2020年9月18日(金)より新宿武蔵野館他にて全国ロードショー!
映画『ブリング・ミー・ホーム 尋ね人』は、ドラマ「宮廷女官 チャングムの誓い」で一躍国民的スターとなったイ・ヨンエがパク・チャヌク監督作品『親切なクムジャさん』(2005)以来となる映画出演を果たしたクライムサスペンスです。
姿を消した息子を探し続けて6年。イ・ヨンエ扮するジョンヨンのもとに、「息子の居場所を知っている」という怪しげな電話がかかってきます。その情報をもとにある場所を訪ねた彼女が目撃したものとは!?
ドラマ『梨泰院クラス」のユ・ジェミョン、『夫婦の世界』のパク・ヘジュンら実力俳優が集結しているのにもご注目ください。
映画『ブリング・ミー・ホーム 尋ね人』の作品情報
【日本公開】
2020年(韓国映画)
【原題】
나를 찾아줘(英題:BRING ME HOME )
【監督・脚本】
キム・スンウ
【キャスト】
イ・ヨンエ、ユ・ジェミョン、イ・ウォングン、パク・ヘジュン
【作品概要】
現実に起こっている児童の失踪事件をテーマに、人間と社会の暗部を描き出したクライムストーリー。
行方不明になった我が子を探し続ける母親をイ・ヨンエが演じ、『親切なクムジャさん』(2005/パク・チャヌク)以来となる映画出演を果たしました。監督は本作で長編映画監督デビューを果たしたキム・スンウ。
映画『ブリング・ミー・ホーム 尋ね人』あらすじとネタバレ
ソウルの病院で看護師として働くジョンヨンは、6年前、公園に遊びに行って以来行方不明となった息子を、夫のミョングクと共に捜索し続けていました。息子は当時7歳でした。
夫婦は決して諦めず、同じような経験をして子供が戻ってきた人を訪ねて話を聞き、情報を集め、必ずみつけ出すと希望を持ち続けていました。
高校の数学教師をしていたミョングクは、ユンスが失踪して以来仕事を辞め、ユンスの行方を探し続けていましたが、復職する決心をし、面接に出向きました。
和やかな雰囲気で面接は進みましたが、その途中、携帯に「ユンスを見た」というメールが送られてきました。コンビニでユンスらしい少年が背を向けた写真が添付されていました。
あわてて、メールに書かれた現場に車を走らせるミョングク。運転中もメールは届き、「こちらに向かっていますか?」と記されていました。
ミョングクがメールに気を取られたその瞬間、横手からやって来た猛スピードの車と衝突。薄れゆく意識の中で、ミョングクは新たに届いたメールの文面を見ました。
「ほんとうに向かっているなんてバカじゃないか。騙されたとも知らずに」メールはいたずらだったのです。
ミングクはそのまま息を引き取りました。助け合ってきた夫まで失い、憔悴しきるジョンヨン。
ミングクの事故はテレビのニュースで取り上げられ、事故の原因はいたずらメールのせいだったことが報道されました。メールはなんと小学生が遊び半分に送ったものでした。
そのニュースを観ていたある警官が、「この子、観たことがあるな」とつぶやきました。
「《マンソン釣り場》のミンスという子に似ている」という警官に対し、隣に座っていたホン警長は、気にもかけていないようで、話を打ち切ろうとしますが、後輩の熱意におされて、仕方なくマンソン釣り場に向かいます。
ムサンのネブ島にあるマンソン釣り場にはミンスとジホという小さな子供がいて、仕事を手伝っていました。
「ミンスはどこから来たんだ?」という警官の質問に、釣り場の管理者は「島のキム婆さんが置いていったんだ。婆さんはもう死んだよ」と答えました。
「連れてきたんじゃないか? 働き手として」と警官が尋ねると、ホン警長は止めに入り、根拠もなく誘拐犯扱いすることを咎めました。
納得していない様子の部下に警長は「あいつらから金をもらってるんだ。怒らしたらまずい。お前も子供に金がいるだろ?」といって、いくらかの金を押し付けるのでした。
ジョンヨンを気遣い、弟夫婦が食事に連れ出しますが、実は彼らには目的がありました。ミョングクの保険金が入るのを見越して、いくらか自分の子供たちのために融通してもらえないかと頼みに来たのです。
2人が言い出しかねていると、ジョンヨンは風にあたりにしばらく席を立ちました。その時、置いていったジョンヨンの携帯がなり、弟が電話に出ました。
それはあの警官からでした。上司の手前、うやむやにすることになりましたが、良心が咎めた警官は、マンソン釣り場にユンスとよく似たミンスという子がいることを知らせて来たのです。
