ナチス兵に成りすました青年が、ユダヤ人救出のために奔走する戦争サスペンス
マーク・シュミットが原案の担当・監督を務めた、戦争サスペンス映画『ウォーキング・ウィズ・エネミー ナチスになりすました男』。
本作は実在のピンチャス・ローゼンバウムをモデルに映画化された、2014年製作のアメリカ・カナダ・ルーマニア・ハンガリー合作映画です。
第二次世界大戦下のハンガリーでナチス兵に成りすまし、同じユダヤ人たちを救おうとする青年の姿を描いた物語とは、具体的にどんな内容だったのでしょうか。
戦争サスペンス映画『ウォーキング・ウィズ・エネミー ナチスになりすました男』のネタバレあらすじと作品情報をご紹介いたします。
CONTENTS
映画『ウォーキング・ウィズ・エネミー ナチスになりすました男』の作品情報
【公開】
2018年(アメリカ・カナダ・ルーマニア・ハンガリー合作映画)
【脚本】
ケニー・ゴールド
【監督・原案】
マーク・シュミット
【キャスト】
ジョナス・アームストロング、ハンナ・トイントン、ベン・キングズレー、チャールズ・ハベル、ウィリアム・ホープ、サイモン・クンツ、サイモン・ダットン
【作品概要】
マーク・シュミットが原案を考え、監督を務めたアメリカ・カナダ・ルーマニア・ハンガリー合作の戦争サスペンス作品です。
ヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル梅田で開催の『未経験ゾーンの映画たち2018』で上映された作品でもあります。
『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(2014)のジョナス・アームストロングが主演を務め、『ガンジー』(1983)『サンダー・バード』(2004)「アイアンマン3」(2013)などに出演するベン・キングズレーが共演。
映画『ウォーキング・ウィズ・エネミー ナチスになりすました男』のあらすじとネタバレ
第二次世界大戦において、ナチス・ドイツ同盟国のハンガリーは当初、戦火を免れていました。
しかし、戦況が連合国側に傾いたことで、ハンガリー政府は連合国との講和を模索。ドイツがその思惑に気づいたことで、両国間に緊張感が漂います。
1944年冬、 ナチス軍はハンガリーに侵攻し、連合国のソ連軍と激しい銃撃戦を繰り広げています。
ナチス軍に侵攻される9カ月前の1944年の春。ハンガリーのブタペストでは、一部のハンガリー人によるユダヤ人差別はあったけれど、人々は戦争のことなど気にもかけず、ダンスや他のことに現を抜かしていました。
レコード店に勤めるユダヤ人大学生のエレク・コーエンは、友人のフレンツとライラシュと共にクラブへ赴き、そこで出会ったハンナやレイチェルら3人の女性とそれぞれ恋に落ちました。
しかし、エレクたちが幸せな夜を過ごした翌日。ナチスの親衛隊は国境を越え、ブタペストへ侵攻してきたのです。
たった一晩で戦争の矢面に立たされてしまったブタペスト。エレクとフレンツが働くレコード店のユダヤ人店主ヨージェフは、2人に少ない売上金を渡し、「戦争で街が完全に封鎖される前に、これを使って故郷の村に帰った方が良い」と言います。
エレクとフレンツは汽車に乗り、故郷の小さな村へ帰りました。しかし帰った矢先、ナチスから村のユダヤ人男性は、明日労働奉仕に駆り出されることを知ります。
エレクはとりあえずフレンツと別れ、父親のラビと一緒に家族が待つ家へ帰ろうとしました。
そこへ、コーエン一家とフレンツ一家と家族ぐるみの付き合いがあるハンガリー人の村人、バレスが声をかけてきます。
「ドイツ人が来たらユダヤ人は酷い目に遭ってしまう。もし逃げるなら力になれるかもしれない」と。
これに対しラビは、自分の信徒を放って自分だけ村を離れることなんてできないと言い、バレスの話に全く耳を貸そうとしません。
エレクはバレスの言葉に興味を抱き、ラビに内緒で夜こっそり彼と会うことにしました。バレスがエレクを連れて行ったのは、教会でした。
エレクは神父から、母親のアンナと幼い弟のアブラム、妹のソフィアにラビ、そして自分の分も含めて5人分の洗礼証明書を受け取りました。
そして出発当日、エレクはソフィアに洗礼証明書を渡し、「これを家のどこかに隠しておいて。何か問題が起きたら父に渡して、説得するんだ」と言います。
