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Entry 2021/12/04
Update

映画『アキラとあきら』原作小説のネタバレあらすじ結末と感想評価。池井戸潤おすすめ作品が描く銀行員の青春と使命

  • Writer :
  • 星野しげみ

小説『アキラとあきら』は2022年8月26日(金)に実写映画公開!

元銀行員の池井戸潤が描く経済小説『アキラとあきら』。

零細企業の息子の瑛と大海運会社経営者一族の御曹司の彬。2人のアキラの数奇な運命が出会うとき、人生を賭した戦いが始まりました。

2017年のドラマ化では斎藤工と向井理が2人のアキラを演じていましたが、映画版では瑛役を竹内涼真、彬役を横浜流星を演じるW主演が実現しました。

この作品の最大の見どころは、2人のアキラが融資戦略プログラムのカリキュラムの一つとして、会社と銀行側とに扮して融資が可能かどうかを議論するところです。

生まれも育ちも違う2人の優秀な銀行員たちが知恵を絞って融資の可否を熱弁します。その結果は今後の2人の人生にどう影響するのでしょう。

映画公開に先駆けて、小説『アキラとあきら』をネタバレ有でご紹介します。

小説『アキラとあきら』の主な登場人物

【山崎瑛】
実家が町工場と営む少年。工場が倒産するという不運に見舞われます。

【階堂彬】
海運会社経営者一族の御曹司。

【山崎孝造】
瑛の父。会社を倒産させるが瑛に働く姿を見せています。

小説『アキラとあきら』のあらすじとネタバレ


池井戸潤『アキラとあきら』(徳間文庫、2017年)

山崎瑛は、工場の油圧プレス機がたてる音を聞いて育ちました。

ミカン畑の向こうに海が広がっている伊豆半島の山肌に、山崎瑛の父親・孝造が経営する工場があります。

工場によく顔を出し、父の働く姿を見ていた瑛ですが、父がやむを得ない理由から、長年勤めた従業員にヒマを出すのをみました。

なぜ人員を削減するのか。瑛は子供が立ち入れない大人の領域を感じ始めていました。

瑛が小学5年生になった時、家業である山崎プレス工業が倒産。一家は磐田市内で繊維問屋を営む母の実家に居候することにします。

後処理のため工場に残った父が気になり、瑛はこっそりと河津にある自分の家に行ってみました。

そこで瑛が見たものは、閉鎖された工場とかつて自分たちが住んでいた住居です。

がらんとした建物の中には誰もいず、瑛は一人で父の帰りを待ちましたが、結局誰も来ず、そのうちに心細くなり、駅に戻りました。

道路に飛び出してしまい、通りがかった高級車の運転手から「大丈夫?」と声をかけられました。助手席には、瑛と同い年くらいの少年、階堂彬が乗っていました。

そこへ瑛を探しに来た母がやって来て、瑛は無事に磐田市の祖父の家へ帰ることができました。

その後、ひと段落した父・孝造は電機部品メーカーに技術者として再就職します。

けれども、数千万円とある債務から逃れるための手段として、自己破産したために生活は楽ではありません。

地元の公立高校に通うようになった瑛は苦しい家計もあって就職コースを考えていましたが、父の「おまえは大学に行け」という言葉に決意します。

瑛は、必死に勉強して東大の経営学部に合格。経営戦略セミナーで経済学部や大学院生を抑えてトップの評価も得て、経済学部の上山教授のゼミにも出て「ピカ一」と言われました。

