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Entry 2021/05/13
Update

映画『オキシジェン』ネタバレあらすじ感想と結末解説。タイトルの意味がメラニーロランの熱演で体現される|Netflix映画おすすめ37

  • Writer :
  • タキザワレオ

連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第37回

記憶喪失の主人公が閉じ込められた極低温ポッドからの脱出を目指すシチュエーションスリラー映画『オキシジェン』。

記憶を失い、極低温ポッドから目覚めたリズが生き埋めの状態から生還するには、自身の記憶を辿っていく必要がありました。

今回は、閉鎖ポッドの中で自身の過去が次々と明らかになっていくスリラー映画『オキシジェン』をご紹介します。

【連載コラム】「Netflix映画おすすめ」記事一覧はこちら

映画『オキシジェン』の作品情報


(c)Shanna Besson/Netflix

【日本公開】
2021年(フランス映画)

【原作】
Oxygène

【監督】
アレクサンドル・アジャ

【キャスト】
メラニー・ロラン、マチュー・アマルリック、マリック・ジティ

【作品概要】
監督は『マニアック』(2013)『クロール -凶暴領域-』(2019)などで知られるフランスの鬼才アレクサンドル・アジャ。

主演を務めるのは、『イングロリアス・バスターズ』(2009)『グランド・イリュージョン』(2013)などのメラニー・ロラン。

共演に、『グランド・ブダペスト・ホテル』(2014)のマチュー・アマルリック、『PLAY 25年分のラストシーン』(2020)のマリック・ジディが名を連ねています。

映画『オキシジェン』のあらすじとネタバレ


(c)Shanna Besson/Netflix

クリオザリドの研究所では、冷凍保存された白ネズミを使ったとある実験が行われていました。ネズミは迷路を突き進んでいきます。

赤い点滅と信号音が聞こえ、目を覚ました被験者番号オミクロン267。

身体を包むコットンの包帯を解くと、全身が拘束具で固定されていることに気が付きました。

身体の自由を取り戻していくうちに彼女は、防護服の人間に担架で運ばれている様子、草原にあるブランコから降りる少女、研究所のネズミなど、断片的な記憶を取り戻していきます。

手を伸ばそうとして異変に気付いた被験者、オミクロン267。

彼女は極低温ポッドの中にいたのです。

「助けて」と叫びながら、あたりのボタンを押していたら医療オペレーションインターフェース、ミロが起動。

ミロは、ポッドでシステム障害が起こり、ポッドの酸素残量が残り34%であることを告げました。

ポッドから出すよう要求するも、ミロは拒否します。

記憶を失っている彼女は、自身が何の病気の治療で、ポッドに収容されているのかも判りません。

極低温ポッドの酸素は減少し続けます。助けを呼んでも誰も来ない不安から、彼女はミロを通して警察への通報を試みました。

警察の聞き取りに対し、自身の名前も何も思い出せないという被験者。

ポッドのラベルを見ると「クリオザリド」というメーカー名とポッドのシリアル番号を発見しました。

そして被験者、オミクロン267は、ミロに自身をDNA鑑定させ身元を特定。自分がエリザベット・ハンセン博士であることを知ります。

ポッドの外の物音が気になっているうちに、科学捜査官のモローと電話が繋がり、ポッド内の酸素がなくなるまで残り43分であることを告げました。

警察がメーカーに問い合わせたところ、リズの収容されているポッドは3年前に製造停止されていた事がモローの口から伝えられます。

ミロからは自身が病気ではないことを伝えられ、作為的にポッドに閉じ込められたと悟ったリズはショック状態に。

やがて接続不良になりモローとの通話が途切れてしまいました。

ミロはリズを落ち着かせようと強制的に鎮静剤を投与しようとしますが、彼女が針を破壊し、それを阻止。

リズは自身を助ける手がかりになるものを探し、自身の著作物をあたりインターネットで検索。

極低温ポッドは、クリオザリドに所属していた自分自身が開発したものであったことを知ります。

同時に思い出したのは、夫レオとのマウイ島での新婚旅行の記憶。

検索結果をもとに夫レオに電話をかけるも、電話に出たのは女性の声でした。電話口の女性は、「2度とかけてこないで」とだけ告げ、通話を切ってしまいました。

身体中に巻きついているチューブを外し、自由に動けるようになったリズは、脱出口を探します。導線を引っ張るとそこからネズミが現れました。咄嗟のことに動揺していると、ネズミは姿を消します。