もし家族に何か起きた時、洗礼証明書を持っていればナチス兵から逃げられるかもしれないと信じて…。
その後、エレクはフレンツらユダヤ人男性と一緒に、ナチス兵に西部国境地域にある、ユダヤ人労働収容所へ連れて行かれました。
そこでユダヤ人労働収容所の所長から告げられたのは、道路の整備や橋梁の建設などの国の重要事業に力を尽くしてほしいとのことでした。
働きが良ければ家族の元に帰れますが、もし脱走を試みた場合は絞首刑に処されます。
所持品を奪われたエレクたちは、家族の元に無事に帰るため、恐怖に怯えながら所長たちナチス兵に従うしかありませんでした。
一方、ブタペストの街に拠点を築いたナチスの親衛隊。アイヒマン中佐はユダヤ人評議委員会のシュテル議長を呼び出し、ユダヤ人に対する制限事項を告げます。
それは、ラジオや電話、旅行の禁止と夜間の外出禁止。それからユダヤ人は全員、星マークを付けた衣服を着用せよとのことでした。
エレクたちはユダヤ人労働収容所に収監されて以降、来る日も来る日もずっと、ナチス軍が残した戦争の爪痕を追い、働き続けていました。
仕事内容は、戦いで壊れた線路の修復や塹壕の掘削、ナチス軍が殺した死体の埋葬。所長は体が弱った者にも容赦なく働かせ、動けなくなれば銃を使って躊躇なく殺していました。
その頃、ハンガリー政府の首脳であり摂政ホルティの失脚を狙う、ハンガリー人至上主義の矢十字党の党首サーラシ・フェレンツは、アイヒマン中佐に提言します。
「ナチス軍の意向を国政に反映させることができれば、政治の力でハンガリーからユダヤ人を排除できる」と。
橋の上にある線路の修復作業をしていたエレクとフレンツは、別の場所で作業していたユダヤ人男性が足を負傷したせいで、所長に殺されそうになっている場面を目撃します。
その時、アメリカ軍の戦闘機が4機、橋に接近。エレクたちもろともナチス兵に攻撃を仕掛けてきました。
エレクとフレンツはその混乱に乗じて、橋から下の川へ落ちて森の中へ逃げ込み、そのまま故郷に帰ろうとします。
それに気づいて邪魔をする所長。近くに落ちたミサイルによる爆撃の衝撃で、所長がバランスを崩した隙を狙い、エレクは彼が持っていた銃を奪いました。
所長はエレクたちを見逃す素振りを見せたものの、実際はそうは思っておらず、エレクの不意を突いてピストルで殺そうとします。
そんな所長を撃ち、エレクたちを救ったのは足を怪我して動けなくなったユダヤ人男性です。エレクたちは、彼のおかげで脱走することが出来ました。
しかしエレクは、所長が実はハンガリー人だったことから誰も信用できなくなり、通りには出ず森の中を歩き続けることにしました。
エレクたちは無事、故郷へ帰還。ようやく家族に会えると、2人はそれぞれの家へ戻ります。
しかし、フレンツの家にはハンガリー人の村人一家が勝手に暮らしており、家族の姿はありません。
フレンツは、彼に殺されそうになりながら家を追い出されることに…。エレクの家にも家族は誰もおらず、荒らされた部屋には家族写真を入れた写真たてがあり、裏には洗礼証明書が挟んでありました。
村の住人は皆、当然のようにユダヤ人を見捨て、故郷を奪った。その事実に、エレクたちの心は深く傷ついてしまいました。
そんなエレクたちに声をかけたのはバレス。彼はエレクたちに、労働奉仕命令を出した本当の理由を話してくれました。
労働奉仕命令を出し、村からユダヤ人男性を追い出したのは、そうすれば女子供を簡単に追い出せると考えたからです。
エレクたちはバレスから、離散した家族や他のユダヤ人は皆、ナチス兵に西へ連れて行かれたと聞き、家族を探すため村を出ます。
ナチスの列車に乗ったスコルツェニー中佐は、ブタペストに到着。ホルティの元へ向かいました。
ホルティは秘書であり息子のミクローシュと、民族の浄化を進めるベルリンのヒトラー総統に従うのではなく、同胞の粛清を続けるソ連のスターリン首相に休戦協定を持ち掛けようと話していました。
そこへ、アイヒマン中佐とサーラシを伴ったスコルツェニー中佐が到着。彼はアイヒマン中佐がユダヤ人の統制を行い、自分が石油の生産管理をすると告げます。
それを勝手に決めたのはサーラシです。彼にそんな権限はないと主張するホルティたちに対し、スコルツェニー中佐は「ベルリンに従わなければ、我々への反逆とみなす」と脅します。
一方、貨物車に忍び込んでブタペストの街に戻ってきたエレクたちは、ヨージェフを探しました。
