Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

SF映画

映画『ジュピターズ・ムーン』感想。浮遊の評価とラスト結末の考察は

  • Writer :
  • シネマルコヴィッチ

映画『ジュピターズ・ムーン』は1月27日より全国順次公開。

コーネル・ムンドルッツォ監督は、前作で犬たちと少女の対峙を描いた『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲』に引き続き、信頼をテーマに3部作の2作目と位置付けたのが、『ジュピターズ・ムーン』。

メインのモチーフは浮遊する難民。その意味とラスト結末で解釈とは?

1.映画『ジュピターズ・ムーン』の作品情報


2017 (C) Proton Cinema – Match Factory Productions – KNM

【公開】
2018年(ハンガリー・ドイツ合作映画)

【原題】
Jupiter holdja

【脚本・監督】
コーネル・ムンドルッツォ

【キャスト】
メラーブ・ニニッゼ、ゾンボル・ヤェーゲル、ギェルギ・ツセルハルミ、モーニカ・バルシャイ

【作品概要】
第67回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリを獲得した『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲』のコーネル・ムンドルッツォ監督によるSF映画。

前作『ホワイト・ゴット』とともに、“信頼三部作”と監督自らが述べ、その2作目に当たる作品です

2.映画『ジュピターズ・ムーン』のあらすじ


2017 (C) Proton Cinema – Match Factory Productions – KNM

暗がりの貨物車内で誰しもが不安な表情を浮かべ、座る場所もなく押し込められたセルビアを逃れた難民たち。

彼らがたどり着いた先はハンガリーとの国境。目指した世界は物も人も豊かで何より身の安全が確保できると夢見たヨーロッパ。

シリア少年アリアン・ダシュニは、父親ムラッドとともに国を逃れ、パスポートや僅かな手荷物を持ち、難民たちと船に乗り換えます。

ところが国境警備隊の包囲網に捕まり銃撃を浴びると、混乱している間に父親と逸れてしまいます。

必死のアリアンはパスポートも何も持たずに、国境越えを目指して全力で走り出します。

しかし、その直後、国境警備隊のラズロに見つかり銃撃されます。

一方で酒に酔ったまま執刀し、将来を有望視されていたアスリートを死亡したことから病院を終れることになった医師シュテルン・ガーボル。

彼の現在の職場である難民キャンプに向かっていました。

前夜の大規模な取り締まりで、難民キャンプは人で溢れかえっていました。

診察室に向かう途中、ある難民からお金を渡されたシュルテンは、手慣れた様子で診断書を渡しキャンプから病院に移る手続きをしました。

シュルテンの恋人で元勤務先で働く女医フェニヴェシ・ヴェラと共謀して、難民を違法に入国させお金を荒稼ぎしていたのです。

それは医療過誤により訴訟を行うアスリートの遺族に取り下げてもらうには、賠償金と同額の現金を受け取らせるしかなかったです。

シュルテンの頭のなかは莫大な金額をどう稼いでいくかありませんでした。

診察室に入ったシュルテンは、銃弾を受け瀕死の重傷で運び込まれた少年アリアンの治療に取りかかります。

ところがシュルテンが診察を始めようとした瞬間、アリアンは身体が変だと言いながら、ゆっくりをと宙に浮き始めました。

驚いたシュルテンは頭を冷やそうといったんその場を離れますが、その間にアリアンは診察室から消えてしまいます。

そこに国境警備隊のラズロが執着するがの如く現れるのですが…。

3.映画『ジュピターズ・ムーン』の感想と評価


2017 (C) Proton Cinema – Match Factory Productions – KNM

本作の感想を述べる前に、コーネル・ムンドルッツォ監督の『ジュピターズ・ムーン』の前作は、2014年公開の『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲ラプソディ』に触れておきましょう。

悪法の名の下に雑種である1匹の飼い犬が捨てられたことをきっかけに、数多くの雑種犬が結集して人間を襲いはじめる様子を、派手な特撮は用いずにリアルに描いた良作でした。

第67回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリと、パルムドッグのW受賞したことは、映画ファンのあなたの記憶に新しいですね。

参考映像:『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲』(2014)

そのハンガリーの俊英である、コーネル・ムンドルッツォ監督が、本作『ジュピターズ・ムーン』の演出にあたり、前作から本作も共通のテーマとして見せるのは、“信じること”だそうです。

カンヌ映画祭の審査員ウィル・スミスも認めた才能!

