サスペンスの神様の鼓動37
こんにちは「Cinemarche」のシネマダイバー、金田まこちゃです。
このコラムでは、毎回サスペンス映画を1本取り上げて、作品の面白さや手法について考察していきます。
今回ご紹介する作品は、スマートフォンにダウンロードした「余命宣告アプリ」が、死へのカウントダウンへと変貌するサスペンス・ホラー『カウントダウン』をご紹介します。
カウントダウンが「0」になると、待っているのは確実な死。
この運命を変える方法は?そもそも誰がこのアプリを作ったのか?など、作品が持つ謎に迫っていきます。
軽い気持ちで「余命宣告アプリ」をダウンロードした事から、死の恐怖に直面する若者達の恐怖を描いたサスペンス・ホラー。
「スマートフォン」「アプリ」という身近な素材を扱った恐怖が、全米の若者を震撼させ、スマッシュヒットを記録しました。
主演は、NETFLIXオリジナルドラマ「YOU-君がすべて-」のベック役で注目され、新世代のスクリームクイーンとの呼び声が高い、エリザベス・ライル。
共演に、『アナベル 死霊人形の誕生』(2017)など、新たなホラー作品に欠かせない存在となっているタリタ・べイトマン。
CONTENTS
映画『カウントダウン』のあらすじ
若者が集まって開催されたパーティー。
そこで「自分の余命が分かるアプリ」の話になり、コートニーは面白半分でアプリをダウンロードします。
他の友人達が「余命50年」「余命60年」と、長い余命を宣告されるのに対し、コートニーだけは「余命3時間」と宣告されます。
不気味さを感じたコートニーは、恋人のエヴァンが「車で送る」と申し出たのに対し、エヴァンが酔っていた事から、誘いを断り歩いて帰宅します。
ですが、歩いて帰宅を始めたコートニーに、アプリから「規約違反」の通知が届きます。
急いで帰宅したコートニーですが、アプリは「残り寿命」を告げるカウントダウンを開始します。
そして、カウントダウンが「0」になった瞬間、コートニーの体は宙に浮き、地面に叩きつけられ絶命します。
一方、車で帰宅していたエヴァンも、衝突事故を起こしていました。
そして、コートニーが乗車するはずだった助手席には、木の枝が突き刺さっていました。
看護師のクインは、研修生から正式に看護師として採用され、病院内のスタッフに祝福されていました。
ですが、クインは事故を起こし入院していたエヴァンが「自分の余命が分かるアプリ」に、怯えている事を気にしていました。
エヴァンは、自身の余命が残り1日である事から「明日の手術を失敗する」と絶望感を抱いています。
クインはエヴァンを励ましながらも、「自分の余命が分かるアプリ」の事を気にして、病院内のスタッフに話をします。
病院内のスタッフは面白がって、アプリをインストールし起動させます。
他のスタッフの余命が長い事に対し、クインだけ「余命3日」を宣告されます。
不気味に感じるクインですが、クインに言い寄るセクハラ医師、サリヴァンに話しかけられた事で、逃げるように病院内から出て行きます。
ですが、帰宅したクインは、アプリから「規約違反」の通知を受け、不気味な幻覚を見るようになります。
次の日、病院に出勤したクインは、エヴァンが死亡した事を聞かされます。
サスペンスを構築する要素①「『余命宣告アプリ』の謎」
軽い気持ちで「自分の余命が分かるアプリ」をインストールした事から、逃れられない「死」の運命に直面した若者達の姿を描いた映画『カウントダウン』。
「スマートフォンに、軽い気持ちでアプリを入れる」という事は、日常生活で誰もが経験のある事だと思います。それ故の「身近な恐怖」が本作の特徴です。
「自分の余命が分かるアプリ」は、スマートフォンに入れてしまったら最後、削除が出来ず、別の機種に変更しても、勝手にアプリが更新されてしまいます。
更に余命終了のカウントダウンが始まると、不愉快な笑い声が響くようになり、スマートフォンの電源を切っても、アプリだけは勝手に動作を続けます。
そして、カウントダウンが「0」になると、必ず死が訪れます。
本作前半の主軸は、この「自分の余命が分かるアプリ」の謎となっています。
作中に登場するジョン神父は「古代から存在する、悪魔が人間の寿命を伝える書物」が、アプリの原型になっていると考えています。
だとすると、作中で命を落とした人達は、アプリを入れた事が理由ではなく「もともと決まっていた運命に従っただけ」と考えられます。
また、ジョン神父の仮説が正解だとしたら、何故、悪魔はこんなアプリを作り出したのでしょうか?
