観客を震撼させた!!
アフリカで合法的に行われている自然動物の殺戮。トロフィー・ハンティングの実態に迫ったドキュメント映画作品とは?
人間の倫理観に問いかけた作品をご紹介します。
1.映画『サファリ』の作品情報
【公開】
2018年(オーストラリア映画)
【原題】
Auf Safari
【監督】
ウルリヒ・ザイドル
【キャスト】
ゲラルド・アイヒンガー、マニュエル・アイヒンガー、エヴァ・ホフマン、ティナ・ホフマン、マンフート・エリンガー、インゲ・エリンガー、マリタ・ネーマン、フォルカー・ネーマン
【作品概要】
アフリカ24カ国で許可されている、お金を払い自然動物を殺戮するトロフィー・ハンティングにスポットを当てた作品。
第73回ヴェネチア国際映画祭、第41回トロント国際映画祭、第29回東京国際映画祭、第60回ロンドン映画祭に正式出品されました。
2.映画『サファリ』のあらすじとネタバレ
ある夫婦がニアラは160ユーロ、ヌーは615ユーロ、キリンは3500ユーロと次々と動物の名と金額を言います。
それはその動物を殺すためにかかる費用でした。
男性が現地のガイドに連れられ、息を潜め静かに動物に忍び寄って行きます。
そして銃を構えて、ガイドの合図で発砲しました。
しかし、銃弾は外れ獲物に逃げられてしまいました。男性は肩を落として「よく見えなかったんだ」と言い訳をします。
金を払って動物を殺す。これをトロフィー・ハンティングと言います。
トロフィー・ハンティングに魅せられた若者から老人達は、ハントした動物の首の剥製の前でその魅力を語ります。
ある夫婦は銃弾が動物に的中した時の快感を語ります。
狙いを澄まして極限まで集中し、発砲した後に獲物が倒れると、この上ない高揚感があると言いました。
その高揚感がたまらない。次はもっと大きな獲物を狙いたいと笑顔で言います。
また殺害ではなく、仕留めると呼んでほしいという願いを語りました。
ある若いカップルもまた、トロフィー・ハンティングの魅力を語ります。
闇雲に銃弾を撃ってはダメであり、一発で息の根を止めることに美学があると言います。
また綺麗な毛皮を持つ動物を仕留めたい、シマウマやキリンに挑戦したいと言いました。
使用する銃についても、動物に対して最適なものが何であるかを雄弁に語ります。
彼らハンターは動物を仕留めると、記念撮影をするだけで食べることはしません。
娯楽として動物を仕留めていたのでした。
3.映画『サファリ』の感想と評価
ドキュメンタリー映画は、実際に現代にあるものや、存在しているものを表沙汰にしたり、実態に迫るところに魅力があると思います。
こんな世界があるんだ!とか身近なものの危険に気づかされて危ない!と思ったり、やはり、発見や驚き、そして衝撃を感じたいものです。
本作『サファリ』では、文句なしに衝撃的な映像、価値観を観ることが出来ました。
そのなかでも1番の衝撃映像は、キリンの解体シーンです。
牛や豚、鹿やイノシシなど食用の動物たちが解体されているのは見たことがあったのですが、動物園にいて、いわばアイドル的なイメージの動物たちが殺され、皮を剥がれるのはとてもショッキングな映像でした。
またそのショックが強く、鑑賞している観客に人間の倫理観、価値観のあり方を訴えていました。
参考映画:『スーパー・サイズ・ミー』(2004)
映画『スーパー・サイズ・ミー』はファストフードを自らが30日間食べ続けることによって、その危険性を証明する内容の作品です。
「〇〇してみた」というまるでユーチューバーの先駆けのような、クレイジーな挑戦ですが、ファストフード店が利益の為に健康を無視しているとして、大真面目に注意勧告しています。
ジョークを交えながらもどんどんと元気を失っていく主人公の姿は、見ていてとても切ないです。
強大なファストフード市場に立ち向かう、たったひとりの勇者のような構図がとても応援したくなるし、見ていても楽しいです。
対照的に映画『サファリ』では「いけないことだ!」と狼煙をあげる人物は一切登場しません。
淡々とトロフィー・ハンティングを楽しむ人々やそれに関わる人々が映されていくだけです。
文字だけの説明で見れば、もしかしたらトロフィー・ハンティングに興味を持ち、自分もやりたいと思う人が出てもおかしくないような内容なのです。
しかし、ガイドに言われるがままついて行く姿、魅力を雄弁に語る姿、のうのうとサバンナのど真ん中で記念撮影をする姿、称え合い抱きしめ合う姿などが全て、同じテンションで淡々と撮影されているために、滑稽さが浮き彫りになります。
このとても皮肉の効いた演出は映画『サファリ』の素晴らしい点だと思いました。
最後のシーン、トロフィー・ハンティングの経営者が「人間が生態系のトップにいること自体が間違っている」と語ってエンドロールが流れます。
サバンナの夜の環境音が静かに流れているだけなのですが、「それがどうしたの?だからってやっていいの?」と監督が言っているように思えました。
少なくとも筆者の頭の中にはその言葉が浮かんでいました。
4.まとめ
トロフィー・ハンティングのことなど全く知りませんでした。
勝手にアフリカの動物たちは、何かしらの法律で保護されているんだろうと、ぼんやり思っていただけに衝撃度は大きかったです。
また、ドキュメンタリー映画はダレてしまいがちなことが多いですが、ウルリヒ・ザイドル監督の演出は気が利いていて単純に面白いです。
ぜひトロフィー・ハンティングの実態を確認してください!