2015年にヨーロッパで起こった無差別テロ「タリス銃乱射事件」を映画化。
現場に居合わせ、犯人を取り押さえた3人の若者の幼少時代から事件に遭遇するまでの半生を描く実話がモチーフの『15時17分、パリ行き』をご紹介します。
1.映画『15時17分、パリ行き』の作品情報
【公開】
2018年(アメリカ映画)
【原題】
The 15:17 to Paris
【監督】
クリント・イーストウッド
【キャスト】
アンソニー・サドラー、アレク・スカラトス、スペンサー・ストーン、ジェナ・フィッシャー、ジュディ・グリア、レイ・コラサニ、P・J・バーン、トニー・ヘイル、トーマス・レノン、ポール=ミケル・ウィリアムズ、ブライス・ゲイザー、ウィリアム・ジェニングス
【作品概要】
2015年8月21日、フランスのパリへ向かう高速列車「タリス」の中で、銃と刃物で武装した男に立ち向かった3人の若者。
3人の少年時代のエピソードや、事件に遭遇することになるヨーロッパ旅行の過程などを交えて、無差別テロを止めた勇気ある若者の実話を描くヒューマン・ドラマ。
監督は『アメリカン・スナイパー』や『ハドソン川の奇跡』の巨匠クリント・イーストウッド。脚本は第90回アカデミー賞脚色賞にノミネートされた新人脚本家のドロシー・ブリスカル。
2.『15時17分、パリ行き』あらすじとネタバレ
キリスト系の学校に通っていた少年時代のスペンサー・ストーンとアレク・スカラトスは、厳格な学校の規律が守れず、教師からも問題児として扱われていました。
スペンサーとアレクの母親は教師と面談しますが、教師はスペンサーとアレクを精神疾患と一方的に判断し、更に家庭環境に問題があると言われ、母親たちは教師に激怒し、学校を後にします。
スペンサーとアレクは、授業開始後も教室に入らず、注意してきた教師に反抗的な態度をとった事で校長室に呼び出されます。
校長室でアンソニーと出会ったスペンサーとアレクは意気投合、近所へのイタズラやサバイバルごっこなどをして遊ぶようになります。
ある日、アンソニーは転校し、シングルマザーに育てられていたアレクは、父親に引き取られ3人はバラバラになります。
スペンサーは悲しみを抱きながら、神に祈ります「私を平和の道具にして下さい」。
しかし、3人の友情は途切れておらず、青年になっても交友を深めていました。
バイト先の飲食店を訪れたスペンサーは、海軍兵士と会話し「自分も誰かを救いたい」という想いを抱くようになります。
スペンサーはアメリカ空軍のパラレスキュー隊に入隊する事を決意しますが、アンソニーに「これまで何もやり通した事が無い」と否定されます。
一念発起して体を鍛えるスペンサーは、優秀な成績でアメリカ空軍への入隊を決めますが、奥行きの検査が不合格だった事から、志望したパラレスキュー隊には入隊資格がありません。
仕方なくスペンサーは、SERE指導教官という職種を選びます。
生まれて初めて必死に取り組んだ努力が無駄になった事で、傷心するスペンサーは訓練にも身が入りません。
寝坊して遅刻、与えられた課題を雑にこなすという、消極的な態度が問題となり落第。
スペンサーは別の空軍基地で防衛手段と救急を習う事になりました。
しかし、そこは“大人の託児所”と呼ばれるような場所で、スペンサーは軍人達が足並みを揃えて歌を歌いながら行進している所を目の当たりにします。
スペンサーは救命救急や柔術の教習を受けながら、現在の自分の生活を楽しもうと努めます。
ある日、スペンサーが教習を受けていると、突然、銃撃事件発生を知らせる警報が鳴り響きます。
教官は机の下に潜って身を守る事を指示しますが、スペンサーは扉の横に立って1人戦おうとします。
教官の注意を聞かないスペンサーでしたが、警報は誤報でした。
一方、州兵となったアレクはアフガニスタンに派遣されます。
しかし、アフガニスタンは想像するよりも平穏で、事件といえば自分の帽子が無くなるぐらいの現状に退屈をしています。
そこへスペンサーからSkypeで連絡が入り、ヨーロッパ旅行の計画を立てます。
アレクとヨーロッパ旅行に行くことが決まったスペンサーは、アンソニーも誘いました。
