連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第13回
アメリカの高校生なら学年最後の思い出となるダンスパーティー「プロム」には、是が非でもドレスアップして、意中の人と一緒に踊りたいと願うはず。
でも、意中の人が必ずしも“異性”とは限らない・・・。好きな人が“同性”だったら楽しみにしている「プロム」はどうなるの?ただ、“好きな人と踊りたい”だけなのに。
Netflixのおすすめ映画『ザ・プロム』。PTAの規則によって、インディアナ州の小さな街の高校で行われるはずの“プロム”が、中止されようとしています。
その理由は・・・1人の女子高生が、同性の子を誘って参加したいという理由からでした。それを知ったブロードウェイのミュージカル俳優たちは、彼女に加勢しようと突然学校に乗り込んできます・・・。
ところが彼らには邪な企みがあり、事態は好転するどころか最悪な雲行きに変わっていきます。
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映画『ザ・プロム』の作品情報
【公開】
2021年(アメリカ映画)
【原題】
The Prom
【監督】
ライアン・マーフィ
【原作・脚本】
ボブ・マーティン、チャド・ベゲリン
【キャスト】
メリル・ストリープ、ジェームズ・コーデン、ジョー・エレン・ペルマン、ニコール・キッドマン、キーガン=マイケル・キー、アンドリュー・ラネルズ、アリアナ・デボーズ、ケリー・ワシントン、ケヴィン・チャンバーリン、ローガン・ライリー・ハッセル、ソフィア・デラー、ナサニエル・J・ポトヴィン、ニコ・グリーサム、メアリー・ケイ・プレイス、トレイシー・ウルマン
【作品概要】
Netflix映画『ザ・プロム』は、トニー賞にノミネートされた、ブロードウェイミュージカル「プロム」の映画化です。
人気ミュージカルドラマ「glee グリー」、エミー賞を受賞したホラードラマ「アメリカン・ホラー・ストーリー」の製作を手掛けた、ライアン・マーフィーの監督で映画化され、12月4日より一部の映画館で劇場公開されたのち、12月11日よりNetflixで独占配信されました。
キャスティングは、アカデミー賞の俳優部門ノミネート最多のメリル・ストリープと『ムーラン・ルージュ』(2001)、『コールド マウンテン』(2003)のニコール・キッドマンというダブルオスカー女優をはじめ、トニー賞男優賞受賞のジェームズ・コーデンら豪華キャストです。
メリル・ストリープは全出演者の中の最年長でありながら、ダンスシーンが一番多かったということで、ティーンエイジャーに扮した若手俳優とダンサーに混じりながら、年齢を一切感じさせない華麗でキレのあるダンスシーンが見どころです。
映画『ザ・プロム』のあらすじとネタバレ
ジェームス・マディソン高校のPTA集会では、プロムが中止になるという採決がされました。地元の報道が取材にくる騒ぎにまでなっている、この事態にはどんな理由があるのか?
PTA会長のミセス・グリーンは、高校のプロムに関する規則・・・「女子は露出の少ないドレス、男子はスーツかタキシードそして、同伴するのは“異性”であること。」をあげます。
この高校に通う1人の女子高生のエマが、同性の子を誘ってプロムに参加することに同意を求めたことで、PTAの保護者から猛反発を受け、とうとうプロム自体が中止となってしまいました。
この理不尽な出来事を遠く離れたブロードウェイで、ある企みに利用されようとします。
ブロードウェイ俳優のディーディー・アレンとバリー・グリックマンは、新作ミュージカル「エレノア・ルーズベルト」の初日公演を意気揚々とやりとげ、配役やスタッフとバーで成功の喜びを分かちあっていました。
ところが舞台評論家やNYタイムスの批評は、酷評だらけの散々な結果。チケットの売れ行きも芳しくない状況で、この評価だと公演は初日で打ち切りが必至です。
ディーディーとバリーは自分達の演技に自信をもっているため、何が原因なのかさっぱりわかりません。
フロントマンのシェルドンは「作品が悪いわけではない。君たちが悪いんだ。役者が好感を持たれていない。ナルシストは嫌われる。」と、言い放ち次の策を講じるため店を出ていきます。
店には他の客が1人もいなくなり店にいるのは、バーテンダーのトレントだけです。彼はジュリアート音楽院出身なのに、コメディードラマで売れた一発屋俳優です。
トレントはディーディーと5回共演していましたが、彼女は覚えていません。バーテンダーのアルバイトをしながらチャンスを待ってます。
そこに「シカゴ」でコーラスガールを20年やってきて、主役ができない女優アンジーがディーディーとバリーを慰めに現れます。
演技云々の批評ではなく、“好感がもたれていない”からという理由に、ディーディーとバリーのプライドは傷つき今後の役者人生に危機感を抱きます。
しかしバリーは落ち目でも「まだセレブな私達には、影響力は残っている。」と、自己愛の強いセレブが、簡単にイメージアップできる方法を考え始めます。
