に戻ります。
家にはカナダの湖を描いた絵が飾られており、ジフンは事故に遭う前にカナダに移住する計画をしていたのだと言い、カナダに移住する手配を進めていると言います。
ジフンが会社に行っている間に外出したスジンはエレベーターで小さな女の子とすれ違います。すると、その子が事故に遭う幻覚を見ます。
あまりにもリアルで、現実と見間違うような幻覚を見たスジンは思わずその女の子に向かって走り、車に轢かれそうな女の子を助けようとします。
今にも車が迫ってきそうになった瞬間スジンはジフンに助けられます。気づくとそこに女の子の姿はありません。
心配したジフンに連れていかれ、病院で診察を受けると、事故による記憶喪失の影響で幻覚が見えて、それを現実だと錯覚してしまうことがあると言われます。
「おかしいのは私なのね」いくら現実のようだったと説明しても理解してもらえないスジンはショックを受けます。
診察後、病院で女の子を見かけたスジンは無事だったのねとその子の方へ向かおうとします。そんなスジンにいい加減にしてくれ、とジフンは思わず声を荒げてしまいます。
声を荒げたジフンにスジンは驚きます。
日常生活を送りつつも、なかなか記憶が戻らないスジンは、ある日道端で一人で歩いていると知り合いに声をかけられます。
最初は「痩せたのね、気づかなかった」と言って乗り切ろうとしたスジンでしたが、とうとう事故により記憶喪失になったことを告げます。その知り合いは、スジンが働いていた絵画教室の同僚だと言います。
スジンは、絵画教室に向かい、自分の席や荷物を見せてもらっても何も思い出せません。机にあったジフンの名刺を見て、ジフンの会社に向かうと、そこはも抜けの殻で通りがかった男性に社長が雲隠れして事務所は差し押さえになったことを聞きます。
衝撃の事実に困惑するスジンはジフンに絵画教室に行ったことを告げます。些細なことを教えてくれるのにどうして絵画教室の話はしなかったのと聞くとジフンは、事故の後遺症で絵が描けなくなったことを知ったらショックを受けると思って言い出せなかったと言います。
後日、同僚から郵送された私物を見ていたスジンは、写真を見つけます。その写真にスジンと写っていたのはジフンではありませんでした。身に覚えのない男性の写真をみてスジンは動揺します。
荷物を持ち、エレベーターに乗ると同乗してきた男性の幻覚を見てしまいます。高校生の娘の首を絞めている姿を見たスジンはその男にあの子に手を出さないでと勇気を振り絞って伝えます。
すると男は怒り、スジンの首を絞めます。エレベーターで格闘しているとスジンを探しにきたジフンが駆けつけます。スジンが訴えてもジフンは幻覚だと聞き入れません。
その夜、眠れずにいたスジンはジフンの姿がないことに気づき、嫌な予感がして部屋を抜け出し男のいる部屋に向かいます。すると中から争っているような物音と女の子の悲鳴が聞こえます。
扉に近づく足音が聞こえスジンは慌てて身を隠します。すると部屋から大きなスーツケースを引っ張る男の姿を目撃し、スジンは殺人事件があったと確信します。
ジフンにいい、殺人事件があった部屋に大家に鍵を開けてもらい入りますがそこは殺人事件があったような形跡はなく、何年も空き家で誰も住んでいないと言います。
ジフンはスジンに現実と幻覚の区別がついていないんだとカナダに行けば落ち着くからと言いますが、次第にスジンはそんなジフンに疑いを持ち始めます。
映画『君だけが知らない』の感想と評価
記憶喪失になった主人公が幻覚を見るようになり、次第に事件に巻き込まれていくサスペンス映画『君だけが知らない』。
誰もが信じられない主人公同様、観客も次に何が起こるのかと引き込まれていきます。
主人公同様夫が怪しいのではないかというミスリードに誘導していく中で明らかになるその正体、そしてスジンが見ていた幻覚の真実に衝撃を受けます。
韓国のサスペンス映画はイヤミスの印象も強いかもしれませんがその期待をいい意味で裏切ってくるのです。
明らかになっていく兄の深い愛と暴力によって人生を奪われ続けるスジンの悲しさは、女性監督という立場や昨今のフェミニズムに対する韓国映画の視点もうかがえます。
真実がわかったことで見えてくる兄の言動やスジンとの繋がりがさらに涙を誘います。
その一つが家に飾られている結婚写真です。カメラから見て右が新婦、左が新郎ですが事故後の部屋に飾られている写真はそれが逆になっていました。
警察がその写真を見て疑問に思う場面がありますが、それこそが兄が夫ジフンではないという証拠でもあります。
エンドロールで結婚式の場面が写り、涙ぐむ兄の姿が写されます。寂しいのに結婚させるの?と笑うスジンの姿もあります。
結末を知っているからこそ様々な思いが込み上げるエンドロールが観客の涙を誘います。
まとめ
ソ・ユミン監督の長編デビュー作となった映画『君だけが知らない』は、スジンを演じるソ・イェジと、兄役を演じたキム・ガンウの演技にも注目です。
ソ・イェジは、ドラマ「サイコだけど大丈夫」で愛を知らない氷のような美女を演じ一躍話題になりました。
そんなソ・イェジが、記憶喪失によりどこか不安げで恐怖を感じながらも、自分が見た幻覚は何なのか解明しようとする芯の強さと感じさせるスジンを演じます。
そんなスジンですが、養父や夫からDVを受けていました。
自分のせいだと言うスジンにスジンのせいではないと言い、守り続けたのがキム・ガンウ演じる兄でした。
子供の頃は妹ができたという嬉しさから兄として守らなくてはいけないと思う気持ちが、父による暴行を知ったことで変化したのかもしれません。
スジンにとっては養父ですが、兄にとっては実の父です。
その父がスジンに暴行していたことを知り彼女を守らなくてはいけない使命感と彼女を苦しませていることに罪悪感を感じたのかもしれません。
他者によって幸せを奪われているスジンに何としても幸せになってほしいという思いが兄を突き動かします。
兄の本当の思いを知ったとき、前半のサスペンスの印象がガラリと変わる面白さは新たな韓国サスペンスの傑作と言えるでしょう。