映画『猿ノ王国』が、2022年4月2日(土)より「Ksシネマ」にて劇場公開。
「コロナ・ワクチン特集」のオンエアに関する是非を巡り、さまざまな人間の思惑が入り乱れる映画『猿ノ王国』。
テレビ局を舞台に、利権と信念が衝突する取締役員室と、何者かに編集室に監禁された3人の疑心、最上階と最下層を舞台に、さまざまな人間模様が目まぐるしく交差する「大人の寓話」とも呼べる内容です。
舞台はテレビ局ですが、本作で描かれている「タテ社会の嫌な部分」は、誰もが経験したことがある、日本の病的な部分と言えます。
『猿ノ王国』というタイトルも非常に気になる、本作の魅力をご紹介します。
CONTENTS
映画『猿ノ王国』の作品情報
【公開】
2022年公開(日本映画)
【監督・脚本】
藤井秀剛
【製作総指揮】
山口剛
【キャスト】
坂井貴子、越智貴広、種村江津子、分部和真、足立雲平、納本歩、望月智弥、田中大貴、荒川真衣、神水祐人、安井大貴
【作品概要】
テレビ局の最上階と地下を舞台に、「コロナ・ワクチン特集」の番組内容を巡り、さまざまな人間の思惑が入り乱れるスリラー。
本作の監督、藤井秀剛は、10年の米国生活を送った後に、つんくに見出されたことで『生地獄』(2000年)で映画監督デビュー。
2017年の監督作『狂覗』は「キネマ旬報」から「年間ベスト」に選出され、2019年には『超擬態人間』で、世界3大ファンタスティック映画祭の1つである「ブリュッセル国際ファンタスティック映画祭」の「アジア部門グランプリ」を受賞するなど、注目の監督です。
映画『猿ノ王国』のあらすじ
「コロナ・ワクチン」に関する、ニュース特集のオンエア当日。
テレビ局「P-TV」は、この特集を問題視し、再編集を行っていました。
ニュース特集の責任者である、新人ディレクターの元川は、テレビ局内最上階の取締役員室に呼び出されます。
元川を待っていたのは、「P-TV」を実質的に牛耳っているキャスターの千葉と、報道担当の上層部でした。
上層部で一方的に、ニュース特集の再編集を決定したにも関わらず、その責任だけは元川に背負わせようとします。
入念な下調べの末、ニュース特集を制作した元川は、上司の卑劣なやり口と「真実を伝える」ジャーナリストの信念が曲げられる現状に、不満を爆発させます。
一方「コロナ・ワクチン」のニュース特集が再編集されることに、不満を持つ人間がもう1人いました。
ニュース特集を担当したディレクターの佐竹です。
佐竹は、自身の知らないところで、勝手に再編集が決まったことに不満を持ち、再編集を止める為、後輩のディレクターである竹野内と共に、地下にある編集室へと向かいます。
編集を担当していた宮から、編集機材を取り上げた佐竹ですが、突然編集室の扉が開かなくなり、外に出ることができなくなります。
編集室に閉じ込められた3人は、次第に監禁した犯人捜しを始め、それぞれを疑い始めます。
最上階と最下層で入り乱れる、さまざまな人間の思惑。
一連の出来事は、誰が裏で操っているのでしょうか?
そして、ニュース特集は、無事にオンエアされるのでしょうか?