ところがバリーが思いついたのは「セレブの活動家になる」です。自分達の手に負える小さな慈善活動をして、好感度を上げていこうというものでした。
そこにSNSを見ていたアンジーが、エマの同性愛が理由でプロムが中止になった話題が過熱していることに目を付けます。
SNSの動画では、高校のホーキンス校長が州検事に訴えて中止を阻止する。と、息を巻き「この事が広がれば憤慨する人も出て、現代のエレノア・ルーズベルトも乗り込んでくるだろう」と言います。
それを見たディーディーがまるで自分が呼ばれたと感じ、「行くわ!行って大混乱をまき起こすわよ」と、言うとバリーも共感し、トレントとアンジーも話しに加わります。
要はエマを助けて自分達の好感度をあげるのを目的に、インディアナ州のエッジウォーターに乗り込み、反対集会をするという計画です。
「偏見を捨てるよう導く」「思いやりを学ばせる」行くからには住民の意識を変えてやろうという気概で彼らは動き出します。
ディーディーは慈善活動で自分のイメージを回復すれば、政治的介入で賞が決まりやすいトニー賞は狙えると思っています。
反対にバリーはこの慈善運動に並々ならぬ感情移入をしています。バリーは自分をバカにしてきた友人や両親を見返すために、ミュージカルの世界に入りました。
役者として存続の危機から脱出するために、どうしても慈善活動を成功させなければいけないと考えています。
一方、エマの方はプロムが中止となり、同級生のケイリーを中心に全生徒から反感を持たれ、嫌がらせをされてしまいます。
映画『ザ・プロム』の感想と評価
映画『ザ・プロム』は性的マイノリティーに対する、世間からの偏見で10代の女の子が差別されてしまうネガティブな内容ですが、自らの意思と負けない心で立ち向かっていく姿をミュージカルで表現しています。
ネガティブな事をリアルに伝えても、立ち上がり向っていくパワーには繋がらないことが、作品を通して率直に伝わります。ネガティブな内容だからこそ、人に伝わり浸透しやすい手法だったといえます。
つまり、セリフの代わりに歌詞に合わせて歌い踊ることで、目と耳から心情に訴えかけることができるからです。終始、しんみりしたり怒ったり感激したり・・・ミュージカルの魔法にかかり魅入ってしまいました。
そして、エマ役のジョー・エレン・ペルマンは、映画初出演ながらも、超大物達が繰り広げるキレッキレのダンスと歌唱力の中で、存在感を存分に発揮していました。
LGBTの「差別」や「権利の平等」
アメリカでは2015年に全米で同性婚が事実上、合法化ししているにも関わらず、各地では性的マイノリティへの「差別」や「権利の平等」について、論争が絶えません。
映画の舞台となったインディアナ州は、信仰に基づく教義を笠に「差別」を法的根拠に紐づける動きがあり、実際にLGBTに対する差別を正当化しようとしていました。
ミセス・グリーンがレストランでディーディーに「この町や住民の価値観をご存知でない」と、言ったこの言葉と、モールでケイリーとシェルビーが、“信仰の良いとこ取り”はダメだと諭されたシーンが物語っています。
性的マイノリティは生まれ持った「人」であるのだから、主観ではなく「隣人を愛せよ」が正しいと歌っていたのです。
『ザ・プロム』とよく似た実在した話し
原作と脚本を手掛けた、ボブ・マーティンは『ザ・プロム』は「いくつかの出来事から、インスパイアされてできた。」と語っています。
その中の1つと思われる映画と酷似したできごとが、2010年のミシシッピ州でありました。同州のある高校で同性とのプロム参加を禁止され、その高校に通う女生徒が「アメリカ市民自由連盟」に訴訟を起こしたことで、地元の教育委員会がプロム自体を中止にしたのです。
その後、本作のように2つのプロムが開催され、一方には彼女を含め数名が招待され、残りの生徒はもう一方のプロムに招待されたと言います。
この出来事がアメリカ中で話題となって、セレブたちによる支援が始まり実際に「誰でも参加できるプロム」も実施されました。
明言はされていませんが、この出来事がボブ・マーティンの心を大きく動かしたと、言われれば納得ができます。
まとめ
ブロードウェイ俳優4人達も人生の岐路に立っており、エマを助けるという大義名分の売名行為をおこさせました。それが逆に自分達の歩んだ人生を鑑みるきっかけとなりました。
また、映画のように上手くいくはずはないと、思わせない実在したエピソードもあり、勇気ある1人の少女の訴えが人々の心を動かすということに、説得力を与えています。
映画『ザ・プロム』は、伝えたい想いを歌とダンスにのせることで、笑ったり泣いたりしながら、LGBTの問題だけでなく、人としての生き方も考えさせられる、インパクトの強い作品でした。
とはいえ、難しい話は抜きにしても純粋に、コロナ禍で沈みかけた気分をパッと明るく、楽しい気持ちにさせてくれるミュージカル作品で、観終わったあとに心が軽くなるお薦めの映画です。