優雅で洗練されたダンスの神様、フレッド・アステアと、シド・チャリシー等、才能豊かな俳優陣たちが繰り広げる最高のエンターティンメント『バンド・ワゴン』の世界にようこそ。
以下、あらすじやネタバレが含まれる記事となりますので、まずは『バンド・ワゴン』映画作品情報をどうぞ!
映画『バンド・ワゴン』作品情報
【公開】
1953年(アメリカ)
【原題】
The Band Wagon
【監督】
ヴィンセント・ミネリ
【キャスト】
フレッド・アステア、シド・チャリシー、ジャック・ブキャナン、オスカー・レヴァント、ナネット・ファブレー
【作品概要】
落ち目のミュージカル俳優、トニー・ハンターをフレッド・アステアが演じ、ニューヨークのブロードウェイでの上演に向け巻き起こる様々な出来事と、出来上がった芝居を、歌とダンスで描くミュージカル映画の名作。
映画『バンドワゴン』あらすじとネタバレ
企画とリハーサル
ロサンゼルスのオークション会場で、かつて一世を風靡したミュージカルスター、トニー・ハンターのシルクハットとステッキが競売にかけられていました。5ドルから開始して2ドル、50セントと値を下げても手が挙がりません。
ニューヨーク行きの電車の中で、男二人が世間話をしています。「トニー・ハンターはもう落ち目だ。過去の男だ」。するとその横で新聞を広げていた男が「そのとおりだ。あんたたちは情報通だねぇ」と言って二人に葉巻を渡して移動していきました。その男こそトニー・ハンターその人でした。
駅に着くとなにやらたくさんの報道陣がつめかけています。てっきり自分を迎えにきたのだと思ったトニーでしたが、彼らの目当ては隣の車両に乗っていたエヴァ・ガードナーでした。
しんみりとした気分で改札を出たトニーを、親友のレスターとリリーのマートン夫妻が賑やかに迎えてくれました。三人は42番街を歩きながら、今度ハンターが出演するミュージカルについて話をします。今乗りに乗っているジェフリー・コルドバに演出を依頼するとのこと。
その時、レスターが道行く人に足を踏まれてしまいます。あまりの痛さにタクシーに乗って病院に向かうことに。一人残ったトニーはペニーアーケードを覗いてうろうろ。やがて気分も高まって、靴磨きの男性と一緒にのりのりで踊ります。
コルドバ演出、主演の『オイディプス王』の舞台裏にやってきたトニーたち。舞台がはけ、興奮気味のコルドバは、レスターとリリーのプロットを聞いて勝手にファウストをイメージし、まったく違う芸術性のある舞台を作ろうとします。
自分はエンターティナーだと言い、乗り気でないハンターに対して「トニー・ハンターはもう過去の人だ。新しいものを作り出して1953年のトニー・ハンターを見せるんだ!」とコルドバは大演説を打ちます。4人は「ザッツ・エンターテインメント」を歌い踊りながら気持ちをひとつにします。
コルドバは、バレーのスター、ギャビィをキャスティングするため、彼女の恋人でマネージメントを担当しているポールを巧みに説得。
さらにスポンサーの出資を得るため、コルドバは大演説を催し、隣の部屋でそれを聞いていたマートン夫妻は、自分たちの脚本とまったく違った内容になっていると困惑します。
トニーとギャビィは階段でばったり出逢い挨拶を交わしますが、ほんのちょっとした言葉のすれ違いで、すっかり仲違いしてしまいます。
リハーサルが始まりますが、段取りも悪い上にトニーとギャビィは息が合わず、ついにトニーは癇癪を起こし、帰ってしまいます。
ホテルに戻っても怒りがおさまらないトニーのもとにギャビィがやってきます。ギャビィは謝りますが、「どうせ誰かに言われてしぶしぶ来たんだろ」と言われ、かっとなって「そうよ」と応えます。
しかし、彼女はトニーを尊敬しており、緊張のあまり気持ちと間逆な態度を取ってしまったのだと泣き出します。
トニーも「実は僕も君や若い人たちが怖かったんだ」と気持ちを吐露し、二人は和解。「私たち一緒にちゃんと踊れるかしら」というギャビィに「試してみよう」とトニーは応え、二人は外出して馬車に乗ります。
ずっと室内で篭もりきりだったので、ただの木や草が新鮮に感じられ、開放的な気分になった二人は、夜の公演で供ににステップを踏み、踊れることを確信します。
開演まであと3日。稽古も舞台装置もまだまだ不十分。舞台のせりがちぐはぐだったり、照明が下がってきたりと大惨事です。本番を迎えられるのでしょうか。
いざ!本番
初日がやってきました。芝居がはけ、劇場のドアが開くと、観客が皆、能面のような顔をしてぞろぞろ無言で出ていきました。
トニーがホテルの祝勝会に出向いてみると誰もいません。居心地が悪いので自分の部屋に戻ろうとした時、なにやら楽しげな歌声が聞こえてきます。行ってみると若い共演者たちがささやかなパーティをしていました。
ギャビィもやってきます。一同は陽気に歌い踊りますが、やはり芝居の失敗はショックでしんみりしてしまいます。
その時、トニーが叫びます。「この素晴らしいメンバーをこのままにはしておけない。脚本を書き直して巡業に出よう。もっと明るい楽しい芝居をやろう!」
