連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第16回
『私のオオカミ少年』、『探偵ホン・ギルドン 消えた村』のチョ・ソンヒ監督が構想に10年をかけて作り上げた映画『スペース・スウィーパーズ』。韓国映画初のスペースオペラと、製作前から大きな話題を集めていた注目の作品です。
宇宙に漂う無数のゴミを回収し、一攫千金を狙う宇宙船「勝利号」のメンバーに扮するのは、ソン・ジュンギ、キム・テリ、チン・ソンギュ、そしてユ・ヘジンです!
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CONTENTS
映画『スペース・スウィーパーズ』の作品情報
【日本公開】
2021年2月05日より配信(韓国映画)
【原題】
승리호(英題:Space Sweepers)
【監督】
チョ・ソンヒ
【脚本】
チョ・ソンヒ、ユン・スンミン、ユガン・ソエ
【キャスト】
ソン・ジュンギ、キム・テリ、チン・ソンギュ、ユ・ヘジン、リチャード・アーミテージ、バクイェリン
【作品概要】
ソン・ジュンギ、キム・テリ、チン・ソンギュ、そしてユ・ヘジンが宇宙ゴミ回収船「勝利号」の乗組員に扮した韓国初のスペースオペラ。
監督のチョ・ソンヒが構想から10年をかけて作り上げたSF大作です。2021年2月5日より、Netflixで配信が開始されました。
映画『スペース・スウィーパーズ』あらすじとネタバレ
2092年、地球は砂漠化と土壌の酸性化により植物が育たなくなり荒廃を余儀なくされていました。そこで宇宙開発企業UTSは、衛星軌道上に緑あふれる美しい居住地を完成させます。
しかし「エデン」と呼ばれるその土地に住むことを許されたのは人類の5%のみで、残りの95%は「非市民」として地球に残ったまま悲惨な生活を送っていました。
UTSの創設者であるジェイムス・サリヴァンが全てを仕切っており、彼は優秀なDNAを持つもののみを市民として迎えていました。
宇宙には廃棄された衛生や宇宙船、その破片など無数のゴミが漂い、大きな問題となっていました。
そのゴミを清掃する宇宙労働者は「スペース・スウィーパーズ」と呼ばれ、生計をたてるために、弾丸の10倍の速さで飛ぶゴミを競い合って回収していました。
中でも勝利号と呼ばれる宇宙船は他の「スペース・スウィーパーズ」にとって驚異の的でした。
金になりそうなゴミを追っているとたいがい勝利号が現れ、横取りされてしまうからです
勝利号に乗船しているのは、メカに強いが酒飲みの女船長チャン、操縦士のテホ、機関士のタイガー・パク、人工皮膚を欲しかっているロボットのバブズの四名です。
今回も他の船を出し抜いてゴミをかっさらっていきましたが、テホの不注意でUTSのアンテナを破損し、罰金をくらってしまいます。
勝利号はテホが金を稼ぐため、借金までして造った回収船ですが、働いても働いても修理費や罰金がかさみ、稼ぐどころか負債を抱えこんでいるありさまです。裁判所からは仮差し押さえの通知まできていました。
そんな中、勝利号のメンテナンスをしていたテホは、機体に小さな穴が空いているのに気が付きます。不審に思いエアバッグの中を調べてみると、宇宙服を着た少女が紛れ込んでいました。
テホは少女の顔を見ているうちにスニのことを思い浮かべていました。宇宙に放り出されて亡くなったスニの亡骸を彼はずっと探しているのですが、お金が無ければ当局は探してもくれないのです。
勝利号を造ったのも金を貯めてスニを探すためでした。スニがいなくなってからもう3年が過ぎていました。
UTSが大量破壊兵器のロボット、ドロシーを探しているとのニュースが流れていました。ブラック・フォックスというテロリスト集団に盗まれて以降行方がわからないのだそうです。
ドロシーの体内には水素爆弾が埋め込まれており、UTSが爆弾の危険にさらされているという内容でした。
ドロシーの顔が映ると、勝利号の4人は震え上がりました。彼らが見つけた、今ここにいる少女こそドロシーなのです! 4人は各自の部屋に駆け込み鍵を締めました。
テホは少女の携帯を見て、「カン・ヒョヌ」という人物に何度も電話していることに気が付きます。テホはカン・ヒョヌに連絡を取り、少女を連れて行くかわりに150万ドル支払うよう要求しました。
すると相手は200万払おうと言い、場所を指定してきましたが、テホは別の場所を指定し、そこでドロシーと金を交換することになりました。
交渉成立で4人は満面の笑みに。金が手にはいったら4人で分配することになりました。ドロシーも命令しなければ爆発しないと聞いて一安心です。しかしこの通信はジェイムス・サリヴァンに傍受されていました。
ドロシーを連れ、約束のUTS32番地商業地区にやってきた4人。カン・ヒョヌと接触することに成功しますが、少し離れた場所でUTSの軍隊・スペースガードが彼らを監視していました。