リズは鎮静剤の針を奪い、ポッドの隙間に挟んでこじ開けようと試みます。すると、ミロから電気ショックを食らい、ポッドへの破壊行為を阻止されました。

再び警察と電話が繋がり、部下がクリオザリドへ向かっていることを伝えられました。

リズが警察に掛け直したところ、番号が使われていないという応答があったことから、幻覚を見ているのではないかと自分自身を疑い始めました。

夫レオのことを話しても、彼女の身元を調べた警察からは、リズが一度も結婚していないことを告げられます。

自身の身元を再検索すると先ほどあったはずのレオとの写真が見つかりません。

リズは警察からレオなどという人物は実在しないと告げられました。

そして電話口のモローから、過去の生物工学の受賞歴など、リズの経歴を告げられるも、自身の記憶と全く違うことに困惑します。

警察はあと少しでポッドに到着すると言いますが、何かを隠そうとしている素振りを不審に思ったリズは通話を切りました。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『オキシジェン』ネタバレ・結末の記載がございます。『オキシジェン』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

段々と蘇っていく記憶の中で、レオはガンに侵されていたことを思い出しました。

再び女性から電話がかかってくると、レオが死んだこと。そしてリズを救う方法を知るのは自分だけだと告げられます。

彼女の言うポッドのロックを解除してはならないという忠告を無視してリズはロックを解除。

突如ポッド内が無重力状態になりました。

リズはポッドが地球から離れた6万キロ離れている場所にあることを女性から告げられました。

彼女は宇宙飛行中にトラブルが起きてハイパースリープから目覚めてしまったのです。

リズは滅亡の危機に冒されている人類を救うため、国防省の命令で地球から離れた植民地惑星に向かっている途中でした。

リズは警察が記憶を取り戻すのを妨げるために嘘をついて時間稼ぎしていたことを悟ります。

そして12年間ハイパースリープしていたこと。意識が戻ったのは酸素量減少による蘇生システムが作動したからだと女性は説明します。

リズは酸素がなくなる前にハイパースリープに戻ることを勧められます。

突如、電話口の女性は何者かに襲われ、「レオを見つけて」とだけ言い残して通話が途切れてしまいました。

リズはあらゆる手を尽くし、記憶の中でレオの姿を追いかけます。

やがてポッド内の酸素の残量が5%になりました。

調べていくうちにリズは他のポッドが5m圏内にあることを知ります。

周りのポッドの様子をモニターに映し出すと、リズのポッドの周りには、外に出てしまった人々の死骸とその周りにある無数のポッドが螺旋状に重なっていました。

ミロは、いくつかのポッドがまだ作動中にあること。意識が戻ったのはリズだけで、幾つかのポッドは小惑星に衝突した際に死亡した事を告げます。

リズは、レオのポッドを見つけ出し、彼がまだ生存していることを知り安堵しました。

その後、クリオザリドの研究発表会のアーカイブを見たリズは、ネズミを使って記憶の転送実験を行っていたことを知ります。

記憶を転送されたネズミは、ホストのネズミと同じように迷路を突き進むようになるのです。

そのアーカイブで研究発表していた人物とは、年老いたエリザベット・ハンセン博士でした。

ミロに自身の年齢を尋ねると被験者番号オミクロン267は現在12歳であることが告げられます。

先ほどの電話をかけてきた女性とは、エリザベット・ハンセン博士自身であったのです。

リズは自分がクローンであったことを悟り、自分は死ぬためだけに生まれてきたのだと取り乱してしまいます。

しかし、自分の意思で生き残りたいと感じたリズは、酸素供給を安定させ、レオとの惑星到着を目指します。

あらゆる試みも失敗に終わり、万策が尽きたリズは、レオと2人でポッドから脱出する希望を失い、酸素が薄れゆく中、死を覚悟しました。

