──これは、呪術廻戦の原点であり、‟愛と呪いの物語”。
2020年にテレビアニメが放送され、たちまち社会現象を巻き起こした『呪術廻戦』。
その原点である『呪術廻戦0 東京都立呪術高等専門学校』が2021年に劇場アニメ化を果たし、「百鬼夜行」がまさに決行されたのと同じ12月24日での劇場公開は話題を呼びました。
本記事ではネタバレを交えながら、映画と原作コミック『呪術廻戦0 東京都立呪術高等専門学校』の内容を比較。コミックスとの相違点を紹介・解説します。
CONTENTS
映画『劇場版 呪術廻戦0』の作品情報
【公開】
2021年(日本映画)
【監督】
朴性厚
【キャスト】
緒方恵美、花澤香菜、小松未可子、内山昴輝、関智一、中村悠一、櫻井孝宏、山寺宏一、松田利冴、松田颯水、速水奨、伊藤静
【作品概要】
週刊少年ジャンプで連載の人気コミック『呪術廻戦』の原点『呪術廻戦0 東京都立呪術高等専門学校』を原作とし、『呪術廻戦』本編にも登場する人気キャラクター・乙骨憂太の活躍を描くアニメーション作品。
幼いころ将来を誓い合った少女・里香の死を機に、里香の呪いに取りつかれ苦しむ少年・乙骨憂太が呪いを祓う‟呪術師”のための学校「呪術高専」に入学し、出会った仲間と共に成長していく中で、呪術界を根幹から揺るがす大事件に巻き込まれていきます。
主人公・乙骨憂太に『新世紀エヴァンゲリオン』碇シンジ役などで知られる緒方恵美、憂太の幼馴染の少女・折本里香に『鬼滅の刃』甘露寺蜜璃役、『五等分の花嫁』中野一花役などの花澤香菜が担当。そのほかにもテレビアニメ『呪術廻戦』から多くのキャラクターが登場し、各キャストも続投しています。
さらに監督を朴性厚、アニメーション制作をMAPPAが手がけ、こちらもテレビアニメから引き続き製作を担当しています。
映画『劇場版 呪術廻戦0』のあらすじ
16歳の少年・乙骨憂太(声:緒方恵美)は6年前、幼いながらも将来を誓い合った少女・折本里香(声:花澤香菜)の死に遭遇。里香は呪いと化し、憂太へと宿りました。
尋常ではない呪力を持つ里香によって、意図せず他者を傷つけてしまうことに絶望し、生きる意志を失っていた憂太。しかし呪術高専東京校の教師・五条悟(声:中村悠一)の誘いに応じ、呪いを祓う‟呪術師”のための学校「呪術高専」に入学します。
そこで禪院真希(声:小松未可子)、狗巻棘(声:内山昴輝)、パンダ(声:関智一)と出会った憂太は、呪術師として学び成長していく中で、自身の内に‟呪い”として宿ってしまった里香をいつか解放することを誓います。
一方、人知れず呪いを祓い、一般人を守り続ける呪術師の境遇を良しとせず「一般人=非術師を排し呪術師のみの世界を作るべき」という過激な選民思想を持つ‟呪詛師”夏油傑(声:櫻井孝宏)は、呪術師の中核を成している呪術高専に宣戦布告。
東京と京都に数多の呪いを解き放ち、非術師の人々を鏖殺せんとする「百鬼夜行」の決行を告げます。
映画『劇場版 呪術廻戦0』原作コミックとの比較解説・考察!
