Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

インタビュー特集

Entry 2022/07/21
Update

【福本莉子インタビュー】映画『今夜、世界からこの恋が消えても』道枝駿佑が頑張る姿に自らも奮起

  • Writer :
  • ほりきみき

映画『今夜、世界からこの恋が消えても』は7月29日(金)より全国東宝系にてロードショー!

眠りにつくとその日の記憶を失ってしまう「前向性健忘」を患うヒロイン・日野真織と、そんな彼女を献身的に支えるも、自らも大きな秘密を隠し持っている主人公・神谷透。

一条岬の人気小説を原作に、アイドルグループ「なにわ男子」の道枝駿佑と『思い、思われ、ふり、ふられ』の福本莉子がW主演を務めた映画『今夜、世界からこの恋が消えても』は、真織と透の儚くも切ない愛の物語です。


photo by 田中舘裕介

このたびの劇場公開を記念して、真織役を演じられた福本莉子さんにインタビューを敢行。

真織から感じとった「強さ」や役の難しさ、ご自身の忘れられない思い出とこれからの「未来」について語っていただけました。

真織から感じとった「生きる強さ」


(C)2022「今夜、世界からこの恋が消えても」製作委員会

──はじめに、本作へのご出演が決まった際のお気持ちを改めてお聞かせください。

福本莉子(以下、福本):真織役を演じさせていただくにあたって、まず原作小説を読みました。出てくる人に、誰も悪い人はいない。ものすごく切なくて、新幹線の中で読んでいたにも関わらず号泣してしまいました。

その後も役作りのために何度か読み直したのですが、結末がわかっていてもその度に涙が流れるほど素晴らしい作品でした。だからこそプレッシャーも感じ「がんばらなくては」という気持ちになりました。


photo by 田中舘裕介

私が演じる真織は、「一日で記憶を失ってしまう」という難しい役どころです。また「前向性健忘を患うヒロイン」と聞くとか弱いイメージを持たれる方が多いかもしれませんが、実際の彼女はとてもタフです。

記憶障害のことを知っているのは、両親のほかは担任の先生と泉ちゃんだけ。真織は常に持ち歩いている手帳に「今日の何時に、誰々から何々について話しかけられた」と事細かにすべてを記録し、それを毎夜日記に書く。そして翌朝、早起きして日記を読み返し、書かれていたことをすべて頭に入れてから登校する。彼女は生きていく上で本当に努力していて、それは根気がないと到底できません。

そうした制約がある中で透くんから告白されるんですが、真織はそれを受け入れます。新しい世界に飛び込んでいこうとするチャレンジ精神もカッコよくて、真織は強いと思いました。

「真織自身もまた“演技”をしている」と気づかされる


(C)2022「今夜、世界からこの恋が消えても」製作委員会

──真織を演じられるにあたって、どのように役作りを進められていったのでしょうか。

福本:真織にとって透くんは、毎回「初めまして」という感覚で会う相手です。クランクイン初日は透くんとのデートシーンの撮影でしたが、初めて透くんとしての道枝さんに会う日でもあったので、その時に感じたものはある意味、真織を演じてゆく上でのベースになると考えました。

その後も「心をリセットする」という部分を意識して演じていきましたが、撮影が進むとやはり現場に慣れてきて、キャストのみなさんや、それぞれが演じられている登場人物たちの人となりもわかってきます。その中でどうしても、自分自身と真織とのギャップを埋めるのが少しずつ難しくなっていきました。

そこで真織と同じように、私自身も真織になっている時に考えたこと・感じたことを日記に書き残し、役作りに取り入れていました。


photo by 田中舘裕介

福本:また映画の序盤、透くんはとある事情から真織に嘘の告白をします。真織はそれを受け入れた上で、告白の翌日に付き合う条件を3つ言うのですが、その条件が「お互い絶対に本気で好きにならないこと」という内容なんです。

真織が前向性健忘を患っていると知らなかったら、多くの方が訝しく思ってしまう条件ですよね。またその条件を伝える場面でも、男の子慣れし過ぎた風に演じるのも違うし、かといってその逆の方向性で演じるのも違うように感じられました。演じる上でのいい塩梅を探るのには本当に悩みました。

真織は家族や泉ちゃんを心配させないように、つらい気持ちを隠し、あえて明るく振舞っています。突き抜けた明るさではないけれど、周りの人を悲しくさせないような真織の笑顔が、劇中ではたびたび出てきます。その笑顔の表現はもちろん、「真織自身もまた“演技”をしている」と思うと私までつらくなってしまい、それを隠すことはとても難しかったです。

いつもより「大人」に見えた道枝駿佑


(C)2022「今夜、世界からこの恋が消えても」製作委員会

──真織を献身的に支えながらも、自身も秘密を抱えている主人公・神谷透役を道枝駿佑さんが演じられました。福本さんは以前、ドラマ作品で道枝さんとご共演されたことがありましたが、本作での共演はいかがでしたか。

