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Entry 2021/02/04
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映画『21ブリッジ』あらすじ感想と内容解説。ラスト主演作となる劇場公開で最後のチャドウィック・ボーズマンの雄姿を刮目せよ|銀幕の月光遊戯 72

  • Writer :
  • 西川ちょり

連載コラム「銀幕の月光遊戯」第72回

強盗殺人事件の犯人逮捕のため、警察はニューヨークのマンハッタン島を完全閉鎖!

チャドウィック・ボーズマンの最後の主演劇場公開作『21ブリッジ』が2021年4月に全国ロードショーされます。

「アベンジャーズ」シリーズなどのルッソ兄弟が制作。『ゲーム・オブ・スローンズ』などテレビドラマを中心に手がけてきたブライアン・カークが監督を務めた手に汗握るクライム・アクションです。

【連載コラム】『銀幕の月光遊戯』一覧はこちら

映画『21ブリッジ』の作品情報


(C)2019 STX Financing, LLC. All Rights Reserved.

【公開】
2021年公開(中国、アメリカ合作映画)

【原題】
21 Bridges

【監督】
ブライアン・カーク

【キャスト】
チャドウィック・ボーズマン、シエナ・ミラー、ステファン・ジェームズ、キース・デビッド、テイラー・キッチュ、J・K・シモンズ

【作品概要】
チャドウィック・ボーズマンの最後の主演劇場公開作。ニューヨークのマンハッタン島を舞台に、13歳の時に警察官の父を殺害された過去を持つチャドウィック・ボーズマン扮するアンドレ・デイビス刑事が凶悪犯に挑むクライム・アクション。

監督はHBOの大ヒットドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』シリーズを手がけたブライアン・カーク。製作は「アベンジャーズ」シリーズなどのルッソ兄弟が務め、チャドウィック・ボーズマンも名を連ねている。

映画『21 Bridges』のあらすじ


(C)2019 STX Financing, LLC. All Rights Reserved.

3人のジャンキーに襲われ殉職したデイビス刑事の葬儀が行われていました。父を亡くした13歳のアンドレは涙を浮かべながら司祭の話に耳を傾けていました。

19年後。アンドレはニューヨーク市警の刑事となっていました。しかし彼は9年間で8人を射殺したということで内務調査の対象となっていました。

委員会から厳しい質問を受けたアンドレは「正当な理由がある」と述べ、反省するような素振りを見せることはありませんでした。

真夜中過ぎのブルックリン。レイとマイケルという2人の男が「モスト」というバーの前に車を停めました。問題はなさそうだと見た2人は計画していたとおり覆面をし、マシンガンを手に、中へと押し入りました。

店のオーナーを脅してコカインが入っている場所を聞き出した彼らは、扉を開けて驚きます。

30キロのコカインが隠されているという話でしたが、そこには混ざり物でないコカインの袋が300個近くも積まれていたからです。

マイケルは話しが違うと警戒し、引き上げようと提案しますが、借金まみれのレイは「これがあれば自由になれるぞ」と言い、コカインをバッグに詰め始めました。

ところがそこに4人の警官がやって来ます。うち2人が裏に周り、レイとマイケルの車を発見。警官が踏み込み銃撃戦となり、レイはあとから応援にやってきた警官も含め8人を射殺。2人はコカインを車に積み込み、逃走します。

現場に急行したアンドレはそこで部下を8人も失い怒りに震える85分署の署長と顔をあわせます。彼はアンドレが次に内務調査に呼ばれることがあれば証言すると語りました。警官殺しの犯人を撃ち殺せと言っているも同然でした。

麻薬班の女刑事フランキー・バーンズと組んで捜査するよう命じられたアンドレは、犯人はコカインを現金化するためマンハッタンに向かったと推理しマンハッタン島を封鎖することを提案します。

捜査権を争っていたFBIも朝の5時までという条件の元、その提案を呑みました。アンドレの命令により21の橋が封鎖、3つの川と4つのトンネルも封鎖され、鉄道も止まり、地下鉄はループ運転されることとなりました。

朝の5時まであと4時間。LMSIと連絡を取りながら、警察の面子をかけた捜査が開始されました。

映画『21 Bridges』の解説と感想


(C)2019 STX Financing, LLC. All Rights Reserved.

