キアヌ・リーブスを一躍スターにした、伝説のSFコメディシリーズ第1弾
レンタルビデオにアーケードゲーム、ミュージック・ビデオやMTVなど新たに誕生したポップカルチャーがアメリカと、全世界を席巻しようとした1980年代末。
その時代の申し子というべき、能天気でおバカな高校生2人組が登場し、思わぬ旋風を巻き起こします。
アレックス・ウィンター演じる”ビル”と、キアヌ・リーブス演じる”テッド”が、陽気さを武器に時空を超え、歴史上の偉人たちとタメ口で仲良くなるコメディ映画『ビルとテッドの大冒険』。
時代を先取りし、後のカルチャーにも多大な影響を与えた伝説の映画を紹介します。
CONTENTS
映画『ビルとテッドの大冒険』の作品情報
【公開】
1989年(アメリカ映画)
【原題】
Bill & Ted’s Excellent Adventure
【監督】
スティーヴン・ヘレク
【脚本】
クリス・マシソン、エド・ソロモン
【キャスト】
キアヌ・リーブス、アレックス・ウィンター、ジョージ・カーリン、バーニー・ケイシー、ジェーン・ウィードリン、ダイアン・フランクリン、キンバリー・ケイツ
【作品概要】
ロックスターを夢見る高校生2人組の前に、突然タイムマシンが現れます。時間を越える能力を得た彼らの目的はただ1つ、歴史の授業の赤点回避!?という青春SFコメディ映画です。
主演はお馴染みキアヌ・リーブスと、彼の盟友アレックス・ウィンター。共演はブラックな笑いで人気を博したコメディアンのジョージ・カーリンと、『新・荒野の七人 馬上の決闘』(1969)や『ネバーセイ・ネバーアゲイン』(1983)のバーニー・ケイシー。
『グローイング・アップ ラスト・バージン』(1982)や『テラービジョン』(1986)のダイアン・フランクリン、『殺人核弾頭キングコブラ』(1994)や『モスキートマン』(2012)のキンバリー・ケイツ、ガールズバンド「ゴーゴーズ」のジェーン・ウィードリンも出演。
『クリッター』(1986)でデビューし、後に『陽のあたる教室』(1995)や『101』(1996)を手掛けるスティーヴン・ヘレクが監督。リチャード・マシソンの息子クリス・マシソンと、『メン・イン・ブラック』(1997)や『グランド・イリュージョン』(2013)の脚本を手掛けるエド・ソロモンが、共同で脚本を執筆しています
映画『ビルとテッドの大冒険』のあらすじとネタバレ
西暦2688年のカリフォルニア州のサン・ディマスは、平和で繁栄した社会を築いていました。しかし世界は危機に瀕していました。
危機を救うには、運命的瞬間を迎えた過去の2人の若者の未来を、正しい方向に向かわせる必要があります。そう、700年の時をさかのぼって。
1988年のサン・ディマスには、高校生のビル・プレストン(アレックス・ウィンター)とテッド・ローガン(キアヌ・リーブス)が住んでいました。
バンド名”ワイルド・スタリオンズ”(綴りは”Wyld Stallyns”)を名乗り、ビデオカメラで互いを撮影しミュージック・ビデオを作る2人。
いい加減につないだ機材で大音量でエレキギターを演奏した結果、ショートを起こし撮影場所のガレージは煙に包まれます。
失敗にめげず、ビックになるにはヴァン・ヘイレンを引き抜かなかきゃと、真面目に言い始めるビル。
同じ程度におバカなテッドは、そのためにはまず名前を売るべきと答えます。
名を売ろうにもロクな楽器が無いと言うビルに、そもそもロクに演奏できないと答えたテッド。
だからヴァン・ヘイレンが必要と言うビルに、それには有名になる必要が、と言い返すテッド。2人は「キマリ!(Excellent!)」と叫びます。
何がキマったのか判りませんが、2人はこのままでは遅刻と気付き高校に向かいました。
歴史の授業で間抜けな回答しかできず、ライアン先生(バーニー・ケイシー)を呆れさせた2人。明日の研究発表会で合格しなければ落第と、先生から警告されます。
今さらながら、このままではヤバいと気付いたビルとテッド。
落第すればテッドは、警官である父からアラスカの陸軍学校に転校させると言われていました。
その結果”ワイルド・スタリオンズ”は解散、これが700年後の世界が恐れた事態でした。
ビルとテッドの未来を正しい方向に導くべく、歴史の守護者であるルーファス(ジョージ・カーリン)は、電話ボックス型タイムマシンで700年前の世界に向かいます。
若い後妻ミッシーとラブラブのビルの父に家から追い出され、コンビニのサークルKの前でたむろしていたビルとテッド。
