大島渚監督の遺作『御法度』! 主演は新人松田龍平が務めます。
司馬遼太郎の短編小説を原作にした異色時代劇『御法度』。
幕末の京都を席巻していた新撰組に一人の美少年が入隊したことから、殺風景な男性軍団は色めきたちます。規律厳しい隊の中の男色恋愛騒動を、大島渚監督が独自の視点で、幻想的に描き出します。
新撰組の近藤勇、土方歳三、沖田総司には、それぞれ崔洋一、ビートたけし、武田真治が演じ、故・松田優作の長男・松田龍平が男たちの心を惑わす美少年剣士を熱演。
ストーリーの面白さに加え、豪華絢爛な衣装の斬新さ、照明を上手く使った夜間の殺陣シーンの美しさなど、見どころたっぷりの本作を、ネタバレありでご紹介します。
映画『御法度』の作品情報
【公開】
2014年(日本映画)
【原作】
司馬遼太郎:『新選組血風録』(「前髪の惣三郎」「三条磧乱刃」)
【脚本】
橋本裕志
【監督】
大島渚
【製作総指揮】
大谷信義
【音楽】
坂本龍一
【キャスト】
松田龍平、ビートたけし、武田真治、浅野忠信、崔洋一、的場浩司、トミーズ雅、伊武雅刀、神田うの、吉行和子、田口トモロヲ、桂ざこば、坂上二郎
【作品概要】
幕末に一大旋風を巻き起こした新撰組。司馬遼太郎の短篇小説を基に、男気のある武闘集団を、大島監督がまったく新しい解釈で綴った異色時代劇。
規律厳しい隊の新人として入隊した一人の美剣士。男の色気漂い、隊士を惑わす主役の美剣士役は故・松田優作の長男・松田龍平が好演。ビートたけし、武田真治、浅野忠信ら、豪華キャストが脇を固めています。
映画『御法度』のあらすじとネタバレ
1865年、京都。池田屋事変のあと、新撰組がすっかり幕府を守る治安部隊として組織化していました。
そんな中、近藤勇(崔洋一)と土方歳三(ビートたけし)は西本願寺で新たな隊士を募ろうとしていました。
剣の腕を見極める立ち合いで一番隊の長、沖田総司(武田真治)が入隊を希望する男性たちを吟味。するとその中に1人の少年がいました。
彼は前髪を下ろし剣の腕前は人並以上。しかしそれよりも目を引いたのはその美しさでした。
結局、入隊を許されたのは、加納惣三郎と名乗ったその少年(松田龍平)と細身の男性剣士、田代豹蔵(浅野忠信)の2名でした。
剣術だけで入隊を許すとはいかがなものか?という意見もありましたが、土方は「新撰組は歯向かうものを斬るための集団だ」と言って、新人の入隊を許可しました。
新撰組局長・近藤は、加納の妖艶な美しさに目を奪われます。それを言葉もなくじっと後ろから見つめる土方。
隊士はみな、入隊後、同室で寝泊まりしています。加納と田代は隣同士、枕を並べて寝ることになりました。
田代はもともと男色の気があり、美しすぎる加納に言い寄ろうとしますが、加納自身はその気はなかったので強く拒絶します。
女人禁制の男性だけの世界で美しすぎる加納の容姿は、他の隊士たちの注目を浴びます。
「女をまだ知らないようだ」と噂が立つと、加納は次第に田代ばかりか、他の隊士からも言い寄られるようになりました。
しばらくして、田代と加納が打ち合い稽古をしますが、必ず田代が勝ります。それを見た土方は「こいつら、できてるな」と確信を持ちました。
土方は、長い間、厳しい規律を重んじてきた新撰組の秩序が乱れることを心配します。その一方、近藤はどこか加納を庇うような可愛がるような発言をして、それがますます土方を焦らせます。
腑に落ちず、幼なじみである沖田に加納のことを相談すると「そういう風潮は嫌いだ」と告げるだけ。
土方も「血気盛んな男たちが様々な場所から集い夢や空想を語るうち、現実と区別がつかなくなってしまう」とこぼすと「悪人が悪人を呼ぶ、親玉は土方さんだよ」と笑みを浮かべた。無邪気な沖田の発言に困惑する土方。
ある日、隊内のことを聞かれ、どこかのらりくらりと交わす近藤に、ついに土方は「あんたはどう思っているんだ!」と怒鳴ってしまいました。
局長に詰め寄る副長の姿は隊士たちに動揺が広がっていきます。結局、答えはもらえないまま、近藤は旅に出、土方と沖田は留守を預かります。
ある日、寺内でひとり居眠りをしている老人を加納が見つけ注意しました。
老人が刀を持っていたので「流派はなにか?」と尋ねると「若先生やトシさん(土方)と同じだよ」と穏やかに答えた。それを聞いて隊士とわかり、非礼を詫びる加納。
その後で隊士たちと談笑する沖田に老人のことを尋ねると、井上さんという人だということが分かりました。老人だと思っていた男性は老人ではなく、40歳ぐらいとのこと。
新撰組の中でも階級はとても高いが、腕はそれほどでもないとそうです。その老人は井上源三郎でした。