保安官的ヒーローと最新テクノロジーの共演

主人公のアンドレという人物は、9年間に8人もの人を射殺しているとして内務調査を受けているニューヨーク市警の刑事です。

「すべて理由がある」と悪びれたふうもない彼は、最初の登場シーンでこそ『ターティー・ハリー』ばりの暴力刑事のように見えますが、物語が進行していくに連れ、警察のバッジに誇りを持った冷静で思慮深い警官であることが明らかになっていきます。

1970年代のアメリカ映画では個性的なアウトロー刑事が人気を博し、刑事もののひとつの型を作りましたが、アンドレはむしろ旧き良き時代の西部劇の保安官のような存在として描かれています。

反体制のキャラクターよりも誠実で真面目で信頼できる人物が今の時代には求められているということでしょうか。アンドレの有能で実直な態度はまさにチャドウィック・ボーズマンという俳優にふさわしいものです。

一方、警察の捜査は最新のテクノロジーによって行われます。アンドレはLMSI(ロウアー・マンハッタン・セキュリティ・イニシアチブ)と密に連絡を取り合います。

ロウアー・マンハッタンのカナルストリートからバッテリーパークまでの1.7マイルのエリアを何千台のカメラでカバーしたLMSIによって、強盗に使われた車の持ち主などが素早く割り出され、犯人が資金洗浄の先に向かった際には名前も顔も割れてTVでがんがん放映されているという具合です。「警官殺し」の犯人に対する執念の捜査がスピーディーに展開します。

こうした警察の動きと同時に、逃走する強盗2人組の姿も描かれます。簡単な仕事に思えたコカイン強奪が、思わぬ展開へと転がっていき、8人の警官殺しとして追われる身となった2人。

このうちのひとり、マイケルを演じているのは、マーティン・ルーサー・キング牧師の生涯を描いた初めての映画作品『グローリー 明日への行進』(2014/エバ・デュバーネイ)でジョン・ルイスを演じ、バリー・ジェンキンス監督の『ビール・ストリートの恋人たち』(2018)でも鮮烈な印象を残したステファン・ジェームズです。

彼がまた実に素晴らしい存在感を見せ、チャドウィック・ボーズマンと対峙します。2人は追うもの、追われるものという真逆の立場ですが、互いに何かがおかしいと感じ始めます。果たして、物語はどのような展開をみせるのでしょうか。

眠らない街マンハッタンで繰り広げられる死闘


(C)2019 STX Financing, LLC. All Rights Reserved.

ブルックリンの現場から逃走した2人組がどこにいるかをアンドレは咄嗟に判断します。犯人はまだ遠くには逃げておらずマンハッタン島のどこかで換金しているに違いない。彼はすぐさま21の橋をはじめ、水や陸の交通手段を全て遮断しマンハッタン島を封鎖するよう命じます。

ニューヨークの風景が空撮を始め様々なアングルから捉えられ、街自体が主役のひとつとなってスクリーンに映し出されます。

真夜中でも煌々とネオンが灯る中華街、ハーレムでは寝ている男女は叩き起こされ、ミートパッキング地区の精肉工場では夜通しの労働が続いており、明け方近くの地下鉄では乗客はあわてて車両を移動しなくてはなりません。眠らない街で、犯人と警察のデッドヒートが繰り広げられます。

とにかく銃弾の数が半端なく、ドア越し、壁越しの撃ち合いが頻繁に行われるのがユニークです。固いドアも壁も銃弾を弾き返すことなく完璧に撃ち抜かれ、穴だらけとなり、中にいる、あるいは外にいる人間の体を貫きます。銃弾の重さと人間の命の軽さが対照的に描かれています。

監督を務めたのは『ゲーム・オブ・スローンズ』などテレビドラマの演出で知られるブライアン・カーク。緊張高まるアクションシーンはもとより、冒頭の葬儀シーンでの空撮ショットの素晴らしさなど、シャープな演出と画作りに並々ならぬものを感じさせます。

まとめ


(C)2019 STX Financing, LLC. All Rights Reserved.

2020年8月、大腸がんのため43歳の若さで亡くなったチャドウィック・ボーズマン。彼の死後、配信された『ザ・ファイブ・ブラッズ』(2020/スパイク・リー)、『マ・レイニーのブラックボトム』(2020/ジョージ・C・ウルフ)という2本のNetflix映画は実に優れた作品でした。

両作におけるチャドウィック・ボーズマンの熱演とその存在感に圧倒された方も多いのではないでしょうか。

『21ブリッジ』はアメリカ本国では2019年に公開されましたが、日本では2020年4月に公開が予定されており、チャドウィック・ボーズマン主演の最後の劇場公開作品となります。クライムアクション映画である本作もシャープな仕上がりで、最後まで目が離せません。

彼が出演する新作映画が観られないことは映画界の大きな損失だと改めて痛感させられます。

本作では多くの犯罪者を射殺してきたことで非難を浴びている刑事を演じていますが、一転して犯罪者を射殺することを期待されるという特殊な状況に置かれた彼がどのような行動を取るのかというのもひとつの大きな見どころとなっています。

アンドレの相棒となる麻薬班の女刑事に『アメリカン・スナイパー』(2014/クリント・イーストウッド)のシエナ・ミラーが扮し、部下を殺され憤る署長を『セッション』(2014/デイミアン・チャゼル)の鬼教師ことJ・K・シモンズが演じています。個性的な俳優たちががっちり脇を固めているのにもご注目ください。

チャドウィック・ボーズマンの最後の主演映画『21ブリッジ』は、2021年4月より劇場公開!

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