『KCIA 南山の部長たち』は2021年1月22日(金)、シネマート新宿ほか全国ロードショー
1979年に発生した、真相は今も謎に包まれたままである”パク・チョンヒ(朴正煕)大統領暗殺事件“。
韓国現代史を揺るがす大事件に、人気・実力とも韓国を代表する俳優イ・ビョンホンが挑みます。
日韓でベストセラーとなったノンフィクション、「実録KCIA 南山と呼ばれた男たち」を原作にして映画化された、『KCIA 南山の部長たち』。
2020韓国年間興行収入の第1位を記録した、本格派実録サスペンス映画を紹介します。
CONTENTS
映画『KCIA 南山の部長たち』の作品情報
【日本公開】
2021年(韓国映画)
【原題】
남산의 부장들 / The Man Standing Next
【監督】
ウ・ミンホ
【脚本】
ウ・ミンホ、イ・ジミン
【出演】
イ・ビョンホン、イ・ソンミン、クァク・ドウォン、イ・ヒジュン、キム・ソジン
【作品概要】
韓国国内で大ヒットを記録しただけでなく、イ・ビョンホンが第56百想芸術大賞で最優秀演技賞など、高い評価を獲得した実録サスペンス映画。
同じくイ・ビョンホン主演の『インサイダーズ 内部者たち』(2015)を監督したウ・ミンホが、『密偵』(2016)のイ・ジミンと共に手掛けた脚本を、『それだけが、僕の世界』(2018)に出演し、国際的に活躍しているイ・ビョンホンを主演に映画化した作品です。
『工作 黒金星と呼ばれた男』(2018)や『目撃者』(2018)のイ・ソンミン、『コクソン 哭声』(2016)のクァク・ドウォン、『虐待の証明』(2018)のイ・ヒジュンら、演技力ある俳優が共演し重厚なドラマを紡ぎました。
映画『KCIA 南山の部長たち』のあらすじ
大韓民国の諜報機関である、中央情報部(通称KCIA)部長キム・ギュピョン(イ・ビョンホン)。
彼は1979年10月26日、独裁者と批判されている権力者、パク・チョンヒ大統領(イ・ソンミン)暗殺を決行します。
その40日前、亡命したKCIA元部長パク・ヨンガク(クァク・ドウォン)は、アメリカの下院議会聴聞会で韓国大統領の腐敗を告発する証言を行いました。
アメリカ議会でロビー活動をするデボラ・シム(キム・ソジン)の助けを借り、韓国軍事政権の実態を暴く回顧録を執筆中のパク元部長の行動に、大統領は激怒します。
これはKCIAの失態であると、大統領の側近クァク・サンチョン大統領警護室長(イ・ヒジュン)は追及します。事態を収拾すべくキム部長は、かつての友人でもあるパク元部長に接触しました。
大統領を守るために、あらゆる手段を尽くすキム部長。しかしこの一件だけでなく政界工作の失敗や、釜山と馬山で発生した民主化運動への対応を責められ立場を失います。
軍事政権内の暗闘に巻き込まれ、愛国心と野心の狭間で揺れ動き、追い詰められてゆくキム部長。彼の選んだ決断と行動は、韓国の未来にいかなる事態をもたらすのか。
映画『KCIA 南山の部長たち』の感想と評価
評価の複雑な人物をイ・ビョンホンが巧みに演じる
1961年に軍事クーデターを起こし実権を掌握、事実上の独裁者として絶大な権勢を振るったパク・チョンヒ大統領。
その彼が突然、腹心の部下であるはずのKCIA部長に殺害された事件は世界に衝撃を与え、後の韓国の歴史に大きな多大の影響を与えました。
韓国現代史において最も評価の難しい、この人物を演じたのは『JSA』(2000)に主演し、日本の第1次韓流ブームの立役者の1人となったイ・ビョンホン。
人気と演技力を評価されハリウッドに進出、『マグニフィセント・セブン』(2016)への出演など国際的に活躍している彼が、謎に満ちた事件の中心人物を演じます。
歴史的事実を元に描かれながらも、冒頭に「事件前の40日間を描いたフィクションである」と紹介している本作。
この作品は歴史的事実を元に描かれいますが、パク大統領以外の人物は微妙に名前を変更した上で劇中に登場します。
むろん歴史に詳しい方、そして韓国の人々なら本当は誰であるかは一目瞭然。
本作はあくまで歴史的事件を一つの視点で描いた物語であると、観客に強調し関係者に配慮した結果と思われます。