呪術高専へ向かう憂太
本作ではオープニングのBGMに合わせ、呪術高専へ初登校する憂太の足取りが描かれています。
寺の宿坊のようなところで一夜を過ごし、物憂げな表情で登校する準備をする様子や、憂欝な気分とは裏腹に面倒を見てくれていた僧侶に深々と一礼し宿坊を後にする憂太の律義さ、重たい足取りで高専へ向かい五条と合流する様子が描かれている同場面。セリフは一切ありませんが、憂太の暗い面持ち、不安な様子が見事に表現されていました。
また原作コミックでは、憂太が呪術高専へ編入することが確定している形で物語が展開され、憂太の同級生となる真希・棘・パンダが転入生の存在を認知している様子の会話から憂太が五条と会話する場面へ、直後、憂太が教室に招かれる流れとなっています。しかし本作では、憂太と五条の会話の後、呪術高専へ転校することとなる形に変更され、憂太が転校するまでいくらかの時間が設けられていたようで前述の場面につながっています。
憂太の学生証を拾う夏油
小学校の事件の直後、屋上に落ちた憂太の学生証を人影が描かれています。はっきりと人物を特定することはできませんが、そのシルエットとのちに学生証を手にしていた場面が登場することから、夏油本人であることが推察されます。
憂太との戦いに敗れた夏油が五条との会話の際に学生証を返す場面で、夏油は小学校の事件への関与を五条から指摘されますが、原作コミックではこの会話以外、小学校の事件に夏油が関与している様子が描かれていませんでした。
そのため本作のこの場面の追加は、一連の事件が夏油によるものであるという事を印象づけるとともに、憂太の初めての実戦で生還できた喜びも束の間、新たな暗雲が立ち込めていることを感じさせる表現になっており、次の展開に期待を持たせる演出になっているように感じられます。
憂太と里香との出会い
小学校での事件後、真希と児童を運び込んだ病院にて、憂太は五条に全員の無事を知らされます。その直後、目の前を通りすぎた入院患者の少年の姿にかつての自分を重ね、病院での里香との出会い、そして楽しかった思い出を回想します。
原作コミックでは、憂太と人間だった時の里香の回想は憂太と里香が将来を誓い合う場面と、里香が事故に遭い死亡し、直後に呪いと化してしまう場面に終始していますが、本作では上記の場面が追加され、憂太と里香の互いの想いの強さが強調されています。
またこの憂太と里香の出会いは、原作コミックの扉ページに記された原作者・芥見下々のメモ内で書かれていた設定をもとに映像化しており、漫画としての原作ではなく、世界観を含めた作品の表現をしようとする製作陣の心意気が垣間見えます。
商店街へ出向く五条
映画では商店街での事件の後、五条が現場の商店街を訪れる場面が追加されています。そして同場面にて五条は、現場を見回る中で夏油が座っていた場所を凝視。そこにあった呪力の残滓から夏油の事件への関与に感づきます。
原作コミックでは伊地知の報告を聞き、それだけで夏油の名前を出していますが、映画でのこの演出は、五条が確信をもって夏油の名前を出しているということに説得力を持たせる役割を果たしているといえます。
また、のちに語られる五条と夏油の関係性をより強く印象づけるのに一役を担っている場面ではないでしょうか。
五条の回想
呪術高専に現れた夏油が「百鬼夜行」の決行を予告した後、五条はかつての親友・夏油と袂を分った際の記憶を回想します。
人ごみの中、五条と対峙していた夏油は自分の想いを吐露。五条に背を向け歩き出し、その背後を攻撃しようとする五条ですが、結局、何もすることができなかったことが描かれている回想場面ですが、こちらは原作コミック『呪術廻戦』本編の「過去編」にあたる五条の学生時代の物語、その最後の場面でもあります。
この場面を最後に、親友であった五条と夏油は敵対することになり、『呪術廻戦0 東京都立呪術高等専門学校』劇中にて二人は久しぶりの再会を果たします。
原作コミックの連載上の時系列でいえば「過去編」の掲載のほうが後になりますが、作中の時系列では「過去」を描いたエピソードであり、五条と夏油の因縁を語るうえで最も印象的な場面であるため、引用されたのではと感じられます。
