『精霊の守り人』で知られる上橋菜穂子による2015年の本屋大賞を受賞した
ファンタジー小説『鹿の王』をアニメ化!
2022年2月4日(金)公開されるアニメ映画『鹿の王 ユナと約束の旅』。原作は、2015年本屋大賞を受賞した上橋菜穂子の小説『鹿の王』です。
架空の世界で、ヴァンとホッサルという2人の男を中心に、過酷な運命に立ち向かう人々を描いたファンタジーです。
大帝国東乎瑠の侵略から故郷を守るために戦う「独角(どっかく)」という集団の頭であったヴァンと、大帝国東乎瑠で天才医術者と呼ばれたホッサル。出会うはずのない2人が出会って、山犬がもたらす恐ろしい病気の謎を解明していきます。
壮大なスケールで繰り広げられる原作小説を、映画公開前にネタバレありでご紹介します。
CONTENTS
小説『鹿の王』の主な登場人物
・ヴァン(声のキャスト:堤 真一)
大帝国東乎瑠の侵略に最後まで戦った戦士団「独角」の頭。戦いに敗れて、アカファ岩塩鉱で働く奴隷となります。病原菌を持つ山犬にかまれますが、九死に一生を得て、山犬と一体化する能力を身につけます。
・ホッサル(声のキャスト:竹内涼真)
東乎瑠の天才医術者。アカファ岩塩鉱での事件を調べ、過去に流行った病の再来と生き残った「独角」の頭・ヴァンの存在を知ります。
・サエ(声のキャスト:杏)
ヴァンを探すために差し向けられた狩人。
・ユナ
アカファ岩塩鉱の看守の家で山犬にかまれながらも甕に隠れて助かった少女。岩塩鉱から逃げて来たヴァンに保護されます。
小説『鹿の王』のあらすじとネタバレ
大きな勢力を持つ巨大帝国が世界を支配しようとしていた頃。
大帝国東乎瑠に攻め入られる故郷を守るため、絶望的な戦いを繰り広げた戦士団「独角」が存在していました。飛鹿という鹿に似た動物を上手く操って戦場を駈け廻る「独角」は、勇敢な戦士の集団でした。
その頭であったヴァンは、大敗を喫した戦いの後、捕らえられ、地下にあるアカファ岩塩鉱で働く奴隷となりました。
他の奴隷たちは別の地方からやってきた罪人たちばかりで、言葉も通じず、話し相手もいないまま、一日の作業が終わると泥のように眠る毎日が続いています。
ある日、狼のような山犬が岩塩鉱を襲ってきて騒ぎになりました。ヴァンは何とか撃退しますが、他の奴隷も看守もほとんどが噛まれました。
その直後から咳の症状が出て高熱が出るという病気で倒れる人がでて、やがてヴァンも苦しみ始めます。意識の中で走馬灯のように過去を遡っていき、死の直前までいきますがギリギリのところで回復しました。
目覚めたヴァンは激しい飢えと喉の渇きを覚え、周りを見てみると視界に入る全ての人が死んでいました。
あの山犬が噛んだことによって伝染病に感染したのかと、不思議に思うヴァンですが、とにかく逃げようと、鎖を引きちぎり脱走します。
地上へ出ると、見張りの兵士や地上に建つ櫓の中の人も全て死んでおり、ヴァンはとりあえず看守たちの住まいで食べ物を探し、腹を満たします。
その時、甕に隠されて一人生き残った幼い子供を見つけ、ヴァンはその子と共に交易都市カザンへ向かうことにしました。
途中、足を怪我して動けなくなっている若者と出会いました。若者はトマと名乗り、ヴァンはトマの村へ行って、飛鹿の扱いを教えてることになりました。
一方、東乎瑠に支配されたアカファの岩塩鉱の全滅事件を聞いた医師のホッサルとマコウカンが、調査のために岩塩鉱にやって来ました。
古オタワル王国の始祖の血を引く一人であり、高名な医術師を祖父に持つホッサルは、天才として帝国でその名を知らぬ者はいないほど有名な医術者です。
放置された遺体を調べると、黒狼熱の可能性があると分かります。黒狼熱はかつてオタワル王国を壊滅させた恐ろしい病でした。
ホッサルは遺体を国の研究施設へ送ってもらうよう依頼し、兵士の話と現場でちぎれた鎖を見つけ、ヴァンという男が逃げたと判明します。ホッサルは病に打ち勝って脱走した彼に興味を持ちました。
そしてヴァンを探すため、追跡に長けた狩人頭のマルジの長女サエに依頼し、マコウカンにサエと共にヴァン探しを行うよう命じます。
サエは岩塩鉱や周囲の建物を調べヴァンの動きを追い、足に怪我をしたトマという遊牧民に体格の良い男が付き添っていたということを突き止めました。
