連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第7回
1999年と2019年という別々の時代を生きる、共に28歳の2人の女性。彼女たちがある日コードレス電話により20年の時を超えて繋がったことから予期せぬ運命が訪れる!
韓国映画『ザ・コール』は、当初、韓国にて劇場公開が予定されていましたが、新型コロナウイルスの感染拡大の余波により、Netflixを介しての公開となり、2020年11月27日より配信が開始されました。
Netflixにて2020年8月に配信を開始したホラー映画『#生きている』でも知的な存在感を輝かせたパク・シネと、イ・チャンドン監督の『バーニング』で衝撃的なデビューを果たしたチョン・ジョンソが激しく激突する、迫真のミステリー・スリラーです。
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映画『ザ・コール』の作品情報
【日本公開】
2020年11月27日より配信(韓国映画)
【原題】
콜(英題:call)
【監督】
イ・チュンヒョン
【脚本】
ガン・ソンジュ、イ・チュンヒョン
【キャスト】
パク・シネ、チョン・ジョンソ、キム・ソンリョン、イエル、パク・ホサン、オ・ジョンセ、イ・ドンフィ、オム・チェヨン
【作品概要】
2011年の映画『恐怖の黒電話』(原題:The Caller/マシュー・パークヒル)を原案とし、大胆に脚色。
ワイヤレス電話により20年の時空を超えて繋がった2人の女性が運命の駆け引きをするミステリー・スリラー作品。
監督を務めたのは新鋭イ・チュンヒョン。パク・シネ、チョン・ジョンソのW主演作。
映画『ザ・コール』あらすじとネタバレ
母が入院したと聞き、久しぶりに実家に戻ってきたソヨンは、来る途中、どこかでスマホを落としてしまい浮かぬ顔をしていました。
イチゴ畑を経営するソンホおじさんにスマホを借りて電話してみましたが誰も出ません。今日一日貸してあげるとおじさんは言ってくれましたが家の電話を使ってみるとソヨンは応えました。
ホコリを被った電話を引っ張り出して、自分のスマホの番号にかけると携帯を拾ったらしい女性が出ました。しかし相手は「謝礼は?」と尋ねると「こちらから連絡する」と一方的に切ってしまいます。
そのあとすぐ、一本の電話がかかってきました。 切羽詰まったような女性の声が聞こえましたがどうやら間違い電話だったらしくすぐに切れました。
母が入院している病院を訪ねたソヨンは、手術は大変難しいものになると主治医から聞かされます。
「お父さんの墓へ行って、管理人さんと母さんを埋葬する墓を相談してきてちょうだい」と言う母に「隣に眠る資格があると思っているの?」とソヨンは冷たく言い放ちます。
ソヨンは父の墓参りに行き、「1999年11月27日没」と刻まれた墓石を見て涙ぐみます。
家に戻るとまたあの女性から電話がかかってきました。「母に殺されそうなの。すぐに来て」と女は叫び住所を言いましたが、ソヨンは間違いだと言って切ります。しかしすぐにその住所が今いる家の旧の住所であることに気が付きます。
その夜、ソヨンは寝苦しい一夜を迎えていました。彼女の足にはやけどの痕がありました。大きな音に驚いて目覚めたソヨンが何事かと部屋を見回すと、家族写真の額が落ちた音だったことがわかります。
元に戻そうとした時、壁が場所によって音が違うのに気づきます。後ろは空洞となっているらしく穴を開けると、下に降りていく階段が現れました。恐る恐る降りていき、そこでソヨンは一冊の日記を発見します。
1999年8月27日の日記には「霊を撃退するために母が火をつける」と書かれていました。日記にはさまれていた一枚の写真には若い女性が写っていました。
翌日、ソンホおじさんにその写真を見せると、おじさんは「ヨンスク」と呟きますが、そのあとはごまかして何も応えてくれません。写真には11月27日の日付がついていました。
それからもヨンスクという女性は何度か電話をかけてきて、2人は1つの信じられない事実を確認仕合いました。
1999年と2019年にそれぞれこの家に暮らしている2人がなぜだか電話で時空を超えてつながっているようなのです。
ヨンスクは養母に監禁され、魔除けだといって、奇妙な食事を食べさせられていました。文句を言うと、養母は「また精神病院に行きたいの?」と言い放ちます。やけになり手づかみで食事をはじめるヨンスクに養母は「風水のせいよ。引っ越せば治るわ」と呟きました。