突然目の前に電話ボックスが出現します。中から現れたルーファスは、2人が歴史を学ぶ手伝いをすると告げました。
2人の前にはもう1つ電話ボックスが出現します。中からはもう1組のビルとテッドが現れます。
現れた自分自身の口から、歴史の旅をしていると聞かされたビルとテッド。ルーファスの言葉に従い、これから会うお姫様にヨロシクと言われました。
未来のテッドは現在のテッドに時計のネジは巻いとけと言い、電話ボックスに入り彼らは姿を消しました。
2人は自分自身に説明され納得します。ルーファスの操る電話ボックスに入り、歴史の旅を始めたビルとテッド。
到着したぼは1805年、フランス軍が攻め込んだオーストリア。ナポレオンに挨拶して旅に戻る2人ですが、爆発で吹き飛ばされたナポレオンが付いてきたとは気付きません。
電話ボックスは現在に戻りました。タイムマシンの行き先の番号帳を示し、これを使って歴史のレポートを完成させろと告げて去るルーファス。
ナポレオンを連れて来たと気付いたビルとテッド。慌てるどころか、歴史上の人物を集め発表会に参加させれば、合格間違いなしと考えます。
テッドの弟に小遣いを渡し、ナポレオンの面倒を見ろと告げた2人。こうしてビルとテッドの大冒険が始まりました。
1879年のニューメキシコ。西部開拓時代でも能天気な2人は、乱闘に巻き込まれながらも無法者のビリー・ザ・キッドを連れ、次の時代に旅立ちます。
紀元前410年のアテネに到着した2人は、哲学者ソクラテスを言いくるめて連れ出しました。
今度は中世から1人連れようと、ビリーとソクラテスと共に、15世紀のイギリスに現れるビルとテッド。
ビリーにソクラテスを見守らせ、2人はヘンリー王の城に向かい、そこで美しい2人の姫を目にします。
これが自分たちが言っていた、美しいお姫様かと納得した2人は、鎧を身に付け正体を隠し城に忍び込みました。
重い鎧にこれが本当のヘビー・メタル、と意気投合したビルとテッドは。目的を忘れ『スター・ウォーズ』ごっこを始めます。
バカ騒ぎで番兵に見つかりますが、危機を脱した2人はジョアンナ姫(ダイアン・フランクリン)とエリザベス姫(キンバリー・ケイツ)に会えました。
2人の姫が意に沿わぬ結婚する聞き助けると約束しますが、父王に見つかり処刑されそうになるビルとテッド。
処刑場には電話ボックス型タイムマシンも運び込まれていました。これまでと覚悟した2人を処刑人が助けます。
処刑人の正体は、意気投合したビリー・ザ・キッドとソクラテスでした。逃れた4人は追手からタイムトラベルで逃れました。
電話ボックスが到着したのは2688年の世界です。遭遇した未来人から、敬意をもって迎え入れられたビルとテッド。
よく判らないまま、未来人に別れを告げ過去への旅に戻ります。しかしタイムマシンが故障したと、パニックに陥る一同。
1988年のサン・ディマスでは、ナポレオンがテッドの弟たちとアイスクリームを食べているなどと、彼らが知る由もありません。
映画『ビルとテッドの大冒険』の感想と評価
参考映像:『ウェインズ・ワールド』(1992)
MTV世代を代表する2人が主人公
ロックスターを夢見る高校生が、タイムマシンで時間を旅するSFコメディ映画といえば、誰もが『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)を思い浮かべます。
よく似た設定を持つ『ビルとテッドの大冒険』。しかし本作は『バック・トゥ~』の2番煎じとは片付けられず、後のポップカルチャーに大きな影響を与え、今もファンを獲得しています。
映画が誕生した当時、アメリカはレーガン政権の政策で失業率は低下、経済は回復します。
ヒット作を連発したハリウッドは、世界の映画産業を圧倒する成長を遂げ、業界は明るい雰囲気に包まれます。それと共にマイノリティ文化を題材にした、多様な映画が登場します。
当時若者文化に大きな影響力を持っていたのが、ミュージックビデオの誕生と共に成長した音楽専門チャンネルMTV。
ティーンエイジャーの絶大な支持を集め、MTVは1980年代から90年代のアメリカの、ポップカルチャーの中心的存在になりました。
その風潮は日本にも到来し、オーディション音楽番組「三宅裕司のいかすバンド天国」(1989~)が放送され、バブル時代に起きた「第2次バンドブーム」がやって来ます。
そんなMTV文化を代表する若者像がビルとテッド。本作公開と同じ年コメディ番組「サタデー・ナイト・ライブ」で、ウェインとガースが登場する「ウェインズ・ワールド」が始まります。