映画『猿ノ王国』感想と評価
テレビ局を舞台に、ニュース特集を巡る人間模様を描いたスリラー『猿ノ王国』。
ニュース特集が「コロナ・ワクチン」に関する内容だったり、利権重視で特集の内容を無理やり変更させようとする、報道関係者が登場する作品ですが、本作は「コロナ・ワクチン」の有効性や、いわゆる偏向報道を追求した作品ではありません。
描かれているのは、日本のタテ社会の問題点であり「臭い物に蓋をする」社会そのものです。
しかし、重苦しい内容ではなく、臨場感のある映像とスリリングな展開で観客を引っ張る、エンターテイメント作品となっています。
役員室と編集室で同時進行する再編集を巡る攻防戦
『猿ノ王国』では、テレビ局の取締役員室と編集室を舞台に、ニュース特集を巡る、人間模様が展開されていきます。
取締役員室では、ニュース特集に関する内容変更と、それに伴う責任問題、編集室では、実際に進められている再編集を止める為の、それぞれの攻防戦が描かれています。
最上階の取締役員室では、最初から答えが決まっている、一方的な会議が行われ、地下にある編集室では、上層部の決定に振り回される、実際に手を動かしている人間たちが描かれています。
最上階と地下室の「天と地」とも言える構造が、なんとも皮肉的です。
取締役員室では、ニュース特集の責任者である新人ディレクター元川が、長い時間かけて行った裏取りの末に制作した内容を、一方的に変更されるだけでなく、責任まで押し付けられることに不満が爆発し、上層部へ反旗を翻します。
編集室では、ニュース特集の担当ディレクター佐竹が、勝手に進められていた再編集を止めようとしますが、いきなり編集室に監禁されたことで、事態が急変します。
元川と佐竹、2人の戦いを軸に、ゴシップ新聞の記者である坂井枝と、坂井枝に半ば脅される形で、ニュース特集の映像を手に入れようとする名越など、さまざまな人間模様が描かれているのが、本作最大の魅力です。
隠蔽と疑心暗鬼、入り乱れる思惑
さまざまな人間模様が描かれている『猿ノ王国』では、それに伴うそれぞれの思惑が、入り乱れる展開となります。
「コロナ・ワクチン」に懐疑的な内容を放送することで、上層部が恐れているのは、トップに睨まれることです。
その為、上層部は、ニュース特集を差し障りのない、無難な内容に勝手に変更しようとします。
それに反発した元川は、本来なら真実を追求するはずの「ジャーナリストとしての信念」を訴えます。
元川の訴えは、正当に感じますが、上層部は最初から相手にしようともしません。
前述したように、最初から答えは決まっているからです。
それどころか、中盤から登場する、ある人物が会議に参加することで、上にいけばいくほど、下の人間の声は届かない、聞いてもくれないという、絶望的な社会構造が描かれています。
『猿ノ王国』はテレビ局が舞台ですが、一般社会においても、最初から結論ありきの会議は間違いなく存在します。
取締役員室での展開は「タテ社会の病的な部分」を、これでもかと見せつけてきます。
一方、編集室では、閉じ込められた佐竹と竹野内と宮の3人が、最初は協力して脱出しようとしますが、次第に「この中の誰かが、意図的に閉じ込めた」と思い始め、それぞれが疑心暗鬼に陥り始め、お互いを出し抜こうとします。
取締役員室での、上層部に反旗を翻した元川の戦いと、編集室での監禁の真相。
この2つの展開が同時進行していき、そして1つに繋がった時、予想だにしていなかった、とんでもない展開へと発展していきます。
「猿」とは誰のことなのか?
隠蔽との戦いと監禁の真相、この2つを軸に物語が展開する『猿ノ王国』。
タイトルも意味深ですが、この「猿」とは、一体誰のことを指しているのでしょうか?
本作の中盤で、千葉が「猿」について、一方的な言葉を放ちますが、タイトルが意味する「猿」と、千葉が言う「猿」とは違います。
タイトルの意味を読み解くヒントは、作中のいたるところにあります。
特にラストに流れる、ある映像が大きな意味を持っており、このラストを見た後に、作品冒頭の千葉と西のやりとり、そして千葉が言い放った「猿」に関する言葉を思い出すと、タイトルの意味が何となく分かって来て、皮肉的に感じました。
まとめ
『猿ノ王国』は、さまざまな人間の思惑と、目まぐるしく変化する状況が観客を引き付ける作品です。
また、裏工作を計画する名越や、元川を潰そうと動く西の場面は、コメディタッチで描かれており、緩急のバランスが見事です。
特に西は、上に弱く下に強いという、日本のダメな中間管理職を実体化させたようなキャラクターですが、決して根っからの悪人ではないあたり、個人的には面白かったです。
『猿ノ王国』は、あまりにも目まぐるしく状況が変化する作品なので、1回の観賞だけでは、追い付くのに必死となるかもしれません。
最後まで観賞した後に、もう1回観賞すると、唐突に感じた展開も、実は伏線がしっかり張ってあったことが分かるなど、いろいろな発見があるでしょう。
そういった意味では、2回目の観賞を是非おススメしたい、非常に完成度の高い作品でした。