ソヨンとヨンスクは急接近し、2人の間には友情が芽生え始めました。2人は同じ28歳だとわかります。
実の母は死んだと語るヨンスクにソヨンも自分も子供の頃父を亡くしたことを告白します。母がガスの火を止め忘れたせいで家が火事になり、ソヨンは一命を取り留めたものの、足に火傷を負い、父は亡くなってしまったのです。
1999年11月21日。まだ幼いソヨンと両親が室内の見学にやってきました。養母は家を売るつもりで不動産屋に仲介を頼んでいたのです。
ソヨンという名前を聞いて、ヨンスクは今のソヨンに電話します。受話器から楽しそうな自分と父の声がすることにソヨンは驚きます。
ヨンスクは言いました「面白いことを考えちゃった。お父さんを生き返らせてあげる」
1999年11月27日。ヨンスクはすきをみて家を抜け出し、以前、ソヨン一家が住んでいた家へとやってきました。幼いソヨンはテレビを見ていて、母はマニキュアを塗っていました。台所では鍋が沸騰していました。
母がドアの鍵を締め、鍵を植木鉢の下に隠し出かけた後、ヨンスクは近づいて鍵を手にとりました。
ソヨンのスマホが突然鳴り始めます。失くしたはずのスマホがどうしてここに? 驚くのはそれだけではありませんでした。ソヨンの足の火傷の跡が消え去り、家全体が変化し始めました。
気づけばソヨンは美しい部屋の中にいました。外に出てビニールハウスに入っていくと、草花に水をやる元気な母がいました。そしてなんと父もそこにいるではありませんか! 3人での暖かな生活が帰ってきたのです。
ソヨンはヨンスクに心から感謝し、お礼にヨンスクの好きなソ・テジの最近の曲を電話越しに聞かせてあげました。
ある日、ヨンスクが電話するとソヨンはあとから掛け直してと言い、電話を切ってしまいました。親子で旅行を楽しんでいたのです。
ヨンスクは面白くありません。このことから2人の間に微妙な亀裂が入り始めます。
ソヨンは「オ・ヨンスク」をネットで検索しますが、発見することができません。ためしに住所で検索してみるとなんとも恐ろしいニュースがヒットしました。
「魔除けとして養女を殺害」という見出しの記事には、ヨンスクが「母」と呼んでいた人の写真が掲載されていました。
電話がなり、ソヨンがすぐに出るとヨンスクは驚いたようでした。ソヨンは「今日の夜、あなたは死ぬみたい。こっちでは死んでる」と伝えます。
その夜、養母はヨンスクの部屋に入り、布団ごしにナイフを何度も突き刺しました。手応えがないのを感じ、布団をめくると代わりにぬいぐるみが寝かされていました。
養母の背後に現れたヨンスクは何故殺そうとしたのか尋ねました。「あなたは大勢の人を殺す」と養母が言うとヨンスクは笑い出し、消化器を撒き散らし、倒れた母をナイフで刺殺しました。
誤解があっただけで解決したとヨンスクから報告を受け、ソヨンはほっとします。ヨンスクは「生まれ変わった気分よ」と声を弾ませました。
ヨンスクは街に繰り出します。好きなだけチキンを食べ、たくさんの服を買って帰宅しました。そこへ、いちご農場のソンホがやってきます。彼は近所の人に収穫したいちごを配っていました。
ヨンスクはソンホを家に引き込みます。ソンホがいちごをしまおうと冷蔵庫を開けると中は黒いビニール袋でいっぱいでした。強烈な匂いがして、思わず顔をしかめます。袋が1つ床に落ち、中身が飛び出しました。血まみれの人間の耳と指が見え、ソンホは悲鳴をあげます。
ヨンスクがやってきて「なぜ開けたのよ」と彼を責め始めました。
ソヨンの家にもソンホおじさんがいちごを持ってやってきました。早速、皆でいただいていると電話がなりました。あわてて受話器をとったソヨンの耳に、男性の泣き声と「買ったばかりの服が」と怒っているヨンスクの声がし、電話が切れました。
ソヨンが台所に戻るとソンホおじさんの姿が見えません。ソンホのことを尋ねますが、両親は誰のことかもわからないようでした。テーブルの上にいちごはなく、いちご畑の存在も両親は知らないといいます。
あわてて、農園にかけつけてみると、朽ち果てたビニールハウスだけが残されていました。
映画『ザ・コール』の感想と評価
パク・シネとチョン・ジョンソの時空を超えた血みどろバトル
現在と過去の世界に住む2人の女性が電話を介してつながり、交流を深めていきますが、やがてそれは命を掛けた壮大な血まみれバトルへと展開していきます。陰鬱で殺伐とした雰囲気と、見事な脚本により、これぞ、韓国スリラーと呼ぶべき堂々とした作品に仕上がっています。