その後、ヴァンを追って急ぐサエとマコウカンは、山犬の群れに襲われます。サエは短弓、マコウカンは剣で迎え撃ちますが、サエは獣にのしかかられて崖から転落してしまいました。
その頃、ヴァンは保護してユナと名付けた子供と共に、トマの一族が暮らす集落で暮らしていました。トマの一族は貧しく、病などで働き手を失い苦しい状況でした。
トナカイは税が高い為に飛鹿を飼おうとしていましたが、扱いが難しく困っており、飛鹿乗りのヴァンに対する期待は大きなものがあったのです。
ユナはとても元気のいい女の子で、すぐに集落に慣れ、ヴァンも新しい暮らしの中に安らぎを得ることができました。
トマの従兄弟たちともとても仲良くなれ、ヴァンにとっては、この時期はこの後何年経っても心に残る満ち足りた幸せな1年となりました。
ある日、ホッサルとマコウカンはアカファ王が王幡侯を招いて行なわれる御前鷹ノ儀に参加していましたが、突然山犬が襲ってきます。
多くの人が噛まれ、数日後に東乎瑠人のみが病を発症します。ホッサルは助手のミラル、祭司医の真那と共に治療にあたります。
黒狼熱の治療薬はまだ開発に着手したばかりで、助けることは出来ずに発症した者は、王幡侯の長男を含め全て死亡してしまいます。
治療にあたる中で、ホッサルは自分達と祭司医真那の違いについて気づかされます。
真那は疲れの取れる薬湯の調合を得意とし、死者の家族を慰める事もホッサルより遥かに上手く、ホッサルは自分と祭司医とは根本から役割が異なると認識を改めます。
一方、アカファ王の甥マザイとその息子イザム、王幡侯の次男与多瑠の妻と子にも病の症状が出はじめますが、新薬の効き目によりなんとか命をつなぐことができました。
その頃、トマの一族を山犬が襲ってきたため、ヴァンは飛鹿を守ろうと外に出ました。ヴァンは体から輝きを放ちながら山犬を次々と倒していき、山犬は撤退し始めます。
その時、ユナが子供とは思えない物凄い速さで山犬の後を追って駆けて行ってしまいました。ヴァンも慌てて追いかけ、何とかユナを捕まえます。
後日、ヴァンを谺主の使者アッセノミが迎えに来ます。ヴァンはユナと共に谺主の元へと向かう事を決めます。
谺主の元へと着くと、ナッカという男が出て来て谺主は出かけたばかりなのでしばらく待つようにと告げます。ナッカの案内で湯場へと行き、そこでサエと名乗る女性と出会います。
翌日、谺主スオッルと会い、話を聞くと、谺主はワタリガラスと話ができ、ヴァンとユナが獣と共に駆けているのをワタリガラスが見たために呼び出したと言います。
話の最中、山犬が洞窟に入り込み、ヴァンが迎撃している間にユナが攫われました。ヴァンは後を追い、サエも共に来てくれますが、戦いの最中に受けた矢に毒が塗ってあったのか、気を失ってしまいます。
オタワル聖領では、ホッサルが義兄トマソルと共に深学院長の元を訪れていました。
深学院長ロトマン、奥仕えの元締めチイハナに黒狼熱の驚異や治療薬の効き目について報告し、今回の件は人為的なものではないかと、ホッサルは推理を述べます。
ある人は今回の件に火馬の民が関わっている可能性が高いと報告します。
山犬と狼を掛け合わせた半仔はキンマの犬と呼ばれ極めて優秀な猟犬であり、単に狼や山犬を介して病が広まるならもっと前から広い範囲で発生していてもおかしくないためです。
火馬の民は東乎瑠に強い恨みを持っており、動機も十分にあります。チイハナの命令でホッサルが調査することとなります。
しかし、マコウカンの故郷でもある火馬の民の族都へ近づくと、ホッサルとマコウカンは襲われ捕らえられてしまいました。
小説『鹿の王』の感想と評価
この物語には2人の主人公がいます。最強の騎士団「独角」の最後の頭・ヴァンと、東乎瑠の支配階層に名をとどろかせる天才的な医術師・ホッサル。
この2人は年齢も育った環境も全く違いますが、全世界に蔓延ろうとする恐ろしい病から人々を救おうとする気持ちは同じでした。
病に打ち勝つ医療をホッサルが生み出すのか、ヴァンが病の原因となる山犬を封じ込むのか。病との闘いを描く医療小説ともとれる展開が続きます。
ヴァンは山犬に噛まれて病にかかりますが、奇蹟的に回復して助かりました。その結果、ヴァンの身に山犬と精神が一体になれ、犬の仲間になるという不思議な現象が起こります。
