ヘイリー・ベネット主演のスリラー映画『Swallow スワロウ』
一見完璧な生活を送っているかのように見える主婦・ハンターが“異物を飲み込む”ことで自分を取り戻していこうとする美しくもショッキングなスリラー映画『Swallow スワロウ』。
主演と製作総指揮をヘイリー・ベネットが務め、異物を飲み込み、精神が不安定なハンターを圧巻の演技で演じます。また印象的な色使いで無機質なハンターの日常、少しずつ常軌を逸脱していく危うげなハンターの様子を映し出します。
美しくもショッキングでありながら、一人の女性の置かれた状況とその闘いを浮き彫りにするスリラーの枠にとどまらない異色作です。
映画『Swallow スワロウ』の作品情報
【日本公開】
2021年(アメリカ・フランス合作映画)
【原題】
Swallow
【監督・脚本】
カーロ・ミラベラ=デイビス
【キャスト】
ヘイリー・ベネット、オースティン・ストウェル、エリザベス・マーベル、デビッド・ラッシュ、デニス・オヘア
【作品概要】
監督を務めるのは本作が初監督作となったカーロ・ミラベラ=デイビス。自身の祖母が強迫性障害により手洗いを繰り返すようになったというエピソードから本作を思いたったといます。
主演ハンター役には『ガール・オン・ザ・トレイン』(2016)、『ヒルビリー・エレジー 郷愁の哀歌』(2020)のヘイリー・ベネット。夫のリッチー役には『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』(2017)、『ブリッジ・オブ・スパイ』(2015)のオースティン・ストウェルが務めます。
映画『Swallow スワロウ』あらすじとネタバレ
美しいニューヨーク郊外の邸宅に引っ越し、完璧な夫リッチー(オースティン・ストウェル)と共に新生活をスタートさせ、誰もが羨む生活を送っているかのように見えるハンター(ヘイリー・ベネット)。
新居の飾りつけをどうしようかと夫に相談しても君の好きなようにしたら良いと相手にしてもらえません。更に、食事を準備し、着飾って仕事から帰宅した夫を出迎えても食事中も携帯を手放さずハンターと話をしようともしません。
夫の望む完璧な妻であることに固執し、抑圧されたハンターの日常はあまりにも無機質で窮屈なものでした。夫の両親やその家族らの集まりでは将来有望な夫に期待をかけ、ハンターは幸せだと周りから言われます。
仕事の話など家族の参加できないハンターは窮屈さを感じています。そんな時、ハンターの目に止まったのはキラキラと輝く氷でした。無性に氷を口に入れたくなったハンターは衝動を抑えきれずコップから氷を取り出し口に入れます。
ある日、ハンターの妊娠がわかります。夫をはじめ、義父母は大いに喜びます。義母から、自分が妊娠した時に読んだ本を渡され、複雑な表情を浮かべるハンター。
妊娠後、いつものように家事を行っていたハンターは小物入れのなかに入っていたガラス玉が気になります。そして、手に取りおもむろに口の中に入れ、恍惚の表情を浮かべたかと思うと飲み込んでしまいます。
異物を飲み込むということに得もしれぬ快感を覚えたのです。
排泄物と共に出てきたガラス玉をハンターは取り出し、洗って保管します。痛みと共に不思議な快感を得たハンターは衝動を抑えきれず、画鋲を口に入れ飲み込んでしまい、激痛がハンターを襲います。
それでも衝動を抑えきれないハンターの行動は次第にエスカレートしていき、金属片や電池など危険物まで飲み込むようになり、義母からもらった本も破って食べてしまいます。
映画『Swallow スワロウ』感想と評価
夫のために家を綺麗にし、料理を作り、美しく着飾るだけのハンターは妻というより、夫のアクセサリーのような存在です。
義母がハンターに、リッチーの好みはロングよ、髪を伸ばしたらという言葉や、あなたは幸せなの?それとも幸せなふりをしているだけなの、といった言葉が突き刺さります。
成功者である夫とその両親は、容姿が綺麗で自分たちにとって都合のいい完璧な妻を求めます。
もちろんハンターも精一杯完璧な妻を演じようとします。夫の気に入らない部屋の飾りつけをしないように、夫に愛される妻でいつづけようと着飾ったりします。
そう努力する一方で、夫とその両親の会話にも入れない、ハンター自身には何一つ興味を示さない、そんな孤独に襲われ心を蝕んでいきます。無機質なハンターの日常を美しく冷たい新居や色彩が更に際立たせ、その中に潜む不穏を演出します。
何かに導かれるようにガラス玉を手に取り、口に含んだハンターの表情は恍惚としていて美しく、あまりの美しさに恐怖を覚えるほどです。
カウンセラーに異物を口に入れた時の気分を聞かれたハンターは口に含んだ時の感触が好きだと言います。金属などのひんやりした感触が特に好きだと。ハンターは異物を飲み込むことで完璧な妻であろうとするプレッシャーや、不安から解放され安心を得ようとしていたのかもしれません。
ハンターが壊れてしまった原因、抱えているものに気づかないどころか、寄り添い向かい合おうともせず、もともと彼女一人の原因としか見ない夫とその両親。更にプレッシャーがかかりハンターの病状は悪化していきます。
唯一そんなハンターの心に気づき、寄り添おうとしたのは看護士でした。夫に自分の過去が知られ戸惑いベッドの下に潜り込んだハンターの肩を撫で、ここは安全だから大丈夫だとハンターをなだめます。
ハンターを蝕んでいるのは現在置かれている状況だけではありませんでした。それがハンター自身の口から明らかになった、ハンターは母親がレイプされ出来た子であるという事実です。
ハンターは本人も気づかぬうちに自分の出自から罪悪感のようなものを抱き、人に嫌われないために人を喜ばせよう、求められる人になろうとし続けていたのかもしれません。
後半ハンターは母親をレイプした男の家に向かいます。そして、ハンターは男とは違うと、はっきり言うように男に告げるのです。
それは自分自身に言い聞かせても拭えなかったハンターが自分自身に植え付けていた潜在的な罪悪感からの解放だったのかもしれません。
ハンターは最後、お腹の子供を堕ろし、生まれ持って抱えていた罪悪感、そして完璧な妻としての抑圧から解放されたのです。
異物を飲み込むと言うショッキングなスリラーでありながら、その奥にあるのは抑圧された女性の解放です。
本人も気づかぬうちに刷り込まれた“完璧な妻”という虚像。求められた姿でいないと捨てられてしまうかもしれないという不安。そういった虚像に固執し、知らないうちに精神を蝕んでしまうハンターの姿は他人事ではないかもしれません。
まとめ
異物を飲み込むことで抑圧され、求められる“完璧な妻”であろうとする不安などから解放され安心を得ようとする女性を描いた映画『Swallow スワロウ』。
抑圧された女性が解放されていくというシリアスなテーマながらどこか美しく恐ろしいスリラーに仕上がっています。そんな本作を印象的に魅せるのは何と言ってもハンター演じるヘイリー・ベネットの美しく危なげな演技でしょう。
異物を飲み込んだハンターの恍惚の表情、私は大丈夫と言いながら危なげな様子は見るものを惹きつけるでしょう。