無事に交換が済むかに見えましたが、ドロシーがいなくなってしまいました。はいっていた宇宙服から抜け出してしまったのです。
ダンスフロアでご機嫌にダンスしていた人々は、フロアにドロシーがいるのに気が付きパニックになります。その時、スペースガードが銃撃を開始しました。
なんとかドロシーを連れて逃げおおせた勝利号メンバーでしたが、船長は「なぜ子どもをみていなかったの!?」とかんかんです。あろうことかタイガー・パクは受け取った金を律儀に返却していました。
200万を手に入れそこねて落ち込むテホですが、タイガー・パクはすっかりドロシーと仲良くなっていました。船長はドロシーの持つ不思議な力に気づき始めていました。枯れていた植物はドロシーが見つめると青々と蘇ったのです。
バブズはドロシーに化粧を施しながら、テホの数奇な運命について語って聞かせました。
キム・テホは幼いときから少年兵として軍隊に所属していました。不法移民を撃ち殺す任務についていましたが、ある日、生まれて初めて赤ん坊を見ます。彼はその子を育てることにし、少女の父親になりました。その少女がスニでした。
人を殺めることができなくなったテホはスペースガードを解雇されます。どん底に落ち、ついには博打で日銭をかせぐまでに落ちぶれてしまいました。
そんなある日、彼がスニの面倒を見ず博打にのめり込んでいると事故が起こり、スニは宇宙へ放り出されてしまいます。それからずっと彼はスニの亡骸をさがしているのです。
そこまで話した時、カン・ヒョヌへの連絡が通じたことがわかります。前回はスマホを使用したので、軍隊にバレてしまいましたが、今回は別の方法で通信することに成功したのです。
タイガー・パクは少女を渡すなと言い出しました。しかしテホは自分が生きているのはスニを探すためだ、俺達には金が必要だろ?とパクを説得します。
彼らが話している間にドロシーはトイレに行き、そこで何者かに拐われてしまいます。「勝利号」のメンバーはドロシーを抱えた男を見つけ出しドロシーを取り戻しますが、男の仲間に囲まれてしまいます。しかしパクが彼らをなぎ倒しました。
誘拐を試みた男たちは、テロリストのブラック・フォックスのメンバーでした。彼らはUTSによる火星緑化計画に疑問を抱いていました。
彼らが言うには、ドロシーは脳神経の病を抱えていたそうです。治療法がないと宣言されたカン博士はドロシーにナノボットを注射しました。
するとナノボットが神経を埋めてドロシーは回復。その上、ナノボットと交信し始め、枯れ木を蘇らせることが出来るようになったのです。
あの子は地球を救える唯一の希望であると男たちは言いました。サリヴァンはドロシーの力を借りて火星を開発。火星にのみ有効であるように遺伝子を書き換え、地球は放置し、搾取の対象としているといいます。
彼らはさらに話し続けました。「ナノボットに守られているドロシーは2億度以上の熱でないと死なない。宇宙ゴミ管理衛星ファクトリーの反重力エンジンに水素爆弾がある。ドロシーはそこで破壊される。ファクトリーが地球に落下すると津波が起き、死の灰が降る。サリヴァンは地球上の全てのものを破壊するつもりだ」と。
トイレに向かったドロシーを見て、船長は、アンドロイドはこんなにしょっちゅうトイレに行かない。したがってドロシーは人間であり、水素爆弾など埋め込まれていないと結論づけました。ドロシーの韓国名はコンニムと言い、皆は彼女をそう呼び始めます。
そこへスペースガードが突入してきました。テホはコンニムを背負うとトイレの窓から脱出し敵を振り払い、懸命に逃げてなんとか勝利号に乗りこむことが出来ました。
しかし攻撃を受けた勝利号は「ラグランジュ・ポイント(宇宙ゴミ滞留地帯)」へと落下。船体がナノボットにより侵食されはじめました。すぐに脱出しなくてはいけません。
船長はコンニムに目をつぶって100数えるように言い、メンバーは自分の持ち場についてなんとか体制を立て直そうと試みますがうまくいきません。
もう打つ手はないとメンバーが手を止めた時、100数え終わったコンニムが目をあけました。すると侵食されていた勝利号がみるみるもとの状態に戻っていくではありませんか。システムが復活し、勝利号はラグランジュ・ポイントから無事脱出することができました。
映画『スペース・スウィーパーズ』の感想と評価
韓国映画初のスペースオペラ
「勝利号」は、2092年の宇宙を舞台にした韓国映画初のスペースオペラで、企画段階から大きな関心を集めていた作品です。
ベールを脱ぐまで、楽しみな気持ちと心配な気持ちが入り混じっていましたが、蓋を開ければ、ハリウッドのSF大作と比べても遜色のない作品に仕上がっていました。