特徴に記されていた「背中の火傷の跡も確認しました」と。弟はその電話を姉には告げませんでした。
それからまもなく、ジョンヨンに見知らぬ男から電話がかかってきました。「多額の保険金が入るそうですね。ユンスの居場所の情報があるのですが」
ジョンヨンは最初はいたずら電話だろうと相手にしていませんでしたが、男は、ユンスのポスターに書かれていない情報を知っていました。「桃のアレルギー、耳の後ろの半纏、背中のやけどの痕、足の小指の副爪」
ジョンヨンは一縷の望みをかけ、多額の謝礼を用意して男に会いました。男は金を受け取ると、「マンソン釣り場」と書かれた紙をジョンヨンに渡し立ち去りました。
そのまま男は別の男と落ち合い、受け取ったものを手渡しました。裏で動いていたのはジョンヨンの弟でした。
ジョンヨンは車を走らせ、マンソン釣り場にやってきました。釣り場を営むのは、老夫婦と、夫を亡くした女性とその幼い息子、そしてうさんくさそうな何名かの従業員たちでした。
彼らは何を尋ねても「ミンスなんて少年は知らない」の一点張りです。地元警察のホン警長もなぜか、ジョンヨンの来訪を煩わしく思っているようでした。
そのころ、問題の少年、ミンスは別の仕事に駆り出されていて不在でした。子どもたちは労働力として、釣り場だけでなく界隈の人たちにもこき使われていました。
ジョンヨンは一泊して明日帰りますと告げ、一旦、ホテルに落ち着きますが、一家が寝静まった頃を見計らい、再び、釣り場にやってきます。
昼間は見せてもらえなかった住居に忍び込むと、ジホという少年が手錠をかけられた状態で横たわっていました。
誰かが来る気配がしたので、ジョンヨンは慌てて外に出ました。次に入った部屋で、ジョンヨンはユンスの捜索を願うポスターが落ちているのに気が付きます。
最近作ったばかりのポスターとは違うこのポスターがなぜ落ちているのか? それはあの警官が持ってきたものでしたが、ジョンヨンは知るよしもありません。
その時、従業員の一人が入ってきて、ジョンヨンは見つかってしまいます。ベッドの周辺に置かれた服を指して「私の息子のものです」というと、一人の従業員がすかさずうちの息子のですよ、と答えます。
「こんなボロボロの服」とつぶやくと、「ジホは監禁されていました」とジョンヨンは言いました。
彼らは呆れたとばかりに首を降りながら、「とにかくここは人の家です。出てください」と彼女を追い出しました。
ホテルに戻ったジョンヨンが窓を覗くと、従業員の一人が、歩道の片隅に立ち、見張っている姿が見えました。
翌朝、マンソン釣り場に出向いたジョンヨンに女達は「何をしに来たのか」と警戒するように言いました。
「挨拶にきました」とジョンヨンは答え、ジホを最後に抱きしめて良いかと尋ねました。女は行ってきなとジホにいい、走ってきたジホをジョンヨンはしっかりと抱きしめました。
そして耳元で「お母さんの言うことを聞いて元気でね」とささやきました。するとジホは「僕のお母さんじゃない」と応えました。
ジョンヨンは車を走らせ釣り場から離れましたが、途中で車を停めました。日が暮れ始めると、ジョンヨンは再び車をマンソン釣り場に向かわせました。
マンソン釣り場では、子どもたちが埠頭にいるとの電話が入り、警長たちが、子どもたちを連れ戻そうとばたばたしていました。
ジョンヨンは車を停め、釣り場に向かって歩いていましたが、慌ただしくトラックが通り過ぎていくのを観て、そのあとを追います。
ミンスとジホは岩場に隠れていましたが、警長に見つかってしまいます。ミンスは手錠をかけられました。その時、ジョンヨンが大声で「ユンス!」と叫びました。ミンスは男たちから逃げ出し、走り始めました。
映画『ブリング・ミー・ホーム 尋ね人』感想と評価
現代社会の闇と人間の悪意を描いたら、韓国映画に勝るものはないのではないか、と思えるくらい、韓国映画はこの手の映画が得意です。
それらは決して、犯罪組織などの裏社会の話ではなくて、とても身近な場所にある闇であるがゆえにゾッとさせられるのです。
映画の中で言及される児童失踪事件の件数の多さに、まず震撼します。冒頭、主人公夫婦が、かつて行方不明になりながら発見され戻ってきた子供の家を訪ねて話を聞くシーンがありますが、病院に収容されたまま何年も放置されていたような例もあるそうです。社会の無関心が原因の一つになっているのです。こうしたことは韓国だけでなく、世界中で起こっている深刻な問題です。
