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Entry 2020/09/24
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SF恋愛映画『メカニカル・テレパシー』感想と考察評価。男女3人のラブストーリーと「心を可視化する機械」とは?|映画という星空を知るひとよ26

  • Writer :
  • 星野しげみ

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第26回

「心を可視化する機械」に揺れる男女3人の物語を映し出す、映画『メカニカル・テレパシー』。

2004年から大阪を拠点に、映像制作者の人材発掘を行っている「シネアスト・オーガニゼーション大阪(CO2)」の第13回助成作品で、長編初監督作となる映画美学校出身の五十嵐皓子監督が手がけました。

もしも心を可視化できたら、恋愛はどうなるのでしょうか?興味深い「心を可視化する機械」の開発が行われていた大学の研究室で、実験中の事故により開発者が意識不明になってしまいます。共同研究者で妻の碧は開発を続け、眠ったままの夫の心の可視化を試みます。

映画『メカニカル・テレパシー』は2020年10月9日(金)よりアップリンク渋谷ほかにて全国順次公開です。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

映画『メカニカル・テレパシー』の作品情報

(C) Akiko Igarashi

【公開】
2020年(日本映画)

【監督・脚本】
五十嵐皓子

【キャスト】
吉田龍一、白河奈々未、申芳夫、伊吹葵、青山雪菜、石田清志郎、時光陸、松井綾香、長尾理世、竹中博文、古内啓子(声の出演)

【作品概要】
本作は大阪を拠点に、2004年より映像制作者の人材発掘を行っているシネアスト・オーガニゼーション大阪(CO2)の第13回助成企画に、監督の五十嵐皓子が応募した作品。その後、選出され、初長編監督作品として完成しました。

「もしも心を可視化できたら?」ということに着想し、SF的要素と恋愛感情を掛け合わせて描いた異色の恋愛映画。吉田龍一が真崎、白河奈々未が碧、伊吹葵が真崎に思いを寄せるアスミ、元「宝塚歌劇団」の青山雪菜が大学理事長、石田清志郎が同僚・水沢を演じています。

映画『メカニカル・テレパシー』のあらすじ

(C) Akiko Igarashi

ある大学の研究室で「心を可視化する機械」の開発が行われていました。

その開発とは、1人の人物にスポットをあて、その人の心を映像化してみようとするものです。

開発者の三島草一(申芳夫)が実験台となって実験を進めていましたが、実験中に事故が起こり、草一は意識不明のまま目覚めなくなってしまいます。

共同研究者で草一の妻の碧(白河奈々未)はそれでも開発を続け、草一の心の可視化を試みていました。

成果を出さない開発を疎ましく思う大学側は、機械の調査という名目で、真崎トオル(吉田龍一)を研究室に送り込みます。

可視化された草一の心を目の当たりにする真崎。

それは、目も鼻も口もあり、笑顔すら浮かべ、人の言葉を話す本物そっくりの草一でした。

果たして、真崎が目にしたこの人物は、可視化された草一の心なのでしょうか。それとも、碧の願望が可視化されたものなのでしょうか。

心を可視化するという機械の素晴らしさに、真崎も取りつかれました。しかし、それ以上に開発に熱心な碧に徐々に惹かれていきます。

ですが、真崎は碧を手にしたいという欲望を持ちながらも、相手にとって何が一番幸せかを考えています。

一方、心として姿を表す草一は、目覚めることのない自分を思い続ける碧への別れの言葉を見つけられずにいました。

やがて真崎は、本当に重要なことは何なのかということに気づいていきます。

映画『メカニカル・テレパシー』の感想と評価

(C) Akiko Igarashi

人の心がわかればどんなに良いだろうと思ったことはないでしょうか?

映画『メカニカル・テレパシー』では、そんな願望を「心を可視化できる機械」の開発という形で叶え、研究に取り組む研究員たちの恋愛模様を描いています。

開発途中の事故によって眠りに落ちて目覚めない開発者・三島草一。草一の心を見ようとするのは、研究者でもあり草一の妻でもある三島碧。そして、次第に碧に惹かれていく真崎トオル。男女3人の揺れ動く感情が交錯します。

三人三様ですが、草一はほとんど眠っているので、現実生活で恋愛感情の葛藤を始めるのは、碧と真崎です。

ですが、「心を可視化できる機械」を前にして現れる草一は、実際の草一の心の化身なのか、碧が草一はこうであって欲しいと願う姿なのか、わからなくなってきます。

だだっ広い研究室で、3人の人間と3人の可視化された心の像が対峙するシーンは見ものです。

誰が誰の心か、誰かの願望が化身となっているのかともわからないままに、本心を問いただそうとしています。

本当にこれでは、ちゃんと“自分の心”が見えているのかどうかわかりません。これは、テクニカルに頼る人の愚かなところではないでしょうか。

草一を演じた申芳夫のインタビューにその答えがあるようです。

「草一は色んな意味で、囚われている、留まり漂っている、それは誰でもあって誰でもない。でも、改めて考えてみると人は皆そういった部分があるのかもしれません」。

「『わたし』の目に映る『大事なあの人』も、どんなにわかり合っているつもりでもやはり『わたし』ではなく『他者』なのです」。

「どうやら『わたしの中』にも『他者』が存在しているのが人間なのかもしれません。そうなると何が本当で何が本当ではないのでしょう。そもそも僕たちは色んな事柄に『本当だ。本当ではない』と、簡単な断言をしてしまっていいのでしょうか」。

自分の心を可視化してみたら……、自分でも思いも知らなかった本心が見えるのかも知れません。

まとめ

(C) Akiko Igarashi

『メカニカル・テレパシー』は、“心の可視化”をモチーフにしています。

その研究の第一人者である知性と優しさを兼ね備えた草一を演じるのは、『ハッピーアワー』(2015)『菊とギロチン』(2018)など出演作も多い申芳夫。

研究を中断すべく送り込まれた研究員・真崎を演じる、吉田龍一。難しい役どころにまっすぐに向きあい、繊細且つ静かな強さを持つ演技で、映画を引っ張っていきました。

揺れながらも信念を持ち続ける研究者・碧役を演じるのは、白河奈々未。そして、伊吹葵は、真崎に思いを寄せるアスミ役を演じ、瑞々しい思いを表現しています。

こうした真摯な演技を見せる役者陣が揃い、SFタッチの不思議感漂う恋愛映画となりました。

“自分自身と対峙すること”、“自分の言葉で自分の気持ちを語ること”が、人として生きていく上でとても大切なことだとわかる作品です。

映画『メカニカル・テレパシー』は2020年10月9日(金)よりアップリンク渋谷ほかにて全国順次公開です。

次回の連載コラム『映画という星空を知るひとよ』もお楽しみに。

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