「神と共に」シリーズ(2018)を観た時、エンドロールに流れるVFXのスタジオやスタッフの多さが非常に印象的だったのですが、そのことを思うと、韓国映画初のSF大作に挑む準備はもう十分にできていて、満を持しての挑戦であったことが伺えます。
『スペース・スウィーパーズ』は、広大な宇宙空間、UTSの居住地を始めとする生活空間、戦闘服やメカ、科学者が残した研究ノートまでディテールも凝りに凝っています。アクション場面も非常にスリリングです。
また、自動翻訳機が発達しており、誰もが母国語で話すと普通に相手に通じるという仕組みも物語の早いうちに説明されるなど、映画の世界観がしっかり作られています。宇宙清掃船「勝利号」のデザインがかっこよすぎないのもいい感じです。
はぐれものの船員が寄り集まってチームを組んでいるのは、韓国版『ガーディアンズ ・オブ・ギャラクシー』といったところですが、面白いのは、外枠こそハリウッド大作映画を彷彿させますが、中身はこれぞ「THE 韓国映画」とも呼ぶべき、韓国映画らしさが随所にあらわれていることです。
個性的な登場人物が、時にシリアスに、時にコメディタッチにやり合いながら、ここぞという時には力をあわせる人情溢れる物語が展開します。カードではなく花札、ファーストフードでなくチゲ料理が登場することが、新しささえ感じさせます。
「勝利号」の愉快な仲間たち
チョ・ソンヒ監督は、『私のオオカミ少年』(2012)、『探偵ホン・ギルドン 消えた村』(2016)という作品で、特異な設定の中での人間関係を描いてきた作家です。
本作も、人口の5%のみの特権階級と打ち捨てられたその他大勢という究極の格差社会に身をおきながら、逞しく生きる人々の姿を描いています。
選ばれないものが上の世界で暮らすことを許される唯一の方法は、宇宙ゴミ回収者などの労働者として出向くことですが、市民権は得られず、なのにしっかり税金は取られ、働けど働けど負債が積み重なっていくという悪循環に身を置かねばなりません。上と下で決定的に違う生活環境や、搾取される労働者の姿は、誇張はされていますが実社会の写し鏡です。
金の亡者となって、宇宙ゴミを他の船からかっさらっていく「勝利号」の面々も例外ではありません。名操縦士であるテホは哀しい人生を背負っており、全ては金次第であることが骨身にしみています。
『私のオオカミ少年』以来のチョ・ソンヒ監督作品出演となるソン・ジュンギが絶妙な演技を見せています。彼の切実な願いに思わず共感してしまうことでしょう。
船長を演じるのはキム・テリ。ドラマ『ミスター・サンシャイン』(2018)でもスナイパーを演じていましたが、本作でもレーザーガンを振り回す姿が決まっています。その一方、力が入りすぎないユーモラスな部分も存分に発揮していて実にチャーミングです。
タイガー・パクを演じるのはマ・ドンソク主演の『犯罪都市』(2017/カン・ユンソン)で強烈な悪役を演じてブレイクし、その後の活躍ぶりは周知の通りのチン・ソンギュ。作品ごとに違った側面を見せてくれますが、今回もこれまでとは違うキュートな一面をたっぷり披露してくれます。
そしてロボットのバブズを演じたのはユ・ヘジンです。声の出演だけでなくモーションキャプチャも担当し、ロボットにユ・ヘジンならではのユーモアを植え付け、笑いを誘います。
彼らの隠された過去も徐々に明らかにされていくのですが、この寄せ集めの船員たちの意地とパワーが炸裂する物語後半はアクションも手に汗握る一大スペクタクルです。
そして、人間破壊兵器として登場する少女ドロシーの愛らしさはどうでしょうか。頻繁にトイレに行き、オラナもするので、人間であることが証明され、その後は韓国名のコンニムとして皆から愛されます。
また、かわいらしいだけでなく、彼女が発する「宇宙には上も下もない 宇宙の心で見れば卑しさなどない」という言葉や、人々をフラットな視線で見つめ、ありのままに認める彼女の姿は映画が発するメッセージでもあります。
チョ・ソンヒ監督は『探偵ホン・ギルドン 消えた村』でも子役を絶妙に輝かせていました。ヨン・サンホ監督の『新感染半島 ファイナル・ステージ』(2020)がそうであったように、子役が想像以上の活躍をするというのも、韓国映画の大きな特徴のひとつです。コンニムを演じたパク・イエリンの今後の活躍にも要注目です。
まとめ
『スペース・スウィーパーズ』は、韓国で2020年夏に劇場公開予定でしたが、新型コロナウィルス感染拡大の影響で公開延期となり、2021年2月5日にネットフリックスで配信が開始されました。
大きなスクリーンで見れば、音も映像もまた違った印象を受けたかもしれませんが、話題の大作をいち早く、世界同時に観ることができるのも大きな喜びのひとつです。
今後、韓国映画で本格的SF映画が作られるかどうかがかかっているといっても過言ではない作品でしたが、見事な完成度を見せたことで、韓国映画の新たな展開が巻き起こる予感がします。