その理由は、作中に幾度も登場する「規約違反」が鍵を握っています。
サスペンスを構築する要素②「恐怖の『利用規約違反』」
「自分の余命が分かるアプリ」は、インストールすると、最初に「利用規約」が表示されます。
多くの人が、実際にアプリをインストールして、起動させる前に表示される利用規約を、ちゃんと読まないと思います。
長いし読んでもよく分からない事が多いですからね。
本作でアプリをインストールした人達も、「利用規約」をろくに読まずにアプリを起動させます。
そして、突如宣告される「利用規約違反」から、死のカウントダウンが始まるのです。
この「利用規約違反」は「自分の運命を変えようとする事」であると、中盤で判明します。
ここに、悪魔がこのアプリを作った目的があります。
もし、自分の余命が残り数時間と分かったら、危険を回避する行動を取りますよね?
しかし、このアプリでは、危険を回避し死を免れる事は「利用規約違反」となり、違反した者は、悪魔が直接手を加え、命を奪います。
おそらく悪魔は、人間の余命を教える事で、危機回避しようとする姿を見て弄んでいるのではないでしょうか?
そして、危機回避した人間も、容赦なくカウントダウンの通知通り、悪魔は命を奪うのです。
「自分の余命が分かるアプリ」は、「もともと決まっていた運命に従っただけ」と考える事が出来ますが、「悪魔が人間を弄ぶ道具」とも受け取れます。
アプリをインストールした事で、悪魔と繋がってしまったのではないでしょうか?
とにかく、アプリをインストールした事で、絶望的な状況となった主人公のクインですが、「逃れられない死の宣告を、いかに覆すか?」が、終盤の重要な展開になります。
サスペンスを構築する要素③「運命に立ち向かう姉妹」
アプリをインストールした事で、絶望的な状況となるクインですが、逃れる方法は「悪魔の死の宣告を無効にする事」であるとジョン神父から伝えられます。
クインは、知り合ったマットと共に、死の宣告を無効にする方法を探りますが、妹のジョーダンもアプリをインストールした事が分かります。
本作の序盤で、クインとジョーダンは、決して仲の良い姉妹という描かれ方はしていません。
ジョーダンは、家を出てしまったクインに寂しさを感じ、その感情を隠すように、反抗的な態度を取ります。
また、クインもジョーダンを突き放す様な、少し冷たい態度で接しています。
この2人は、物語の中盤で「母の死」という辛い過去を経験している事が分かります。
クインは、自身の家出が、母親が亡くなる原因になった事を強く後悔しており、ジョーダンに罪の意識さえ感じています。
ですが、ジョーダンも実は「クインの居場所を知っていたが、あえて母親に言わなかった」事で「母親が事故に遭ってしまった」と感じています。
自身に迫る命のカウントダウンを前に、姉妹はそれぞれの罪の想いをを伝え、姉妹の絆は再生します。
そしてクインは、ジョーダンを守る為に、自ら命を懸けて悪魔に立ち向かう事となります。
「自分の余命が分かるアプリ」が、もし悪魔によって作られた「人間の命を弄ぶ道具」であれば、アプリで宣告された余命も、本当に決まっていた事かは分かりません。
ジョン神父も「悪魔は嘘を吐く」と、作中で言っています。
ですが、もし本当に、自分の余命を知ってしまった時「自分はどうするか?」と、命を懸けて大切な家族を守ろうとするクインの姿から、考えてしまいました。
映画『カウントダウン』まとめ
映画『カウントダウン』では、誰もが逃れられない死の恐怖を描いていますが『ファイナル・デスティネーション』(2000)でも、「死の運命」が描かれており、『着信アリ』(2004)では、携帯電話が異形の者に繋がる恐怖を描いています。
このように、ホラー映画は「誰もが身近に感じる恐怖」が重要な部分となっており、『ファイナル・デスティネーション』『着信アリ』は、その後もシリーズ化される程の大ヒットとなりました。
映画『カウントダウン』は、面白半分でスマートフォンにアプリを入れたり、「利用規約」を読まずにアプリを起動させるなど、誰もが心当たりのある経験を、恐怖に変換した部分が最大の特徴です。
また、スマートフォンの普及により、希薄になったと言われる家族の絆を、作品にのテーマにしている他、サリヴァン医師のセクハラ問題も取り入れた辺り、本作は「現代のホラー映画」と言えるでしょう。
次回のサスペンスの神様の鼓動は…
次回も、魅力的な作品をご紹介します。お楽しみに!