その後、加納は井上と稽古をします。明らかに腕は加納の方が上でしたが、目上の先輩ゆえ、加納は稽古を続けます。
2人の腕は歴然だったので、それを稽古場の外からのぞき見をしていた侍2人が侮辱する言葉を残して逃げて行きました。
騒ぎを聞き、土方は井上から事情を聞きます。そして「その侍たちを探し出し始末するように」と告げます。
そして、なぜ腕が違いすぎる加納の相手をしたのかと聞いたところ、口籠もった井上を庇うように沖田が「源さんに稽古をつけてもらうように俺が言ったんだ」と庇うような発言をします。
その後、何とか侍たちを見つけると、井上と加納は川辺に追い込みました。しかし男たちの腕は強く井上は足を折り、加納は額を怪我してしまいます。
映画『御法度』の感想と評価
妖しげな魅力をまとうキャスト陣
本作は、時代を動かしたともいえる新選組を、衆道とよばれる男色の視点で描いた異色時代劇。
新入隊の加納惣三郎が、同期入隊の田代彪蔵に男色の世界へ引き込まれ、最初はこれを拒んでいた加納もやがて衆道にのめり込み、新選組の統制を乱したとして、土方歳三と沖田総司によって粛清されるまでを描いています。
美少年剣士の加納惣三郎を演じているのは、故・松田優作の長男で新人の松田龍平。切れ長の目と色白できりっと引き締まった口元。あどけなさが残る顔立ちは、阿修羅のように強面の揃った隊士たちの注目をあびます。
そして、加納惣三郎を恋人にしようと、男たちの嫉妬や駆け引きは見えないところでおこります。衆道とよばれるその行為は、女性への色恋沙汰同様、新撰組の規律を乱すものでした。
規律を重んじる近藤や土方、そして沖田も、加納惣三郎に声をかけたのか? とお互いに疑心暗鬼になる様子も詳細に描かれ、人斬り集団と恐れられた新撰組のトップたちの人間臭さも浮き彫りになります。
土方歳三を演じるのは、ビートたけし。局長の近藤の顔色を見、幼馴染みの美男子沖田の心中を探り、加納惣三郎が誰と出来ているのかと模索します。
ラストで加納惣三郎は隊律に背いたとして処罰されるのですが、土方の腹立たしい想いは消えません。怒りにまかせて、近くに立っていた桜の枝をバッサリ切り倒します。
武士の時代を護ろうとする新撰組の固い結束を揺るがすものが、土方は許せなかったのでしょう。
夜目にも美しい桜は、美の象徴と捉えられますが、人の心を惑わす妖とも思えます。土方が迷わず叩き切ったもの、それは、現世に住み着いて、人の心を虜にしてしまう魔物だったのかも知れません。
加納惣三郎に憑りついた衆道の魔物は姿こそ現しませんが、魔物に魅せられたかのように、美しく妖しげな演技を披露するキャスト陣に目を見張ります。
監督が描く新選組の衆道
近藤勇の元治元年(1864年)5月20日の書簡には、隊内で男色が流行したと記されていますので、この物語は全くのフィクションとは言えません。
また存在が未確認とはいえ、島原通いで粛清された加納惣三郎という隊士の逸話も残っていて、原作者司馬遼太郎はこれらの話に着想を得たと思われます。
作者の世界観を見事に映像化したのが、大島渚監督です。阿部定事件をモチーフにした『愛のコリーダ』(1976)や『戦場のメリークリスマス』(1983)などの代表作を持つ監督が、新選組の機密をクローズアップ。
監督は、『戦場のメリークリスマス』でもホモセクシャルに近い世界を描きました。
閉鎖された空間で昼夜を問わず一緒に生活する者たちは、男女を問わず性別の垣根を飛び越えて、いつしか意識し合うようになるのではないでしょうか。
明日の命もどうなるかわからない軍隊や新選組のような殺人集団において、性欲は生きているという証でもあるのです。
もちろん、衆道(男色)は正常な恋でない、と本作の隊士たちもわかっています。けれども、一度火のついた気持ちは消しようもありません。
離れたくない、けれどもこれ以上近づきたくないと、付かず離れずの極限にまで追い込まれた複雑な心理があちらこちらに見受けられました。
本作では、史実でもあるこのような危うい人間関係が、坂本龍一の幻想的な音楽に乗って、ドラマチックに展開されていきます。
まとめ
本作は新選組のお話を衆道(男色)という点から描いています。前作『戦場のメリークリスマス』に続いて大島監督が手掛けました。
ビートたけしを筆頭に、武田真治、浅野忠信、崔洋一、的場浩司、トミーズ雅、伊武雅刀といった芸達者な面々に加え、美少年剣士に初々しい魅力を放つ松田龍平を抜擢。
松田龍平は、新人ながらも「御法度」の男色に走り、規律を乱すものとして処罰される薄幸の美剣士を見事に演じ切りました。
人として真っ当な恋愛のカタチを問われるような気になる本作。
溢れんばかりの色気とともに、禍々しい妖気さえ感じられる出来栄えは圧巻です。