タイムパラドックスものといえば、観ていくうちにストーリーの辻褄を処理できなくなり、頭がこんがらがってしまうことが少なからずあるのですが、その点、本作は、過去と未来が同時進行するため、時系列の混乱もなく、シンプルに物語にのめり込むことができます。
現在の時間に住んでいるソヨンに扮するのは、ユ・アインと共演したホラー映画『#生きている』で知的な存在感を輝かせたパク・シネ。本作ではごくごく普通の等身大の28歳の女性が思わぬ恐怖に巻き込まれていく様をリアルに演じています。観る者は思わず彼女と同化し、予想もつかぬ展開へと並走することとなるでしょう。
一方、過去の時間に住んでいるヨンスクは、イ・チャンドン監督の『バーニング』(2018)でデビューした新鋭チョン・ジョンソ。徐々に狂気に満ちた性分を顕にしていく女性を全身で表現し圧倒的な存在感を放っています。イ・チュンヒョン監督がキャストを決める際、一番最初に決めたのが彼女だったそうです。
この2人以外の登場人物は主に彼女たちの家族です。いかにも怪しげなヨンスクの養母にはイエルが、一方、ソヨンの母には映画『毒戦 BELIEVER』(2018/イ・ヘヨン)などのベテラン女優キム・ソンリョンが、ソヨンの父には映画『エクストリーム・ジヨブ』(2019/イ・ビョンホン)、ドラマ『サイコだけど大丈夫』(2020)などでお馴染みのオ・ジョンセが扮しています。
『エクストリーム・ジョブ』と言えば、イ・ドンフィが交番警官の役でさりげなく出演しているのもみどころのひとつ。彼女、彼らは2人の女性のバトルにより、運命を大きく変えられていきます。
錚々たるスタッフが結集
過去の世界に於いてなんらかの操作がなされるたび、人が消えたり現れたりするのですが、それと同時に2人の女性が異なるタイムゾーンで共通して暮らしていた1つの屋敷がその姿を大きく変容させます。
2人の女性と並び、この屋敷自体がもうひとつの主人公と言ってもよいでしょう。冒頭からカメラはこの屋敷を独特のアングルで捉えています。
思いっきり引いた位置にカメラを置きヒロインの行動を見つめることで、普通よりも屋敷を広く見せるようにしたり、かと思えば普通の天井よりも高い位置から突如俯瞰で撮ってみせたり、この屋敷自体が特別な空間であることを強調しています。
撮影監督は、チャン・リュル監督の『慶州(キョンジュ)ヒョンとユニ』(2014)などの作品で知られるチョ・ヨンジクです。
編集監督はポン・ジュノの『パラサイト 半地下の家族』(2019)やヨン・サンホの『新感染半島 ファイナル・ステージ』(2020)などのヤン・ジンモが担当。美術監督は『国家が破産する日』(2019/チェ・グクヒ)のベ・ジュンヨンが務め、2つの時代を区別するための素材や小物など細部に至るまで丁寧な仕事を見せています。
「悪魔」が世に放たれる瞬間のスローモーションの映像と鳴り響く劇伴のカッコよさにはしびれてしまいますが、音楽はタル・パランによるもので、このように錚々たるスタッフが結集しました。
イ・チュンヒョン監督は1990年生まれ。「バーゲン」(2015)という14分の短編が釜山国際短編映画祭で審査員賞を受賞するなど国内外で高い評価を受けました。日本ではショートショートフィルムフェスティバルで上映されています。
本作が満を持しての長編映画監督デビュー作となります。SFスリラーにありがちな、物語の綻びもあまり感じさせず、ジェットコースターのように展開するスリリングな映画ながら、緻密な物語の積み重ねも目を引き、イ・チュンヒョン監督のセンスと才能を感じさせます。過去からしか連絡が取れないという一種の映画的ルールも非常に効果的です。
まとめ
韓国スリラー映画における黒いビニール袋の怖さは『犯人は生首に訊け』(2018/イ・スヨン)などがすぐに思い出されますが、本作でも強烈なインパクトを放っています。むやみに他人の家の冷蔵庫を開けてはいけないという教訓も得られます。
もっとも、直接的なゴア表現は抑えられていますので、そうしたものが苦手だという方も、是非挑戦してみてください。
それにしてもここ数年で韓国映画界は随分と変化したものです。数年前にこの企画があがっていたとしたら主演には男性俳優が抜擢されていたことでしょう。しかし、本作は明らかにパク・シネとチョン・ジョンソの魅力が映画の大きな部分を締めており、このように女性の俳優が広い分野で活躍する機会が増えてきたことは、これからの韓国映画がさらなる快進撃を続ける原動力となるでしょう。