連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第96回
愛する人の帰還を待つ“軍人の妻”たちが合唱団を結成。全英で話題騒然となった実話から生まれた感動の物語『シング・ア・ソング!~笑顔を咲かす歌声~』。
時は2009年。アフガニスタンへ派兵中の夫やパートナーの帰りを待つ女性たちが、合唱団を結成します。人気テレビ番組でも特集された“軍人の妻”合唱団の実話を、『フル・モンティ』(1997)のピーター・カッタネオ監督が映画化しました。
合唱団結成に奔走する“妻”を演じるのは、アカデミー賞ノミネート女優のクリスティン・スコット・トーマス。
軍人の妻たちが見つけた自分を表現する場所と、大切な人を想う仲間たちとの絆がいつしか美しいハーモニーの歌声へと結びついて行きます。
感動のハートフル・ストーリー『シング・ア・ソング!~笑顔を咲かす歌声~』は、2022年5月20日(金)、ヒューマントラストシネマ渋谷・有楽町、グランドシネマサンシャイン池袋他全国順次公開!
CONTENTS
映画『シング・ア・ソング!~笑顔を咲かす歌声~』の作品情報
【日本公開】
2022年(イギリス映画)
【原題】
Military Wives
【監督】
ピーター・カッタネオ
【キャスト】
クリスティン・スコット・トーマス シャロン・ホーガン ジェイソン・フレミング グレッグ・ワイズ
【作品概要】
本作は、『フル・モンティ』(1997)のピーター・カッタネオ監督が、BBCの人気テレビ番組「The Choir」でも特集された“軍人の妻”合唱団の実話を基に描いたヒューマンドラマ。
主人公のケイトは『イングリッシュ・ペイシェント』(1997)、『パリに見出されたピアニスト』(2019)のクリスティン・スコット・トーマスが演じます。
1980年代を中心とする人気ポップソングの数々も登場。実際の合唱団メンバーの手紙から作られた楽曲が軍人の妻たちの心情を見事に表現しています。
映画『シング・ア・ソング!~笑顔を咲かす歌声~』のあらすじ
アフガニスタンの戦況悪化とイギリス軍からの増兵のニュースが流れる中、イギリス軍大佐の妻であるケイト(クリスティン・スコット・トーマス)は、努めて明るく生活を送っていました。
最近夫が昇進したリサ(シャロン・ホーガン)は、基地で夫やパートナーの帰りを待つ女性たちのための活動のまとめ役になりますが、今は思春期の娘のことで手一杯でやる気が起こりません。
そんなリサの様子に「私も手伝うわ」と口を出し始めるケイト。実は愛する一人息子を戦地で失った喪失感を紛らわせようとしていることに、周囲は気づいていました。
やがて、夫やパートナーを見送る朝がやってきました。一様に辛い別れの朝を乗り越え、次に待つのは耐えて待つ毎日のみ。
5度目の夫の見送りをしたケイトは、最近結婚し基地の仲間に加わったばかりで、「私はずっと緊張してる、電話や呼び鈴が鳴るたび…。みんなはなぜ平気なの?」と不安を吐露するサラを訪ね、さりげなく元気づけます。
やる気満々のケイトと引き気味のリサ。2人が中心となり女性たちの活動について意見を募る中、サラが提案した“合唱”に、多くの女性たちが笑顔を見せ始めます。
やり方も生活も真逆なケイトとリサの元に集まったのは、美しい声を隠そうとする内気なジェスや、音程を無視して大声で歌うルビーなど、てんでバラバラのメンバーたちでした。
しかし、衝突や失敗を乗り越えながらも心情を吐露するように共に歌い、自分を表現することを見つけていくにつれ、少しずつ心と歌声が一つになっていきました。
そんなある日、毎年大規模に行われる戦没者追悼イベントへの招待状が届きます。思いがけない大舞台に浮足立つ妻たちは街中での初舞台に挑むが、結果は悲惨なものに……。
自信をなくし落ち込みながらも、失敗を反省しカラオケで士気を高めた一行は、イベントでの成功を誓います。
軍は自分たちに謙虚なヒナゲシであることを望むとこぼすケイトに、リサは「私たち、ヒナゲシじゃなくヒマワリになってやろう」と笑顔を向けます。
しかし、恐れていた最悪の知らせは、突如として訪れました。イベントに向けて盛り上がりを見せていた合唱団は悲しみに沈み、イベントへの参加を辞退することになるのですが……。
