映画『あのこは貴族』は、2021年2月26日(金)より全国公開!
本作は、山内マリコの同名小説を原作に、同じ都会で暮らしながら全く異なる生き方をする2人の女性が自分の人生を切り開こうとする姿を描いた人間ドラマです。
門脇麦が箱入り娘の華子、水原希子が自力で都会を生き抜く美紀を演じ、監督は『グッド・ストライプス』(2015)の岨手由貴子が務めました。
映画『あのこは貴族』の作品情報
【公開】
2021年(日本映画)
【監督・脚本】
岨手由貴子
【キャスト】
門脇麦、水原希子、高良健吾、石橋静河、山下リオ、佐戸井けん太、篠原ゆき子、石橋けい、山中崇、高橋ひとみ、津嘉山正種、銀粉蝶
【作品概要】
映像業界が最も注目する山内マリコによる同名小説を原作に、異なる環境を生きる2人の女性が、恋愛や結婚だけではない人生を切り拓く姿を描くシスターフッドムービーの新境地ともいえる作品が誕生しました。
主人公の箱入り娘・華子には、NHK大河ドラマ『麒麟がくる』でヒロインを好演した門脇麦。地方から上京し、自力で生きる美紀役に、女優、モデル、デザイナーと多彩に活躍する水原希子。奇しくも二人を繋ぐことになる、弁護士・幸一郎役に高良健吾ほか、石橋静河、山下リオと、若手実力派俳優が集結。20代後半から30代にかけて息苦しさを抱える女性たちが、軽やかに変化していく姿を、最後の青春譚として静かに紡いでいきます。
映画『あのこは貴族』のあらすじとネタバレ
東京の高級住宅街・松濤に生まれ、箱入り娘として何不自由なく成長し、「結婚=幸せ」と信じて疑わない華子(門脇麦)。
20代後半になり、結婚を考えていた恋人に振られてしまいました。元旦の食事会で家族に紹介しようと思っていた矢先の出来事で、落ち込む華子は初めて人生の岐路に立たされます。
高級ホテルの一室で行われていた食事会では、華子の祖母をはじめ、父、母、二人の姉、義兄に甥が勢ぞろい。華子が恋人を連れてくると信じていたのにも関わらず破局したことを知ると、一様にがっかりするのですが、母親は病院の跡継ぎに相応しい縁談を進める始末。華子は気持ちを切り替えて、お見合いや知り合いの紹介など、出会いを求めて奔走しますが、どれも空振りに終わってしまいます。
ある日学生時代の友人たちとの集まりに参加した華子は、独身は華子とバイオリニストとして活躍している逸子(石橋静河)だけだと気付きます。焦ってお見合いをする華子に逸子は、「お見合いですぐに理想の相手が見つかるわけがない。みんなだって、3年ぐらいかけて相手を見つけて結婚しているんだから」と冷静な意見を述べます。
そんな時、義理の兄の紹介で、弁護士・幸一郎(高良健吾)と出会います。ハンサムで良家の生まれの幸一郎に心を奪われる華子。
交際に発展し、ある日幸一郎の実家の別荘でプロポーズされ、華子は喜びに満ち溢れます。ところがその夜、偶然幸一郎のスマホを見てしまい、そこに「時岡美紀」という女性の名前を見て、一瞬不安がよぎります。
時岡美紀(水原希子)は、富山生まれ。猛勉強の末に名門大学に入学し上京しましたが、父親の失業で学費が続かず、夜の世界で働くも中退してしまいました。
地元に戻らず、東京にしがみついて仕事をしていますが、特にやりがいを感じているわけでもなく、味気ない暮らしをしていました。
幸一郎とは大学の同級生でした。幸一郎は、強引に授業のノートを美紀に借りたことがあったのですが、そもそも内部進学者の幸一郎とは住む世界が違い、美紀が中退してからはそれっきりでした。
ところが美紀が働く店に、偶然客として幸一郎が現れてから、男女の関係になります。
ある日、幸一郎が美紀を誘って参加したパーティーに、バイオリンを演奏するため逸子が居合わせました。二人の親しげな雰囲気を見て心配した逸子は、美紀を呼び出し、華子と引き合わせます。
