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Entry 2021/12/13
Update

映画『渇水』原作小説ネタバレあらすじと結末ラストの感想評価。河林満が水道局職員の心の葛藤を通して社会の闇を描く

  • Writer :
  • 星野しげみ

小説『渇水』が実写映画化され、2023年6月2日(金)に全国公開!

199年の文學界新人賞を受賞し、その年の芥川賞候補にもあがった河林満の小説『渇水』。

主人公は、一人の水道局職員です。水道料金滞納者の水道を止める仕事をする彼の眼を通して、現代社会にはびこる貧困やネグレストなどの問題を描き出しています。


(C)2022『渇水』製作委員会

社会問題も多く含まれるこの小説が、2022年度映画化されます。

監督は『月と嘘と殺人』(2010)の髙橋正弥で、主役の岩切は、生田斗真が演じます。企画・プロデュースは、『凶悪』(2013)『日本で一番悪い奴ら』(2016)「孤狼の血」シリーズの白石和彌。

何気ない日常が続いている社会の端っこで生きる幼い姉妹。やむを得ずに水道を停水する水道局員と彼女たちとの小さな触れ合いとは?

映画公開に先駆けて、小説『渇水』をネタバレ有でご紹介します。

小説『渇水』の主な登場人物

【岩切俊作】
市の水道局職員。水道料金滞納者に対して料金請求と、水道水の停水業務を担当しています。

【小出姉妹】
育児放棄に近い状況の小学生の姉妹。

小説『渇水』のあらすじとネタバレ


『渇水』(文藝春秋 1990年)

日照り続きの夏、S市内御影町には給水制限が発令されていました。

S市の水道局に勤める岩切俊作(生田斗真)の業務は、水道料金滞納家庭や店舗を回り、料金徴収と水道を停止すること(=停水執行)。

ある金曜日の停水業務は、小出秀作という男の家でした。そこには小学五年生と三年生の姉妹がいます。

水道のメーターボックスに屈みこんでいる岩切と相棒の木田の姿を見て、学校帰りらしい姉妹が声をかけました。

「もうお水止まってしまうの?」

岩切は姉妹のために入れ物に水を溜めてやろうとします。

姉妹の母親はいつもいないようでしたが、水道局からのお知らせは目にしているようでした。

これまでにこの家に何回も停水予告を出していたのですが、そのたびに「水を止めないでください。お金はすぐに払います」というメッセージがメーターボックスに貼られます。

しかし、滞納した水道料金が払われた試しがありません。姉妹の家は丸3年間、水道料金を滞納していました。

これ以上はもう猶予の余地はありません。岩切は水を入れ物に溜めてやると、水道を止めました。

ライフラインの一つである水道を止めるとどうなるのか。不自由な生活を強いられるのはわかりきっていますが、料金を滞納していては強硬手段に出るしかありません。

水道料金滞納者には、本当に水道料金も払えないほどの生活困窮者もいますが、なかには払えるのになかなか払おうとしない不届き者もいます。

彼らにとって岩切は生活を脅かす疫病神でした。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『渇水』ネタバレ・結末の記載がございます。『渇水』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

