『シックス・センス』で一躍その名を馳せたM・ナイト・シャマラン監督。そんな傑作に続いて彼が打ち出したのはなんとヒーローもの?!
サミュエル・L・ジャクソンの怪演が光る『アンブレイカブル』をご紹介します。
映画『アンブレイカブル』の作品情報
【公開】
2000年(アメリカ)
【原題】
Unbreakable
【監督】
M・ナイト・シャマラン
【キャスト】
ブルース・ウィリス、サミュエル・L・ジャクソン、ロビン・ライト、スペンサー・トリート・クラーク、シャーレイン・ウッダード、イーモン・ウォーカー
【作品概要】
インド出身の監督M・ナイト・シャマランとブルース・ウィリスが『シックス・センス』(1999)に続いてタッグを組んだ異色のサスペンス・スリラー。
大規模な列車事故から奇跡的に生還した男は何者なのか?!そして彼の下に届いた謎のメッセージとは…?!
映画『アンブレイカブル』のあらすじとネタバレ
アメリカン・フットボールのスタジアムで警備員として働くデイヴィッドは、妻のオードリーと一人息子のジョセフと共に何不自由なく暮らしていました。
しかし、デイヴィッドがたまたま乗り合わせた列車が脱線事故を起こし、彼を除く100人超の乗客全員が死亡するという大惨事に見舞われます。デイヴィッドは唯一の生存者となったのです。
病院のベッドの上で目覚めたデイヴィッドは、周りの人たちからの好奇の目にさらされながら、あることを考えていました。自分が今までケガや病気をしたことがあっただろうかということを。
翌日、車のワイパーに挟まれていた紙片を見つけたデイヴィッド。それは、「あなたは今まで病気にかかったことがあるか?」という主旨の手紙でした。自らも同様の疑問を抱いていたこともあり、気になったデイヴィッドは、ジョセフを連れてその手紙に書かれていた場所へと向かいます。
コミックスの収集家であるイライジャが、その手紙の差出人でした。彼のコミックス・ギャラリーへデイヴィッドと息子のジョセフがやってきます。
イライジャは骨形成不全症という難病を先天的に患っており、少年時代に「Mr.ガラス」とあだ名を付けられるほど、些細なことでもすぐに骨折してしまうという非常に脆い体の持ち主でした。この身体のせいで家にひきこもるようなり、コミックスにハマるようになったという自らの素性をデイヴィッドに聞かせるイライジャ。
自分と対極にある超人的な身体の持ち主がこの世には存在しているのではないかと常日頃から考えていたイライジャは、列車事故から奇跡の生還を果たしたデイヴィッドこそまさにそのヒーロー的存在なのだと確信したと彼に伝えます。
しかし、イライジャに胡散臭さを感じていたデイヴィッドは、その話を意に介さずその場を去っていきました。
映画『アンブレイカブル』の感想と評価
『アンブレイカブル』という作品に対する評価は、現在においてもお世辞にも良いとは言えないというのが正直なところです。しかし、それが果たして正当な評価と言えるのか、というと決してそうとも言い切れない部分があるのではないでしょうか。
この低評価の要因は、前年に公開された『シックス・センス』(1999)の大ヒットにあるのかもしれません。このたった1作品でなぜかどんでん返しのイメージが付いてしまったM・ナイト・シャマラン監督。そのイメージに日本における宣伝の煽りも加味され、あまりにも膨らんでしまった期待感が観客の目を濁らせてしまったのでしょう。
さらにもう一点、この作品が時代を先取りし過ぎていたことも一因として挙げられます。
『アンブレイカブル』は、アメリカン・コミックスの世界観をあくまで現実の人間社会の中での物語として展開させ、なおかつ全体としてダークな雰囲気の下に描いている作品です。
これまでの例えばティム・バートン版のバットマンシリーズのようなものと比べると、ブルース・ウィリス演じる主人公デイヴィッドが奇抜な衣装を身に纏うこともないばかりか、派手なアクション要素も少ないというのが特徴なのですが、果たして当時の観客がこういった世界観を求めていたのかという点が問題になってきます。
当時の観客のニーズを判断する上で、ほぼ同時代のアメコミ映画であるサム・ライミ版『スパイダーマン』(2002)と比較すると分かり易いでしょう。
あくまでコミックスの世界観をそのまま映像で表現したサム・ライミの作品は、スムーズに観客へ受け入れられ大ヒットを記録しています。一方の『アンブレイカブル』の公開がこの2年前であったことを考えると…自ずと答えは出てきますね。
しかし、この当時は理解されなかった彼の意図は、後年花開くことになります。クリストファー・ノーラン監督の『ダークナイト』(2008)やザック・スナイダー監督の『ウォッチメン』(2009)、あるいはマシュー・ボーン監督の『キックアス!』(2010)やジェームズ・ガン監督の『スーパー!』(2010)などなど、現実世界に即したヒーローものの数々。
近年でも増え続け、かつ人気を博しているこのような世界観を一早く体現していたのが、『アンブレイカブル』という作品でもあるのです。
シャマラン監督が当時の流行を見誤ったと言ってしまえばそれまでですが、もう少し公開が遅ければもっと評価されていた作品なのに…と思わずにはいられません。
まとめ
映画監督にとって大ヒット作を生み出すことは夢であると同時に、苦しみであるともいえるのかもしれません。前作『シックス・センス』があまりにも強烈なイメージを残したために、その後のシャマラン監督のキャリアがどうしても下降線を辿っているように見えてしまいがちなのは否めないところです。
それは何も監督のみに限ったことではなく、王子様的イメージがなかなか拭えなかったレオナルド・ディカプリオや、『ロード・オブ・ザ・リング』が残した強烈なイメージに苦しんだイライジャ・ウッドなどの俳優陣にも通じることです。
一度固定されてしまった印象に縛られることを良しとする人もいれば、それを何とか払拭しようともがく人もいる中、私たち観客が出来ることは真っ新な気持ちで作品に向き合うことではないでしょうか。そうすれば、この作品もきっとまた違った味わいが楽しめるのではないか思います。
最後に、M・ナイト・シャマラン監督はアルフレッド・ヒッチコック同様、自らが劇中のワンシーンに出演することでも有名ですが、今回はスタジアムに現れる麻薬密売人という役で出演しておりますので、お見逃しなく!