Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2021/08/31
Update

映画『素晴らしき、きのこの世界』感想と考察解説。自然科学ドキュメンタリーが迫るキノコワールドの神秘|だからドキュメンタリー映画は面白い62

  • Writer :
  • 松平光冬

連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第62回

今回取り上げるのは、2021年9月24日(金)より、新宿シネマカリテ・ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国順次公開の『素晴らしき、きのこの世界』

本作は、きのこ・菌類の秘めたる力に迫ったドキュメンタリー映画。「タイムラプス映像のパイオニア」と言われる映像作家ルイ・シュワルツバーグが手掛けました。

きのこ・菌類の秘めたる力に迫った、驚異の映像美が話題の一本です。

【連載コラム】『だからドキュメンタリー映画は面白い』記事一覧はこちら

映画『素晴らしき、きのこの世界』の作品情報


(C)2018, Fantastic Fungi, LLC

【日本公開】
2021年(アメリカ映画)

【原題】
Fantastic Fungi

【監督】
ルイ・シュワルツバーグ

【脚本】
マーク・モンロー

【ナレーション】
ブリー・ラーソン

【キャスト】
ポール・スタメッツ、マイケル・ポーラン、ユージニア・ボーン

【作品概要】
ナショナルジオグラフィックやディズニーネイチャーのドキュメンタリー作品を手掛け、「タイムラプス映像のパイオニア」と言われる映像作家ルイ・シュワルツバーグが、きのこ・菌類の秘めたる力に迫ったドキュメンタリー映画。

アカデミー賞受賞作『イカロス』(2017)や『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』(2018)のマーク・モンローが脚本を担当。大のきのこ好きという女優のブリー・ラーソンが、ナレーションを務めているのも話題です。

本国アメリカでは20週にわたる超ロングラン上映が行われ、アメリカの映画批評サイト「ロッテントマト」でも100点を獲得するなど高く評価されました。

映画『素晴らしき、きのこの世界』のあらすじ


(c)2018, Fantastic Fungi, LLC

食物としてのみならず、生命の再生や維持、アルツハイマーやがんの治療、環境汚染の浄化にまで役立つことから、地球上の様々な問題への応用が期待されているきのこ・菌類。

幻覚作用をもたらす一方で、人間の命を救うほどの力も持っていると言われます。

本作では、そうしたきのこ・菌類の可能性を提示すべく、菌類学者ポール・スタメッツやジャーナリストのマイケル・ポーラン、人気フードライターのユージニア・ボーンら専門家が、医療や環境問題に対する菌類を用いた解決策を明かしていきます。

秘密主義者きのこ


(c)2018, Fantastic Fungi, LLC

本作『素晴らしき、きのこの世界』は、おそらく映画史上初と思われる、“きのこ・菌類”に特化したドキュメンタリーです。

動物のように自ら動くわけでもなく、かといって草木のような植物にカテゴライズされるかといえば、ちょっと違う。動物でも植物でもない、秘密主義に包まれたこの不思議な生物。

ですがその実は、土中に張り巡らせた菌類のネットワークによって、物質を腐らせ分解し、菌類同士や他の生物と栄養素を共有、つながりを形成し、それを生きた土壌に変える力を備えています。

そうしたきのこ・菌類の生態を、『素晴らしき、きのこの世界』は1枚ずつ撮影された写真をつなぎ合わせてコマ送り動画にする手法「タイムラプス」で撮影。神秘的かつ驚異の映像美が堪能できます。

好きこそ物の上手なれ

(c)2018, Fantastic Fungi, LLC

本作では、そんなきのこ・菌類に憑りつかれた専門家たちが多数登場し、その魅力と可能性を語ります。

たとえば、メイン被写体ともいえる菌類学者のポール・スタメッツは、吃音症に悩まされていた少年時代に、好奇心で口にしたマジックマッシュルームでトリップ体験をしたことで、吃音が突然治り、これが菌類の世界に目覚めたと告白。

また、ニューヨークで活躍するフードライターのユージニア・ボーンは、自身を含めた菌類愛好者を“マイコフィリア”と称し(逆にきのこが嫌いな者は“マイコフォビア”と呼ぶとか)、「万物はきのこが原因で起きている」として、きのこからなる新薬開発や地球環境の保全エネルギー問題など、私たちの生活にいかにきのこが密接に関わっているのかを、切々と語ります。

愛してやまない物事を追求していくうちに、いつの間にかその分野の第一人者に……「好きこそ物の上手なれ」とばかり、彼らはさかなクンや恐竜くんのように、きのこ・菌類で人生が大きく変わったのです。


(c)2018, Fantastic Fungi, LLC

きのこ・菌類にまとわりついている怪しさ、いかがわしさ、そして神秘性が、本作にはすべて詰まっています。

専門家たちが語る意見の中には、正直眉唾ものと感じずにはいられないものもあるかと思います。しかし、怪しさ、いかがわしさ、そして神秘性は、未来への希望と置き換えることもできるでしょう。

空中を舞う胞子を掴みきれないように、知っているようで知らないきのこワールドに足を踏み入れてみるのも、また一興かもしれません。

次回の連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』もお楽しみに。

【連載コラム】『だからドキュメンタリー映画は面白い』記事一覧はこちら




関連記事

連載コラム

『彼女が好きなものは』あらすじ感想と評価解説。小説を原作にセクシュアルマイノリティの青春模様を描く|TIFF2021リポート2

『彼女が好きなものは』は東京国際映画祭2021Nippon Cinema Nowにて上映、12月3日(金)全国ロードショー! 2021年、舞台を日比谷・有楽町・銀座地区に移し実施された東京国際映画祭。 …

連載コラム

映画『南スーダンの闇と光』感想と考察評価。戦場カメラマンという存在の意義|2020SKIPシティ映画祭2

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020エントリー・ベン・ローレンス監督作品『南スーダンの闇と光』がオンラインにて映画祭上映 埼玉県・川口市にある映像拠点の一つ、SKIPシティにて行われるデジタルシネ …

連載コラム

映画『バルバラ セーヌの黒いバラ』あらすじと感想。評価された孤高の歌姫とは|映画と美流百科13

連載コラム「映画と美流百科」第13回 今回取り上げるのは、2018年11月16日(金)から東京・渋谷のBunkamuraル・シネマほか全国で公開される『バルバラ セーヌの黒いバラ』です。 1950年代 …

連載コラム

『浜辺のゲーム』あらすじと感想。ヴァカンス映画の引用と軽く境界線を越える人物たち|銀幕の月光遊戯29

連載コラム「銀幕の月光遊戯」第29回 湘南を舞台に、一軒の別荘に集まってきた3人組の女子と個性的で国際的な面々・・・。 大阪アジアン映画祭2019のコンペティション部門で初上映され、反響を呼んだ夏都愛 …

連載コラム

映画『イソップの思うツボ』あらすじと感想。カメ止めに続く「どんでん返し」の魅力|2019SKIPシティ映画祭1

映画『イソップの思うツボ』が2019年7月13日、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭にてオープニング上映! 埼玉県川口市にて、“映画産業の変革の中で新たに生み出されたビジネスチャンスを掴んでいく若い才能 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学