映画『サイレント・トーキョー』は2020年12月4日(金)より公開。
秦建日子の著作『サイレント・トーキョー And so this is Xmas』が、佐藤浩市、石田ゆり子、西島秀俊らの豪華キャストによって『サイレント・トーキョー』として映画化しました。
映画『サイレント・トーキョー』は、2020年12月4日(金)よりロードショーされています。
渋谷を中心とした東京都心で起きた爆発テロ事件と、それに関わる人々を描く、緊迫感あふれるサスペンス作品となりました。
多くの方が気になるのが、爆弾テロの真犯人はだれかという点でしょう。
本記事では、予告編でも爆弾を仕掛けた犯人のように振る舞っている、佐藤浩市が演じた朝比奈仁について、原作と映画の描写を比較しながらネタバレありで解説していきます。
映画『サイレント・トーキョー』の作品情報
【日本公開】
2020年(日本映画)
【原作】
秦建日子『サイレント・トーキョー And so this is Xmas』(河出書房新社)
【監督】
波多野貴文
【脚本】
山浦雅大
【キャスト】
佐藤浩市、石田ゆり子、西島秀俊、中村倫也、広瀬アリス、井之脇海、勝地涼、毎熊克哉、加弥乃、白石聖、庄野崎謙、金井勇太、大場泰正、野間口徹、財前直見、鶴見辰吾
【作品概要】
「アンフェア」シリーズなど手がけた秦建日子がジョン・レノンとオノ・ヨーコの楽曲『Happy Xmas(War Is Over)』にインスパイアされて執筆した小説『サイレント・トーキョー And so this is Xmas』が原作。
佐藤浩市、石田ゆり子、西島秀俊らをキャストに迎え、「SP」シリーズの波多野貴文監督が映像化しました。
映画『サイレント・トーキョー』のあらすじ
クリスマスの数日前。会社員の印南綾乃は、同僚で友人の真奈美とともに、東京タワーの見えるレストランで合コンに参加していました。綾乃が気になる相手は、大ヒットアプリの開発者・須永基樹。
須永は感情の起伏が少なく、乗り気ではなさそう。ですが後日、綾乃は須永と二人きりで彼の家で会うことに。
マイ焼き鳥器を買ったという須永は、黙々と焼き鳥を焼きます。会話のネタを探す綾乃は、須永が表紙を飾った雑誌を話題にあげ「ご両親が喜んだでしょう」と言いました。
須永の返答は相変わらずそっけなく、綾乃はさらに家族のことを質問すると、須永は怒って気まずい空気になってしまいました。
12月24日、午前。中年女性・ヤマグチアイコは、恵比寿のショッピングモールで、夫へのクリスマスプレゼントと、夫の好きなサンドイッチを買いました。そして、ショッピングモールのベンチに腰をかけます。
その様子を謎の男(朝比奈仁)が見つめています。
午前11時すぎ、テレビの情報番組で契約社員として働いている来栖公太は、先輩ADの高沢とともに恵比寿のショッピングモールへ向かいます。
番組宛に「爆弾を仕掛けた」という電話があったからです。電話で言われた場所へ行くと、ヤマグチアイコが座っており、ベンチに腰掛けるよう勧めてきました。
高沢が座った途端、アイコは立ち上がります。ベンチには爆弾が仕掛けられていて、30キロ以上の重さでスイッチが入り、30キロを下回ると爆発するそうです。
犯人に命令されているという彼女は、公太の手首に、爆弾が仕掛けられた腕時計を回します。アイコの腕にも同じ腕時計が巻かれていました。命令を拒絶すると、遠隔操作で腕時計を爆破すると犯人に脅されたと言うんです。
アイコは高沢に、カメラを回し続けるよう伝え、公太を連れ、ショッピングモールの警備室へ向かいます。
警備室についたふたり。爆発が起きるから避難指示アナウンスを流すよう頼んでも、警備員は信じてくれません。
直後、高沢の座ったベンチではなく、近くのゴミ箱が爆発しました。慌てて警備員は館内アナウンスで避難を促しますが、居合わせた人々はパニックを起こしています。
爆弾処理班が到着し、ベンチの爆弾を冷却処理しようとした瞬間、大きな爆発音が鳴り響きました。
アイコと公太は現場を離れ、住宅街のマンションに入ります。リビングのテレビには、犯人からと思わしき手紙が貼り付けられていました。