福本:原作小説を読ませていただいた際にも、道枝さんご自身の優しさと誠実さが透そのものだと感じられました。道枝さんはみなさんに分け隔てなく優しく、スタッフさんが出入りする時などにも、最後まで扉を開けられていました。

小説での透くんは「すらっとしていて、優しくて擦れていない」という風に描かれていましたが、まさにその通り。お話をしていても「心が澄んでいる方なんだな」と感じられます。また本作でのお芝居では普段よりも声を低くされていて、元々落ち着いた方である道枝さんがより落ち着いた雰囲気を纏っていて「大人」に見えました。

撮影現場では道枝さんと2人の場面が多かったので、道枝さんのがんばっている姿を見て「私もがんばらなくては」と励まされることが多かったです。

忘れられない、忘れたくない思い出


photo by 田中舘裕介

──福本さんご自身の、忘れたくない思い出はありますか。

福本:私は「東宝シンデレラ」オーディションでこの世界に入ったのですが、グランプリを受賞した翌日に生放送の「めざましテレビ」に出るために学校を休みました。当時は大阪の女子校に通っていたので、放送後に登校するのは無理だったんです。

次の日に学校へ行ったら、黒板に「莉子、おめでとう!」と書いてあり、アルバムまで作ってくれていて、まるで送別会のような雰囲気でした。学校の友だちにはオーディションを受けたことを話していなかったので、みんなは私がグランプリを受賞したことをニュースで初めて知り、そこからいろんな妄想を膨らませていくうちに「グランプリを受賞したらすぐに上京しなくちゃいけないから、学校をやめるのかもしれない」と誤解してしまったみたいです。

みんなが寂しさを感じながらも、受賞を喜んでくれたのはとてもうれしかったのですが、「勝手にやめさせないでよ~」と言った覚えがあります(笑)。その学校には最後まで通い卒業したんですが、今でも忘れられない思い出です。

人生の捉え方が丁寧になった


(C)2022「今夜、世界からこの恋が消えても」製作委員会

──真織という女性を演じられる中で、ご自身が気づかれたこと、学ばれたことはありますか。

福本:私たちは記憶を残し続ける力には限度があり、すべてを細かく覚え続けることはできません。だからこそ、写真や日記を通して一瞬一瞬を逃さないようにしている真織は、ある意味では多くの人よりも丁寧に生きているのではと、彼女を演じることで気がつきました。何気ない日常が、実は一番楽しい。そうした人生の捉え方が丁寧になってきたと思います。

私は心が折れそうになった時、いつも自己解決をしちゃうタイプです。うまくいかないのは自分に問題があるからですし、結局は自分でやるしかない。落ち込む時も、立ち直る時も一人です。ただ、一人でそうできるのも、周りにそれを見守ってくれる人たちがいるからこそだと感じています。

そもそも私の仕事は、周りの人の支えがなければできません。また私には、何かあったらいつでも相談に乗ってくれる友だちもいます。それは当たり前じゃないんだと、周りの人に支えられながらも懸命に生きている真織を演じて、改めて感じることができました。


photo by 田中舘裕介

──最後に、福本さんが思うご自身の「未来」についてお聞かせください。

福本:「東宝シンデレラ」オーディションでグランプリを獲ったものの、その当時は全然自信がありませんでした。けれども、いろいろな役を演じさせていただき、最初はできなかったことがだんだんとできるようになっていく中で、ようやく女優の仕事が心から楽しくなってきました。

20代前半の今は、できる限り多くの映画とドラマに出演したいという目標があります。また舞台作品にも、少なくとも年に1回は立てるようにしたい。プライベートでも、健康に気遣って運動もしたい。チャレンジしたいことだらけなので、これからもこの世界でがんばっていきたいです。

インタビュー/ほりきみき
撮影/田中舘裕介
ヘアメイク/伏屋陽子(Yoko Fuseya:「ESPER」)
スタイリスト/道端亜未(Ami Michihata)

福本莉子プロフィール


photo by 田中舘裕介

2000年11月25日生まれ、大阪府出身。

沢口靖子、長澤まさみ、上白石萌歌らを輩出した第8回「東宝シンデレラ」オーディションにてグンプリと集英社賞(セブンティー賞)を受賞し、『のみとり侍』(2018)で映画デビューを果たす。その後はドラマや舞台など幅広く活動。

その他の出演作に、『思い、思われ、ふり、ふられ』(2020)、『しあわせのマスカット』(2021)、『君が落とした青空』(2022)、『20歳のソウル』(2022)などがある。

映画『今夜、世界からこの恋が消えても』の作品情報

【公開】
2022年(日本映画)

