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Entry 2022/06/26
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『蜘蛛巣城』ネタバレあらすじ感想と結末の解説評価。マクベスの悲劇を黒澤明監督×三船敏郎による“ふたりの天才”が能の様式美で映画化!

  • Writer :
  • 谷川裕美子

黒澤明監督が描く和製『マクベス』の壮絶な世界!

七人の侍』(1954)の巨匠・黒澤明監督によるシェイクスピアの『マクベス』を日本の戦国時代に置き換えて描き出した戦国武将の一大悲劇。


(C)1957 TOHO CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED.

黒澤作品の常連俳優の三船敏郎のほか、山田五十鈴、志村喬、浪花千栄子ら名優が出演しています。

世界のシェイクスピアファン、研究家をもうならせた傑作の魅力についてご紹介します。

映画『蜘蛛巣城』の作品情報

【公開】
1957年(日本映画)

【原作】
ウィリアム・シェイクスピア

【脚本】
黒澤明、橋本忍

【監督】
黒澤明

【出演】
三船敏郎、久保明、千秋実、小池朝雄、志村喬、山田五十鈴、木村功、浪花千栄子

【作品概要】
世界的巨匠・黒澤明監督が描き出すシェイクスピア劇『マクベス』を原作とした人間悲劇。脚本は小国英雄、橋本忍、菊島隆三、黒澤明が共作しています。

成り上がりの武将が欲に振り回されて変わっていく姿が描かれます。ラスト主人公に無数の矢が放たれる壮絶シーンは必見です。

主演は『羅生門』(1950)『用心棒』(1961)など黒澤作品の常連・三船敏郎。『猫と庄造と二人のをんな』(1956)の山田五十鈴、『祇園囃子』(1953)の浪花千栄子、『嵐』(1956)の久保明、『ならず者』(1956)の志村喬らが共演。

映画『蜘蛛巣城』のあらすじとネタバレ


(C)1957 TOHO CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED.

戦国時代。蜘蛛巣城の城内では城主・都築国春、軍師・小田倉則保らが北の館の藤巻の謀叛に遭い、籠城の覚悟を決めていました。

そこに使者が駆け込んできて、一の砦の鷲津武時と二の砦の三木義明が敵を破ったことを伝えます。

危機を救い、主君に呼ばれて蜘蛛巣城に帰ろうとした武時と義明。蜘蛛手の森に入ったところ雷鳴に襲われ、道に迷ってしまいます。小屋にたどり着いたふたりは、糸を紡ぐ老婆と出会いました。

武時は北の館の主になった後やがては蜘蛛巣城の城主になり、義明は一の砦の大将になり、また義明の子はやがて蜘蛛巣城の城主になると老婆は不思議な予言をして消え失せました。

その夜、予言通りに武時は北の館の主に、義明は一の砦の大将に任ぜられます。

予言を聞いた武時の冷酷な妻・浅茅は、義明が予言を主君の国春に洩らしてしまう前に、国春を殺して城主になれと夫を唆かします。

そんな折、国春が謀反の黒幕、隣国の乾を討つために北の館へやって来ます。

夜、浅茅は見張りの兵士たちを痺れ薬入りの酒で眠らせ、武時はっている国春を自らの手で殺しました。

浅茅は、国春を殺した剣を臣下の手に握らせ、主君殺しがあったと叫びます。

濡れ衣をかけられた小田倉則安は国春の嫡男・国丸を擁して蜘蛛巣城にたどり着きますが、蜘蛛巣城の留守をあずかっていた義明が矢を射ってきたため逃亡しました。

国春の遺体とともに蜘蛛巣城に戻った武時は、城主となります。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには映画『蜘蛛巣城』ネタバレ・結末の記載がございます。映画『蜘蛛巣城』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


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子のいない武時は、予言に従って義明の子の義照を世継ぎにしようと考えます。しかし野心を抱く浅茅は反対し、更に懐妊を告げて再び唆かしました。武時はまたも心変わりします。

