映画『私をくいとめて』は2020年12月18日(金)より公開。
2017年に発刊された綿矢りさの著書『私をくいとめて』。
間も無く33歳を迎える主人公・みつ子と、彼女の脳内の相談役“A”、そしてみつ子を取り巻く人々を描いた、すこし不思議な日常のお話。
2020年12月18日(金)には、のんを主役にした映画化作品も公開を控えている、本著『私をくいとめて』のストーリーを最後までご紹介します。
小説『私をくいとめて』の登場人物
・黒田みつ子
32歳の独身女性。ミニチュア集めと製作が趣味。恋や深い人間関係には及び腰。
・多田くん
みつ子が勤めている会社の取引先の営業マン。みつ子と同い年で、近所に住んでいます。体が大きく無愛想。
・ノゾミさん
みつ子と仲が良い会社の先輩。カーターを目の保養にしている、38歳の独身女性。
・カーター
みつ子の会社の営業マンで、本名は片桐直貴。容姿端麗ですが、性格に難あり。
・皐月
みつ子の大学時代の親友。イタリア人の男性と結婚し、イタリアに住んでいます。
・A
みつ子の頭の中に住んでいる「もう一人の自分」。相談役として、みつ子はAを頼りにしています。
小説『私をくいとめて』のあらすじとネタバレ
黒田みつ子、32歳、一人暮らし。
恋人がいなくても、一緒に遊ぶ友人がいなくても、おひとりさま生活をゆるやかに楽しんでいます。
休日に夜更かしをしていると、彼女の頭の中で誰かが話しかけてきました。中性的で冷静なその声の主を、AnswerのAと名付けたみつ子は、ことあるごとにAにアドバイスを求めるようになります。
みつ子の分身であるAが話しかけるのは、みつ子がひとりの時。誰かといるときはほとんど出てくることはありません。
みつ子には、多田くんという、不思議な関係の男性がいます。もともとはみつ子の勤めている会社の取引先の営業マンとして出会った彼と、近所のコロッケ屋で遭遇。
めったに自炊しないみつ子ですが、その日はたまたまスーパーで食材の買い出しをした帰り道でした。手作りの料理のことを羨ましそうに語る多田くんに、ご飯を食べにおいでとつい誘ってしまいます。
その日は断った多田くんでしたが、後日「余り物でもいいから分けて欲しい」とメールを送ってきます。それ以来、時々みつ子の家にお皿を持ってやって来て、ご飯をよそって持って帰るようになったんです。
そんなふたりの仲が進展しないかと見守っているのが、Aと、みつ子の職場の先輩のノゾミ。ノゾミは同じ会社の営業マン、カーターを観察するのが生きがいです。
カーターは、見た目は良いものの、性格は自分勝手でナルシスト、おまけに仕事もできない問題児。それすらノゾミには可愛く思えるようです。
Aは部屋や服のコーディネイト、他人との接し方など、あらゆることに的確なアドバイスをしてくれる存在ですが、ひとつだけ大きな失敗をしたことがありました。
2年前、つまらない人生に嫌気がさし、恋がしたいと思ったみつ子に、Aは行きつけの歯科医を勧めます。やけに情熱的なAに押され、治療の時にはすこしおめかしをしたみつ子。
進展が無いように見えましたが、受付スタッフがみつ子の保険証を紛失するというトラブルが発生。Aはそれを逆手に取り、みつ子と歯科医のデートを計画、実行します。
しかし、歯科医には下心しかなく、ホテルへ誘って来たため、やんわりと断って別れました。しばらくAは意気消沈してしまい、歯科医との関係もそれきりです。
以来みつ子は、恋愛とは程遠い生活を送っています。
ある休日、みつ子は部屋をピカピカに掃除しました。夕飯の買い出しに商店街へ向かうと、コロッケ屋に多田くんが並んでいます。
みつ子は掃除したての部屋を思い出し、部屋で一緒に夕飯を食べないかと多田くんに声をかけると、彼はそれに乗りました。
多田くんより一足先に帰宅し、本来のメニューより華やかな夕飯を用意します。多田くんはお花の鉢植えを手土産にやって来ました。
久々に他人と過ごす休日、一緒に食べる夕飯は充実したものでした。ですが、多田くんへ好感は抱いているものの、恋愛に必要な情熱は無いと感じるみつ子。
彼女のおひとりさま生活は変わらず続くように見えました。
小説『私をくいとめて』の感想と評価