【原作】
一条岬『今夜、世界からこの恋が消えても』(メディアワークス文庫/KADOKAWA刊)

【監督】
三木孝浩

【脚本】
月川翔、松本花奈

【キャスト】
道枝駿佑(なにわ男子)、福本莉子、古川琴音、前田航基、西垣匠、松本穂香、野間口徹、野波麻帆、水野真紀、萩原聖人

【作品概要】
原作は一条岬の同名恋愛小説。第26回電撃小説大賞でメディアワークス文庫賞を受賞し、日本、韓国、中国書籍の合計発行部数が50万部を突破(2022年7月時点)。国境を超えて異例の大ヒットを記録している。

福本莉子が眠りにつくとその日の記憶を失ってしまう「前向性健忘」を患ったヒロイン・日野真織を演じ、そんな彼女を献身的に支えるも、自らも大きな秘密を隠し持っている主人公・神谷透を道枝駿佑が演じた。

監督は『僕等がいた 前篇・後篇』(2012)、『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』(2016)など数々の恋愛映画を手がけてきた名手・三木孝浩。脚本を『君は月夜に光り輝く』(2019)の月川翔と『明け方の若者たち』(2021)の松本花奈が共作し、映画音楽には『糸』(2020)で第44回日本アカデミー賞・優秀音楽賞にノミネートされた亀田誠治を迎えた。

映画『今夜、世界からこの恋が消えても』のあらすじ

神谷透はクラスメイトに流されるまま、日野真織に嘘の告白をする。断られるとばかり思っていたが、彼女は「お互い絶対に本気で好きにならないこと」を条件にその告白を受け入れた。

そうして始まった偽りの恋が偽りとは言えなくなったころ、透は真織が前向性健忘症で、夜眠るとその日にあったこと、全て忘れてしまうことを知る。真織はその日の出来事を全部日記に記録して、翌朝、目覚めたときに復習することで何とか記憶をつなぎとめていたのだ。

その日ごとに記憶を失ってしまい、明日が来ることを恐れながら生きる彼女と、一日限りの恋を積み重ねていく日々。しかし透には真織に伝えていないことがあった。真織の幸せを守るために、透は「ある作戦」を立てた。

堀木三紀プロフィール

日本映画ペンクラブ会員。2016年より映画テレビ技術協会発行の月刊誌「映画テレビ技術」にて監督インタビューの担当となり、以降映画の世界に足を踏み入れる。

これまでにインタビューした監督は三池崇史、是枝裕和、白石和彌、篠原哲雄、本広克行など100人を超える。海外の作品に関してもジョン・ウー、ミカ・カウリスマキ、アグニェシュカ・ホランドなど多数。




関連記事

インタビュー特集

【リム・カーワイ監督インタビュー】映画『カム・アンド・ゴー』大阪を舞台にアジア各国の精一杯生きようとする人々を描く

第16回大阪アジアン映画祭・特別招待作品『カム・アンド・ゴー』は2021年秋劇場公開予定! 映画『カム・アンド・ゴー』は、リム・カーワイ監督による大阪を舞台にアジア各国と日本の関係を描く《大阪三部作》 …

インタビュー特集

【平田満インタビュー】映画『五億円のじんせい』名バイプレイヤーが語る「嘘と役者」についての事柄

映画『五億円のじんせい』は2019年7月20日(土)よりユーロスペースほかにて全国順次ロードショー! オリジナル企画、出演者、ミュージシャンをオーディションで選出しながら作品を完成させるという挑戦的な …

インタビュー特集

【イシザキマサタカ インタビュー】映画『GREEN GRASS生まれかわる命』俳優として人間として“魂が喜ぶ”芝居×監督との“説明し難い”出会い

映画『GREEN GRASS 生まれかわる命』は2023年9月22日(金)より池袋HUMAXシネマズ他で全国順次公開中! 日本・チリ修好120周年記念事業として製作が開始され《映画界史上初》の日本・チ …

インタビュー特集

【中村有インタビュー】『ピストルライターの撃ち方』映画という“完成せず成長を続けるもの”ד自分を捨てた人間”にとっての帰る場所

映画『ピストルライターの撃ち方』は渋谷ユーロスペースで封切り後、2023年11月25日(土)〜富山・ほとり座&金沢・シネモンドにて、12月2日(土)〜広島・横川シネマにて、近日名古屋にて劇場公開! 2 …

インタビュー特集

【芋生悠×諏訪珠理インタビュー】映画『浮かぶ』で“かつての自分”を見つめた時に思い直す“今の自分”とは

映画『浮かぶ』は2023年2月3日(金)よりアップリンク吉祥寺にてレイトショー上映中! 天狗の神隠し伝説が残る地に暮らす姉妹の物語を通じて、映画をはじめ芸術において常に存在する「見る」「見られる」の関 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学