義明親子が姿を見せないまま養子縁組の宴が始まり、武時は死装束に身を包んだ義明の幻を見て錯乱し、刀を振り回します。浅茅はその場を取り繕って客を引き上げさせました。

その後ひとりの武者が義明の首を持って現れ、義照は取り逃がしたと報告します。

嵐の夜、浅茅は死産し、自らも重態に陥ります。武時が悲しむのもつかの間、国丸、則安、義照を擁した乾の軍勢が攻め込んできたという知らせが入りました。

策を持たない家臣たちに腹を立てた武時は、森の老婆に予言をもらうためにひとり蜘蛛手の森へと向かいます。

現れた老婆は、蜘蛛手の森が城に寄せて来ない限り、武時は戦に敗れることはないと予言しました。

蜘蛛巣城を敵に包囲されて動揺する将兵たちに、武時は老婆の予言を聞かせて士気を高めます。しかし、夜には野鳥の群れが城に飛び込み不吉を感じさせます。

その翌日、浅茅は発狂。手に着いた血が取れないと言いながら洗い続けます。

蜘蛛手の森が押し寄せてくるのを見てパニックに陥った兵士たち。恐怖におののきながらも武時は彼らに持ち場に戻れと怒鳴りますが、武時をめがけて無数の矢が放たれます。

必死で逃げ惑う武時でしたが、やがて何本もの矢に射抜かれて力尽きました。

森が動いて見えたのは、敵軍が木の枝で身を隠しながら進軍してきていたためでした。

映画『蜘蛛巣城』の感想と評価


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能の様式美を取り入れた正統派シェイクスピア劇

一度はシェイクスピアをやってみたいという黒澤監督の希望から生み出された『蜘蛛巣城』。原作の精神を受け継ぎながら、構成、人物の表情や動き、撮影方法に能の様式美を取り入れた、日本ならではの魅力を織り込んだ傑作映画です。

海外のシェイクスピア研究家からも高く評価され、シェイクスピア劇の最高の映画化のひとつとして知られています

「世界のミフネ」演じる主人公の鷲津武時が、原作のマクベスに当たります。武功を立てた彼は森の老婆の予言通りの出世を果たしていきます。

野心家の妻・浅茅にたきつけられて、蜘蛛巣城の城主である主君、そして親友の三木義明の命を奪ってさらにのし上がりますが、欲望の果てに狂気のなかで滅んでいきます。

武時を演じる三船敏夫の生命力あふれる表情から目が離せません。壮絶なラストシーンは圧巻です。実際に三船に向けて無数の本物の矢が射られたというクライマックスの臨場感は素晴らしく、三船はあまりの怖さに震えながら逃げ回ったといいます。

あまりにも危険なシーンだったことに腹が立った三船が、酔って散弾銃をもって黒澤監督の自宅に押しかけたという後日談もあるそうです。

三船と並んで観る者の目をくぎ付けにするのが冷酷な妻・浅茅を演じた山田五十鈴の演技です。能面のような表情、すり足や片ひざを立てて座るなどの能の動きが、幻想的な雰囲気を醸し出しています。

死産の後に発狂して、血がついている幻影を見て手を洗い続ける表情は鬼気迫る素晴らしさで、能面のような顔つきの中にたとえようもない深い恐怖と悲しみが映し出されています。黒澤監督は、「このカットほど満足したカットはない」と言って感嘆したそうです。

死産によって狂気に陥るというのは本作オリジナルの設定となっています。また、原作でマクベスの命を奪うマクダフは本作には登場せず、武時は部下たちの反逆によって命を落とします。

まとめ


(C)1957 TOHO CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED.

ウィリアム・シェイクスピア『マクベス』を原作とした、巨匠・黒澤明監督のキャリアの最高点ともいわれる名作『蜘蛛巣城』。

際限なく膨らみ続ける人間の欲の業の深さ、願いを叶えるためには鬼にも蛇にもなってしまう人間の恐ろしさ、そしてその罪の重さに耐えきれない人間のもろさが骨太に映し出されます

能の世界を取り入れた幻想的な空間、そして、大勢の無骨な武士たちが登場する唯一無二のシェイクスピア劇をどうぞじっくり堪能してください。





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