岩切には妻と子供がいますが、妻は子供を連れて実家に帰ったままもう2週間も帰って来ません。

自分の仕事も人の生活を乱しているように思え、岩切の心の空洞は次第に広がり、精神の渇きが強くなっていました。

暑い日差しが照る中、それでも岩切は水道を止めに行きます。今日の停水予定は13件。

居留守を使っていると思われるアパートの住民がほとんどです。

みな停水が実行されると、恭順、ふてくされ、反抗と3パターンのどれかの態度をとります。そのくせ、停水されたあとも水道料金を払ってくれないのです。

岩切は昨日停水した小出の家のことを想い出します。

小出姉妹を自分の子供と重ね合わせてしまう岩切。結局彼女たちの母親から連絡はありません。

姉妹は母親から育児放棄されているようでした。岩切は気になって夜に家の前を通ってみると、テレビがついている様子だったので、一応は安心しました。

仕事で感じる嫌な気分を払拭しようと、日曜日に岩切は木田と滝を観に行きました。

途中、夏休みを堪能する小学生の姿をみかけ、岩切は自分の子供のことを思います。妻はいったい何が不満なのだろう。

次に岩切は、停水した小出家の娘たちのことを思い出しました。母親は帰って来たのだろうか。なぜかとても気になりました。

月曜日の朝、岩切が市役所の水道部に出勤すると、警察が来ていました。

刑事から、先週の金曜日に小出家の水道を止めたかと聞かれ、止めたと答えると「死んだんだよ」と言われました。

誰が死んだ? 不思議に思う岩切に刑事は言葉を続けます。

なんと、あの幼い姉妹が日曜日の朝早く、鉄橋の手前の踏切で列車にはねられて死んだと言うのです。

事故ではなく、自殺と考えられるとも言われました。

過去3年間、水道料金の支払いがなかったことを告げると、「無理に止めたんじゃないんだろう」と問われて呆然とする岩切。

刑事は彼に椅子を勧めながら、「それで、いろいろお聞きしたいことがあるんですが」と言いました。

小説『渇水』の感想と評価

市民の暮らしになくてはならないライフラインの水道水。しかし、水の存在があるのが当たり前のようになると、その料金を滞納する人々もでてきます。

小説『渇水』は、そんな人々の水道水を止める水道局職員の岩切を主人公にしています。

岩切が料金滞納者の家の水道を止めに行くのですが、そんな家庭は決まって留守がちで、催促状を出しても何の返信もありません。

空気のようにいつもあるべき存在の水がなくなったらどうなるのでしょう。生活に困ることは目に見えているのに、それでも料金を払う人は少ないのです。

岩切は毎日のように停水作業に向かいながらも、「水なんてただでいいのに」と思っています。

ですが、社会のルールはルール。親から育児放棄されている小学生の姉妹の家の水道を止めながら、岩切はとても姉妹のことを心配し気にかけます。お母さんは帰って来たのだろうかと……。

停水が本作の中心にあり、それを実行する岩切。彼の自分では弱者を助けられないという思いや、まるで砂漠の中にいるかのような、殺風景でからからに乾ききった岩切の心情も物語全体から伺われます

ラストはもっと希望のあるものにならなかったのかと、グレイな社会の非情さに切なくなりました。

映画『渇水』の見どころ

問題提起を残したままのラストが印象深い小説『渇水』は、2022年に映画化決定。

監督は髙橋正弥。主役は生田斗真が演じます。そして、プロデュースするのは、アウトローの世界を描いた作品を得意とする白石和彌。

本作について、彼は「現代を生きる我々に欠けてしまったもの、必要なものを問いかける映画だ」と言い切っています。

水道料金滞納者にはアウトロー的な人々もいて、それぞれにドラマを持っています。白石和彌流に作り出された料金滞納にいたるまでのドラマも観てみたいものです。

一方、本作で監督をする髙橋正弥は、貧困という社会現象においても、弱者に対して目を向けることを失わないようにしたいと訴えます。

「過去現在そして未来もその『家族のあり方』は問われ続けていくのだと思いますので、この原作・映画からもそこを読み・見て欲しいと思っています」と胸中を吐露しています。

社会的弱者への心配りを求める両者の想いを受けて演じる生田斗真の演技に注目です。

映画『渇水』の作品情報


(C)2022『渇水』製作委員会

【公開】
2022年公開(日本映画)

【原作】
河林満:『渇水』(文藝春秋)

【脚本】
及川章太郎

【監督】
髙橋正弥

【企画プロデュース】
白石和彌

【キャスト】
生田斗真、門脇麦、磯村勇斗、尾野真千子、山﨑七海、柚穂、宮藤官九郎、池田成志

まとめ

河林満による小説『渇水』。水道料金滞納者の停水業務をする水道局職員の視点から、社会の様々な問題点が見えてきます

両親からほとんど置き去り状態にされている小学生の姉妹の日常を知ってしまった主人公。自分の子供の姿を彼女たちに重ね、やるせない思いを噛みしめます。

そしてラストに用意されている驚愕の事実。実際に起りえることも十分考えられるだけに、後悔にも似た「なぜ?」という思いと困惑が交錯します。

映画で主人公を演じる生田斗真が、停水にあたっての言葉に出せない苦悩を、表情と仕草でどのように伝えてくれるのでしょうか

他にも社会的な問題を多く含んでいる本作。平凡であることの幸せをじっくりと実感させられます





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