エレクたちに気づいた、ヨージェフのアパートの隣人は、彼らに「ヨージェフたちは、ブタペストのバイノク通り18番地にあるユダヤ人専用アパートに移送された」と教えます。
そこにはハンナとレイチェルが家族と一緒に暮らしており、ヨージェフの姿もありました。エレクたちは無事、ハンナたちと再会。彼らに、離散した家族の居場所を知っているか尋ねます。
しかし、アパートの部屋にいたユダヤ人は誰1人行方を知らず…。
そこで分かったのは、ハンナの伯母から送られた絵葉書にある、ポーランドのアウシュヴィッツにいるのではないかということと、イスの保護証書がブタペストの街にいるユダヤ人の命綱になっていることだけでした。
映画『ウォーキング・ウィズ・エネミー ナチスになりすました男』の感想と評価
レコード店で働くユダヤ人の青年エレクが、ナチス兵に成りすまし、自分と同じユダヤ人を救出していく戦争サスペンス作品です。
突然のナチスの労働奉仕命令、村人の裏切り、救えなかったユダヤ人たちと家族、仲間の死。
こんな辛くて悲しすぎる現実に直面し、そのたびに心を傷つけられ、打ちのめされていくエレクの姿が痛ましくて、思わず目を背けたくなるほど悲しいです。
ナチスの親衛隊や矢十字党に支配され、虐殺されていくユダヤ人の視点で描かれていくストーリー。
ユダヤ人がナチスやハンガリーの人々に、一方的に殺されなくてはならないほどの何かをしたのかと怒りたくなるほど、彼らが行った行為は冷酷非道なものばかりでした。
そんなナチスの親衛隊のスコルツェニー中佐と最後まで戦い、言葉だけで渡り合ったホルティとミクローシュ、ルッツ領事の活躍は本当に素晴らしかったです。
連合国のソ連と、無事休戦協定を結び、戦争が終結したとエレクたちが喜ぶのも束の間、次の場面でスコルツェニー中佐と矢十字党によって、彼らは一気に絶望へと叩き落されます。
エレクやフレンツたちがナチス兵に成りすまし、多くのユダヤ人を救っていきますが、ナチスの親衛隊や矢十字党に邪魔されて救えなかった展開もありました。
その上げては落とす演出に、エレクたち同様、観ているこちらも一喜一憂することでしょう。
このようなドキドキハラハラするスリルと、絶望と喜びが繰り返しやってくる展開に、戦争映画好きはドハマりすること間違いなしです。
物語のラストでは、死んだかと思ったエレクが生きており、ハンナと結婚してアダムの養父となっていたことが描かれた後日談があります。
これまでの彼らの苦難を見てきたからこそ、胸にグッとくるものがあって感動しました。
また、エンドロール前には、本作のモデルとなったピンチャス・ローゼンバウムと実在したナチス兵、それらの写真とキャストの顔が並んだ映像が流れ、その後の彼らの消息が伝えられます。
戦争がもたらす重苦しい結末に胸が締め付けられることでしょう。
まとめ
第二次世界大戦下のハンガリー・ブタペストで、多くのユダヤ人を救ったピンチャス・ローゼンバウム氏を、ジョナス・アームストロングが演じた戦争サスペンス作品でした。
ジョナス・アームストロング演じるエレクが、フレンツやライラシュたちと一緒にナチス兵に成りすまし、命懸けでユダヤ人救出作戦に挑む物語は、どの場面もドキドキハラハラする場面ばかりです。
エンドロール前に描かれた後日談、そこでは逃げたアイヒマン中佐を含め、ユダヤ人を眩しめ虐殺したナチス兵や矢十字党は絞首刑に処されたことなど、実在したローゼンバウム氏たちがその後どうなったのかが語られています。
エレクたちユダヤ人にとって、辛く悲しい現実でしかないことばかり起きてしまいます。けれども、エレクとハンナの恋模様や、ユダヤ人同士の絆とエレクたちの友情が描かれた場面もあったので、心が和みウルッとしました。
そして何より、エレクたちユダヤ人があの戦争を生き延び、ニューヨークで皆幸せに暮らしているという事実が、嬉しくて仕方がなく、思わず涙が溢れました。
ナチス軍と連合国の戦いと、エレクたちと矢十字党による銃撃戦は、ピストルや機関銃などの銃器や手榴弾、ミサイルが使用された迫力満点なアクションばかりです。
戦争映画やアクション好きにとって、大興奮すること間違いなしでしょう。
ユダヤ人の視点で描かれた第二次世界大戦と、ナチスが支配するブタペストで、ユダヤ人を1人でも多く救おうとした青年の奮闘劇が描かれた戦争サスペンス映画が観たい人にとって、とてもオススメな作品です。