ドラマ化して重厚に描いた、韓国現代史を最大の謎に挑んだ歴史サスペンスとして、実に見応えある作品です。
劇的な展開は韓国版”本能寺の変”
韓国の現代史であり、さらに政争が絡む物語と聞いて、難しい内容ではないかと敬遠する方もいるかもしれません。
パク大統領暗殺事件は、当事者が死亡し関係者が口を閉ざした結果、今も多くの謎を残す歴史ミステリーとして存在しています。
クァク・ドウォン演じる亡命した元KCIA元部長は、実際に映画に描かれた時期に海外で消息を絶ちました。
後に韓国が民主化されると、真実究明の調査が行われ関係者に事情聴取を行った結果、元部長の殺害にKCIAが関与したのは、ほぼ確実とされましたが真相は今も闇の中です。
主人公であるKCIA部長の大統領殺害の動機も不明のままで、多くの説が浮上していますが、未だ定説はありません。
民主化運動の弾圧に動く独裁者と化した大統領を阻止しようと、正義のために立ち上がった闘士と評する声もあります。
その一方で大統領殺害後に戒厳令の布告を試みた事実から、自分の意になる政権を作ろうとした、あるいは自身で権力を握ろうとクーデターを企てた野心家に過ぎないと断罪する意見もありました。
また映画に描かれたKCIAの失態や、イ・ヒジュン演じる大統領側近と確執の果てに、大統領の信頼を失ったと精神的に追い詰められ、突発的に事件を起こしたとする説も有力です。
また事件後権力を握ったのは、陸軍の総参謀長ではなくその部下の、後に粛軍クーデターを起こす保安司令官。
映画にも登場する、後にチョン・ドゥファン(全斗煥)大統領となる人物です。この事実を根拠に、事件への軍部の関与が疑われました。
アメリカを黒幕とする説もあります。当時の民主党カーター政権は人権外交を進め、独裁色を強める韓国のパク政権を嫌い、事件を後押ししたと考える人もいます。
さらに当時のパク軍事政権の核兵器開発構想や、映画にも登場した韓国ロビイストのアメリカ下院議員の買収工作の発覚など、最悪であった韓米関係がアメリカ黒幕説を後押しします。
改めて事件当時を振り返ってみると、この映画が巧みに様々な当時の歴史的事実を再構築し、一つの物語に完成させたことが確認できました。
また当事者たちの人間ドラマ、主人公とパク大統領に元部長ら関係者との絆と、それが破綻してゆく姿などが、俳優たちの演技で巧みに描いています。
義挙か、野望か、それとも精神錯乱による突発的出来事だったのか。事件で権力を得たのは第3者である事実、当時のアメリカとの関係から、黒幕の存在を疑う意見も根強く残ります。
この状況は将に、日本史上最大のミステリーと呼ばれる、”本能寺の変”と同じ構図。こう考えると『KCIA 南山の部長たち』への興味が沸くのではないでしょうか。
まとめ
韓国現代史最大のミステリーにおける、”明智光秀“にあたる複雑な人物をイ・ビョンホンが演じた『KCIA 南山の部長たち』。
モデルとなったKCIA部長は裁判で釈明の機会を与えられ、事件を起こした動機は民主主義の回復だ、と訴えますが死刑判決を受け処刑されました。
映画はその人物が事件に至るまでの内面と葛藤に迫り、主人公がもし異なる行動をとっていれば後の歴史はどうなっていたか、を示唆する内容になっています。
さらに当時の軍事政権の内幕と、その中に渦巻く人間模様を劇的に描いたポリティカル・サスペンスとしても楽しめる映画になりました。
また海外で秘密工作を行うKCIA要員の姿は、スティーヴン・スピルバーグ監督の『ミュンヘン』(2005)に迫る緊張感を持って演出されています。
歴史的大事件を、見事に物語化して描いて見せた本作。映画は同時に、これが40年程前の出来事である事実も教えてくれます。
当時多感な青春時代を過ごし、中には民主化運動に身を投じ、弾圧された世代が今は国の中枢を担っている韓国。
本作は彼らが体験した時代と、それを彼らが今、清算しようと躍起になっている姿を理解する助けにもなるでしょう。
見応えある歴史劇として、韓国現代史を理解する助けとして、そしてイ・ビョンホンら韓国俳優陣の演技を堪能する映画としてお楽しみ下さい。
『KCIA 南山の部長たち』は2021年1月22日(金)、シネマート新宿ほか全国ロードショー。