『ジュピターズ・ムーン』が公式出品された第70回カンヌ国際映画祭コンペティション部門。

その審査員の1人に俳優枠で、ウィル・スミスも審査を務めていました。

審査員のウィルは、記者を前にしたの会見で、「『ジュピターズ・ムーン』が本当に好きだ。これから先、何度も何度も繰り返し観たいと思う最高の映画だったよ」と感想を述べています。

まるでウィルの感動が伝播するように、カンヌ以後に出品されたスペインのシッチェス・カタロニア国際映画祭では、「ファンタスティック・コンペティション」部門にて、最優秀作品賞と視覚効果賞を受賞

さらに北米ファンタスティック・フェスト2017でも最優秀監督賞を受賞など、前作『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲ラプソディ』で、その名を広く知られていたコーネル・ムンドルッツォ監督。

海外の映画祭で本作『ジュピターズ・ムーン』は席巻して観る者を沸かせました。

それはなぜでしょう?この作品が前作以上に映画的な要素をはらんでいるからです。それはズバリ!「主人公アリアンの浮遊の姿」です。

コーネル・ムンドルッツォ監督は、少年の浮遊するアイデアについて、13歳の頃にSF作家アレクサンドル・ベリャーエフの『Ariel』を読んだのが最初だと語り、そのことを基に浮遊の解釈とイメージを広げたようです。

そのことに関して、次のようにインタビューで述べています。

「(アレクサンドル・ベリャーエフの『Ariel』)ここに出てくる浮遊する男のイメージが強烈で、彼は何をするのだろうとずっと私の心に残りました。2014年に、あるビデオ作品の撮影でハンガリーの難民キャンプを訪れた時、祖国を追われた移民たちのが浮遊する男と重なったんです。それと同時に時間や場所を超越したところに追いやられた彼らは、天使のような神聖な存在かもしれないと感じたのがきっかけです」

時間や場所を超越したところに追いやられた彼らは天使のような神聖な存在”という言葉は、まるで詩人のようなコーネル監督ならではの文学的な品格を感じさせてくれます。

これは前作『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲ラプソディ』ならば、少女と雑種の飼い犬だったの融和を音楽を通じて、“Trust=信頼という強さ”を見せてくれました。

誤解を恐れずに言ってしまえば、あれは宮崎駿監督の『風の谷のナウシカ』のナウシカと王蟲の対峙と同様だと言ってしまうと大袈裟でしょうか。でも、それに近いのことが実写で表現されていましたね。

犬というキャスティングの難しさは、動物タレントであっても相当難しいようです。

しかし、前作『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲ラプソディ』は、雑種の野良犬として捕獲された犬たちを捕獲施設から救い出し、映画出演に起用しています。

それであの映画ならではの視覚的にダイナミックな犬たちの暴走シーンを描きました。(犬たちはすべて里親の元に引き取られた美談付き‼︎)

今回の『ジュピターズ・ムーン』では、移民の少年アリアンの居場所のない浮遊感を天使として見せる

これもまた、前作同様に“孤独の淵に追い込まれた弱者のメタモルフォーゼ”なのでしょう。

しかも、【浮遊する少年】は、1902年の『月世界旅行』で知られるフランスのジョルジュ・メリエス監督の一連のモノクロのサイレント映画に通じる、映画表現の特殊撮影という本質をついてもいます。

また不法な移民がインベーダーやエイリアン、強いては天使だとする発想は、実にユニークで面白い展開です。

それは、場所や大地に縛られた重力に強いられた者が偉く、何者にも縛られない者が敗者だという、単純な構図を打ち砕いて見せてくれます

監督のコーネル自身もインタビューで、「浮遊するアリアンは、いわば作品の映像言語」と言い切っています。

これは視覚的な効果と本質にある哲学的な意味合いからの言葉に違いありません。

ですから、本作『ジュピターズ・ムーン』のなかのアリアンは、マーベル映画やDC映画のキャラクターのように空をかっ飛ぶ必要はありません。

浮遊するところを目撃するあなたが、この不可思議な謎の存在に対して、どのような心を開くか、あるいは好奇心を持つかを揺さぶってくるのです。

あなたの目で天使のように“宙を浮くアリアンの奇跡”に刮目しましょう。

それはもちろん、ラスト・ショットに印象的に登場する少年の掛け声、「Ready or not,here I come(準備ができてなくても行く)」。

お分かりでしょうか…⁈目を背けずにね。

5.『ジュピターズ・ムーン』の公開される劇場は?


