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Entry 2021/05/10
Update

映画『トゥルーノース』感想評価とレビュー解説。アニメで描く政治犯強制収容所の“真実”

  • Writer :
  • 松平光冬

北朝鮮の強制収容所で暮らす市井の人々の過酷な日々

アニメ映画『トゥルーノース』が、2021年6月4日(金)よりTOHOシネマズシャンテほかで全国順次公開予定です。

本作は、北朝鮮の政治犯強制収容所で生きる家族を、生存者の証言を元に描いた衝撃のヒューマンドラマ。

アニメ映画の最高峰とされるアヌシー国際アニメーション映画祭長編コントルシャン部門ノミネート、ワルシャワ国際映画祭審査員特別賞、ナッシュビル映画祭長編アニメ部門グランプリ、プチョン国際アニメーション映画祭長編部門特別賞など、海外の映画祭を席捲しました。

映画『トゥルーノース』の作品情報

(C)2020 sumimasen

【日本公開】
2021年(日本、インドネシア合作映画)

【英題】
True North

【監督・脚本・製作】
清水ハン栄治

【製作総指揮】
ハン・ソンゴン

【音楽】
マシュー・ワイルダー

【声の出演】
ジョエル・サットン、マイケル・ササキ、ブランディン・ステニス、エミリー・ヘレス

【作品概要】
北朝鮮の政治犯強制収容所で、過酷な毎日を生き抜く日系家族とその仲間たちの姿を描いた3DCGアニメーション映画。

ドキュメンタリー映画『happy-しあわせを探すあなたへ』(2012)のプロデューサーの清水ハン栄治が、収容体験をもつ脱北者や元看守などにインタビューを行い、自ら監督・脚本を兼任し、10年の歳月をかけて完成させました。

音楽監督は、ディズニーアニメ『ムーラン』(1998)のマシュー・ワイルダーが担当。

アヌシー国際アニメーション映画祭長編コントルシャン部門ノミネート、ワルシャワ国際映画祭フリースピリット部門審査員特別賞、ナッシュビル映画祭長編アニメ部門グランプリなど、海外で数々の栄誉に輝いています。

映画『トゥルーノース』のあらすじ

(C)2020 sumimasen

1950年代から始まった在日朝鮮人の帰還事業により、北朝鮮に渡ったパク一家。

両親や妹のミヒとともに、金正日体制下の北朝鮮で朗らかに暮らしていた小学生のヨハンはある日、父親が政治犯の疑いで逮捕されてしまいます。

それにより、悪名高き政治犯強制収容所に入れられたヨハン、ミヒ、そして母のユリは、苛烈な生活を強いられることに。

過酷な生存競争の中、ヨハンが純粋で優しい心を失い他者を欺く一方で、ユリとミヒは人間性を失わず倫理的に生きようとします。

そんな中、収容所内で起こったある事件を機に、ヨハンは「人間が生きる意味」を探究することとなります。

映画『トゥルーノース』の感想と評価

(C)2020 sumimasen

着想の発端は脳裏にあった祖母の話

ドキュメンタリー映画『happy ―しあわせを探すあなたへ』のプロデューサーを皮切りに、映像、出版といったメディア界で活躍していた清水ハン栄治。

在日コリアン1世の父と3世の母の間に生まれた彼は、幼い頃から北朝鮮に渡航後に消息を絶った在日同胞の話を、祖母から聞かされていました。

北朝鮮には、刑法に違反した者や、指導者への忠誠と服従をさせる者が入る強制収容所があると云われます。

後者の中には、日本から来た在日コリアンや、一緒に付いて行った日本人の夫や妻に、無理やり連れてこられた拉致被害者も含まれていたとか。

「地上の楽園」というフレーズに惹かれて海を渡ったはずなのに、待っていたのは地獄だった――祖母の言葉「悪いことをすると収容所に連れていかれる」がずっと頭の隅にあったという清水は、ニュースからの情報収集はもちろんのこと、脱北した者や元収容者、元看守といった人々の証言をヒアリング。

資金繰りに2~3年を要し、アニメ制作のためにインドネシアで制作会社を興して臨むなど、数々の苦労の末に、本作『トゥルーノース』を生みました。

疑心暗鬼に満ちた収容所生活

(C)2020 sumimasen

本作で描かれるのは、これまでメディアに取り上げられる機会が少なかったとされる、北朝鮮の強制収容所の実態です。

収容者は、粗末ながらも住居をあてがわれ、家族と暮らすことが可能ながらも、日々過酷な労働を強いられます。

その中には、看守と近しくなって監視を行い、労働態度が悪い者や、陰で愚痴を言う者を見つけては密告するといった者も。

まるでナチスドイツ占領下のユダヤ人ゲットー警察のようなヒエラルキーが、北朝鮮で存在していたのです。

本作をアニメーションにしたのは、そうした疑心暗鬼に満ちた人間たちの生活を実写で描くにはあまりにも凄惨すぎるからと、清水は語ります。

またキャラクター造形も、昨今の3DCGアニメの主流である、肌がつるつるしたリアルめな表情だと、拷問シーンなども正視に耐えられなくなるとして、あえてポリゴン粗めにしています。

もっとも、そうした前情報を入れなくても、造形が粗めでも登場人物全員にしっかりと血肉が通っているため、違和感なく観ることが出来ます。

まとめ

(C)2020 sumimasen

父が政治犯の疑いで逮捕され、幼い頃に収容所に入れられた主人公ヨハンは、監視グループに加わって生存競争を生き抜こうとします。

しかし、ある悲劇をきっかけに、失いかけていた人間としての尊厳を取り戻そうと決起するのです。

希望を捨てず、「生きる」意味を見出したヨハンが起こす行動の先にあるものとは?

過去に作られてきた、刑務所や収容所が舞台の、いわゆる“プリズンもの”映画と比べても、遜色のない出来となっています。

現在も20万人~30万人が生活するとされる収容所の存在を、北朝鮮は否定し続けます。

しかし、闇に葬られた現国家元首の義兄暗殺事件を、ドキュメンタリー『わたしは金正男を殺してない』(2020)が追及したように、証拠があるかぎり隠滅は不可能です。

本作には、ベールに包まれた「トゥルーノース=北の真実」があります。

映画『トゥルーノース』は、2021年6月4日(金)よりTOHOシネマズシャンテほかで全国順次公開予定




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