映画『FLEE フリー』は2022年6月10日(金)新宿バルト9、グランドシネマサンシャイン池袋他全国ロードショー
アカデミー賞で史上初めて国際長編映画賞、長編ドキュメンタリー賞、長編アニメーション賞の3部門ノミネートを果たしたドキュメンタリー作品『FLEE フリー』が2022年6月10日(金)新宿バルト9、グランドシネマサンシャイン池袋他全国公開されます。
20年の時を経て祖国アフガニスタンから脱出したことを告白する青年アミンをアニメーションで映し出す名作です。
迫害から逃れるためにロシアを離れたユダヤ系移民であるヨナス・ポヘール・ラスムセン監督が、主人公をはじめ、周辺の人々の安全を守るために、アニメーションで制作しました。
祖国から決死の脱出をしなければならなかった青年の真実に迫ります。
映画『FLEE フリー』の作品情報
【公開】
2022年(デンマーク・スウェーデン・ノルウェー・フランス映画)
【脚本】
ヨナス・ポヘール・ラスムセン、アミン・ナワビ
【監督】
ヨナス・ポヘール・ラスムセン
【編集】
ヤヌス・ビレスコフ・ヤンセン
【作品概要】
迫害を逃れてロシアを後にしたユダヤ系移民ヨナス・ポヘール・ラスムセン監督作。主人公たちの安全を守るために、アニメーションで制作されました。
アカデミー賞で国際長編映画賞、長編ドキュメンタリー賞、長編アニメーション賞の3部門ノミネートを史上初めて果たしたほか、サンダンス映画祭グランプリ、アヌシー国際アニメーション映画祭3冠受賞など数々の国際映画祭で高い評価を得た名作です。
主人公のアミンはデンマークへと亡命して研究者として成功を収め、恋人の男性と結婚を果たそうとしますが、彼には祖国アフガニスタンからの脱出という過酷な過去がありました。
20年間以上も抱えてきた過酷な半生が、親友である映画監督に静かに語られます。
紛争、難民、人種差別、LGBTQ+など現代社会を覆う数々のテーマが内包され、現代に生きる人々の心に深く語り掛けてくる作品です。
映画『FLEE フリー』のあらすじ
故郷とは安全な地。そこにいることができて、よそへ行かずにすむ一時的ではない場所。
コペンハーゲン。アミンは親友の映画監督に自身の物語を語り始めます。20年以上を経て、初めて自分の物語を話すことになったアミンは古い記憶を呼び戻します。
1984年。アフガニスタン、カブール。幼い頃のアミンは平気で姉の服を着る少し変わった子でした。夜に母の膝に顔をうずめなでてもらうのが好きな少年で、兄や姉と穏やかに暮らしていました。
今でも言葉にするのがとてもつらいと言いながら、アミンは過去から逃げたくありませんでした。
アミンはデンマークに到着してから書き留めた手帳を取り出しましたが、彼はもうダリー語を読めなくなっていました。
アミンにはキャスパーという男性の恋人がいますが、アメリカのプリンストン大博士研究員の職への誘いがあったことをまだ彼に話せずにいます。
撮影が再開され、アミンは幼少期に父がタリバンに連れ去られ、戻って来なかったことを話します。
5、6才からアミンは自分がゲイと気づいていました。しかしアフガニスタンにゲイは存在せず、家族にとっても恥になるので認めにくいものでした。
兵役義務のあった10代の兄や若者たちはみな警察から逃げまわっていました。
首都はより危険な地になっていき、一家は間一髪で避難。アミンは泣き続けながら飛行機でモスクワに到着します。
ロシアだけが観光ビザを発行していましたが、人々は飢え、商品はなく、犯罪が多発する中で警察も信用できませんでした。
1980年代に国を出てスウェーデンに住んでいた長兄がモスクワに迎えにきていました。しかし、家族がスウェーデンにいくためには大金が必要でした。
金が足りないために、まず最初に送り出されたのは姉2人でした。しかし、大勢の人たちとコンテナに入れられた姉たちは空気がなくなり死にかけてしまいます。今も姉たちが存命していること、そして兄もスウェーデンに暮らしていることをアミンは語ります。