恵比寿での爆発は音だけの空砲でしたが、警視庁渋谷署には、爆発事件の対策本部が設置されました。若手警官の泉大輝は、先輩の警部補・世田と組んで、捜査本部に参加することになりました。
世田は「先入観が捜査の邪魔をする」からと配られた資料に目を通しません。会議が始まろうとした時、犯人からの犯行声明が出ます。
そこに映っていたのは来栖公太。公太が、犯人の声明文を代読していました。
「日本の首相とテレビの生放送で一対一で対話させよ、要求が受け入れられない場合は今日18時00分に渋谷のハチ公前を爆破する」。
最後には「これは、戦争だ」とメッセージが。
声明文を読み上げ、録画し、ネットにアップするという一連の指示を済ませた公太とアイコ。
公太は、今はテレビ局の契約社員だけれど、正社員になって、ジャーナリストになる夢を追いたかったと、自分の今後を思って涙を流します。
アイコは公太に「大丈夫よ」と声をかけ、ハグをして別れました。ふたりにはそれぞれ、別の指示が出されていたからです。
犯行声明が出ても、磯山首相は「テロには屈しない」と、犯人との対話を拒否。
同じ頃、須永の逆鱗に触れてしまったことを思い悩んでいた綾乃は、真奈美に相談しました。真奈美は、渋谷で人気のレストランの予約が取れたら、それを口実にデートに誘ってみるようけしかけます。
爆破騒ぎのことでレストランはキャンセルが出て、空きがありました。綾乃は須永に電話して、今夜の予定を聞きますが、横浜で仕事があるから行けないと断られてしまいました。
そんな須永は、恵比寿からほど近いオフィス兼自宅へ戻る途中で、聞き込み捜査をしている世田と泉に声をかけられます。
あまりに冷静な須永を、世田は怪しみます。
世田たちから解放された須永は自宅に入り、セットしていた留守電を解除。そこに録音された声を聞き、須永の顔色が変わりました。
その後彼は、都内のビジネスホテルのカフェで、親戚の結婚式のために上京してきた母と、その再婚相手である中年男性と会います。
須永は、これから東京観光をするというふたりに、渋谷へは近づかないよう言い、カフェを後にしました。
謎多き人物・朝比奈仁
映画での朝比奈仁の登場シーンは短く、クライマックスになるまでは顔見せ程度。
爆発が起こる場所に毎回事前に現れ、意味深なセリフをひとりごちて去っていきます。
そんな朝比奈を、中村倫也演じる須永が追っていますが、その須永の言動も怪しく、警察官である世田(西島秀俊)は、須永が容疑者だと考えます。
朝比奈の存在に気づいているのは、須永と、観客のみという状態が続きます。
それがクライマックスになると、急に朝比奈と須永、朝比奈とアイコの繋がりが明かされるため、展開についていけなかった方も多いんじゃないでしょうか。
ここで、小説版の朝比奈仁の経歴と、映画版の朝比奈仁の経歴を、ネタバレありで比較してみましょう。
小説版の朝比奈仁
原作小説『サイレント・トーキョー And so this is Xmas』の朝比奈仁は、現在の時間軸に紛れ込ませた回想シーンから登場します。
都内の高級レストランで料理人として働いていた朝比奈仁。妻と息子もおり、料理の腕もピカイチな彼は、平穏な生活を過ごしていました。
そこへ、アメリカ軍人のショーンという男が声をかけてきます。
この、ショーンと朝比奈のシーンは、まるで殺し屋同士の秘密の交渉と思わせるように書かれているんですが、実はそうではなく、朝比奈に一目惚れしたショーンが、朝比奈を口説いているんです。
朝比奈は自分が同性愛者であるということを隠していましたが、ショーンにはお見通し。
朝比奈は、翌日、店を辞め、妻子に黙って家を出て、知り合いの誰もいない町へ引っ越しました。調理の腕に自信があった彼は、隠れ家的な洋食屋の調理の仕事につきます。
ですが、そこにもショーンは現れます。ショーンの熱烈なアプローチに、朝比奈も応えることにしました。
ショーンには、ロブという上官がおり、日本人女性と結婚すると言います。仁は彼らのために、日本の観光地を新婚旅行の地としてピックアップ。
