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Entry 2021/08/06
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映画『ドライブ・マイ・カー』あらすじ感想と解説。村上春樹の原作を西島秀俊が演じたカンヌ映画祭脚本賞受賞作品|映画という星空を知るひとよ72

  • Writer :
  • 星野しげみ

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第72回

映画『ドライブ・マイ・カー』が、2021年8月20日(金)より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショーされます。

村上春樹の短編小説『ドライブ・マイ・カー』を、濱口竜介が監督・脚本を務めて映画化。第74回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、日本映画では初となる脚本賞を受賞しました。

俳優であり演出家の家福は、愛する妻と満ち足りた日々を送っていましたが、妻は秘密を残して突然この世からいなくなってしまいます。

喪失感を抱えたまま2年がたち、家福は広島の演劇祭にでかけ、ドライバーとして渡利みさきを雇います。寂しい過去と秘密を持つみさきが運転する愛車の中で、孤独な2人が次第にお互いの寂しさを理解するように……。

家福は西島秀俊、みさきは三浦透子、家福の妻・音に霧島れいかと、それぞれ実力派が演じます。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

映画『ドライブ・マイ・カー』の作品情報


(C)2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

【公開】
2021年(日本映画)

【原作】
村上春樹『ドライブ・マイ・カー』(短編小説集「女のいない男たち」所収/文春文庫刊)

【脚本】
濱口竜介 大江崇允

【監督】
濱口竜介

【音楽】
石橋英子

【出演】
西島秀俊、三浦透子、霧島れいか、パク・ユリム、ジン・デヨン、ソニア・ユアン、ペリー・ディゾン、アン・フィテ、安部聡子、岡田将生

【作品情報】
原作は、村上春樹による短編小説『ドライブ・マイ・カー』。この小説の映画化を熱望し、自ら脚本も手掛けるのは、気鋭・濱口竜介監督です。カンヌ映画祭コンペティション部門に選出された2018年の『寝ても覚めても』、ベルリン映画祭での銀熊賞受賞を果たした短編集『偶然と想像』(2021公開予定)、脚本を手掛けた『スパイの妻』(2020年)が、ヴェネチア映画祭銀獅子賞受賞など、受賞作も多数。

主役の家福に扮するのは、『サイレントトーキョー』(2020)などの名優西島秀俊。ドライバーのみさきを『月子』(2017)の三浦透子が演じるほか、若手俳優高槻に『さんかく窓の外側は夜』(2021)の岡田将生、家福の最愛の妻音に霧島れいか、と実力派俳優陣が集結。

本作は第74回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、日本映画では初となる脚本賞を受賞しました。国際映画批評家連盟賞、AFCAE賞、エキュメニカル審査員賞の3つの独立賞も受賞。