結果、五条と夏油の因縁はもちろん、互いの胸中を考察するきっかけとなり、本作での二人の最後の場面により厚みを持たせる演出になっているのではないでしょうか。
憂太&里香vs夏油との死闘
『呪術廻戦0』のクライマックスで描かれる、憂太&里香vs夏油の死闘。原作コミックではページの都合上か、比較的淡白に描かれていた夏油とのバトルシーンですが、本作では多くの追加場面が加えられ、濃厚なバトルシーンとなっています。
中でも、パンダが夏油と対峙する場面において、『呪術廻戦0』の原作コミック版では登場していない“ゴリラモード”を用い迫力の戦いを繰り広げていたり、こちらも原作では登場していなかった“黒閃”を憂太が発動していたりと、『呪術廻戦』本編の要素をふんだんに盛り込んでおり、見ごたえのあるバトルシーンかつ、作品の世界観をより深めているように感じられました。
また観逃してはならないのは、憂太と夏油の戦いが決着を迎える、互いに死力を尽くした一撃がぶつかり合う場面。原作コミックスでは、その衝撃を一コマで表現するにとどめていましたが、本作では凄まじい衝撃・爆発が描かれ、高専の敷地のおよそ半分以上が崩壊するほどの威力であったことが描かれています。
この場面が追加されることにより、二人の戦いの激しさは元より、二人の戦闘力の強さが伺える演出となっています。
本編キャラクターたちの登場
本作では『呪術廻戦0』の原作コミック版に登場していない、『呪術廻戦』本編のキャラクターが数多く登場しています。
こちらも作品の時系列をふまえると登場しても矛盾がないうえ、人気キャラクターが一堂に会し、総力戦の様相を呈しており、作中で未曾有の闘争となった「百鬼夜行」が苛烈な戦いであったことをより印象づけています。
また冥冥(声:三石琴乃)の初めて映像化されたバトルシーン、アニメ初登場の日下部篤也(声:三木眞一郎)の登場に沸いたファンも多かったのではないでしょうか。
さらに、七海が劇中でのバトルシーンの中で“黒閃”を4回連続で繰り出していますが、本編でも語られていたと当時の連続発動記録が生まれる瞬間を描いています。
こちらは公式ファンブックでこの記録が「百鬼夜行」の際に樹立されたことが明かされていますが、その設定を拾い上げ、本作に採用しているわけで、ファンにとってはこちらもたまらない演出になっています。
アフリカの憂太とミゲル
映画のエンドクレジットでは、アフリカの市街地内で食事をする憂太とミゲル、その二人の前に五条が現れる様子が描かれています。
この場面は『呪術廻戦0』及び『呪術廻戦』本編の原作コミックでも描かれていません。しかし同場面の映像では、憂太の髪型と服装が変わっていることが確認できます。
どう場面での憂太の姿は『呪術廻戦』本編の原作コミックに登場した際の姿であり、本編の時間軸に移っていることがわかります。
そしてテレビアニメ『呪術廻戦』において、憂太が海外にいることが語られていたこと、「姉妹校交流戦編」において五条が海外土産を持っていたことから、五条がアフリカにいた憂太に会いに行っていたことが推察され、この場面は後の物語にどのような影響を与えるのか楽しみな映像となっています。
まとめ
月間連載ながら高い評価を獲得し、のちに『呪術廻戦』の週間連載をもたらした『呪術廻戦0 東京都立呪術高等専門学校』。惜しむべきは月間という時間の制限上、物語の展開が早かったり、バトルシーンが淡白だったりという点が見受けられます。
しかし『劇場版 呪術廻戦0』はそのマイナス面を払しょくするどころか、本来持っている高いポテンシャルを存分に引き出し、なおかつテレビアニメ2期へつながる伏線と思しき演出を数多く忍ばせていました。
公開初日・2021年12月24日の動員予測が100万人、興行収入は100億突破は確実とされ、最終的な収入は未知数というニュースには関係者はおろか、全国のファンに衝撃を与えました。
今後、『呪術廻戦』がテレビアニメ2期放映や原作コミックスの連載、次なる劇場作品など、どのように日本列島に“領域展開”していくのか楽しみです。