映画『僕が跳びはねる理由』は、2021年4月2日(金)ロードショー!
言いたいことが言えない。それは、気持ちを伝えられないということ。
自閉症という障害を抱える作家・東田直樹が13歳の時に執筆したエッセイ『自閉症の僕が跳びはねる理由』をもとにしたドキュメンタリー映画が製作されました。
原作は世界30カ国以上で出版される大ベストセラーとなり、自閉症と呼ばれる彼らの世界はどのように映っているのかを、多くの人が知るきっかけとなりました。
映画化では、世界各地の5人の自閉症の少年少女とコミュニケーションを取り、家族の証言を交えながら、彼らの心の内面を映像化。
彼らがみて、感じている世界を疑似体験しているかのような映像表現を駆使しました。「普通とは何か」という抽象的な疑問を多角的にひも解きます。
映画『僕が跳びはねる理由』の作品情報
【日本公開】
2021年(イギリス映画)
【原作】
東田直樹:『自閉症の僕が跳びはねる理由』
【監督】
ジェリー・ロスウェル
【作品概要】
原作者である東田直樹は、会話のできない自閉症でありながら、パソコンおよび文字盤ポインティングによりコミュニケーションが可能で、理解しがたかった自閉症者の内面を綴る作品を多数執筆しています。
原作『自閉症の僕が跳びはねる理由』を英訳したのは、映画『クラウド・アトラス』の原作で知られるイギリスの作家・デイビッド・ミッチェル夫妻です。
自らも自閉症の息子を育てており、この書籍を通し理解できたことを、世界中の同じ境遇の親にも紹介したいと翻訳を担当。この英語版が、本作に出演しているジョスの両親の目にとまり、映画化の実現となりました。
映画『僕が跳びはねる理由』のあらすじ
13歳の少年は、自分に障害があるとは思っていませんでした。「普通と違う所があって困る」と皆が言います。彼にとって普通の人になることは、難しいことでした。
ある自閉症の子供を持つ母親は、突然声をあげ泣き出す娘にどうしようも出来ず、自分が泣いていました。
でも、娘がいつ何時でも書き続けている絵は、彼女の日常を伝える手段なのだとわかりました。
ある自閉症の男の子は、突然恐怖に襲われパニックに陥ることもあります。彼の記憶は、幼い頃のものであっても、30分前のものであっても、そう変わりがありません。
記憶は線のように繋がっているものではなく、点のように現れます。困るのは、その頃の気持ちも一緒にやってくることです。
自家製の文字盤を指さし言葉を探しながら話す「文字盤ポインティング」で、コミュニケーションを図ることができるようになった自閉症者もいます。
話せないことは、気持ちを伝えられないことです。人として生きることは、自分の意思を伝えることが何より大切です。「僕の話に耳を傾けてください」。
国によっては、自閉症の子供を悪魔と結び付け差別する地域もあります。世界中で自閉症を理解しようとする動きが広がることで、同じ境遇の人々のコミュニティが作られつつあります。
自然はときに、彼らを抱きしめてくれる存在です。「世界に生きていいよ」と言ってくれます。自閉症者は普通の人には体験できない喜びを感じているのです。
「僕らは、文明の支配の外に生まれた。多くの命を殺し、地球を壊してきた人類に、大切な何かを思い出してもらうために」。
人は見かけだけでは分かりません。中身を知れば、その人ともっと仲良くなりたいと思います。少しだけ、自閉症者の声に耳を傾けてみませんか。
彼らの世界を旅することで、彼らが跳びはねる理由がわかるかもしれません。そして、互いの未来は繋がっていると感じるはずです。
映画『僕が跳びはねる理由』の感想と評価
このドキュメンタリー映画の原作である東田直樹のエッセイ『自閉症の僕が跳びはねる理由』は、それまで「感情を持たない」「創造的な知性を持たない」などと思われてきた、自閉症者への偏見を覆した作品となりました。
「なぜそんな行動を?」と理解出来なかった自閉症の子供を持つ親たちに、希望を与えた作品でもあります。
そこには、彼ら独自の文化やルールが記されていました。心がいつも揺れ動いている状態は、どんな場所にいても居心地が悪く、安心できる場所を探しているのだと。
「悲しいことや嬉しいこと、感情に訴える何かが起こると、雷に打たれたように体が動かなくなる。でも、跳びはねれば縛られた縄を振りほどくことが出来る。気持ちは、空に向かっていく。そのまま、鳥になって遠くへ飛んでいけたら」
彼が跳びはねる理由は、私の跳びはねる理由と変わらないように思います。むしろ彼は、その感覚を美しい詩の一節のように言葉を紡ぎ表現しています。
映画では、自閉症者の内面がその行動にどのような影響を与えるかを、映像や音響を駆使して再現しています。彼らの目線で世界を感じる疑似体験が出来るのです。
聞こえる音、まぶしい光、動く影、変化する色、肌に感じる雨粒。見るものは同じでも、受け止め方、感じ方が違うように思います。
細かい部分から入り、視界が全体に広がっていく様子。線や面をたどり、記憶の中から近い物を探していく。その作業はかなりの手間がかかります。まさに、旅です。
だからこそ、たどり着いた時、全体が理解できた時、物事はキラキラ輝き出し鮮明に伝わり心を震わせます。美しい世界です。
作中にはナビゲーター的な存在の少年が、海や森を歩き、旅をするように登場します。最後に彼は翻訳家のデイビッド・ミッチェルの自宅にたどり着きました。
それは、「みんなに理解して欲しい」という原作者・東田直樹の想いが繋がった瞬間でした。世界中でもっと彼らが対話に加われば、世界はもっと豊かなものになるのではないでしょうか。
まとめ
自ら自閉症である作家の東田直樹が13歳の時に執筆したエッセイ『自閉症の僕が跳びはねる理由』をもとに製作されたドキュメンタリー映画『僕が跳びはねる理由』を紹介しました。
自閉症者が見つめ、感じ、生きる世界を通して「普通とは?」「個性とは何か?」という普遍的な疑問をひも解いた作品。
「普通である」とは、どのような状態なのでしょうか。「普通」は、誰が決めるものなのでしょうか。自分と誰かを比べて「私は普通だ」と言えるでしょうか。
原作者の東田直樹は、「普通になりたいですか?」という質問にこう答えています。
「きっと、親や先生や周りの人は大喜びで普通の人に戻してもらいたいと言うでしょう。僕もそう願っていました。でも今なら、僕はこのままの自分を選ぶかもしれません。障害のある無しにかかわらず人は努力しなければならないし、努力の結果幸せになれることがわかったからです。自分を好きになれるなら、普通でも自閉症でもどちらでもいいのです」と。
この映画は、知らなかった世界の扉を開け、多くのことに気付かせてくれました。なにより、他者との分断ではなく、分かり合う努力をするということを思い出させてくれました。
映画『僕が跳びはねる理由』は、2021年4月2日(金)ロードショー!