直後、中東に派遣されたショーンは任務中に命を落とし、ロブは命は無事だったものの、心が壊れてしまいます。
ロブは、愛する妻を守るために、彼女に爆弾の作り方や処理方法を一から教え、その後自ら命を断ちました。
それから20年ほど経ちました。朝比奈は、ダイビングショップ兼カフェで、調理のアルバイトをして暮らしています。
彼は、自分がかつて考えたデートコースで爆発事件が起きていたことから、犯人と思わしき人物に接触を図ります。
映画版の朝比奈仁
映画版の朝比奈仁は、元自衛隊所属で、現在は喫茶店の店員として働いています。得意料理はサンドウィッチ。
自衛隊に勤めていた頃、上司の里中に「妻と東京観光したいから、ルートを考えて欲しい」と頼まれて、「浅草・恵比寿・渋谷・東京タワー・レインボーブリッジ」を辿るルートを提案しました。
その後にあたる、いまから26年前、里中と朝比奈はカンボジアPKOに参加。その際に、現地の少女が自分たちへ敵意を向け、仕掛けてあった地雷を踏んで亡くなりました。
里中は下半身を負傷し、心を病み、そして自死します。
朝比奈もPTSDから、たびたび妻の前で暴れ出すように。その様子を幼い息子が見ていました。これ以上家族を傷つけたくないと考えた朝比奈は、ある日突然姿を消します。
現在は古いアパートで一人暮らしをしており、いまだPTSDに苦しんでいるのか、睡眠導入剤を常用。
爆破事件の場所が自分の考えたデートコースだったこと、仕掛けられた爆弾の爆発規模が自衛隊の訓練と同じ段階で大きくなっていくことから、朝比奈は犯人が誰か推測し、先回りをしてコンタクトを取ろうとします。
爆破事件の犯人は誰?
小説版でも、映画版でも、犯人と思わせるような言動を重ねる朝比奈仁ですが、実は彼は犯人と話し合いをしたいと考えて動いていただけなんです。
犯人は、朝比奈と同じ痛みを持つ人物。小説ではロブの妻、映画では里中の妻であるヤマグチアイコが犯人でした。
大切なものを「戦争」で失った者同士、朝比奈はアイコの気持ちがわかります。ですが、何もかも失ったアイコと違い、朝比奈にはまだ守らなければならないものがありました。
それは、自分が過去に捨ててしまった息子のこと。息子の未来のため、爆破を企てたアイコを、朝比奈は説得します。
彼の説得で踏みとどまったアイコを庇うため、朝比奈は犯人のふりをして、アイコを乗せた車ごと海へ突っ込みます。朝比奈はアイコを車から逃した後、爆弾を起動し、命を落としました。
アイコの悲しみも罪も全て背負って亡くなった、悲しい結末でした。
実は、朝比奈の息子というのが、須永基樹です。須永は父である朝比奈を憎みながらも、父の影を追い続けています。
小説では父が作ってくれたドーナツ、映画ではサンドウィッチの味を手がかりに、須永は父を探し求めました。
映画では父と子を繋ぐサンドウィッチのエピソードが弱く、もう少し掘り下げて描いて欲しかったところでもあります。
また、朝比奈が同性愛者であり、愛する相手を失ったという設定をカットしてしまったため、物語の大きな柱となっていた喪失感が薄まっていました。
ショーンと朝比奈の関係が「愛」であったことがわかったときの驚きと、それがわかってから回想シーンのエピソードを思い返すと、さまざまな疑問のピースがピタッと収まり、作品の持つ悲しさがより際立ったため、朝比奈の過去があっさりしてしまったのは残念でした。
まとめ
映画版では、原作の細かなエピソードや伏線がカットしてあるため、わかりにくさや説明不足感があるのは否めません。
ですが、原作では数日間に渡る事件を、本作はクリスマスイヴの1日の出来事としてタイトにまとめ、99分という上映時間中、ずっとスリリングな展開が続くため、とても見応えのあるクライムサスペンスとして成立させていました。
朝比奈仁については、映画と原作では別人ですが、どちらも悲しみを全て背負って散っていた、魅力的な登場人物となっています。映画を観た方も、ぜひ原作に触れてみてくださいね。
映画『サイレント・トーキョー』は 2020年12月4日(金)より全国ロードショーです。