30歳を過ぎ、自分ひとりのペースで生きることに慣れてしまったみつ子の心情が、とてもリアルに書き込まれている本著。
彼女を取り囲む人物もどこかにいそうなキャラクターばかりです。
サバサバしているのにカーターに入れあげるノゾミ。愛想はないけれど誠実な多田くん。ぶっ飛んだ性格だけれど「いるいるこういう人」と思わせる説得力を持ったカーター。
カフェで会話をする二人組の女性や、マッサージ店のマッサージ師など、みつ子の人生に少しだけ交わったくらいの赤の他人ですら、生き生きと描かれていました。
綿矢りさの観察眼の鋭さと確かな描写力が、みつ子のユーモアのある語り口に繋がっています。
何も起こらないようで少しづつ変化する日常と、その変化を恐れながらも楽しんでいく勇気を手に入れるまでを、Aという存在を作り出すことでスリリングに活写。
そのおかげで、Aが出てくる場面も、ファンタジーではなく、日常の延長線にある出来事として受け入れられるんです。
本著を読み進めるまでは、タイトルの『私をくいとめて』とは、Aの存在で現実から戻れなくなってしまうことを恐れたみつ子のセリフなのかと考えていたんですが、まさかその逆で、現実に向き合うことが辛くなった彼女の心の叫びとは。
しかし、それまでのみつ子の心情がとても丁寧に積み重ねられているため、彼女の悲痛さに、読んでいて胸が痛くなりました。
きっかけは多田くんとの小さな行き違いだったものの、彼女はそこで自分の「人として欠けている」部分に気付いてしまったんですね。
歳を重ねたり、他者と交わることで、それまで隠されていた自分の嫌な面を自覚してしまうことがあります。みつ子にとってのそれは、「他人といるのは楽しいけれど、根本的に他人を必要としていない」ということでした。
その後のAとの対面は、常夏のビーチの精神世界という、非常に現実離れしたシチュエーションではあるものの、それまでずっと支えて来てくれたAに会えたという安堵感が勝り、感動的な場面になっています。
オレンジジュースの例えを使いながら、決して「人として欠けている」わけではない、それでいいんだと、みつ子を全面的に肯定してくれるA。
みつ子の作り出した存在ですから当たり前と言ってしまえばそれまでですが、彼女にとっては必要な言葉であり、自己肯定こそが戸惑う彼女を前に進ませてくれるものだったんです。
ぜひ映画公開を前に読んでいただきたい一作です。
映画『私をくいとめて』の作品情報
【日本公開】
2020年(日本映画)
【原作】
綿矢りさ
【監督・脚本】
大九明子
【キャスト】
のん、林遣都、臼田あさ美、若林拓也、片桐はいり、橋本愛
【作品概要】
『勝手にふるえてろ』の大九明子が監督・脚本を手がけ、芥川賞作家・綿矢りさの同名小説を実写映画化。
のんと林遣都が初共演し、おひとりさま生活を満喫する女性と年下男子の不器用な恋の行方を描き出します。
まとめ
2020年12月18日(金)より、映画が公開される『私をくいとめて』。
ぼんやりとしながらもおひとりさま生活を堪能していたみつ子役を、のんが演じるのはぴったりなキャスティング。地に足がついているようで、浮遊感のあるみつ子を体現してくれることでしょう。
彼女の一人称で進んでいたストーリーが、大九明子監督によってどのように生まれ変わるのかもワクワクさせられます。
臼田あさ美のノゾミも、若林拓也のカーターも、小説からのイメージ通り。原作には登場しなかったバリキャリ上司・澤田役を片桐はいりが演じるのも、本作に新たなリズムを与えてくれる予感がします。(それらしき人物がかつて勤めていたことはみつ子の思い出として語られています)
意外だったのが、林遣都の多田くん。小説では、大柄、無愛想と、林遣都と真逆な設定の多田くんですから、映画は全く違うキャラクターとして、林遣都が新たな魅力を振りまいてくれそうですね。
また、みつ子の親友・皐月役が橋本愛というのもたまりません。のんと橋本愛の伝説のコンビ復活に期待が高まります。
そしてなにより、Aは誰が演じるんでしょうか。まだキャストは明らかになっていませんが、予告編では、柔らかな男性の声が確認できます。
今後のキャスト発表も要チェックですね。
綿矢りさの同名小説を原作とした映画『私をくいとめて』は2020年12月18日(金)より公開。