限界状態の中、リズはハイパースリープに入れば、故障した他のポッドから酸素を転送しながら生存することが可能であると気が付きます。

そして身体を拘束し、再びコットンを纏ったリズの身体はハイパースリープ状態に入りました。

それから時が経ち、惑星ウォルフ1061cではポッドから目覚めたリズとレオが海岸で景色を眺めながら身を寄せ合っていました。

映画『オキシジェン』の感想と評価


(c)Shanna Besson/Netflix

極限状態を描くスリラー

身の危険に晒されながら閉鎖空間からの脱出を描いた映画といえば、『リミット』(2010)や『海底47m』(2017)が記憶に新しく、地中に埋められた棺の中や人喰いザメに狙われる海底など、様々なシチュエーションで、その舞台に応じた恐怖が主人公たちを襲っていました。

本作においては、医療用の極低温ポッドという限定空間がSF設定に基づいていると明かされた上で、突如無重力になることで、ポッドの所在が地球のどこかではなく宇宙にあることや、モニターが映し出されることで、彼女ひとりではなく大勢での宇宙移民であったことが明らかになっていきます。

これによりワンシチュエーションスリラーによくある、場面が変わらないことや鈍重な展開に対するフランストレーションが本作において比較的控えめなのが好印象。

限定空間を描いた作品は、予算が潤沢でない事を逆手に取った舞台設定をしていますが、本作はSF映画として十分過ぎるほど、ディテールや背景が描き込まれていることもあり、身も蓋もない言い方をしてしまうと、しっかりとお金をかけて作られた映画らしい豪華なビジュアルが保証されています。

壮大なテーマの暗示

極低温ポッドの設定やビジュアルの作り込みもさることながら、次々と謎が明かされていく展開のスピード感も本作の魅力の一つ。

無理矢理身体に電気ショックを流すことで記憶を取り戻すくだりには、若干の強引さも感じますが、次々起こる問題が解決する順序に工夫があったり、解決の糸口にも全て上手くいきすぎないよう、制約が設けられていました。

観客の注意を引きつけておく展開のツイストが絶妙なタイミングに配置されています。

また、フラッシュバックで描かれる彼女とその夫の過去にも物語に重要な鍵が隠されていました。

断片的な記憶の中で、リズが思い出したのは、夫のレオが松の木の種子を研究しているという一場面。

その後も松の木の種子は印象的な場面において、風を受けて遠くの大地に根付くイメージが繰り返し描かれています。

松の木は、親元から遠く離れた場所で発芽させようと、翼のついたタネが、風に運ばれ新たな土地で子孫を繁栄させます。

永い時間の中で環境に適応するために培われたこの自然の特性は、新たな惑星で、リズとレオによって生命が紡がれた子孫のメタファーとして劇中に登場したのでしょう。

被験体のネズミのように、クローンとしての天命を全うするだけだったはずのオミクロン267ことリズが、植民地惑星の入植者第一世代として、新たな人類の歴史を開拓していくラストには、これまで数々の映画で使い捨てられてきたクローン人間に対する新たな可能性を感じさせられます。

ひとりの女性による生体維持ポッドからの脱出を描いた映画が、アッと驚く展開を重ねていくうちに壮大なSFへと転換される。その見事な語り口に驚かされました。

まとめ

限定空間で描かれるワンシチュエーションスリラーは、変わり映えしない画面と少人数のキャストによるミニマムな物語からして、低予算でも作りやすい題材であると同時に、その地味さから敬遠されたり、鑑賞中のストレスが否めないジャンルでもあります。

ポッドからの脱出と同時に主人公が記憶を取り戻さなければならないという序盤の物語から冒頭は不安が拭えません。

しかし、展開のターニングポイントには毎回驚かされる仕掛けが巧みに配置されており、起承転結もハッキリしているおかげか、この手のジャンルにしてはストレスなく鑑賞できる稀有な作品でした。

映画『オキシジェン』は、2021年5月12日よりNetflixにて独占配信中。

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