映画『ドライブ・マイ・カー』のあらすじ


(C)2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

夜明け前の薄暗い寝室。

「彼女は時々、山賀の家に空巣に入るようになるの」

ベッドの上で舞台俳優で演出家の家福悠介(西島秀俊)の妻・音(霧島れいか)が、静かに話し始めました。

翌朝、家福は愛車のサーブを走らせながら、昨夜音が語った話を繰り返し音に話します。妻の音はゆうべ自分が話したことを覚えていないようなのです。

家福の話を聞きながら、音はスマホに要点を打ち込んで行きました。脚本家の音はその話を作品にするつもりのようでした。

このように家福と音の毎日は、平穏で愛に満ち足りたものです。

現在家福が、演出もし俳優として出演している舞台は『ゴドーを待ちながら』。家福の出演の合間をぬうように、音が知り合いの役者を紹介したいと楽屋を訪れました。

その役者・高槻(岡田将生)は、家福の舞台を見た感想を興奮気味に話します。家福はお礼を言って、着替えるからと退室を促します。

貞淑な妻のように見える音ですが、実は家福が地方へ出張すると、若い俳優を自宅に連れ込んで浮気をしていました。

家福はそのことを知っていましたが、気がつかないふりをして、普段通りに音と接しています。

浮気する妻とそれを知っていながら知らんぷりをする夫。

お互いに後ろめたいことを抱えながら、病死した愛娘の法事を済ませた翌日、音はいつになく思いつめた表情で家福に「今晩帰ったら少し話せる?」と言いました。

音の話が何なのか、気になりながら、真っ直ぐに帰る気がしない家福は、愛車であてもなく夜の街を走ります。

車内に流れるのは、戯曲『ワーニャ伯父さん』のセリフを吹き込んだテープで、音の声が吹き込まれていました。

家福がやっと自宅に帰ると、音はキッチンで倒れていました。くも膜下出血と診断され、音は家福に話しをしないまま、他界してしまいました。

2年後、喪失感を抱えながら生きていた家福は、広島の演劇祭で演出を担当することになります。

愛車のサーブで広島へ向かった家福ですが、演劇祭主催者側の方針でドライバーを雇うことにしました。専属ドライバーとして、渡利みさき(三浦透子)が雇われました。

演劇祭の出し物『ワーニャ伯父さん』の出演者のオーディションが行われ、応募者の中には、音に紹介された役者の高槻もいました。

家福は高槻を含めたオーディション合格者を集めて、素読みを開始し始めました。

レッスン会場に、家福はみさきが運転する愛車サーブでやってきます。

いつも愛車内では、BGMのように音の声のセリフを吹き込んだテープを流し、愛する妻の思い出に浸る家福。

何を考えているのかわからない寡黙なみさきですが、テープの声の主にいつしか惹かれていきます。

映画『ドライブ・マイ・カー』の感想と評価


(C)2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

カセットテープの声

愛する妻と平和に暮らしていた家福。ある日「今晩、話せる?」と妻に言われますが、その話を聞く前に妻は突然死してしまいます。

家福に残されたのは、妻の話を聞いてやれなかった後悔と懐かしい思い出ばかり。ぽっかりと穴のあいた心を抱えたまま2年がたち、家福は愛車で映画祭の行われる広島へ行きます。

そこで雇った専属ドライバーのみさきに車の運転を任せ、妻の音が劇『ワーニャ伯父さん』のセリフを吹き込んだカセットテープを掛けます。

車のエンジン音に交じり、狭い車内に響く妻・音がセリフを読む声が流れます。

黙ってテープを聞いている家福。妻との後悔の残る別れ方をした家福にとっては、切なくほろ苦い想いが増すひとときと予想されます。

ですが、家福は妻の形見のようなカセットテープを聞くことを止めようとはしません。

音を演じる霧島れいかの美しい声が、延々と続く哀しい呪縛のように、家福を絡みとっていきます。

逝った者は二度と戻ってこない……。

家福を演じる西島秀俊のどこにも持っていき場のないやるせない思いがこもった演技に注目です。

劇中劇が示すモノ


(C)2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

主役の家福は舞台俳優で演出家。劇中劇で用いられているのは、サミュエル・ベケットの『ゴドーを待ちながら』とアントン・チェーホフの『ワーニャ伯父さん』です。

特に『ワーニャ伯父さん』は、オーディションから舞台稽古、上演までをストーリーに組み込ませていますので、本作の中核部分を押えているといえるでしょう。

亡き妻のカセットテープのセリフを聞いていた家福は、ワーニャ伯父さんと自分をいつの間にか一体化して考えていたのかもしれません。

一方の専属ドライバーのみさきは、哀しい生い立ちゆえに、人の言葉から本心が本能的にわかると言います。

家福の愛車サーブに高槻も同乗し、家福の妻・音について話しますが、それは嘘でも演技でもなく本当のことだ、とみさきは言い切りました。

誰もが抱える現実問題から逃げずに、向き合わなければならないというメッセージも感じられるワンシーンです。

本作は、ロケ地も、東京、広島、北海道、韓国と多く、マイカーで走っているような爽快感とロケ地の景観も楽しみの一つ。

上映時間179分という長編ですから、約3時間の劇場ドライブを体験してみてください。

まとめ


(C)2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

『ノルウェイの森』『海辺のカフカ』『1Q84』などの代表作を持つ村上春樹原作の短篇小説『ドライブ・マイ・カー』。

愛する妻に先立たれ、喪失感を抱える男・家福の姿を追う小説を、濱口竜介監督が映画化しました。

人間は、常に前を向いて前進ができます。また反対に、思い出の中で立ち止まることもあります。

立ち止まっても、再び前を向いて進み出せばいい。方向を変えることも速度を変えるもこと可能だから……。

亡き妻を偲ぶ男の物語から、絶望の淵から這い上がるにはどうすればいいのかを、じっくりと考えさせられる作品となっています。

映画『ドライブ・マイ・カー』が、2021年8月20日(金)より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー!

次回の連載コラム『映画という星空を知るひとよ』もお楽しみに。

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