映画『シング・ア・ソング!~笑顔を咲かす歌声~』の感想と評価
軍人の妻たちの役割
本作『シング・ア・ソング!~笑顔を咲かす歌声~』は、イギリス軍の軍人の妻たちが、合唱団を結成した実話の物語です。
合唱団を結成した女性たちの夫やパートナーは軍に所属する軍人たちです。
一般の人よりは、死と直面した緊張感漂う職に就いているため、いつ届くかもしれない訃報に脅えていなければなりません。
軍上層部からは、夫を陰でしっかりと支える存在であることを強いられますが、大人しくしているだけが夫たちに安心してもらえるとは限らないと、妻たちのリーダー的存在のケイトは動き出しました。
合唱団を結成し、愛しい人への気持ちを歌に託して、自分たちの思いを伝えだしたのです。軍の上層部は、軍人が出兵した後の残された家族の気持ちを癒すことができません。
夫たちのいない寂しさや不安を、軍人の妻らしさを保ち、自分たちなりに表現する方法を見出す軍人の妻たち。愛する人の死を恐れつつ、前向きに歌う姿は勇気に溢れるものです。
歌に託す真実の想い
「軍人の妻合唱団」が歌うのは、シンディ・ローパーの『タイム・アフター・タイム』や、ヤズーの『オンリー・ユー』など、80年代を中心とした有名ポップ・ソングの数々ですが、中でも注意をひくのは、戦地の夫やパートナーとの手紙から歌詞が作られたオリジナル曲『Thoughts From Abroad』。
時差を感じながらも同じ空を見つめたいという、切ない愛のフレーズに胸をうたれます。
寂しさも不安も乗り越えて、歌うことで妻たち同志の結束も生まれた合唱団の活動は、最初は2009年にキャタリック駐屯地に住む妻たちから始まりました。
本作が製作された頃には、英国と海外で2300人以上の軍に関係する女性たちが所属する、75個もの合唱団があるといいます。
転属や引っ越しも多い軍人とその家族。ただでさえ、世間一般から隔たれた生活環境なのに、基地内に住まいがあるというのも驚きです。
日本の自衛隊では、結婚すれば駐屯地の外にある官舎に住めます。
“営外者”として駐屯地の外で生活できるのですが、駐屯地に近い官舎ですと、起床ラッパや消灯ラッパなど生活の区切りをを示すラッパの音は聞こえてきます。
駐屯地の外に住んでいても常に職場にいるような感じを受けますから、同じ敷地内に住むというのは、職場にいるのと変わりはないでしょう。
まさに閉ざされた特異な環境です。そして同じ境遇の軍人の妻たちでも、サラリーマンの妻同様、夫の階級による格差もなきにしもあらず、です。
このように狭い環境での限られた交友関係で、軍人の妻たちのストレスは倍増していきます。
ですから、夫が出兵した後、歌うことで自分の本当の気持ちを表していたと言っても過言ではないのです。
日々の不満や不安、心配や悲しみといった軍人の妻の本音を託した歌声。
妻たちの真実の声が歌に籠っているからこそ、人々の感動を呼ぶと言えます。
まとめ
『フル・モンティ』(1997)のピーター・カッタネオ監督最新作『シング・ア・ソング!~笑顔を咲かす歌声~』。
愛する人の帰還を待つ“軍人の妻”たちが合唱団を結成し、歌声を披露。彼女たちの歌には遠く離れた戦地で任務に就く愛する人を思う気持が込められ、人々の感動を呼びます。
全英で話題騒然の実話から生まれた感動の物語が映画化されました。
むろん、軍人の妻たち合唱団の活動が最初からスムーズだったわけではありません。
メンバー同士の葛藤や世間の評判、そしていつ届くかもしれない訃報の恐怖など、あらゆる障害を乗り越えて、大輪の花のような笑顔を咲かすメンバーたち。
夫や息子を思うメンバーたちの優しい愛が歌のフレーズに満ち溢れ、聞き入る人たちの心を揺さぶります。
『シング・ア・ソング!~笑顔を咲かす歌声~』は、2022年5月20日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷・有楽町・グランドシネマサンシャイン池袋他全国順次公開!。
星野しげみプロフィール
滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。
時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。