「別に対決させようっていうわけではないのよ」と言う逸子の言葉どおり、姿を現した華子は根っからのお嬢様で、上品ないでたちでした。美紀を責めるどころか、礼儀正しく接する華子に対し好感を抱いた美紀は、幸一郎に「もう会うのはやめよう」と告げます。
映画『あのこは貴族』の感想と評価
魅力的な二人の女性、華子と美紀
生まれも育ちも違う華子と美紀が、それぞれ直面する問題に向き合って、乗り越えていく姿を描いている本作。
渋谷区・松濤という高級住宅街に住む華子は、混じりっけなしのお嬢様です。人の意見を素直に聞き、「結婚こそが女性の幸せ」と信じて疑わない姿は、かわいくもあります。
トイレのことをお化粧室と言う華子を、門脇麦はとても上品に演じています。幸一郎の実家へ結婚の挨拶に行くシーンでは、和室の作法を見事にこなしており、華子の立ち居振る舞いの美しさはこの作品の見どころ
でもあります。
一方の美紀は、実家の富山に帰省し、仕事が見つからない父親やお気楽な弟の姿を見て、うんざりした表情をします。しかし美紀は、大学を中退せざるを得なかったなど、自分の境遇をきちんと受け入れ、冷静に生きているところがとても魅力的です。東京で一生懸命生きる美紀を水原希子は、力強く、時に繊細に演じています。
自らの価値観を再確認できる作品
本作の登場人物は、自分の生まれた境遇をそれなりに受け入れています。地方出身者の美紀と里英は、一生懸命勉強して入学した大学で、内部進学者のセレブぶりを目の当たりにして「この子たちは貴族だ…」とつぶやきます。
でも2人は決して流されることなく、自分自身の人生を切り拓くべく冷静に物事を判断し、「起業する」という目標を掲げます。
幸一郎は、自身が政治家として地盤を継がなければいけないことを痛いほど理解しています。結婚する相手は、自分に釣り合う家柄の娘でなければ家族に認めてもらえないこともよく分かっており、そのとおり、華子を結婚相手に選びます。
でも幸一郎は、心の底では美紀のことを愛していたのかもしれません。華子のことを邪険にしたりすることはないのですが、結婚してから華子と距離を置いているように感じるのは、彼なりに苦しんでいた証なのかもしれません。
「東京の中でも松濤は特別な場所で、その中で生まれ育ったら、地方の人とは交わっていけない」。華子は、友人の逸子にこんなことを言われます。
華子が東京生まれの幸一郎と結婚することになって本当に良かったと逸子が安堵するシーンで放たれるせりふなのですが、華子は自分の境遇を納得しつつも、本当にそれは正しいことなのか…と心の片隅で疑問に思っているようにも感じます。
事実、幸一郎の祖父の「身辺調査をした」という言葉に不信感を抱くところや、実母に「向こうの家では、大概のことは我慢しなさいね」と悟られ、納得できない表情を見せるところは、華子が本当は自分の意志で、自分の力で人生を切り拓いていきたいと感じているように見えました。
そして幸一郎と真剣に向き合い、離婚を決意する華子の表情には、それまでにない力強さがみなぎっていました。登場人物の考え方や行動を見ていると、自分自身と重なるところが大なり小なりあり、自らの価値観を再確認できる作品だと感じました。
まとめ
家柄、学歴、職業など、私たちは無意識のうちに線引きをしているのだということを、この物語を通じて実感しました。
線引きした世界の中で、それぞれもがき、窮屈に感じたり疑問に思ったりしているのも事実。多くの人は見ないふりをしてやりすごしますが、華子はそうではありませんでした。
いろいろな人と出会って変わっていく華子、そして東京で、自分の道を切り拓いていこうとする美紀を心から応援したくなる作品でした。