2017 (C) Proton Cinema – Match Factory Productions – KNM

北海道地区

北海道 札幌シアターキノ(1月27日(土)〜)

東北地区

青森県 シネマディクト(3月17日(土)〜)

岩手県 盛岡ルミエール(順次公開)

宮城県 チネ・ラヴィータ(3月10日(土)〜)

秋田県 ルミエール秋田(4月7日(土)〜)

山形県 フォーラム山形(4月6日(金)〜)

関東・甲信越地区

東京都 新宿バルト9(1月27日(土)〜)
東京都 ヒューマントラストシネマ渋谷(1月27日(土)〜)
東京都 T・ジョイPRINCE品川(1月27日(土)〜)
東京都 アップリンク(順次公開)

神奈川県 横浜ブルク13(1月27日(土)〜)
神奈川県 川崎チネチッタ(1月27日(土)〜)
神奈川県 シネマ・ジャック&ベティ(3月10日(土)〜)
神奈川県 川崎市アートセンターアルテリオ映像館(3月31日(土)〜)

栃木県 宇都宮ヒカリ座(順次公開)

中部・東海・北陸地区

長野県 長野ロキシー(3月17日(土)〜)
長野県 佐久Amシネマ(4月7日(土)〜)
長野県 アイシティシネマ(3月10日(土)〜)

山梨県 シアターセントラルBe館(3月10日(土)〜)

静岡県 シネプラザサントムーン(順次公開)

愛知県 センチュリーシネマ(1月27日(土)〜)

石川県 シネモンド(順次公開)

近畿地区

大阪府 梅田ブルク7(1月27日(土)〜)
大阪府 シネマート心斎橋(1月27日(土)〜

京都府 T・ジョイ京都(1月27日(土)〜)
兵庫県 シネ・リーブル神戸 (1月27日(土)〜)

中国・四国地区

愛媛県 シネマサンシャイン大街道(3月10日(土)〜)

九州・沖縄地区

福岡県 T・ジョイ博多(1月27日(土)〜)

熊本県 DENKIKAN(順次公開)

大分県 大分シネマ5(3月17日(土)~3月23日(金))

宮崎県 宮崎キネマ館(順次公開)

沖縄県 桜坂劇場(順次公開)

*記載された情報は2月20日現在の情報です。公開される劇場は今後も全国順次拡大されることが予想されます。お出かけの際は公式サイトを閲覧のうえお出かけください。

まとめ


2017 (C) Proton Cinema – Match Factory Productions – KNM

コーネル・ムンドルッツォ監督の『ジュピターズ・ムーン』というタイトルには、信頼3部作と監督自身が語るの前作『ホワイト・ゴッド』のように大きなメッセージが隠されています。

ジュピター=木星」には、現在では67もの衛星があることが観測されています。

なかでも天文学者ガリレオによって発見された「エウロパ」は、ヨーロッパの語源となったラテン語「EUROPA」と同じ綴りです。

コーネル監督は本作タイトルに隠語として「エウロパ」を含み、現代のヨーロッパの世界観の物語に踏襲させいてます。

前作『ホワイト・ゴッド』の場合は、雑種を嫌うモチーフとして「白い神=白人、GOD⇄DOG」という、やはり肌の違いや移民という隠語を感じさせています。

浮遊するアリアンの奇跡、そして今のエウロパ…。

本作『ジュピターズ・ムーン』に仕掛けられたメタファーを読み解くはあなた次第⁈

映画『ジュピターズ・ムーン』は、1月27日より全国順次公開です。

ぜひ、お見逃しなく!

関連記事

SF映画

伊福部昭(ゴジラ/特撮映画マーチ)CDで分からない魅力を書籍で知る

あなたにとって日本映画を盛り上げた作曲家というと、誰を思い浮かべるでしょうか。 本日6月23日発売の日本の音楽家を知るシリーズ第2弾「伊福部昭」! 日本楽壇とゴジラ音楽の巨匠の伊福部昭はご存知ですか? …

SF映画

映画『ポゼッサー』あらすじ感想評価と解説レビュー。デヴィッド・クローネンバーグの遺伝子を受け継ぐ鬼才のSFスリラーに注目せよ!

『ポゼッサー』は2022年3月4日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー! 第33回東京国際映画祭2020「TOKYOプレミア2020」で上映され、これぞ傑作とSF映画ファンをうならせ …

SF映画

ディストピア映画『クマ・エロヒーム』あらすじと感想レビュー。坂田貴大監督が描いた SF近未来の野心作

12月22日(土)より一週間、池袋シネマ・ロサにて映画『クマ・エロヒーム』の公開。 少子化が叫ばれて久しい昨今ですが、もし将来、人類の繁栄だけを目的とした社会が生まれたらどうなるのでしょうか。 子ども …

SF映画

『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』のキャストはガチ全滅するのか?

マーベルコミック原作のヒーロー・チームが、地球の危機を救う為に戦う「アベンジャーズ」シリーズ第3弾。 宇宙の運命を握る、6つのインフィニティ・ストーンを巡り、最強の敵サノスとの争奪戦を描いた『アベンジ …

SF映画

劇場版『アンダー・ザ・ドッグ/ジャンブル』あらすじとキャスト

劇場版『アンダー・ザ・ドッグ/ジャンブル(UNDER THE DOG/Jumbled6)』は、6月23日(土)〜7月6日(金) 2週間限定公開。 舞台は東京オリンピックが大規模テロによって中止に追い込 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学