アレクがドイツで友人の女性と会って、2人と合流する事になった為、スペンサーはアンソニーとイタリアで合流、同じく観光旅行に来ていた女性リサと共に、イタリアの旅行を楽しみます。
スペンサーはリサに「この後パリに行く予定」と告げると、リサは「パリは楽しくない、お勧めしない」と言われます。
リサと別れたスペンサーとアンソニーは、ドイツへ向かいます。
ドイツのバーで知り合った老人に「アムステルダムは最高だ」と勧められて、2人は次の行き先をオランダのアムステルダムに決めます。
アムステルダムでアレクも合流、3人は夜のバーで大騒ぎし、次の日の朝に二日酔いで目覚めます。
3人はレストランで次の行き先を決めます。
旅先でいろいろな人に止められたパリですが、スペンサーは「行ってみたい」と希望します。
スペンサーの強い希望を反映し、3人はパリに向かう事にしました。
そして15時17分、アムステルダムからパリに向かう高速列車タリス号に乗り込んだのです。
3.『15時17分、パリ行き』感想と評価
2015年8月21日に発生した無差別テロ「タリス銃乱射事件」を描いた本作は、俳優では無く、実際にテロを止めた3人が自分自身を演じています。
クライマックスの電車内のシーンでは、事件発生時、電車内にいた人達や、テロを企てた男を連行した刑事など全員本物となっています。
その演出にこだわったクリント・イーストウッド監督は、事件発生時の動きを実際にやってもらい、それをそのまま撮影するという方法で進めていきました。
映画全体を通して、過剰な演出が無いシンプルな作品で、テロを企てた男がスペンサーに自動小銃「AK-47」を発砲した際も、何故弾が発射されなかったのかは説明されず、映画では「奇跡だ」の一言で終わっています。
また、スペンサーたちのヨーロッパ旅行も、ヨーロッパ各地を楽しんでいる様子が続き、なかなか本題である無差別テロを止めた話に入らない為、観賞中は戸惑ってしまいました。
しかし、映画が終わった後にいろいろと思い返してみると、何気ない会話がその後の展開に繋がっていたり、映画を象徴する重要なセリフだったと、後から気付かされます。
本作のどのシーンやセリフが重要だと感じるかは、おそらく観賞した人によって違うのではないかと思い、それによって映画の印象も変わってくるのではないでしょうか。
4.『15時17分、パリ行き』まとめ
本作でクリント・イーストウッド監督が描いたのは「運命」だと思います。
それは、テロと戦ったスペンサーの半生が、本作の軸になっている点からも分かります。
スペンサーは小学校時代、問題児として扱われ、生まれて初めて取り組んだ努力も報われず、軍人になっても落第するなど多くの挫折を味わいます。
しかし、腐る事なく現状を楽しみながら前向きに取り組んできた事が、テロ事件を未遂に終わらせた事に繋がります。
また、スペンサーが「誰かを救いたい」という想いを、持ち続けた事も大きいでしょう。
スペンサー達が、タリスの1号車にいた事も偶然で、ヨーロッパ旅行の道中で出会った人たちの助言が無ければ、テロが発生した高速列車にはいなかったかもしれません。
そして、最終的にインターネットが繋がらない事に不満を持った事で、1号車に移動します。
全ては小さな偶然ですが、最終的には数百人の命を救う事になる「運命」に繋がったのではないでしょうか?
思い通りにいかない現状に、スペンサーが腐らずに向き合ったからかもしれません。
クリントイーストウッド監督は「ごく普通の人々に捧げた物語」とコメントを出しています。
スペンサーのように挫折を味わい苦しんでいても、全ての事は、いつか訪れる運命の一日の為だと思えば、腐らず前向きに取り組むことができますし、大事だと思えます。
ただ、この映画から感じる事は人それぞれだと思いますし、87歳にして実験的な映画を作る、クリントイーストウッド監督の才能に驚かされます。
観賞後にいろいろと考える事で、本作の魅力に気付かされる少し変わった映画『15時17分、パリ行き』は、2018年3月1日から全国公開中です。