人間でありながら人間でなくなってしまうという恐怖と孤独感を抱えるヴァン。
ヴァンが保護したユナも山犬に噛まれていましたので、その影響が心配されますが、今のところほとんど無傷な状態です。
そして、彼女はどんなに遠くはなれていても、父親のように慕うヴァンの存在をかぎ分けることができました。
人々が病の恐怖を抱かぬようにと、人間のいない山奥へ山犬の群れを引き連れていくヴァンの後を、ユナとヴァンを慕う人々が追いかけます。
慕う者がこんなにいるというラストシーン! 孤高の勇者・ヴァンは、決して独りではなかったのです。
人々を病から救うために人間界から遠ざかろうとするヴァンを必死に追い求めるユナに、胸がいっぱいになりました。
タイトルの意味
ここで注目したいのは『鹿の王』というタイトルです。
「王」とは群れをなす鹿たちの最高命令者であり、勇気ある強い鹿と捉えがちですが、本当の意味は全く違います。
作品中、ヴァンがホッサルに語った「鹿の王」の話があります。
「飛鹿の群れの中には、群れが危機に陥ったとき、己の命を張って群れを逃がす鹿が現れるのです。長でもなく、仔も持たぬ鹿であっても、危機に逸早く気づき我が身を賭して群れを助ける鹿が。たいていは、かつて頑健であった牡で、いまはもう盛りを過ぎ、しかし、なお敵と戦う力を充分に残しているようなものが、そういうことをします。私たちは、こういう鹿を尊び〈鹿の王〉と呼んでいます。群れを支配する者、という意味ではなく、本当の意味で群れの存続を支える尊むべき者として。貴方がたは、そういう者を〈王〉とは呼ばないかもしれませんが」
‟群れを支配する者、という意味ではなく、本当の意味で群れの存続を支える尊むべき者”。
なりたくて力づくでなる前者と異なり、真実の「鹿の王」は、自ら望んだわけではないけれども、皆を守るために行動を起こす者を指しています。
これが本作のタイトルの意味であり、ヴァンがとった行動こそ、‟鹿の王”となるべき理由だったのです。
映画『鹿の王 ユナと約束の旅』の作品情報
【公開】
2022年(日本映画)
【原作】
上橋菜穂子
【監督】
安藤雅司
【脚本】
岸本卓
【声のキャスト】
堤真一、竹内涼真、杏
映画『鹿の王 ユナと約束の旅』の見どころ
映画『鹿の王 ユナと約束の旅』の2人の主役の1人は、ヴァン。巨大帝国から祖国を守る最強の騎士団「独角」の最後の頭です。
わが身を犠牲にしても人々を恐ろしい病から救おうとするヴァンは、自分の身に起こった天命ともいえる使命を悟り、山犬たちを連れて山奥へと駆け込んでいきます。
人の姿をしていてもその精神は山犬と同じになりつつあって、孤独を噛みしめるヴァン。こんなヴァンに命を吹き込むのは、俳優の堤真一です。
ヴァンと肩を並べるもう1人の主役は、大国の天才医術者ホッサル。山犬からの伝染病を防ぐために、様々な努力をします。ホッサルは竹内涼真が担当します。
そして、杏が声を吹き込むのは、故郷のために帝国に従い、ヴァンを追う謎の女戦士サエ。彼女は賢く強い女性で、ヴァンが保護した少女ユナにも慕われていました。
実生活でも母親である杏のユナに対する愛情に満ち溢れた声音が、魅力的です。
また、本作で声優初挑戦という堤と初のアニメ映画の声優となる竹内。2人の主役の初々しい感情表現に注目が集まります。
キャストの雰囲気が、アニメの人物たちにそっくりなのも興味深いところです。
まとめ
2015年の本屋大賞と第4回日本医療小説大賞を受賞し、シリーズ累計発行部数220万部を突破したベストセラー小説『鹿の王』。
病気が蔓延する国を救おうとする医療サスペンスであり、人と人との絆を描いた勇壮なファンタジーです。
原作者は児童文学・ファンタジーの第一人者の上橋菜穂子。彼女は「精霊の守り人」シリーズの作者でもあります。
そして、原作を映画に手掛けたのは安藤雅司。『もののけ姫』(1997)『千と千尋の神隠し』(2001)『君の名は。』(2016)という邦画の歴代興行収入上位4作品のうち、3作品で作画監督を務めました。本作品での初監督ぶりに期待も高まります。
小説でしか味わえなかった圧倒的な世界観をどのようにアニメで再現できるのか、とても楽しみです。
映画『鹿の王 ユナと約束の旅』は、2022年2月4日(金)公開。