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Entry 2021/07/01
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映画『SEOBOK/ソボク』感想評価と内容解説。コンユとパクボゴムの共演でどこに行くあてもない“孤独の交流”を描く|コリアンムービーおすすめ指南23

  • Writer :
  • 西川ちょり

映画『SEOBOK/ソボク』は2021年7月16日(金)より新宿バルト9他にて全国順次公開!

恋愛映画として歴代最高興行を達成し、全国に初恋シンドロームを巻き起こした名作『建築学概論』のイ・ヨンジュ監督の9年ぶりの作品『SEOBOK/ソボク』。

永遠の命をもつクローンの青年と、彼を護衛することになった余命わずかな元情報局員の運命を描いたSFサスペンスドラマです。

『新感染 ファイナル・エクスプレス』などで知られる韓国を代表する俳優コン・ユとドラマ『雲が描いた月明り』などで知られ、『コイン・ロッカーの女』以来5年ぶりのスクリーン復帰となったパク・ボゴムの共演も話題の注目の作品です。

【連載コラム】『コリアンムービーおすすめ指南』記事一覧はこちら

映画『SEOBOK/ソボク』の作品情報


(C)2020 CJ ENM CORPORATION, STUDIO101 ALL RIGHTS RESERVED

【公開】
2021年公開(韓国映画)

【原題】
서복(英題:Seobok)

【監督】
イ・ヨンジュ

【キャスト】
コン・ユ、パク・ボゴム、チャン・ヨンナム、チョ・ウジン、パク・ビョンウン、キム・ジェゴン

【作品概要】
『建築学概論』(2012)のイ・ヨンジュの9年ぶりの監督作品。永遠の命をもつクローンの青年をパク・ボゴム、彼を護衛することになった余命わずかな元情報局員に、コン・ユが扮したSFエンターティンメント。

映画『SEOBOK/ソボク』のあらすじ


(C)2020 CJ ENM CORPORATION, STUDIO101 ALL RIGHTS RESERVED

元情報局エージェントのギホンは激しい頭痛に見舞われ、その場にうずくまりました。脳腫瘍を患う彼は、余命宣告を受け、苦痛の中で生きていました。

死を目前にし、明日の生を渇望する彼に、ある任務が舞い込みます。 それは国家の極秘プロジェクトで誕生した人類初のクローン、ソボクを護衛するというものでした。

ソボクの体内の細胞には人間の疾患を治療し、治癒させる力があると聞かされたギホンは、臨床試験を受けさせてやろうと言われ、即座に仕事を受諾します。

だが、任務早々、何者かが護衛車を襲撃し、ギホンとソボクは拘束されてしまいます。しかし、ギホンはソボクを連れて脱出に成功。

危機的な状況の中、2人は衝突を繰り返しますが、徐々に心を通わせ始めます。― しかし、ギホンに護衛を命じた国家情報院はソボクを殺そうとしており、またそれとは別の闇の組織がソボクを追っていました。

映画『SEOBOK/ソボク』感想と評価


(C)2020 CJ ENM CORPORATION, STUDIO101 ALL RIGHTS RESERVED

韓国SF映画の安定感

タイトルの「SEOBOK(ソボク)」とは、幹細胞の複製と遺伝子操作により生み出された「実験体」に名付けられた名前です。

秦の始皇帝の命令を受け、不老不死の薬を探しに旅に出た「徐福」という人物の名前から取られたものだと劇中で説明されているように、「ソボク」は、人間の病の治癒のために研究されているクローン人間です。

韓国映画のSF作品といえば、Netflixで配信公開され話題となったチョ・ソンヒ監督の『スペース・スウィーパーズ』(2021)がすぐに思い出されるでしょう。

韓国映画初のスペースオペラとして、ハリウッドの大作にも負けないほどのクオリティを携えた作品に仕上がっていましたが、本作も、超能力などを表現するVFXの完成度には目を見張るものがあります。

また、イ・ヨンジュ監督は、2012年の作品『建築学概論』でよく知られていますが、実際、建築学を専攻していたこともあり、本作でも、このソボクのプロジェクトを実行している研究所のデザインやその光景に、才能を遺憾なく発揮しています。

もちろん、ポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』(2019)などの作品で知られる、美術監督・イ・ハジュンの功績も大きいでしょう。この研究所、実は意外な場所に存在していますので、是非、その点にも注目してみてください。

リドリー・スコットの『ブレードランナー』(1982)をはじめ、人間の都合で創造されたクローン人間やAIの苦悩と尊厳を扱った作品は珍しくありませんが、本作はそうしたSFの王道ともいうべきテーマに果敢に挑んでいます。

『スペース・スウィーパーズ』や本作を観ていると、今後も韓国映画において、SF作品の占める割合が益々増えていくのではないかと予感させます。

コン・ユとパク・ボゴムの共演がもたらすもの


(C)2020 CJ ENM CORPORATION, STUDIO101 ALL RIGHTS RESERVED

ドラマを中心に韓国のみならずアジアの視聴者を魅了してきた若手俳優パク・ボゴムが、“死ぬことのない”クローンを演じ、韓国を代表する人気俳優コン・ユが、“余命いくばくもない”元情報員ギホンを演じています。この共演が何より新鮮で魅力的です。

映画の中盤はロードムービーという趣で、衝突しながらも互いに理解していく様が描かれますが、冷静で、思慮深いソボクと、怒鳴ってばかりで冷静さを欠くギホンというまったく違う性質を持つキャラクターを2人の俳優が持ち味をたっぷりに表現し、物語に説得力をもたらしています。

死なないはずのクローン「ソボク」は血を吐き続けますし、ギホンは、激しい頭痛に襲われ意識を失って卒倒します。道中の彼らの様子や会話からは、命の重さが伝わってきます。

ソボクは「人は必ず死ぬのになぜ死を恐れるのか」、「生きようとする要求はどこから来るのか」と問いかけます。淡々とした語り口の中に、悲しみや怒り、諦め、虚無と言った様々な心理が浮かび上がります。

ソボクとギホンだけのシーンにはどこか尊さを感じる空気感が漂っています。スケールの大きな戦闘シーンなども見逃せませんが、本作において最大の見せ場はむしろ、この、どこにも行くあてのないソボクとギホンの孤独な交流の部分にあると言えます。

まとめ


(C)2020 CJ ENM CORPORATION, STUDIO101 ALL RIGHTS RESERVED

全編を貫いているのは、沸々と湧き上がる怒りの感情です。不老不死を望む人間の業は、これまで数え切れないほど、小説や映画などで描かれてきた題材ですが、本作においては、それらが突拍子もない「悪」ではなく、非常に身近に感じられるのが特徴といえるでしょう。

自身やその周りの者だけの利益を追従し、国民の命など顧みない現代の権力者に対する激しい怒りが込められているのです。

そうした権力者として登場する財閥グループの会長をキム・ジェゴンが憎々しげに演じ、国家情報院の部長をチョ・ウジンが冷徹に演じています。

また、科学者の立場と母親の立場で葛藤する研究者に扮したチャン・ヨンナムの存在も忘れがたい味わいがあります。




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