皆、大いに盛り上がります。ふと部屋の隅を見ると、なんとコルドバが座っているではありませんか。「私のやり方は間違っていた。チーフは、トニー、君だ。私も仲間になりたい」と彼は言います。
でも資金は? 「絵があるさ」とトニー。彼は名画のコレクションを手放して資金を作りました。
フィラデルフィア、ボストン、ワシントン、巡業は好評でついに明日はニューヨークでの初日です。そんな時、トニーはポールが結婚するらしいという噂を耳にします。恐らく相手はギャビィでしょう。トニーは気付きます。僕は彼女を愛していると。
ザッツ・エンターティンメント
いよいよ公演初日! 雨降りの中、楽屋に入るギャビィのもとにトニーが駆け寄ります。「ヒットしたらずっと一緒だ。僕にうんざりしないかい? ひとつ聞いてもいいかい? 僕たちの間には壁がある気がするんだ。・・・やめておこう」
「その方がいいわ」とギャビィは微笑み、二人は互いに励まし合い、本番に望みます。
ギャビィによる「New Sun In The Sky」、トニーとコルドバのタップの競演「I Guess I’ll Have to Change My Plan」、リリーのパワフルな「Louisiana hayride」、トニー、リリー、コルドバが三つ子に扮したブラックユーモアたっぷりの「Tripls」とショーは続きます。
そして、最後はミッキー・スピレィンばりのハードボイルドの世界。トニー扮する探偵がギャビィ扮する金髪の怪しげな美女に巻き込まれ危険な目に合いながらも、事件を解決。意外な黒幕も判明します。
芝居がはけ、正装しているトニー。付き人にホテルの祝勝会場の様子を聞くも「誰もいません。当世はこんなものです」という返事。
ではナイトクラブで飲もうと階段を降りようとしたトニーは思いがけない光景を見て立ち止まります。
出演者全員が美しく着飾り彼を出迎えているのです。ギャビィが前に出て「あなたと共演できて光栄です。確かに壁があったわ。でももう消えたの」と愛を語ります。
「ショーはロングラン。そして私は永遠にロングランよ」というギャビィにトニーは笑顔で近づき、二人はキスします。
マートン夫妻とコルドバが「ザッツ・エンターテインメント」を歌い始めます。トニーとギャビィが続き、最後は全員で「ショーは喜びをもたらす、心に響くもの」と熱唱するのでした。
映画『バンドワゴン』の感想と評価
『バンド・ワゴン』は、アーサー・フリードという名プロデューサーのもと、ヴィンセント・ミネリが監督、フレッド・アステアが主演したMGMミュージカルの代表作です。
本作の主題歌ともいうべき「ザッツ・エンターテインメント」はミュージカル映画の歴史を描いた作品のタイトルとなり、Part2も作られました。
今でも『巴里のアメリカ人』と並んでアメリカミュージカル映画の最高峰と語られる不朽の名作です。
トニー・ハンターを演じたフレッド・アステアは当時50代。RKOミュージカルの大スターだった彼は、一度引退したあと、アーサー・フリード、ヴィンセト・ミネリコンビのMGMミュージカル『イースター・パレード』(1948)でカムバック。見事な復活を見せます。
本作でも紳士的でエレガント、軽やかでダイナミックな素晴らしいダンスと甘い歌声を披露。ギャビィ役のシド・チャリシーは長い手足が魅惑的でバレエを基盤にした見事なダンスを見せてくれます。
二人が背後に摩天楼がそびえる公園でDancing in the darkを踊り、そのまますっと自然に馬車に戻って余韻にひたるように席につく場面にはうっとりさせられます。
本作は芝居を作り上げていく様を描く一種のバックステージもので、様々なトラブルが生じますが、実際の現場も似たようなことが起こっていたようです。
アステアは、チャリシーの背が高いと気にしていたようですし、彼女も尊敬する俳優との共演に緊張しすぎて最初は関係がぎくしゃくしていたとか。他の演者間、スタッフ間のトラブルもあったようです。
それもこれも良いものを作ろうとするエンターティナーのせめぎ合いなのです。まさに映画と現実がシンクロしています。
本作において全編に流れているのはこの上もない多幸感です。観ていて思わず微笑んでしまう、気持ちが弾む、それこそがMGMミュージカルの最大の魅力なのです。
まとめ
魅惑的なナンバーの数々を作ったのはハワード・ディーツ、アーサー・シュワルツのコンビ。「ザッツ・エンターテインメント」は一度耳にすればすぐに口ずさめるキャッチーな曲。
アステアがアーケードで靴磨きと踊るのは「Shine on your shoes」というナンバー。ほとんどカットを割らず撮っており、故障していたかと思われたジャック・ポットが派手に開く(監督はこれを何度も作り直させたのだとか)など、陽気な場面に仕上がっています。
ショーで三つ子が踊る場面は実際、役者が三頭身の赤ちゃん姿で、どうやって撮ったのか興味深く、また、歌詞のブラックさに笑ってしまいます。
ラストのハードボイルドタッチの舞台も見事というしかなく、一流のスタッフ、一流の役者が作り上げたまさに宝物のような映画なのです。