大学に入ってからようやく心開けるようになったアミンでしたが、当時の彼氏に少し話したところ、大ゲンカした時に脅されて恐ろしい思いをしたトラウマがありました。
やがてアミンたちもモスクワを脱出することとなります。耐えがたい寒さや恐怖の中、ようやくスウェーデン行の船に乗り込みましたが、途中で豪雨となって船に海水が浸水し始め…。
映画『FLEE フリー』の感想と評価
戦乱に巻き込まれた人々の厳しい現実
本作では、タリバンによって故郷アフガニスタンを離れ、ひとりデンマークまでたどり着いた主人公・アミンの過酷な半生が描かれます。
長い時を経た現在でも安全が保障できないためにアニメーションで表現したということからも、その境遇の厳しさが伝わってきます。
幼いアミンがどれほどの恐怖、苦しみをくぐり抜けて生きてきたのかを思うと、胸が引き絞られるような思いです。
父が消息不明となったことをはじめ、ロシアのモスクワへの逃避行、そこで受けた虐待、スウェーデン行の船が豪雨で動けなくなっての強制送還、モスクワでの悲惨な監禁生活、そしてたったひとりでのデンマーク行まで、アミンはさまざまな苦難を強いられます。
やっと安全を手に入れたデンマークでの生活でしたが、生きていくためには「家族はいない」と嘘をつき続けねばなりませんでした。
いつも嘘のほころびが出ないよう気を配るアミン。またこれまでの苦しい経験から、周囲を信用することができず警戒心を解くことができません。生き残った彼にはこれまでとはまた別の苦難が待っていたのでした。
苦しみの中にいた彼の大きな支えは家族の存在でした。しかし、同性愛を許さないアフガニスタン文化にある家族に対しても、自分がゲイであるという大きな秘密を抱えてアミンは苦悩します。
そんな彼の気持ちに気づき、弟をゲイクラブに連れて行ってあげた優しい兄。ゲイを病気だととらえ、治さねばと思い詰めていたアミンがひとつ大きな荷を下ろせたことは本当に幸せなことでした。
アミンが背負っていた何より大きな責は、犠牲になってくれた兄たちの分も身を立てねばならないという強い思いです。
学ぶことを一番に考えて努力を重ねたアミンは見事研究者として成功をおさめ、恋人男性との結婚も考えるようになりました。
今なおアミンの心の中には数え切れないほどのトラウマが存在していますが、それらに向き合う勇気を持った彼の言葉の一つ一つの重さに圧倒されます。
彼が語った悪夢のような話はすべて現実に起きたことです。ロシアによるウクライナ侵攻によって、私たちも恐ろしい現実が存在することをいやというほど教えられることとなりました。
彼は決して遠くの存在ではなく、私たちひとりひとりのすぐ隣にいることを教えられます。
人が人として安全に自由に生きる権利を守るために世界が手を取り合わねばならないことを、この作品は強く訴えかけています。
まとめ
タリバンとアフガニスタンの恐ろしい現実と祖国を逃れて生きる人々の過酷な日々、そしてゲイの青年が未来のためにトラウマと向き合う姿を描いた衝撃作『FLEE フリー』。
数々の国際映画祭で高く評価されたほか、アミンの物語に心を打たれた『サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ』(2021)で初めてオスカー候補となったリズ・アーメッドとニコライ・コスター=ワルドーはエグゼクティブプロデューサーとして本作をサポートしています。
『パラサイト 半地下の家族』(2020)のアカデミー賞監督ポン・ジュノも2021年のベスト映画の1本として選出した名作です。
大きな侵攻戦争を間近で経験している今だからこそ、多くの方に観て頂きさまざまなことを考え発信してほしい作品です。
ドキュメンタリー作品『FLEE フリー』は2022年6月10日(金)新宿バルト9、グランドシネマサンシャイン池袋他にてロードショーです。