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Entry 2022/10/08
Update

『たまねこ、たまびと』あらすじ感想と評価解説。多摩川の河川敷で“棄て猫と保護活動する人”の日常を活写|映画という星空を知るひとよ119

  • Writer :
  • 星野しげみ

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第119回

東京都と神奈川県の間を流れる多摩川。この川に遺棄された猫と彼らを見守る人々の姿を追ったドキュメンタリー『たまねこ、たまびと』。

多摩川の猫たちをカメラに収めながら救護活動を続ける写真家の小西修さんの姿を、村上浩康監督が追いました。

遺棄された猫のほとんどは餓えや病気、台風で命を落としてしまうのですが、なかには幸運にも生き延びる猫たちもいるのですが……。

多摩川の河川敷に展開する命の駆け引きを鮮明に描き出した映画『たまねこ、たまびと』は、2022年11月5日(土)ポレポレ東中野にて公開されます。

映画公開に先駆けて、映画『たまねこ、たまびと』をご紹介します。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

映画『たまねこ、たまびと』の作品情報


(C)EIGA no MURA

【公開】
2022年(日本映画)

【製作・監督・編集・撮影】
村上浩康

【出演】
小西修、小西美智子

【作品概要】
『たまねこ、たまびと』は、多摩川で遺棄された猫たちを巡る“いのちのドキュメンタリ―”。

多摩川に棄てられた猫を救って見守り続けているホームレスや近隣の人々の姿を、写真家・小西修の活動を通して描いています。

多摩川河口干潟を舞台にした『東京干潟』(2019)『蟹の惑星』(2019)で、新藤兼人賞金賞や文化記録映画優秀賞などを受賞した村上浩康が監督を務めます。

映画『たまねこ、たまびと』のあらすじ


(C)EIGA no MURA

都市の中を流れる多摩川には、昔から多くの猫が遺棄されていました。これら猫のほとんどは餓えや病気、台風で命を落としてしまいます。

写真家の小西修さんは1990年代から多摩川の猫たちをカメラに収めながら、日々救護活動を続けています。

多摩川に捨てられた猫の多くを世話しているのは、河原で暮らすホームレスの人たちや、近隣に住むボランティアの人々。

小西さんは河原を巡りながら、こうした人々とも交流を持ち、支援や相談なども行っています。

小西さんの妻・美智子さんは、一方で近隣の公園や多摩川に捨てられた猫たちの救護を30年以上毎日続けていて、野外で暮らせなくなった猫を自宅に引き取り世話もしています。

捨てられた猫たちは、人間によって虐待を受け、命を落とすことも。

多摩川では撲殺や毒殺、飼い犬に襲わせて噛み殺させるなど、残虐な行為も繰り返されていますが、猫を守るべく多くの人たちが日々活動を続けています。

いのちを棄て、虐げる人間がいる一方で、いのちを大切に守る人々の存在。

小西夫妻は人と生き物の関係といのちの尊さを静かに問いかけます。

映画『たまねこ、たまびと』の感想と評価


(C)EIGA no MURA

‟棄てる”もひとつの犯罪

『たまねこ、たまびと』のポスターモデルは、片目と片耳が傷ついた一匹の猫。多摩川の河川敷でホームレスの保護のもと、暮らしています。

昔から棄て猫・捨て犬が多かったと言われる、多摩川の河川敷。

棄て犬よりも棄て猫の数が多く、遺棄された猫たちは餓死したり台風などで命を落とし、また生きながらえたとしても、心無い者たちによって虐待にあって、怪我を負ったりしています。

何の罪もない猫たちのこの惨事を哀しみ、猫の保護や救護活動に乗り出したのは、ホームレスと近隣の人々でした。

猫を棄てるのは人間……。しかも親が子どもに指図して猫を捨てさせるケースも多いと言います。

実際に手を出さない親よりも、実行犯となる子どもは「ミャーミャー」鳴く小さな生き物を棄てることに心が痛むのではないでしょうか。

人間からみれば猫は小動物にすぎませんが、命は命。人間は生物界の支配者ではありません。子どもにそんな行為をさせる親にも怒りが湧いてきます。

もちろんそこには、ペットとして猫を飼えなくなった事情もあるのでしょうが、動物は物ではありませんから、‟棄てる”という行為よりも譲渡やしかるべきところに相談をするべきです。

‟遺棄”を重大なことと意識しないこともひとつの犯罪と思えます。

‟守る”人々を追う


(C)EIGA no MURA

そんな棄てられた猫たちをまっさきに保護したのは、河川敷で暮らすホームレスたちでした。

自分たちの生活さえままならないのに棄て猫たちの世話をするホームレスを、猫たちを見守る小西さんは支援します。

実は、河川敷で暮らす猫たちの敵は自然災害や飢え、病気だけではありませんでした。

人間から棒で叩かれ、また飼い主からけしかけられた犬によって噛まれ、体のあちこちに傷を負う猫たち。

心無い者によって静かに暮らしている猫たちが虐待される出来事はあとを絶ちません。

人間が持っている弱いものをいじめたくなる心理が、ここでも働くのでしょうか。

言葉を話せない猫たちのこの惨状に、ついにホームレスと近隣の住民が立ち上がりました。

現状を追うカメラは、傷ついた猫たちのありのままの姿を捉え、無残なシーンに胸が塞がります

ですが、カメラは、人恋しい猫たちと癒しを求めるホームレスの姿も映します。そこには、人間と猫の温かな確かな絆が築かれていました。

ポスターのキャッチコピー「棄てたのは人間、守るのも人間」が持つ意味が理解できることでしょう。

まとめ


(C)EIGA no MURA

多摩川に遺棄された猫と彼らを見守る人々の姿を追ったドキュメンタリー『たまねこ、たまびと』をご紹介しました。

遺棄され餓死や病気などで衰弱した猫たちを救護するホームレスの活動は、初めて知るものでした。

また、いじめられ傷付けられても優しい人にはなつく猫の愛らしさと仕草に、猫好きは思わず微笑んでしまうことでしょう。

多摩川に限らず、全国には遺棄される猫や犬たちも多い数にのぼっています。

役所やボランティア団体の働きばかりでなく、住民一人ひとりが猫や犬の遺棄問題について、できることはないか考えてみる必要はありそうです。

また、この映画で語られる命への賛美を大切にしたいものです。

映画『たまねこ、たまびと』は、2022年11月5日(土)ポレポレ東中野にて公開されます。

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星野しげみプロフィール

滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。

時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。






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