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Entry 2021/05/18
Update

映画『あ・く・あ ふたりだけの部屋』感想評価とレビュー解説。小泉ひなたがピンクなブラックコメディに挑む

  • Writer :
  • タキザワレオ

映画『あ・く・あ ~ふたりだけの部屋~』は、
2021年5月29日(土)より池袋シネマ・ロサにて1週間限定公開、ほか全国順次公開予定!

 

園子温監督の助監督を経て異端映像作家として活躍する監督・中川究矢と、『グレイトフルデッド』(内田英治監督・2013)や『富美子の足』(2018)で歪んだ人間模様を描いてきた脚本家・平谷悦郎がタッグを組んだ映画『あ・く・あ ~ふたりだけの部屋~』。

大嫌いな男と謎の“部屋”でふたりきりになった女の苦悩と愛を描くSFブラックコメディです。

本作の企画・脚本を務める平谷が、まなざしの強さに稀有な魅力を感じたセクシー女優の小泉ひなたに主演をオファー。

目標金額210万円を目指し、2020年にクラウドファンディングで制作資金を募った本作は、目標金額を無事達成し、制作された低予算映画です。

制作スタッフと出演キャストによる情熱が映画完成の悲願を叶え、2021年5月29日(土)より池袋シネマ・ロサにて1週間限定公開、ほか全国順次公開が決定しました。

映画『あ・く・あ ~ふたりだけの部屋~』の作品情報


(C)PAP

【公開】
2021年(日本映画)

【監督】
中川究矢

【脚本】
平谷悦郎

【キャスト】
小泉ひなた、櫻井保幸、今城沙耶、関幸治、園部貴一、伊澤恵美子、川連廣明、小橋秀行、加藤桃子(声のみ)、川瀬知佐子、紺谷凪乃、大葉かやろう、 八つ橋てまり、高崎二郎、石川雄也

【作品概要】
脚本家の平谷悦郎が20年に渡って温めてきた「個室に閉じ込められた男女劇」という企画を、元セクシー女優の小泉ひなたを主演に迎え、2020年にクラウドファンディングを実施。目標を上回る資金調達に成功し制作された低予算映画。

監督を園子温作品の助監督などを経て異端の映像作家として活躍する中川究矢が務め、SFブラックコメディというジャンルで、謎の部屋に入り込んだ男女の愛と苦悩を描きます。

劇伴音楽をアーバンギャルドのメンバー、おおくぼけいが担当。主題歌『朝が落ちてくる』を木乃伊みさとが歌いました。

映画『あ・く・あ ~ふたりだけの部屋~』のあらすじ


(C)PAP

自転車便の仕事をする達生は、ドアを開くと、壁に「あ・く・あ」という文字が刻まれた謎の“部屋”に定期的に入ってしまうという不思議な能力を持っていました。

ある日、達生は配達先で死んだような眼をした女・聡子と出会い、恋に落ちます。

聡子は毎週、月曜日に恋人・征人と会うのを生きがいにしており、それ以外の日は抜け殻のように過ごしていました。

聡子と征人のセックスを覗いていたのが見つかってボコられた達生が“部屋”でオナニーをしていると、突如、聡子が目の前に現れます。 

理由は不明ですが、聡子にも“部屋”に入る能力が身についてしまったようです。

聡子が“部屋”で達生とふたりきりになるのにストレスを募らせる一方、そんな状況に幸せを感じ始める達生。

やがて聡子のストレスは爆発し、達生に鬱憤をぶつけ始めます。

“部屋”によって生まれた聡子と達生の奇妙な主従関係は、2人だけのやりとりに留まらず、達生に恋する大学の後輩、叶美や征人を巻き込んでいきます。

いつしかふたりは、そんな状況から互いに特別な思いを抱き始めますが……。

果たしてふたりの結末は!? そして、“部屋”に隠された驚くべき秘密とは!?

映画『あ・く・あ ~ふたりだけの部屋~』の感想と評価


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構想20年に及ぶプロット

監督脚本の中川究矢、平谷悦郎は「ドアを開けたらあの娘と会えたらいいのに…でも、俺はいいけどあの娘は嫌がるだろうな…というポジティブなんだか、ネガティブなんだかわからない発想がタネとなった映画です」と、本作のコンセプトを語っています。

これまで中川究矢は監督を務めた『アメリカ』(2017年)『カマキリの夜』(2017年)の短編二部作で、平谷悦郎は共同脚本を務めた『グレイトフルデッド』(2014年)にてフェティシズム溢れるエクストリームな作品を発表してきました。