マイク・マイヤーズとダナ・カーヴィはこの役で人気となり、後に『ウェインズ・ワールド』(1992)として映画化されました。
ウェインとガースも「サタデー・ナイト・ライブ」の初期設定では高校生(映画版では少し年齢が上がり、良い意味でイタい感が出ます)。
ビルとテッドと共に、ポップカルチャーに染まり音楽を愛する、ティーンエイジャーを象徴する2人組となったウェインとガース。
彼らの姿はMTVで放送される、後に映画化された過激なアニメ番組「ビーバス・アンド・バットヘッド」(1993~)を誕生させるなど、時代を象徴するキャラクターとなりました。
人を傷付けない底抜けに明るいコメディ
SFの定番、タイムパラドックスは存在しない展開。時代の異なる異国の人間ともコミュニケーションできる、ご都合主義の塊のような本作。
全て主人公に都合の良く進むストーリーであり、本作を「中身のない作品」と断言しても、間違いではありません。
一方『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は今も脚本を学ぶ者の教科書とされる、「完璧な映画」と評される作品です。
『バック・トゥ~』を生んだロバート・ゼメキスは1952年、ボブ・ゲイルは1951年生まれ。彼らが少年時代を過ごした、1950年代のアメリカ文化への郷愁を描き観客の支持を集めました。
スリルと笑いを散りばめながら、冒険の中で成長する登場人物を描く、古典的な映画の構成に忠実な作品です。
『ビルとテッドの大冒険』の物語を生んだ、クリス・マシソンとエド・ソロモンは共に1960年生まれ。本作の完成時はまだ20代でした。
公民権運動やベトナム戦争などの社会問題から直接的影響を受けず、ポップカルチャーに染まって成長した世代の人物です。
軽薄にすら思える明るさを重ねて描いた本作は、より若いキアヌ・リーブス(1964年生まれ)、アレックス・ウィンター(1965年生まれ)と共に作られました。
理詰めの面白さより感覚的な面白さ、テンポ良くノリで進む展開は、MTV文化を反映した作品と言えます。
ビルとテッドはおバカのお陰か、タイムマシンで利益を得よう、悪事を働こうとは考えません。
本作には学園映画にありがちな、彼らをイジメる同級生すら登場しません。彼らにとって敵のような存在は、学校の先生や親といった良識ある大人たちだけです。
ビルとテッドのような若者は、親世代の大人から見れば頭痛の種でしょう。
クリス・マシソンとエド・ソロモンは、当初人々から軽蔑される、スレた態度のビルとテッド像をイメージしていました。
しかしオーディションで選ばれたアレックス・ウィンターと、キアヌ・リーブスが演じたことで、明るく能天気なキャラクターへと変貌を遂げます。
2時間25分あった初期編集版には、彼らが学校でイジメられるシーンや、お馴染みのエアギターで演奏するシーンなどが存在していました。
それらをカットした結果、ネガティブな要素の消えた、ロック音楽のようにテンポ良く進む映画が誕生したのです。
たとえおバカであっても、何かを真っ直ぐに追及すれば、旧来と異なる形の成功が望めるかもしれない。そんな時代の到来を告げるコメディとなりました。
人を傷付けず、傷付けられる事もない。音楽などポップカルチャーを愛する若者の姿を、楽天的に描いた『ビルとテッドの大冒険』は大歓迎されました。
まとめ
製作終了後に映画配給会社が破産し公開が危ぶまれ、映画を観た評論家から軽薄な内容だと批判された『ビルとテッドの大冒険』。
しかし本作は公開されるや、若い観客層を熱狂させ、誰もが予想しなかった大ヒットを収めます。
アレックス・ウィンターとキアヌ・リーブスは、オーディションの段階で互いに共通点があることに気付き、アイデアを出し合いリハーサルを通じ、ビルとテッド像を完成させていきました。
本作公開後の1990年にTVアニメシリーズが誕生し、まだまだブームは続きます。
タイムトラベルを扱うSFとしては単純な物語ですが、タイムマシンで過去を上書きした者こそ勝者、という設定は難解SF映画『TENET テネット』(2020)を先取りしたとも言えます。
SF的設定に関心の高いクリス・マシソンとエド・ソロモンと、ビルとテッドのキャラクターを我が物とした、アレックス・ウィンターとキアヌ・リーブス。
彼らは協力して、本作のナンセンスなSF的世界観をより発展させた続編、『ビルとテッドの地獄旅行』を生み出します。その解説は別の機会に譲りましょう。