このセミナーには大手都市銀行の産業中央銀行から講師が派遣されていて、瑛の評判は人事部の採用担当者の耳にも入ります。

しかし、産業中央銀行の人事採用担当者は、経済学部生の「階堂彬」を「ピカ一」と勘違いしていました。

就職面接などで上山教授のもとを訪れた担当者は、別の校舎に張り出されている「戦略的思考」に優れているかを判断した経営戦略セミナーの成績を見に行きました。

その発表で1位になっていたのは、「山崎瑛」でした。担当者が大慌てで瑛にアポを取ったのは言うまでもありません。

産業中央銀行に就職を決めた瑛は3週間におよぶ新人研修をこなし、最後の5日間をかけて行われる融資戦略研修にのぞみました。

新人行員の中でファイナルまで残ったのは瑛のチームと、同じ東大出身者の階堂彬がいるチームです。

彬は明治時代にまでさかのぼるほどの海運業・東海郵船の経営者一族の御曹司。都内の進学校からストレートで東大に入り、ゴルフ部の主将を務めたことでも有名でした。

小学生の頃、高級車に乘って、債務のかたに取られた実家を見て呆然となっていた瑛を見かけたのは彼でした。

御曹司ながらも家業に縛られることを嫌った彬は、あえて商船会社とは無関係な銀行を就職先に選んでいたのです。

融資戦略プログラムのファイナルでは、瑛は銀行側、彬は会社側に分かれて、熱戦を繰り広げることになりました。

瑛と彬。アキラ対決の融資戦略プログラムは、貸す方と借りる方、それぞれが奇抜な作戦を練り出します。

借りる方の階堂彬は、財務データを粉飾して、明らかに利益がある会社のように見せかけ、融資を依頼します。

一方の銀行側山崎瑛は、提出された財務データの矛盾を鋭く見抜き、「融資見送り」を宣言しました。

何なんだ、この2人は……。鮮やかな戦略作戦の攻防に会場は大いに盛り上がりました。

この1件で2人の名前は融資部長の羽根田一雄の目にも留まり、瑛は八重洲通り支店、彬は本店とそれぞれ出世コースに配属されます。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『アキラとあきら』ネタバレ・結末の記載がございます。『アキラとあきら』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

