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Entry 2021/06/22
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映画『マイ・ツイート・メモリー』あらすじ感想と評価解説。松本卓也監督が男女の恋愛と“SNS”で独自の手法で描く|インディーズ映画発見伝11

  • Writer :
  • 菅浪瑛子

連載コラム「インディーズ映画発見伝」第11回

日本のインディペンデント映画をメインに、厳選された質の高い映画をCinemarcheのシネマダイバー 菅浪瑛子が厳選する連載コラム「インディーズ映画発見伝」

コラム第11回目では、松本卓也監督の映画『マイ・ツイート・メモリー』をご紹介いたします。

現代になくてはならない存在になりつつあるSNSを独自の手法で表現し、男女恋愛模様をソーシャルと現実で描き出しています。

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映画『マイ・ツイート・メモリー』の作品情報


(C)シネマ健康会

【公開】
2013年

【監督、脚本】
松本卓也

【キャスト】
安田絵理、市橋直歩、Seek、繭未、亜悠美、丸山真幸、中村結有、堀秀暢、西尾美鈴、小木曽恭子、多田浩志、大橋専利、小見山雄、中島巧、青木泰代、下村早苗、上杉一樹、浅野哲也、岐阜姫軍団、谷川まさこ、磯谷貴彦、丸山卓也、長尾茂恵、増田勇介、松本卓也

【作品概要】
監督を務めた松本卓也監督は、約10年間お笑い芸人として活動をした後、独学で映像制作の道へ。映像制作チーム『シネマ健康会』の代表を務め自主制作作品の上映をするほか、単館系の商業映画も手がけ、さまざまな国内外の映画祭で受賞をしています。

『マイ・ツイート・メモリー』はながおか映画祭インディーズムービーコンペティション 準グランプリ、山形国際ムービーフェスティバル 選考委員特別賞、田辺・弁慶映画祭 映検審査員賞、栃木・蔵の街かど映画祭 アワード 審査委員特別賞、大塚ショートフィルムフェスティバル グランプリ、松本映画祭プロジェクト 商店街映画祭 山崎貴監督賞などを受賞。

過去作に『ミスムーンライト』(2017)、『花子の日記』(2011)、『グラキン★クイーン』(2010)ほか。

映画『マイ・ツイート・メモリー』のあらすじ


(C)シネマ健康会

ヨシオとマサミは別れて半年経ちますが、ヨシオは家を出ていかずに居候状態です。

無口で人付き合いも苦手なヨシオは常にスマートフォンを眺め、SNSに依存し、マサミはヨシオに出ていって欲しいと言い出せずにいます。

なかなか言い出せないマサミは友人との飲み会の場にヨシオを呼び出し出て行って欲しいと伝えようとするが言えず、ヨシオは飲み会の場で話したヤノが気になり彼女の地元の関ヶ原まで向かいますが…

映画『マイ・ツイート・メモリー』感想と評価


(C)シネマ健康会

本作では、SNSの呟きを呟いている人が真顔で読みあげるという手法で描いているのが印象的です。誰に向かって言っているのかもわからない呟きを日々目にし、自分の呟きも顔も知らない誰かが見ている“リアル”ではない世界。

ヨシオは無口で人とあまり交流をせず、家にいても、飲み会に呼ばれても、ずっとスマートフォンを眺め、呟き続けます。

別れて半年経っても居候し続けるヨシオに出て行って欲しいと思っているマサミは飲み会の場にヨシオを呼び、直接言おうとしますが結局言えず、職場の後輩に言えないなら手紙はどうだと提案されます。「困っています」と手紙に書いたマサミでしたが、破り捨て直接ヨシオに出て行って欲しいと伝えます。更にSNSではなく、人と向き合った方がいい、まずは自分と向き合ってみたらと言います。

マサミにそう言われたヨシオは何故か呼び出された飲み会にいたヤノのことが気になり、ヤノの実家のある関ヶ原(岐阜県)までわざわざ出向きます。しかし、関ヶ原でSNSの虚構の世界から現実世界を知ったヨシオはやっとマサミとの依存した関係から一歩前に踏み出します。

ヨシオと違い面と向かって直接話すマサミとSNSに依存しているヨシオ。情報社会が進み、SNSが人々にとって当たり前となった今、SNSの闇を描いた映画は多数あります。しかし、本作ではどちらが良い悪いの問題ではなく、SNSを非常に身近な、日常に存在するものとして描いています。

マサミに言われてヤノを探しに関ヶ原に向かったヨシオはどこかでまだSNSの虚構の世界に期待しているのかもしれません。関ヶ原にまで向かったヨシオに容赦なく降りかかる雪と冷たい風。SNSの世界では今もどこかで誰かが呟いている、現実の孤独とSNSの虚構が入り混じったシュールな風景は現実世界を映しているかのようです。

また、スマートフォンに依存し、人との交流をあまりしようとせず、何を考えているのかわからないヨシオを監督自身が演じている点にも注目です。

まとめ


松本卓也監督(c)Cinema Discoveries

現在、当たり前のように身近にあるSNSを松本卓也監督独自の手法で描いた映画『マイ・ツイート・メモリー』。

真顔で呟きを読みあげることでリアルではなく虚構のSNSであっても呟いている向こう側には生身の人間がいて、それぞれ事情を抱え日々過ごしている、そんな背景も感じさせるかのようです。

しかし、SNSを批判するのではなく、日常に当たり前のように存在し、人々はSNSに依存しながらも現実を生きている現代社会の様子も表しています。日常に寄り添った視点は観客自身の日常とも重なる部分はあるかもしれません。

松本卓也Twitter

次回のインディーズ映画発見伝は…


(c)SHINOBU IMAO

次回の「インディーズ映画発見伝」第12回は、那須ショートフィルムフェスティバル2020 上映作品である今尾偲監督の『猫、かえる Cat’s Home』。主演は『少女邂逅』(2018)、『風の電話』(2020)などのモトーラ世理奈。

次回もお楽しみに!

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