本作では2人のポテンシャルが見事に発揮され、倒錯した世界観にポップな彩りを散りばめています。

コンセプトにあった矛盾をそのまま映像にトレースした本作には、自分本位な動機からお互いを解放していくという非論理的な因果を成立させる説得力がありました。

全体的にコメディとしてバランスを取っているおかげか、規模の小さい世界で壮大な物語を描こうとする齟齬を感じさせず、ストーリーのテンポ感含め非常に観やすい仕上がりになっています。

SF設定もあえて高度にし過ぎず、理屈を置き去りにすることで、コメディの範疇として受け取ることができました。

しかしコメディと侮ると、虚をつかれるような背後のディテールやエンディングの解釈に思わず唸らされます。

何気ないセリフや登場人物が置かれている状況を説明するさり気ないショットにラストの展開への伏線が貼られており、劇中の至るところにギミックが隠されているのです。

これは本作のシーンの切り替わりにおける、とある特徴からの考察ですが、シーンが終わると同時に、主人公が意識を失う、日付変わる、または場面が変わる。このタイミングで、しばしばフェイドアウトで終わることが多い印象を受けました。

これは無意識下において、聡子や達生の情念が消え失せるという心理的な描写を場面の切り替えで表現しているのかも知れません。

また本作はピンク映画ではありませんが、ある種ノルマともいえる濡れ場の時間配分が絶妙なのも映画的美点。

濡れ場のために物語が停滞したり、物語が濡れ場のために後づけられたものではないのと同時に、人物配置の構図にきちんとした美意識が配られており、間に合わせで挿入されたものではないと感じさせます。

キャラクターから語られるドラマ


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元セクシー女優小泉ひなたを主演に迎えクラウドファンディングを募った本作は、彼女の個性が尊重されたまさにアイドル映画らしい一作です。

もうひとりの主人公である達生の物語すら、小泉ひなた演じる主人公、聡子に振り回されていきます。

物語の冒頭では、聡子のキャラクターにはエロチシズムの記号は付与されていませんでした。

彼女自身、不倫相手の征人や日頃セクハラを受けているバイト先の店主などから性的な対象として”消費”される、受動的なエロチシズムに準じるのみで、達生との出会いによって次第に主体的なエロが湧き上がってきます。

聡子の目を見て、自分に似ていると惹かれた達生と、望まざるとも感情が突き動かされていく聡子。

本作を手掛けた中川究矢、平谷悦郎の2人組は、「本作は世の中のはみ出し者や忘れ去られた人に対する救い」であると語ります。

聡子と達生のキャラクターに背負わせたしがらみや遺恨が、映画を通じ徐々に解放され自由になっていくことで、観客そして作り手本人に対しても癒しを与えてくれたのです。

聡子は部屋に閉じ込められても、出口を探そうとしません。それはこれまでの彼女の人生に逃げるという選択肢が与えられていなかったから。

「死んでいる」毎日を過ごし、何もしないことに対する動機づけは彼女の引き摺っている過去にありました。

そして達生の方はというと、義理の姉から場当たり的な今の生活を否定され、就職のこと、安定した生活を押し付けられています。

彼は、聡子とは反対に未来に縛られていたのです。

やがて部屋という2人だけの空間が両者をしがらみから解放させ、次第に絆が生まれていきます。

達生にも、聡子にも、それまでの人生になかった喜びを分け与えていく。

この時はじめて2人の関係性は築き上げられるものの、きっかけは個人の煩悩に過ぎないという危うさが、本作を芯の通ったドラマとして成立させているのでしょう。

物語の建て付けが歪なのに反して、本作は純粋な恋愛映画として綺麗な収まりを見せていました。

まとめ

(C)PAP
 
本作の企画・脚本を務めた平谷悦郎が、眼差しの強さに魅力を感じてオファーした小泉ひなたの役者としてのポテンシャルもさることながら、目標を上回る資金を集めることに成功した企画力の強さ、何より制作スタッフと共演キャスト、そして支援者の本作に向けた情熱に圧倒されます。

その映画制作に対する情熱が空回りする事なく、80分の映画に見事収まっているのは、本作を手掛けた中川究矢と平谷悦郎の手腕によるものでしょう。

煩悩に端を発した出会いが、情念や過去・未来へのしがらみからお互いを解放する映画的な心理描写の旅が見事でした。

即物的な見世物として、本作に触れる方も少なくはないと思われますが、本作はピンク映画ではありません。

しかしながら、ジャンル的なカウンターとしてのエロ描写や一癖も二癖もある倒錯した世界観もとい宇宙観、キッチュな魅力が全開で観ている間も飽きさせませんでした。

B級映画を本歌取りするような底知れぬエネルギッシュさとわい雑な魅力、クリエイティビティが爆発した一作です。

映画『あ・く・あ ~ふたりだけの部屋~』は、2021年5月29日(土)より池袋シネマ・ロサにて1週間限定公開、ほか全国順次公開予定!


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