階堂彬の実家である東海郵船は彬の弟・龍馬が社長の座に就任しました。しかし、バブル崩壊の最中で海運業界の運賃相場は崩れ始めます。

龍馬はプライドが高くワンマン経営に陥りがちで、社長としての経験も不足していたので、会社の行く末に暗雲が立ち込めます。

極度の疲労から総合失調症にかかり入院した龍馬の代わりに、社長の打診を受けたのは彬でした。

実家の一大事とあって、人事部に辞表を提出した彬は、東海郵船の社長を引き受けて、これまでの粉飾やずさんな経理処理の見直しを実行。

人事評価や縦割り意識の強かった会社システムを見直し、取引先の信頼回復とコスト削減を実行する社内チームを結成しました。

前任の龍馬社長は、赤字のリゾート事業にも手を出し、連帯保証人になっていたことを、メインバンクの産業中央銀行にも話していませんでした。

社長に就任して早々に、謝罪のため銀行を訪れた彬を出迎えたのは、いま現在では営業本部で次長の肩書きを持ち、東海郵船の担当をしている瑛でした。

彬は赤字続きのリゾートホテル・ロイヤルマリン下田を黒字にするために、産業中央銀行から140億円もの融資を取り付けるつもりです。

営業本部の部長の不動は、保守的で甘い将来予測からの融資は決して取りつけません。

銀行に融資を認めさせるための稟議書を書くのは瑛でしたが、この案件が認可されるのは極めて厳しいと思われます。

瑛の勝負をかけた稟議書には、緻密な分析と創意工夫に富んだ資料が添付されていました。

東海郵船とはいったいどんな会社なのかどうあるべきなのか、今までいかに不本意な方向性に進んでいたのか。

なぜそこまで東海郵船にこだわるのかという不動部長の問いかけに対して、瑛はなぜ自分が銀行員になったのか告白します。

かつて自分の父親が会社を経営していたこと、家族や従業員を守るために銀行の支店長に融資を頼みにいったこと、あっさりと断られて倒産してしまったこと。

会社ではなく人間に金を貸したいという瑛の言葉が不動を動かします。こうして、産業中央銀行から東海郵船に140億円の融資が実行されました。

それから5年。瑛は、結婚し子供も2人になっていました。そんなある日、黒字経営に回復したロイヤルマリン下田に遊びに来てくれと彬から誘われました。

家族で下田へ出かけた瑛。ホテルは海岸の曲がりくねった道を抜けた先にあり、瑛は途中で山崎プレス工業があった土地へ寄り道をします。

工場も住んでいた家も撤去されていましたが、瑛は幼い頃見た景色そのままのミカン畑の急斜面と光を浴びて輝く海をいつまでも眺めていました。

「これがぼくの原風景だ」。過去と現在を繋いでくれる、この場所に瑛は再び戻って来たことを実感しています。

小説『アキラとあきら』の感想と評価

育った環境が全く正反対の2人のアキラを描いた、池井戸潤の銀行小説『アキラとあきら』。

零細工場の社長を父にもつ山崎瑛と、大手海運会社の御曹司階堂彬。山崎瑛は小学生の時に、父親が事業に失敗し自己破産をします。

努力家で優しい彼は自らの経験を活かし、小さな会社が倒産しそうになるのを救いたいと、大手メガバンクに就職します。

一方、大会社の御曹司階堂彬は、自分のやりたいことをしたいと思い。腕試しのつもりで銀行員となり、同じ銀行で2人は同期入社を果たします。

2人はいい意味でのライバルで、『半沢直樹』のような悪どい商人根性の敵は出てきませんが、銀行の融資をめぐって、優秀な2人が知恵を絞って闘うさまは面白いです。

運営資金があってこそ会社の事業が成り立ちます。お金がなければ銀行に貸してもらうしかありません。

貸す方の銀行も、その会社が貸したお金をキチンと返すだけの資本体力があるかと調査します。これが物語の中の見どころの一つとなった、融資戦略のシミュレーション!

それは、本当の意味で戦略的思考に優れた人物を探り出すことになったと言えます。

物語前半は、瑛と彬の幼少期の話。幼少期のお金の苦労があったからこそ、瑛は人のために融資ができる銀行員をめざせたのでしょう。

またお金の苦労がなかった彬は、成人してから自分が弟から引き継いだ会社を立て直すというプロジェクトに挑むことになりました。

全く正反対の人生を歩む2人ですが、実直に目前の問題に取り組む姿は好感が持て、爽やかな印象を与える作品でした。

映画『アキラとあきら』の見どころ


(C)2022「アキラとあきら」製作委員会

お仕事小説を得意とする池井戸潤の銀行小説。書籍化された2017年にはWOWOWで連続ドラマ化もされました。このときは、向井理と斎藤工が、2人のアキラに扮して熱演を披露しています。

映画化に当たっても、将来のある優秀な銀行員を演じる竹内涼真と横浜流星の清々しいバトルが期待されるのではないでしょうか。

竹内涼真は、『下町ロケット』『陸王』に続き、池井戸作品3作目の主演となります。

山崎瑛を演じるにあたって、「大きな壁にぶち当たり、苦しんで、時にぶつかり合って奮闘するリアルな姿を表現することにこだわり、現場で三木監督や流星くんと話し合いながら、気持ちを込めて撮影しました」とコメント。

また一方の横浜流星は、池井戸作品に初出演ですが、「竹内くんとは見つめ合うシーンが多く、『照れるね』と笑いながらも熱く意見を交わし合い、2人の関係性を作っていきました」と明かしています。

順調な撮影を想像できるコメントに、小説の中だけで終わらない2人のアキラの友情と運命の偶然性が感じられました。2人のアツい融資戦略バトル、観るのが楽しみです。

映画『アキラとあきら』の作品情報


(C)2022「アキラとあきら」製作委員会

【公開】
2022年公開(日本映画)

【原作】
池井戸潤:『アキラとあきら』(徳間文庫)

【脚本】
池田奈津子

【監督】
三木孝浩

【キャスト】
竹内涼真、横浜流星

まとめ

『下町ロケット』で直木賞を受賞した池井戸潤ですが、本作はそれよりも10年も前に描かれた小説です。

困っている人のために銀行員を目指した山崎瑛を筆頭に、銀行員の持つ役割と使命をそれとなく指し示し、ただの企業小説のようですが、2人のアキラたちの青春でもあり、成長物語でもある作品でした。

池井戸潤作品の映画化は、『七つの会議』(2019)『空飛ぶタイヤ』(2018)とあり、本作で三作目にあたります。

前作2作はそれぞれ違う監督が手掛けているのに続き、『アキラとあきら』の映画は『きみの眼が問いかけている』(2020年)『思い、思われ、ふり、ふられ』(2020)など、青春ラブなどを手掛ける三木孝浩監督が取りまとめます。

厳しい融資戦略の合間に、甘酸っぱいロマンスも用意されているのかも知れません

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