さらにストーリーを追うと、夫の事故の原因となったいたずらメールを送ったのが小学生だったという事実、イ・ヨンエ扮するヒロインが切望していた情報を(そのことを熟知しながら)握りつぶし、その情報をもとに多額の保険金を巧妙に奪ったのが彼女の弟であったということに衝撃を受けずにはいられません。
しかもそれらが物語的には決してメインにくるものではないのがまた恐ろしい。ヒロインが対峙することとなるのはもっと別のグループなのです。
その問題の〈マンソン釣り場〉は、前科者の掃き溜めのような場所であり、どこからか連れてこられた子供たちは、労働力としてこき使われています。
彼らは、自分たちが実際に子供を誘拐したわけではないので罪の意識はなく、子供を労働させていることに対しては生活のためにはしょうがないという認識でいますが、どこか後ろめたい気持ちはあるようです。貧困と無知が生み出した人種なのです。
警察は腐敗しており、釣り場が金づるになっていることもあり、率先して、ヒロインを追い払おうとします。
「怪しげな田舎の共同体」という主題も、韓国映画の得意とするところで、本作でもその不穏さがいい味を出しています。
観客はこの釣り場の人々の実態を先に知らされているため、ヒロインが、一人でここに乗り込んで行くことに不安を感じます。
作品によっては、別の角度からこの釣り場を調べていた探偵のような人物が現れ、彼女をアシストしたりするという展開もあるのでしょうが、本作はそのような人物は一切出てきません。頼るべき夫ももういません。一体どのような展開が待っているのか、緊張が高まります。
唯一、ヒロインを助けてくれる人物なのではないかと勝手に目星をつけていたキャラクターが、いきなりヒロインをシャベルで殴りつけたのは衝撃的でした。
頼る人がひとりもいない中、単身、子供を守るために戦う女性を、イ・ヨンエが、静と動の両方の姿を使い分けながら、圧巻の演技で見せています。
母性で突き進む母の姿は、ロバート・R・マキャモンのモダンホラー小説『マイン』を想起させます。
陰気でダークな世界観が全編を貫いている故に、人を選ぶ作品かもしれませんが、その展開はサスペンスフルでめっぽう面白く、現代社会の暗部に迫るエンターティンメトとして非常に良く出来ています。
まとめ
名作テレビドラマ『宮廷女官チャングムの誓い』(2003~2004)で国民的スターとなり、パク・チャヌク監督の復讐三部作の完結作『親切なクムジャさん』(2005)ではそれまでのイメージを覆す複雑な役柄で世間をあっといわせたイ・ヨンエ。
2009年に実業家と電撃結婚し、芸能界を引退。子育ての期間を経て、2017年にドラマで復帰。本作は14年ぶりの映画出演となります。子供を取り戻すため死力を尽くす母親を演じ、見事な銀幕復帰を果たしました。
イ・ヨンエに対するのは、ユ・ジェミョン演じるホン警長です。ユ・ジェミョンは、『秘密の森』(2017)や『梨泰院クラス』(2020)などの人気ドラマでよく知られています。
映画では『風水師 王の運命を決めた男』(2018)でひょうきんな役柄を演じたかと思えば、カン・ドンゥオン主演の『ゴールデンスライバー』(2018)では黒幕的な悪人、『悪人伝』(2019)ではマ・ドンソクのライバルヤクザをねちっこく演じるなど、幅広い役柄を演じることで定評があります。
本作では、腐敗した権力を象徴する役割で、イ・ヨンエと凄惨な死闘を繰り広げました。
監督のキム・スンウはイ・チャンドン監督の『シークレット・サンシャイン』などの作品にプロダクションアシスタントとして参加。脚本や2本の短編映画で評価され、本作で長編監督デビューを果たしました。
自ら描き下ろした渾身の脚本が、イ・ヨンエの目にとまり、映画化が実現。人間の感情の機微を丁寧に描写しながら、大胆なアクションシーンを展開し、ダークで魅力ある韓国ノワールを作り上げました。
最後に一つだけ、気になることがあるのですが、エピローグのエピソード、あれは現実の出来事なのでしょうか? 劇中、イ・ヨンエ扮する母親は何度も夢を観ます。夢と現実を混同する時さえあります。そのような点から見ると、エピローグは彼女の夢想の光景ではないかとも考えられ、実はそう考えるほうがしっくりくるのです。果たして、あれは現実なのでしょうか? それとも夢なのでしょうか?